第一章15 『神様と長距離射撃』
拠点に戻った俺たちは、アスピドケロンを倒す段取りを纏め、今日と明日朝の食料調達に向かった。そして食料を確保した後は、晩御飯を作って食べ、その日は明日へと備える為に早めに就寝した。
そして、翌日。諸々の準備を整えた俺たちは、二手に分かれて各々の担当する場所へと移動した。
俺は身を低くしながら素早く移動して丘を登り、シオンと事前に見つけた射撃ポイントにある大きな岩の後ろに身を隠す。
『(シオン、こっちは目標の位置に着いた。そっちはどうだ?)』
『(ボクも、昨日偵察した位置にいるよ。準備は?)』
『(今からやるから、少し待機してくれ)』
『(了解)』
シオンとの念話を終え、俺は長距離射撃の準備へと入る。まずは弓を組み立て、矢を生成する。そして、その矢に対してある細工を施す。
施す箇所は矢尻部分だ。術式を編み、矢尻部分に衝撃を与えると爆発する性質を付与する。『爆裂矢』とでも名付けるべきか……対象に被弾すると共に大爆発を起こす矢。これなら、飛距離による威力の減衰を補うに余りある。
外した場合も考え、予備の矢も二本生成する。その後は、前回と同様に弓の弦の剛性を限界まで高める。これで概ね準備は完了だ。
俺は、細工を施した矢を三本右手に持ち、その内の一本を弓に番えた状態でシオンに呼び掛ける。
『(シオン、準備完了だ。始めてくれ)』
『(了解! じゃあ、トウマはボクと視覚共有して見ていて。撃つのは、アレを使ったタイミングね)』
『(ああ、分かった)』
お互いに準備が整ったのを確認し、シオンと視覚共有を行う。しかし今回は双方向ではなく、シオンの視覚を俺側が目を瞑って見ている状態だ。そうすることによってギリギリまでこちらは姿を隠し、シオンの視界から射るタイミングを見定める。
シオンは視覚共有をした後、身を隠していた岩礁から飛び出し、右手に斧槍を取り出して目標まで駆けだした。
砂浜の走り辛さをものともせずに進む姿にいち早く気付いたのは、シオンの方向を向いていた一匹のランドタートルだった。シオンの姿を見るや否や、プシューと強く鼻息を出す。
その音に反応したのか、他のランドタートルもシオンの方を向き、アスピドケロンもその巨体を向ける。
シオンは怯むことなくランドタートルの群れに飛び込み、最初に警戒音を上げたランドタートルの頭を右下から斧槍を切り上げて刎ね飛ばした。刎ねられた首元から勢いよく血が噴き出す。
シオンは、すぐさま身を翻して次のランドタートルに向かい、同様に首元に斧槍を上から叩き込んで首を落とす。
明確な攻撃を加えてきたシオンに殺気立つランドタートルたちは、シオンに向かって威嚇し、あるものはシオンに近づいて噛みつこうとしたり、あるものは首を伸ばして上を向き、喉元が膨れ上がったと思ったら、水を圧縮した水弾を吐き出して飛ばしてきた。
シオンはそれを器用に躱しては隙を突いて距離を詰め、一匹一匹的確に首を狙って切り飛ばして仕留めて行く。
それを見て、ランドタートル達の背後にいたアスピドケロンが脅威を感じたのか、様子が変わる。グッとシオンを睨みつけたかと思うと、身体を中心に巨大な術式が展開された。
特殊能力を使うつもりだ。レベルE~Dの魔物はほぼ使ってくることは無いが、レベルC以上――特異個体に相当する魔物は特殊能力を使用してくる。おまけに魔核を持っている為に詠唱も必要ない。高位の魔物となると、術式すら省略してくる個体もいるらしい。
だが、シオンに慌てる様子はない。俺が気付いているということは、シオンも術式が編まれていることには気付いている。その証拠に、ランドタートルを狙いながらも視界にはしっかりとアスピドケロンを捉えている。
そして術式が発動する瞬間を見極め、立ち止まって身構えた瞬間、シオンのいたその場をアスピドケロンの口から発射された水流が一閃する。
シオンはすかさず射線から飛び退き、その一瞬後にズシャーーーーーーッと圧縮された水流が砂浜を引き裂いて縦に走り、長大な直線が砂浜に刻まれる。途中で首を刎ねられたランドタートルの死体が巻き込まれ、弾き飛ばされた。
かなりの威力だ。まともに喰らえば砂浜の彼方まで吹っ飛ばされそうな水圧……踏ん張り辛い砂浜では防御しても押し切られるかも知れない。
『(シオン、気を付けろよ)』
心配ないだろうが、注意を呼び掛ける。
『(大丈夫!)』
シオンは頼もしい返事をした後、再びランドタートルに向かって走り、次々と首を刈り取っていく。彼らにとって、シオンはまさに死神だった。
ランドタートルも必死に抵抗するが、それほど早くないあの動きではシオンを捉えるのは難しいだろう。
アスピドケロンも特殊能力を使って再びシオンを攻撃するが、結局当てることは出来ず、ランドタートルはその数を残り三体まで減らしていた。
『(トウマ、そろそろ仕掛けるよ)』
『(ああ、いつでもいいぞ)』
俺は、いつでも岩陰から飛び出して狙えるように態勢を整える。それが伝わったシオンは、残りの三体を片付ける為に一気に距離を詰めようとするが、アスピドケロンがそうはさせまいと前に踏み出してくる。
どうやら特殊能力を当てることが難しいと考えたのか、その巨大な足で踏み潰すことにしたらしい。小柄なシオンにあの圧倒的なまでの巨体が迫る。
一見巨大で動きが鈍そうに思えるが、あれだけの巨体だとリーチも長い。中途半端な動きでは回避しきれない。
シオンはとっさに大きく避けるが、避けた先を予測したのか残ったランドタートルが、避けた先に水弾を撃ち込んで連携してくる。
シーサーペントの時もそうだったが、やはり特異個体がいる群れは統制が取れている。まるで意識下で繋がっているかのような連携を見せることがある。これも特異個体の特性なのだろうか。
シオンは、水弾を躱すが避けきれなかった物は斧槍で打ち払う。しかし、その隙を狙ってアスピドケロンの巨大な足が踏み潰そうと迫る。
マズイ、避けきれない!? その証拠に、シオンの視界はアスピドケロンの足裏で覆い尽くされ、既に眼前に迫っている。そして、ズシン! という地響きと共に視界が真っ暗になってしまう。
思わず立ち上がって岩陰から飛び出そうとしてしまうが、ふと視界の暗闇にチラリと光が漏れ見えていることに気付く。
その隙間の光は徐々に大きくなり、視界が光で照らされると、すぐ頭上にアスピドケロンの足裏が見えた。そして、それを支えるように両手が見え、斧槍を横にして間に挟むように、足を受け止めている状態が見える。
おいおい……あの巨体の足を受け止めて持ち上げているのか? と一瞬呆れた感想が頭を過る。
「この~……調子に乗るな!!」
シオンは気合のこもった声と共に足裏を弾き飛ばすように押し上げると、あまりの勢いにアスピドケロンが少し後ろによろめく。呆れた馬鹿力だ。
シオンはその隙を逃さず足裏から脱出して、残っているランドタートルの元に向かい、斧槍を一閃して首を刎ね飛ばして全て仕留める。これでランドタートルは全滅させた。いよいよ俺の番だ。
『(トウマ、行くよ!)』
『(おう!)』
シオンはいったん距離を取り、俺がいる射撃ポイントを背にするようにアスピドケロンを回り込む。アスピドケロンはそれを追うように方向転換し、身体を丘の方向に向けた。
そして、シオンを再び踏み潰そうと右足を上げた瞬間、シオンは空間操作で中からある物を取り出し、足元に設置してすぐさま後ろに飛び去る。
アスピドケロンの足は一瞬遅れてその場所を踏み潰し、その瞬間、足元が大爆発を起こした。凄まじい爆発音と爆風で砂浜の砂が舞い上がる。
シオンが使ったのは事前に用意して渡しておいた即席地雷だ。『オドの物質化』と『性質付与』を利用して作った物で、構造はいたって単純。
まず、あの巨大な足に合わせてかなり大きめの器を用意し、底に引火性の爆発物質を性質付与で作って詰め、その上に着火剤となる発火性の性質を付与した燃焼物質で蓋をした。
そして、その上にセットしたのが圧電素子だ。圧力を加えることによって電気火花を発生させることが出来る。いわゆるチャッカマンやライターと同じ原理だ。これも性質付与で作った。
後はあの巨体で踏み潰してくれれば、踏まれた圧力によって圧電素子が電気火花を発生させ、それが燃焼物質を発火させる。そして、底に大量に詰めておいた爆発物質に引火して大爆発という寸法だ。
しかし、ちょっと大きく作り過ぎたかもしれない……かなりの大爆発だった。シオンは問題なく爆発の余波から逃げきれたみたいだが……。
しかし、呆けている訳にはいかない。俺はシオンとの視覚共有のパスを切り、岩陰から飛び出して視覚を強化し、アスピドケロンを見据える。
アスピドケロンは、右足を大きく損傷して片膝を付いている状態だ。その為、視界は完全に地面を向いており、こちらは角度的に死角になっている。想定通りだ。
俺はすぐさま、射法八節の一節から四節を行って態勢を整え、『能力強化』を使用して上半身を極限まで強化してオドを高める。そして五節の引分けに入り、ギリギリギリという音を辺りに鳴り響かせながら、弓を引き絞る。
狙うはアスピドケロンの脳天だが、向かい風を計算すると少し飛距離が伸びる可能性がある……よって、狙う箇所を少し下に定めた。
アスピドケロンは、まだ動けずにいる。頭の中で矢の軌道をイメージし、狙いが定まった瞬間に『会』に達し、『離れ』へと至って矢が放たれる。
ズバンッという弦音が鳴り、矢が凄まじい勢いで空を裂いて飛ぶ。手応えはあった……『残心』の状態で矢の着弾を見据えるが、その一瞬、強い向かい風がこちらに向けて吹き上がってきた。
マズイ!? と思った瞬間、矢がアスピドケロンに着弾して爆炎が上がる。俺は結果を確かめずにすぐに第二射の矢を番える。
爆炎が収まった時にチラリとアスピドケロンの頭部が見えるが、多少焼け焦げた跡があるが直撃はしていなかった。その代わりにすぐ上の甲羅の縁部分が砕け、焼け焦げた被弾跡が見える。やはり外れていた。俺はすぐさま弓を引き絞る。
『(トウマ、焦らないで! まだいけるよ!)』
シオンの言う通り、アスピドケロンは立て続けの爆発により混乱しているようで、まだ態勢を取り戻せていない。
風さえなかったら捉えていた……同じ軌道なら今度こそ当たる、と先ほどの狙い通りにイメージを固め直して矢を放つ。
矢は先ほどの軌道通りに飛び、今度は突然の突風も無かった為、吸い込まれるようにアスピドケロンの頭部に着弾した。
三度の爆発音が砂浜に鳴り響く。アスピドケロンは前頭部がほぼ吹き飛び、焼け焦げた煙を発しながら、前のめりに倒れて息絶えた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
アスピドケロンの討伐に成功し、俺は丘から降りて砂浜にいるシオンと合流した。
「トウマ、お疲れ様! なんとかなったね」
シオンが俺の側に駆け寄ってきて、笑顔で話し掛けてくる。
「まあな。一発目が外れた時はちょっと焦ったが……」
急な向かい風が吹いたせいで、矢が持ち上げられて射撃位置が上にズレた。ちゃんと予備の矢を用意していたのが功を奏して、第二射がスムーズに行えたので良かった。
「それは仕方ないんじゃない? 急な突風が吹いたんだから」
「それはそうだが、実戦ではそういうミスが致命的になることもある。もっと風を読んで慎重に射るべきだった」
少し焦って早めに狙いを定めたのは否めない。事前の調査をした時に、海風の周期をもっと観察しておくべきだった……想定が甘いと言わざるを得ない。そう考えていると、俺の考えを察したのかシオンが少し呆れた感じで指摘してくる。
「もう~……トウマは真面目だね。もし外れたとしても、そう困る相手じゃないよ?」
そう言って肩をすくめるシオン……言わんとしていることは分かる。フェルビナさんからも言われていたことだが、今の俺たちの実力ならレベルCの魔物は相手にはならない。シオンがアスピドケロンの踏み潰しを押し返したのが良い証拠だろう。
使徒である俺は、魔物のレベルで言えばAと同等の力を持つ。そしてシオンは、その更に上――レベルS相当の実力を秘めている。レベルCは本来なら問題にもならない相手だ。因みに、魔物のレベル階級はSを頂点とし、A~Eを合わせて六段階に分けられている。
Sは世界そのものを滅ぼしうる力を持つ伝説や神話級の魔物、Aは人間世界においては最上位種(Sは伝説や神話の中の存在に位置付けられている為)で、ベテラン冒険者のフルパーティー三組以上が集まっての、グループ討伐が推奨されるレベルとなる。
その他は、Bはベテラン冒険者でフルパーティー推奨。Cは単独討伐出来れば、一人前の冒険者と言えるそうだ。因みにレベルC以上は全て特異個体となる。
Dは小規模の群れのリーダー格となり得る魔物で、新人冒険者の最初の壁、Eは一番弱い下位種だが、一般の人間にとっては十分脅威となる存在、という階級分けとなっている。
これを前提にすれば、どれだけ俺たちが規格外の力を持っているかは歴然だろう。だが、今のシオンの考えは危険だ。こういう油断は癖となる……よって、今の内にしっかりと釘を指しておかないとならない。
「シオン、油断は禁物だ。どんなに低レベルでも、侮るのは良くないぞ」
「それはそうだけど……」
少し納得いかないのか、いまいち煮え切らない返事をするシオン。そこで俺は、先ほどの戦いにおけるシオンの不用意な行動を指摘する。
「第一、さっきのアスピドケロンの踏み潰しだって、不用意に飛び込んだのが原因だ。本来なら受けるような攻撃じゃなかったろ?」
「ウッ!? それは~……」
図星を突かれたのか、目を逸らすシオン。
「とにかく、今回はお互いに想定や判断が甘かったのは事実だ。その事実をちゃんと受け止めて、改善しないとな」
「は~い」
シオンも納得したのか、ちゃんと返事をする。
「じゃあ、この後は反省会だな。ランドタートルやアスピドケロンの処理が終わったらやろう」
「うん! じゃあ、死体を集めるから魔核化はお願いね!」
そう言ってニッコリ笑う。
「ウッ!? ……分かった」
この野郎、仕返しのつもりか……とジト目で睨むと、クスクスと笑いながらランドタートルの死体集めにシオンは向かっていった。
全く……と思いながら溜息を付く。さて、シオンばかりに毎回死体集めをやらせては、使徒の面目が立たない。そう思った俺は、シオンを手伝う為にその背を追いかけた。
次の一月二日の更新予定に関してですが、新作を一月一日から毎日公開する予定にしています。
その為、新作と同時に公開すると、その日のPVが分散してしまいそうですので、更新時間をズラそうと考えています。
よって、こちらの更新時間は、お昼の0時更新に一度切り替えます。続きを読んで下さっている方は、その日のお昼以降に確認しに来て下さい。
それと、新作の方もよろしくお願いします! こちらの話より一話の文字数は少なく(3000~5000文字以内かな)、テンポの速い話になりますので、こちらより読み易くはなっていると思います。
新作を公開しても、こちらの更新頻度は守って行こうと思っておりますので、今後とも、お付き合い頂ければ幸いです。
それでは、皆様。よいお年をお迎え下さい! 来年も、未熟者ではありますが宜しくお願い致します<(_ _)>




