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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
序章 【転生への誘い】
3/44

序章3  『神様と目的』

 少年は俺の眼を真っ直ぐ見つめ、真剣な表情で語りだした。しかし、最初に口から出た言葉は、謝罪の言葉だった。


「ヤガミ トウマさん。この度は、強引にボクの領域に招くような真似をして、大変申し訳ありませんでした。突然の申し出ながら、ボクの話を聞いていただける席についてくれたこと、誠に感謝いたします」


 そう言って、少年は丁寧に頭を下げる。いきなり頭を下げられると、とっさの反応に困る。


「あ~……いや、まあ……その、なんだ。そんな畏まらなくていい。急にそんな真面目に来られると、せっかく緊張が解けてきたのに、こっちも構えてしまう」


 とりあえず調子が狂うので、畏まらないよう告げるが――


「いえ、貴方を驚かせてしまったことは、謝罪しなければなりません。これは最低限の礼儀です」


 と言い、礼儀を説かれる。本当に少年なのか? と思いながら、このままでは話が進まないと思い、謝罪を受け入れる。


「分かったよ、謝罪を受け入れる。でも、俺に悪いと思う気持ちがあるなら、堅苦しいのはやめてくれ。苦手なんだ、そういうの」


 見た目年下の子に、そんな態度を取られ続けるのは勘弁願いたい、堅苦しいのはやめて貰えるよう、気持ちを伝えると――


「うん、わかった! それじゃあ、トウマって呼んでいい?」


 コロッと態度を変え、名前で呼んでいいか笑顔で聞いてくる。


「ああ、構わない。てか、最初からそう呼んでいるだろ」


 苦笑しつつ、指摘する。


「だって、響きがとっても気に入ったんだ! トウマって、すごく呼びやすいよね」


 正直、そんなことを言われたのは初めてだった。似合わないと言われたことは何度かあったが……だが、本心で言ってくれていることが、態度から伝わってきた。


「じゃあ、俺もシオンって呼ばせて貰っていいか?」


 お返しとばかりに提案すると――


「うん、是非!」


 と嬉しそうに返事をしてきた。急に真面目な態度を取ったり、子どもみたいにはしゃいだり……なんとも感情の起伏が激しい少年だな。そう思いながら、話を進める為、先ほど気になったワードが言葉の中にあったので、聞くことにする。


「で、シオン。さっき、ここが自分の領域とか言っていたと思うんだが、ここはお前の世界なのか?」


「正確に言うと、トウマと接触する為に作った世界かな」


「作ったって……このだだっ広い草原丸ごとか? お前、神様なのか?」


 あまりにも自然と出た突拍子もない発言に驚き、世界を創造するなんてことが出来る存在が、一つしか思い浮かばなかったのでそう聞いた。


「そうだね~……有り体に言えば、そうなるかな」


 少し思案するも、さらっとシオンは答える……随分と幼い神様がいたもんだな、と思ったが、見た目通りの歳とは限らないのか? と考え直し、疑問をぶつけてみる。


「神様にしたら、随分と若くないか?」


「そりゃそうだよ。まだ生まれたばかりの新米なんだから。といってもトウマよりは長い時間を生きてるけど」


 そう教えてくれた。新米の神様だから、こんな容姿なのか? 神様の年齢基準はよく分からないが、それでも俺よりは長生きらしい。


「見た目通りの年齢じゃないってことか……ちなみに幾つだ?」


 すると、シオンはムッとした表情をする。


「トウマ、人に年齢を訪ねるのは失礼だよ」


「そりゃ、女性に聞くのは失礼だとは思うが……」


 見た目では、どちらかと言えば男の子という感じだが、一人称がボクだったので(ボクっ娘もいないとは限らないが)、男の子だろうと勝手に結論を出していた。しかし――


「ボク、男だなんて一言も言ってないけど?」


 という返答が返ってきた。


「ハァ!? お前、女なの!?」


 予想が外れ、驚いて身を乗り出すが――


「ううん、違う」


 と間髪入れず返ってきて、ガクッと突っ伏す。


「……ビックリした?」


 悪戯が成功したようにニッコリと笑い、問いかけてくるシオン。


「お前な~……」


 こんながきんちょに弄ばれた……情けない……そう思いながら、突っ伏した態勢を戻して気を取り直す。しかし、シオンの言葉には続きがあった。


「正確に言うとどちらでもないんだ。ボクにはまだ性別っていう概念がないから」


 驚きだ。神様には性別の概念がないらしい……ん? いま、『まだ』って言わなかったか? そう思い聞き返す。


「まだってどういうことだ?」


「ボクは生まれがちょっと特殊らしくって、性別の概念を持たずに生まれてきたんだって。でも一過性のもので、精神が成熟していけば男になるか女になるか自然と決まるだろう、って他の神様に教えられたよ」


 他にも神様がいるのか。いや、今はシオンの状態のほうが気になる。性別がないとか特殊過ぎるだろう。


「その割には、ちょっと男の子っぽいな……」


 と見た目の感想を伝える。


「それはトウマの好みに合わせて……」


「人聞きの悪いことを言うなーーー!」


 不穏過ぎる発言に思わず両手をドンッとテーブルに付き、椅子から立ち上がって叫ぶ。違う、違うぞ! 俺はショ〇じゃない!! 断じて、違うからな!!! と誰に言い訳しているのか、心の中で強く否定する。


「おかしいな~……絶対気に入ってくれるって言ってたのに……」


 俺の反応を見て両手を軽く広げ、不思議そうに自分の姿を確認するシオン。言っていたって誰がだ! 男の子がお気に入りなんてどこソースなんだ、と問い質したいところだったが、追求すると話が変な方向に行く気がしたので、本題に戻す。


「もう、この話題はいい。話を本題に戻そう……で? その新米の神様が、俺になんの用があって接触してきたんだ?」


 席に着き、続きを促す。


「それは……トウマにボクの使徒になって欲しいんだ」


 使徒? 某ロボットアニメを思い浮かべるが、ちょっと違う気がする。


「使徒って神様の使いってやつか? 天使みたいな?」


「簡単に言うとそうかな。ボクの為に働く天使みたいなもの」


 そう聞き、思わず自分に天使の羽が生えた姿を想像する……嫌々、流石にないわ、それは。中年のおっさん天使とか想像するだけでキモイ。


「天使って……お前、こんなおっさんを選ぶとか大丈夫か? それに自分で言うのもなんだが、それほど特筆した才能のない一般人だぞ」


 そう問い掛けるが、妙に自信満々の返答が返ってくる。


「それに関しては、大丈夫だよ。ちゃんと吟味して選んだから!」


 エッヘン、という感じで胸を張るシオン。その自信はどこから来るんだろうか? しかし、吟味ってことは、俺のことをある程度知っているってことか……いや、相手は神様なんだ。ある程度なんてレベルじゃなく、あんなことやそんなことまで……と思いが巡り、念の為に確認してみる。


「ちなみに、どの程度まで俺のことを知っているんだ?」


 ちょっと不安げに聞いたのが悪かったのか、ニヤリと怪しい笑みを浮かべるシオン。


「……フフフ……知りたい?」


 思わせぶりなことを言われ、流石に焦る。おいおい、冗談じゃない。いくら神様でも反則だ。プライバシーの侵害だ! 俺のありとあらゆる黒歴史を知られているとしたら、脅されればどんな命令も断ることが出来ん!! 等と頭の中で不安な考えが膨らんで青褪めていると、シオンがクスクスと笑う。


「冗談だよ。忘れたの? ボク、トウマの名前を聞いたじゃない」


「……ああ、そう言えばそうだな。じゃあ、吟味ってなんだよ」


 そう言えばそうだった、と一瞬納得しそうになったが、吟味と言う言葉に引っ掛かって聞き返す。名前を知らなかったからと言って、俺のことを知らないとは限らないし、思いたくはないが嘘を言っている可能性もある。


「魂の相性だよ。使徒に必要なのは、仕える神との魂の親和性なんだ。トウマの魂とボクはこれ以上ない程に、とっても相性が良いんだよ!」


 自信満々に随分と力説しているが、本当だろうか? こんな美少年? と、三十過ぎのおっさんの魂が、相性が良くて親和性が高い? いまいち信じられない話だ。


「親和性ね~……なんか、にわかには信じられない話だな……」


「今のトウマには実感するのは難しいかもね。あくまでもボク側が感じている感覚だから。でも、ボクとトウマって相性良いと思わない? その証拠に、最初の頃よりボクに対する警戒心をあまり感じなくなってるでしょ?」


「まあ、言われてみればそうだが……見た目は完全に合ってないと思うぞ?」


 なんせ三十過ぎの冴えないおっさんと、見た目、十歳前後にしか見えない少年? だ。おまけに金髪碧眼の美形……虚しくなってきた。


「見た目なんて些細な問題だよ」


「そうか~?」


 疑いつつも、警戒心云々を言えば、確かに薄れているとは思う。普通に考えれば、こんな年下にからかわれたり、気安い態度をとられれば、多少はイラッと来ると思うのだが、そんな気持ちは湧かなかった。会話も今のところ、自然と出来ている。


「それに、この風景を見てどう思った?」


 そう言って、シオンは周りの草原に目を向ける。それに合わせるように目線を草原へと向けた。


「この草原か? ……まあ、凄く綺麗だとは思ったが……」


 素直に草原を見た時の感想を口にする。


「でしょ。この風景はトウマの魂の色と心象風景を意識して作ったんだ。ボクも気持ちがすごく落ち着くから、気に入ってる」


「俺の魂の色に心象風景ね……こんな綺麗な色をしているなんて、ピンとこないがな……」


 そう言い、少し荒んだ暗い気分になる。……俺はこんなに綺麗じゃない。それにこんな風に広く穏やかでもない。そう思い、今までの生活が頭に浮かぶ。

 毎日毎日、阿保みたいに遠い仕事場に朝早く起きて向かい、心身ともに疲れて帰った後、ただ寝るだけ。休日はなんの気力も湧かずにダラダラと寝て過ごし、休日が終わればまた同じ仕事の繰り返し……代り映えのしない、面白くもない、くすんだ日々……。


「トウマ?」


 草原を見つめながら、突然黙り込んだ様子を不審に思ったのか、シオンが心配そうに呼び掛けてくる。目を閉じ、ほんの少し考えてから目を開け、シオンに真剣な表情で問いかける。


「シオン……お前は俺にその使徒とやらになって、なにをさせたいんだ?」


 シオンの目を真っ直ぐ見つめて問う。シオンは俺の視線を真っ直ぐ受け止めて言った。


「ボクは今、一人前の神様になる為に、ある仕事を任される予定なんだ。トウマには、その手伝いをして欲しい」


「一人前の神様になる為の仕事……具体的な内容は?」


「中級神……ボクは下級神だから、先輩だね。その先輩の神が作った世界に行き、その世界をより良い方向に導いたり、トラブルを解決すること」


 つまりは異世界に行って、その世界を発展させたりする訳か……なんだかテンプレな展開になってきたな。しかし、トラブルってのは具体的にどんな物なんだろう? そう思い、聞いてみる。


「……より良い方向っていうのは、なんとなく想像は付くが、トラブルを解決って例えばどんな?」


「う~ん……トウマ、『特異点』って分かる?」


 シオンは、少し悩みながら、一部の人間には馴染みのない単語を口にした。


「あ~……今、流行りの『シンギュラリティ』のことか? 確か『それまでの時系列と非連続な進化が突然起こるポイント』、だったか……」


 仕事柄、聞き覚えはあった。おまけに最近、結構流行り出した言い方があったので、そのことかと思い聞き返す。


「そう。その特異点は世界を爆発的に進化させる。ただその分、反動も大きい。下手をすれば、その反動で世界が滅ぶこともあるんだ。ボクたちの役割は、そんな反動が起こすトラブルを解決することも、含まれるかな」


「おいおい、世界が滅ぶトラブルって……しかも、それを別の世界の神様が解決するってのは、変じゃないか?」


 いきなり世界の滅亡を防ぐなんて言われて驚くが、それ以上に、別の神に解決を求めるのに違和感があった。言わば当事者でもない別の世界の神が、トラブルを解決するってことだ。神様の領分がどういう決まりなのかは知らないが、国で例えれば別の国が干渉する行為……言わば内政干渉だ。余計トラブルが悪化しそうに感じるが……。


「そうなんだけど……神様って結構自由でさ。決まりがほとんどないんだ。基本、自分が生み出した世界でなら、なにをしようが自由。ルールらしいものといったら、他の神の世界へは基本不可侵っていうぐらいで、それも暗黙のルールで明確な縛りは無かった。だから、中には特異点を自分の世界に仕込みまくって、その反動で自分の世界を滅ぼしちゃう神様もいるんだよ」


 おいおい、おっかない話だな。そう思いながら続きを聞く。


「滅ぼすまでは行かなくても、そんな危機に瀕する世界が最近あまりにも頻発しちゃって、なんとかしようって話になったんだ。そこで考えられたのが、別の神様を監視や調整役に派遣しようって案なんだ」


 神様ってそんなおっかない連中ばっかりなのか? 地球の神様は大丈夫なんだろうな……と思い、念の為に確認してみる。


「シオン……地球の神様は、大丈夫なのか?」


「トウマの世界の神様は大丈夫だよ。元々、この計画を立案したのもトウマの世界の神様だからね」


 ほう、地球の神様主導でやってんのか……それなら地球は大丈夫か、と安心していると――


「まあ、そのトラブルが頻発した原因を作ったのも、トウマの世界の神様なんだけどね……」


 と付け足された。駄目じゃん、地球の神様よ!


「……原因ってなんなんだ?」


「原因はトウマの世界の文化だよ。正確に言えば人が考えた創作物、かな~」


「創作物が原因? そんなもので世界が滅びるのか?」


 いまいちピンとこない。そう疑問に思っていると、シオンが説明してくれた。


「トウマの世界って物凄く文化が豊富なんだよね。特にトウマの住んでる日本? だったっけ。そこで生み出されている漫画だとか、アニメ、ゲーム等の創作物は非常に多いんでしょ?」


「まあ、日本の漫画やアニメ、ゲーム……所謂日本のサブカルチャーから生まれる創作物は豊富どころか、多過ぎるな……未だに世界に大きな影響を与える物もあるよ」


 もたらす影響は結構馬鹿にならない……今や日本経済の一翼を担うほどになっている。


「でも、それが世界を滅ぼしかけるっていうのはピンと来ないな……」


 その言葉を聞いて、シオンが説明してくれる。


「実は、トウマの世界の神様が世界創造の役に立てるように、そのサブカルチャーに関する創作物を神達に情報開示してね。それが中級神の間でドハマりしちゃってさ。こぞって内容を真似ちゃったんだよ」


「ハァ!?」


 あまりの非常識に、驚きの声が出る。真似るって、人間が想像で考えた世界を!?


「あくまで参考にってことで開示したのに、丸パクリしちゃう神様もいて、酷くバランスを欠く世界が乱立しちゃったんだよね」


 肩をすくめて両手を上に上げ、呆れるように言うシオン。


「おいおい、そんなの上手く行くはずないだろう? あれは、あくまで想像の産物だぞ」


「うん、トウマの言う通り多くが上手く行っていない。劇的な世界の進化を起こすことは出来たけど、その後が大変でさ。反動が予想もしなかった方向に暴走したりしたんだ」


 なんだか段々大きな話になってきたな……。そう思いながらシオンの説明に耳を傾ける。


「特異点の扱いは神様でも難しくて、本来は綿密な計算と調整の積み重ね、そして、その世界に生きる者たちの努力が上手く噛み合ってこそ生まれる奇跡なんだけど、手を抜く神様もいてね……中には、召喚の概念を生み出して、強引に呼び出した人間を特異点に仕立て上げる、なんて手段も裏で横行しちゃってさ」


 おいおい、本当に異世界召喚なんて行われているのか……暗黙のルールも完全無視か。まあ、かく言う俺も似たような状況にはなっているが。


「そのサブカルチャーを規制することは出来ないのか?」


「一度開示してしまったから難しいらしくてさ。でも、流石にこれは不味いってことになって、今は制約を設けて、他の神々の世界には簡単に干渉出来なくしたんだ。とは言え、一人で勝手気ままに世界創造を繰り返して、生まれた世界が危機に瀕するのも放っておけない……そこで選ばれた第三者の神と、人間から選ばれた使徒を派遣して監督する案が考えられたって訳」


「それがシオンで、その使徒を俺にして欲しいってことか?」


「そう!」


「……その中級神達は、なんでそんな手段にハマってしまったんだ? 曲がりなりにも自分が生み出した世界だろう? もっとこう……愛着を持って大事に作ったり、慎重になったりしないのか?」


 別に崇拝する宗教がある訳でもないし、神様を信じていた訳じゃない。伝奇とかで描かれる神様はハチャメチャな存在も多いけど、それは人間の想像……実際にいるのなら、神様って存在は慈悲深い存在であって欲しい。


「もちろん、その世界の生みの親だもん。大切にしたくない訳じゃないと思うよ。でも、あまりにも魅力的過ぎたんだよ、トウマの世界の創作物は。そこには溢れていたんだ。神が持ちえないアイデアに満ちた創造の可能性が……」


「……想像の産物だぞ? それを実現しようなんて、いくら神様でも無茶だろう?」


「それがそうでもないんだよ。中級神クラスになると概念自体を生み出すことが可能なんだ。つまり、トウマにとっては『想像の産物』だとしても、中級神たちにとっては生み出せる『創造の産物』なんだよ」


「じ、じゃあ、例えば魔法の世界とか存在するのか?」


「うん。トウマの世界のように発展して、成功した例もあるよ」


「マジか……」


 本当にあるのか、魔法の世界は……ちょっとワクワクする。


「それにね……トウマの世界ほど爆発的な進化を遂げている世界も、稀なんだよ。もちろん魅力的で多様な文化形態もね。でも、地球を真似て同じような世界を作っても、同じレベルの人間や文化が生まれるとは限らないんだ」


 だから俺の世界の人間が考えた創作物を真似たり、知識や技術、それを持っている人間を送りこんだりして、自分の世界に強引な発展をもたらす……それも特異点とみなされるほどの爆発的な進化を。そうやって再現しようとしているのか……。

 それほど地球の文化は貴重なんだろうか? そんな疑問を抱いていると、シオンが続けて説明する。


「人間という生き物は、本当に奇跡の産物のような存在なんだ。神の御業においてもね。特にトウマの世界の文化においては、ここまで多様化した物を生み出せる人間は他にいない。だから無理やり自分の世界に迎え入れる、なんて強引な方法も流行ってしまったんだ」


 だからといってとんでもない話だ。言ってしまえば、中級神は地球の創作物のような世界を自分の世界で再現出来ないか、実験をしている訳だ。失敗して滅びてもいいと思っている輩もいる。神様とは思えない乱暴なやり方だ。


「……極論を言ってしまえば、地球の人間や文化を使って、自分の世界で再現実験をやっているんだな、その中級神たちってのは」


「全てが、ではないけど……そうだね。不快に思った?」


「……まあ、多少はな。とはいえ、神様なんて存在が本当にいるなんて、ついさっきまで信じちゃいなかったんだ。乱暴なやり方だなとは思ったが、正直、まだピンとこないのが本音だな」


「乱暴か……まあ、そう思われても仕方ないかな。だからこそ、今回の案はそんな神の理不尽を抑制する方法として期待されているんだ」


 なるほど……俺の世界の人間を手伝いに使う理由は、そういう文化形態の中で生きているほうが、知識もあるし都合がいいからか。なんか本末転倒な気がしないでもないが……。とはいえ、俺で役に立つのかと言われると、自信がない。


「多少なりとも、仕事柄そういうサブカルチャーの知識は持ち合わせてはいるが、世界を滅ぼしかねないトラブルを解決するなんて、そんな自信は俺にはないぞ?」


「大丈夫! あくまでそれはボクの仕事だから。トウマは言わば、ボクの補佐……アドバイザー的な役割を担って貰うつもりだよ」


「アドバイザーって……俺、そんなに頭は良くないぞ?」


「そこら辺は、今は考えなくて大丈夫。それよりボクが聞きたいのは、トウマの返事……トウマ、ボクの使徒になって貰えませんか?」


 ズイッと身を乗り出し、手を握ってくるシオン。その目は真剣そのものだ。


「ウッ!? ……そう言われてもな~……」


 いきなり手を握られ、ちょっとドキドキ……嫌々、違う違う! 正直、まだまだ聞きたいことがあるのだ。だから、うんとは頷けなかった。



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