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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章11 『神様と海上戦闘』

 潮風が打ち付ける断崖の上から、入江を見る俺達。その入り江では、魚の頭を持ち、青白い肌のトカゲのような下半身を持つ奇妙な魔物が、前屈気味の二息歩行で歩いていた……『サハギン』だ。三十匹程がたむろしている。

 そして、その入り江前の海の中には、体長が十メートルはあると思われる魔物の影があった。蛇のような長い巨体を優雅にくねらせながら泳ぐその姿は、その一帯をまるで自分の庭だと周りに主張している様に悠然としていた。

 魔物の名は『シーサーペント』。海洋エリアに発生した特異個体(ユニーク)の一体であり、海洋エリアでの最初のターゲットだ。


「さて、シオン。かなりの大物だが、どうやって討伐する?」


 俺の隣で、同じように入江に目を凝らしているシオンに声を掛ける。


「う~ん……そうだね……とにかくサハギンを含め一匹も逃さず討伐しなきゃならないから、逃げ道を塞ぎたいところだけど……」


 そう言って入江の出入り口の海を見るが――


「入江の出入り口が広すぎて塞ごうとすると、地形自体を弄ることになるから、それはダメだし。創造の力も制限があるから、海中に網で罠を仕掛けるなんて方法も出来ない……」


 と、難しそうな顔をする。俺もその視線の先を見て、納得する。

 入江は、Cの字のような断崖の奥まったところにあり、周囲は崖に囲まれているが、海にある出入り口はそれなりの幅がある。あそこを塞ごうと思うと、確かに地面を隆起させるなりして塞ぐしかない。

 だが、それは魔物たちの勢力圏を大きく荒らす行為だ。それに、シオン一人の創造の力に頼ったやり方は、今回の俺たちのコンセプトに反する。今回はあくまでも経験を積む為の訓練だ。出来れば二人の連携を主体とした方法で討伐したい。

 今回難しいのは、陸地じゃなく海だということだ。海中に逃げられたら追撃は難しいし、もし外洋に逃げられでもしたら、それまでとなる。


「如何に奴らを逃がさないように立ち回るか、か……まずは、サハギンから狩るべきだろうな。シーサーペントを先に倒すと、まず間違いなく逃げるだろ」


 群れの統率者を倒せば、群れが崩壊し高確率で敗走を選ぶ。それはゴブリンの時に見られた現象だった。だが、あの時は陸地のうえに集落内だから簡単には逃がさずに済んだが、今回は海だ……そうは行かない。


「そうだね……なんとかサハギンを先に片付けたいけど、トウマが射撃したり入江に飛び込んで接近戦をしようとすれば、確実にサハギンは海中に移動する……その方が得意だし身を守れるからね。そうなるとトウマじゃ倒し難くなるから、ボクがやるよ。ボクなら、空間操作を使えば海の上に足場を作って戦うことが出来るし……」


 確かに、シオンなら任意の空間を固定して足場にすることが可能だ。以前、その力を使って、俺の部屋のドアを開けられなくしたことがある。しかし――


「それって……ゴブリンの時とは逆に、シオンが囮になるのか?」


 と、シオンがやろうとしていることを理解して指摘する。


「そう。ボクが奴らに優位な海上に足場を作って素手で相対すれば、確実に攻撃してくる。その場合、必ず海中から飛び出して攻撃してくるだろうから、それならトウマの弓でも攻撃出来るでしょ?」


 つまり、シオンを餌にしてサハギンたちを食いつかせて、俺の射撃で狩って行く……そして、シーサーペントは最後に仕留めるということか。


「素手であの数と相対する気か? 流石に危なくないか?」


 武器を持たずに戦ってもシオンは十分に強いが、あの数と大きさだ。万が一なんて有り得ないとは思うが、やはり心配にはなる。ましてや素手だ。


斧槍(ハルバード)を持っていたら、あの数の攻撃を躱すのに邪魔だしね。それに圧倒的に優位な立場で、尚且つ群れの統率者もそばにいる状況下なら、簡単には逃げないと思うんだ。ましてや、シーサーペントがそれを許さないと思う」


「なるほど……その方針で行くか。だが、くれぐれも気を付けろよ。いざという時は、すぐに武器は出すようにな。特にシーサーペントはあの大きさだ。お前なんか一口で飲み込まれるだろうからな」


「大丈夫!」


 シオンは、自信満々の笑顔で答える。まあ、大丈夫か。なにせあのフェルビナさんの鬼のような回避訓練をシオンも乗り越えているからな。

 戦闘経験においては二人共まだまだ経験不足は否めないが、回避能力に関してはフェルビナさんにお墨付きを貰っている。

 特に、シオンなんかはその小さく身軽な身体を活かして、フェルビナさんの嵐のような巨大戦斧の連続攻撃を完璧に躱して見せたこともある。


「じゃあ、俺はあの岬の先に行く。距離的にも丁度良いし、向こうが入江の出口に逃げようとしたら、牽制も出来るからな」


「うん、分かった! 着いたら念話で教えて」


「了解」


 俺はそう言ってその場を離れ、岬の先を目指して走って移動し始めた。オドを足に集中させ、シオンからのオドの供給量を上回らないギリギリの強化で走る。

 あのフェルビナさんの特性コースを制覇出来たおかげか、かなりの速度が出ている。所々に大小の岩があるものの、アレに比べれば平地とさほど変わらない。

 数分後、自分でも驚くほど速く目的地に到着した。


『(シオン、岬の先に付いた。丁度、入江が正面に見える角度だ。分かるか?)』


『(うん、見えてるよ。じゃあ、今から踏み込むね)』


『(ちょい待ち。まずこっちから射かけて少し数を減らす。その方が楽だろ?)』


『(それもそうだね。じゃあ、そっちが射かけた後に突入するね)』


『(ああ)』


 シオンとの念話を終わらせ、双剣を弓へと組み替える。そして、その弓を持って狙いやすい場所に移動して、入江に視線を向けた。

 数分前と変わらず、砂浜をうろうろと歩いているサハギン。その内の一匹に視線を定め、右手にオドで矢を三本生成し、指に挟んだその内一本を番えた。

 呼吸を整え、目標に意識を集中して弓を引き絞る。キリキリと弦を引き絞る音が耳に届く。

 狙うは、サハギンの眉間……頭の中に描いた矢の軌道イメージと狙いが合致した瞬間、矢を放つ。


「(当たる)」


 完全にイメージ通りに放つことが出来たので、矢を放った瞬間に当たる確信が心に浮かぶ。

 すぐさま右手に持っている矢の一本を手首をスナップさせて番え、すぐさま次のサハギンに狙いを定めて、先ほどのイメージを踏襲して再度放つ。

 その速さは、最初に放った矢がまだ相手に届いていない内に行われるほどスムーズだった。そして第一射は、思い通り狙った獲物の眉間を貫いていた。


「(二匹目……次)」


 二射目もイメージ通りだった。もしかしたら入ったかも知れない。時折起こる極限の集中の世界、いわゆるゾーンと呼ばれる状態に……これに入るとまったく外れる気がしなくなる。

 先ほどの手順をまるでリプレイするかのように、手順を完璧にトレースする身体。俺の心の声は、もう仕留めたサハギンの数を数えるだけになっていた。


「(三匹目……四匹目……五匹目……六匹目……七匹目……!)」


 次々と眉間を貫かれて絶命していくサハギン達だったが、一定の間隔で射かけていた動きがピタリと止まる。サハギンが動いたのだ。

 仲間達が突如バタバタと倒れていき、サハギン達はパニックを起こしていたが、流石に七匹もやられると我に返る奴もいて、そいつが慌てて海に飛び込むとそれに釣られるように他のサハギン達も追随していく。

 どうやら初撃はここまでらしい。弓の構えを解いて、息を深く吐き出す。


「フゥ~……さて、シオンは……いた」


 視線を海に巡らせると、シオンは既に崖下の海の上に素手の状態で立っていた。どうやら、あの断崖を飛び降りたらしい。大した度胸だな。そしてシオンは、そのままサハギン達がいる方向へと海の上を走り出した。

 いち早く気付いたのは、シーサーペントだ。海中から浮上して、凄まじい水柱を立てて遂にその全容を現す。

 頭部はサメのように鼻先が前に突き出しており、顎も長い。開いた口からは、びっしりと生えた牙がズラリと鋸のように並んでいるのが見える。胴体は青白い鱗で覆われており、蛇のように長い。所々に刺々しいヒレが付いているのは、サハギンから進化した為だろうか……胴体の表皮部分はトカゲに近い様相をしている。

 シーサーペントは、その巨体を縦に持ち上げた状態でシオンの方向を向き、鎌首をもたげながら大きく口を広げて、『シャァーーーーーー!!』と叫び声を上げて威嚇する。

 その声に反応して、海に逃げ込んでいたサハギンがシーサーペントの周囲に次々と浮かび上がってきて、一斉にシオンの方向を向く。

 おそらく、先ほどの攻撃をシオンが行ったものと勘違いしたんだろう。自分たちの方に向かってくるシオンに、サハギンは一斉に突っ込んで行った。かなりの速さだ。泳いだ後に水飛沫の線が(ほとばし)る。

 しかし、シオンはひるむことなく進み、突っ込んで来たサハギンが海中から飛び出して襲い掛かってくるのを、ギリギリのところであっさり躱す。そこからのシオンの動きは圧巻と言うしかなかった。

 次々と飛び掛かってくるサハギンに対し、左へ右へと身軽に躱す。躱す方向は左右だけではなく、空中に飛び上がり、そこに狙いを定めて飛び掛かってくるサハギンも、瞬時に空中で足場を作って蹴ることによって、反動で華麗に方向転換して躱している。まるで海上で舞っているかのようだった。

 俺が減らしたとはいえ、まだニ十体以上入るサハギンの波状攻撃を、華麗に躱す姿に思わず見惚れそうになるが、気を取り直して矢を生成して構える。


『(シオン、射かけるが大丈夫か?)』


『(うん、平気。狙える?)』


『(ちょっと動きが早いな……)』


『(分かった。隙を作るね)』


 シオンはそう言うと、飛び掛かって来た一体のサハギンの顎をサマーソルトで蹴り上げる。その衝撃でサハギンは空中に打ち上げられ、完全に勢いを殺されて無防備になる。

 俺はすぐさま狙いを定めて、そのサハギンの脳天を射抜いた。


『(器用な奴だな)』


『(へへ~♪ トウマもお見事!)』


『(そりゃどうも、どんどん片付けるぞ)』


『(了解~♪)』


 シオンはサハギンの隙を作る為、打撃によって動きを止めたり、空中に現れる見えない壁に衝突させるなどして隙を作り、そのチャンスを逃さず俺が射撃で仕留めていく。

 周囲には、脳天や胸を穿たれて絶命したサハギンの死体があちらこちらに浮かんでいる。正直、死んだサハギン達はなにが起こったのか分からなかっただろう。

 突然、なにかに攻撃を受けて仲間を殺され、海中に逃げ遂せたと思ったら、海上を何故か歩ける相手が現れる。シーサーペントの命令で狩ろうとするが、攻撃は(ことごと)く躱され、その度に仲間がまた次々と殺されていく。

 因みに俺の弓での攻撃には、未だに気付いていないようだ。どうやらあまり目が良い訳じゃないらしい。そこら辺は魚類と似ている。

 それでも怯まず向かってくるのは、シーサーペントが後ろにいるからだろう。群れの統率者の命令では退くことも出来ない。

 今のところ、狙い通りにことは運んでいるが、サハギンの数が残り十匹を切ったところでシーサーペントも危機感を覚えたのか動き出す。

 海上に現していた姿を海中に沈め、身体をくねらせながら高速で移動してシオンの方へと向かっていく。


『(シオン! シーサーペントがそっちに行ったぞ!)』


『(分かってる! 任せて!)』


 シーサーペントは、シオンの近くまで高速で泳いでくると、数メートル手前で突如深く潜る。一瞬姿を見失うが、次の瞬間、急速にシオンの足元の海中から急浮上してくる。

 シオンはいち早く気付いて頭上に高く跳び上がるが、その瞬間、凄まじい水柱を上げてシーサーペントが大口を上げて海中から飛び出し、シオンを丸呑みにしようと追い縋る。

 シオンの予測より勢いがあったのか、追いつかれると感じたシオンは、すかさず自身の左の空間を固めて蹴り、シーサーペントの突撃してきた進路上から横に退避する。

 その瞬間、バグンッ!!という音と共にシーサーペントが鎌首を曲げながら、シオンに追い縋るように噛み付いた。

 一瞬、喰われたと思ったが、シオンはそれも回避しており、空中で器用に態勢を整えながら落下していく。

 牽制の為に、海上に飛び出したシーサーペントを射ようと思うが、すぐそばで落下していくシオンが目に入り、こちらにピースサインをしている姿が見えて射るのを止めた。あまりの余裕ぶりに、軽く笑いがこぼれる。

 シオンは再び海上に着地するが、それを見たシーサーペントがすかさず海中の尻尾をしならせて、その場を薙ぎ払ってくる。

 しかし、それもシオンは見越していたのか背後に大きく飛んで躱す。あの巨体の一撃により水飛沫が飛び散り、周囲の海も激しく波打つ。

 シオンはそんな荒れ狂う海をものともせずに、ひらりと背後の海面に降り立ち、少し距離を取った状態でシーサーペントと睨み合っていた。その構図は、まるで神話に出て来る怪物に立ち向かう勇者の(さま)そのものだった。

 シーサーペントは、苛立たし気に叫び声を上げると、海上を走るようにシオンに向かって進み、残ったサハギン達もそれに追随するように並走する。


『(トウマ! 残りのサハギンも少ないし、ボクも攻勢に入るから、トウマも手加減抜き(・・・・・・)で攻撃して!)』


『(了解!)』


 シオンの指示で、今までは普通に射かけるだけだったがそれを止め、特殊能力を用いて射る準備を始める。

 『性質付与』で弦の剛性を更に高め、『能力強化』で上半身の筋力を強化しつつオドを高める。そして、同じく剛性を高めた矢を生成して番え、弓を引いた。

 先ほどとは打って変わったギリギリギリと引き絞る音が鳴り、海中を疾走するサハギンの進行方向の僅か先に狙いを定め、放った。

 ズバンッ! という、今までとは比べ物にならない弦音が鳴り響き、放たれた矢も凄まじいスピードで空を切る。そして、着弾点に定めた場所と海中を疾走するサハギンがピタリと重なった瞬間、その場に着弾して海を穿つ。

 シュドンッ! という凄まじい音と水飛沫が着弾位置から発せられ、その威力でサハギンの頭部は弾け飛び、肉片が舞い散る。それはもはや弓の一撃というよりは砲撃に等しい一撃だった。

 俺はすかさず第二射、第三射と狙いを定めて放つ。光弾に等しいその矢は、次々と疾走するサハギン達に着弾して、奴らを屠っていく。

 しかし、シーサーペント達は怯まず目の前のシオンに疾走していく。それはもはや特攻に近かった。

 シオンは、そんな奴らを迎え撃つように立ち、愛用の斧槍を空間操作で取り出して、両手で構えた。

 そして、先行していたサハギン二匹が右と左から交互に飛び掛かるが、斧槍をクルリと頭上で回転させると、その回転で生まれた遠心力で斧刃を加速させ、右に迫っていたサハギンを逆袈裟に切り捨て、高速で切り返して、左に迫っていたサハギンを切り上げで両断した。

 そして、俺との射撃で残り三匹まで減ったサハギンも次々とシオンに飛び掛かるが、身体を回転させながら遠心力を利用して縦横無尽に斧槍を振り回し、シオンに触れることすら出来ずにその身を空中で破断されて散る。

 しかし、その命懸けの特攻が功を奏したのか、シオンに僅かながらの攻撃後の隙が生じ、それを見越したシーサーペントが一気に加速して、大口を開けてシオンに喰らい付いてくる。

 その大顎はシオンの眼前まで迫り、タイミング的には躱しようがなく、シオンはそのまま餌食となる――ところだったが、そんな真似を黙って俺が見ているはずもなく、喰らい付く寸前にシーサーペントの横っ腹を矢で撃ち抜いた。

 突如、横っ腹を射抜かれてその身を穿たれ、その衝撃で身体がくの字に折れ曲がる。喰らい付こうとしたシオンの横を、水しぶきを上げながら海上をのたうつように逸れるシーサーペント。堪らず、海中に避難しようと痛めた身体を引きつらせながらも潜って行く。

 流石は、特異個体(ユニーク)……あの程度では仕留めることが出来ないようだと、もう一発撃ち込もうとするが、『(任せて!)』というシオンの声が頭に響き、狙いを定めつつもシオンのアクションを待つ。

 シオンはシーサーペントを追うように海中に潜ったようだが、いったいなにをするつもりなのかと見ていると、数秒後、ズドーーーーンッ!!という凄まじい音と水柱が立ち昇り、そこからあのシーサーペントの巨体が出現して、空中へとその身体が打ち上がった。

 あまりの出来事に目を瞠るが、すかさずシオンの念話が頭に響く。


『(トウマ、今だよ!)』


 俺は、慌ててシーサーペントの頭に狙いを定め直し、渾身の一射を撃ち込んだ。

 撃ち出された光弾の如き矢は見事に頭部へと命中し、無残にもシーサーペントの脳天部分が弾け飛んだ。そして、息絶えた身体は力なく海上へと落下して打ち付けられ、凄まじい水飛沫と波を海上に起こした。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 全てのサハギンとシーサーペントを討伐が終わった後、俺はシオンと合流すべく岬から入江へと向かっていた。

 そして、入江の丁度頭上となる断崖に辿り着いたので、下を覗き込む。……かなりの高さだな、と一瞬躊躇(ためら)うが、よくよく考えたらフェルビナさんの特性障害物コースで、これぐらいは普通に飛び降りていたなと思い出し、意を決して断崖から飛び降りて砂浜に降り立つ。

 すると、既にそこにはシオンが待っており、俺を待っている間に集めていたのか、サハギンとシーサーペントの死体が砂浜に積み上がっていた。


「トウマ、お疲れ~♪」


 俺に気付き、こちらに笑顔で手を振るシオン。海中に潜ったせいでシオンはずぶ濡れになり、髪をオールバックに撫でつけていた。

 綺麗な砂浜で、黄金に輝く金髪から水を(したた)らせて手を振る美少年? という、なんとも絵になる構図なのだが、背後には惨たらしい死体が山積みとなっており、雰囲気を台無しにしている為、少し頬が引きつってしまう。

 気持ちを切り替え、シオンに近寄って労いの言葉を掛ける。


「お疲れ。悪いな、死体の回収手伝えなくて」


「大丈夫だよ。それより最後の一撃良かったよ! 他の攻撃も百発百中だったし、弓の腕前上がったんじゃない?」


「そうだな……今回の相手は動きが速かったし、少しは外すと思ったんだが、上手く集中出来た。そのお陰だと思う。それより、最後のアレはどうやったんだ?」


「アレ? ああ、シーサーペントを海上に打ち上げたこと?」


「ああ……海中じゃ、いくらシオンの膂力でも力は分散する。どうやってあんな巨体を打ち上げる威力を出したんだ?」


 あれには正直驚いた。『能力強化』を使ったのかと思ったが、シオンの体躯ではいくらなんでも威力が大き過ぎる。入江に向かいながら考えていたが、どうやったか結局分からなかった。


「あれは空間操作を応用したんだよ。シーサーペントの下から、こう一気に空間を固定していって打ち上げたんだ」


 そう言いながら、アッパーをするような仕草で説明するシオン。


「なるほど、そんな使い方も出来るのか……やっぱりシオンの特殊能力は、かなり抜きん出ているな。たしか、空間を歪めて瞬間移動みたいなことも出来るんだよな? 俺の引っ越しの時に荷物を移動させたみたいに」


 俺が使徒に生まれ変わる前の引っ越しの際に、冷蔵庫や洗濯機等の大きい物を運び出すのを、シオンが空間操作を使って一瞬で行ったのを思い出す。


「まあね……他にも空間を断絶させて物を断ち切ったりとかも出来るよ」


 おっかない能力だ……そんなの防ぎようがないんじゃないかと思う。それを使えばシーサーペント如き、あっという間に切り刻むことも出来ただろう。しかし――


「そんな凄い能力を持っていても、この死体の山をどうにかする(すべ)はないのか?」


 目の前に広がる凄惨な光景に辟易した顔を向ける。ゴブリンの時以来だが、やはり気分はあまり宜しくない。ゴブリンと違って魚類に近いから多少はマシではあるけども……。


「うう~ん……ないこともないよ。武器自体に『源魂回帰』を掛けていれば、その武器の攻撃で魔物が死んだ場合、瞬時に魔核化は出来るけど……」


「なに? そんな便利なことが出来るのか?」


 それを早く言って欲しかった。シオンは、右手の人差し指をピッと立てながら説明してくれる。


「『能力付与』って特殊能力があってね。それを覚えれば特殊能力を攻撃自体に付与したりすることが出来るんだ。それを使えば可能なんだけど、その前にトウマは『源魂回帰』を詠唱無しで使えるようになるのが先じゃない?」


「ウッ! それもそうか……でも、シオンは出来るんだろう? なんで使わないんだ?」


「ここでは使えないよ……海の上だもん。海中に魔核が沈んだら回収が余計に大変になるよ?」


「あ……そりゃ、そうか。海の中をさらうなんて真似は余計しんどいな……」


 陸地ならともかく、ここは海だった。


「ゴブリンの時も、トウマが練習する必要があるからあえてやらなかっただけ。それに術式の省略は人間には超高等技術になるから、異世界では使うのも憚られるしね。ボクたちの立場上、多分目立つのは避けるべきだろうから」


「なるほど……でも、この異界なら問題はないよな?」


 せめて異界では、この死体回収の手間は減らしたい。そう思って聞くが――


「なら、早く『源魂回帰』を覚えなきゃね!」


 と、そう言ってニッコリ笑うシオン。そりゃごもっともで……と心の中で呟き、溜息を付いて死体の山の前に立って詠唱を始めた。絶対に早く覚えて、この中二病全開の恥ずかしさから脱してやる! と心の中で誓いながら……。



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