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神様と使徒の異世界白書  作者: 麿独活
第一章 【魔物という存在】
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第一章9  『神様と特異個体』

 ゴブリンの討伐が終わり、魔核を全て回収して袋に詰めた後、シオンの次元操作で別次元に格納する。そして、最後の後始末としてゴブリンの集落を燃やして潰した。(残しておくと、別のゴブリンが住み着いて、群れを形成しやすくなる為)

 そして集落を後にした俺とシオンは、異界から戻った後の段取りを決めた後、最初に射撃を行った高台まで移動する。

 高台に付いた後、シオンが左手に嵌めていた指輪を起動する。これは、出発前に渡されたもので、これを使うことで異界天球儀の転送機能を操作して、転移ゲートを用意することが出来る。他にも地図を表示出来たりと結構便利な代物だ。

 指輪が光を放ち、俺とシオンを囲うように術式が展開される。数秒後、俺たちの姿が光と共に掻き消え、異界から俺たちは退去した。

 光が晴れて視界がはっきりすると、目の前の景色は管理区域の一室、異界天球儀が鎮座する部屋となっていた。三日ぶりの帰還である。無事に戻って来てホッと一息付くが、そんな気持ちをぶち壊すように、背後からあの男の声がした。


「おや? 無事戻ってきたようだねぇ~。どうだったかな、私の管理する異界を旅した感想は」


 会いに戻ってきたはずなのだが、あの男の声を聞いた途端、戻ってきたことを後悔する気持ちが湧き上がる。ホッとしたはずの身体にも再び緊張が訪れた。それはシオンも同じようで、俺の右手をキュッと握る。


「……どうも、只今帰還いたしました」


 俺は背後に向き直り、異界の管理者ガーディウスに挨拶する。ガーディウスは出会った時と同じ格好で右手にビーカーを持ち、中に入っている湯気を立ち昇らせる黒い液体(コーヒーだろうか?)を一口飲む。飲んだ液体をゴクリと嚥下した後、嫌らしい歪んだ笑顔を不健康そうな顔に浮かべる。


「随分と早いおかえりじゃないか。まさか、音を上げて帰ってきた訳じゃないだろうねぇ~」


 相変わらずいちいち癇に障る軽薄な声だ……無用にこちらの神経を逆撫でる。少しイラつくも気持ちを抑え、チラリとシオンに視線を向ける。

 シオンは、俺と目を合わせるとコクンと頷き、格納していた別次元から袋に詰まった魔核を取り出し、それを持ってガーディウスの元まで移動して差し出す。


「草原エリアのゴブリンの群れを討伐して回収した魔核です。特異個体(ユニーク)の魔核は三つですが、お納め下さい」


 ガーディウスは飲んでいた物を机に置き、魔核の袋を受け取って中身をあらためる。


「フム……この大きさだとゴブリンリーダーか……群れの規模はどれぐらいだったかね?」


 手に持った魔核を弄びながら、シオンに質問するガーディウス。


「五十匹前後の群れです。他にもニ十匹前後の群れをいくつか見つけましたが、特別個体(ユニーク)は確認出来ませんでした」


「だろうねぇ~……特異個体(ユニーク)が確認出来る群れの規模は、ゴブリンの場合は大体五十匹以上であることがほとんどだ。それ以下の群れでは、ほぼ見られない」


「ゴブリンの場合? 魔物によって違うのですか?」


「違う。ゴブリンはだいたい五十匹だが、ウルフは三十匹、スライムはニ十匹前後でも特異個体(ユニーク)が確認されている。異界天球儀にデータが蓄積されているから、調べて見たまえ。君たちでも、その程度なら閲覧出来る」


 そう言って異界天球儀を指差す。やはり魔物のことになると饒舌になるな、この男は……。流石、重度の魔物好き。そんなことを考えている俺をよそに、シオンの質問は続く。


「……もしかして魔物の群れが一定数に達することによって、特異個体(ユニーク)が発生しているのですか?」


「いや、逆だ。特異個体(ユニーク)が現れ、その能力によって群れが形成される。ゴブリンリーダーでは五十匹前後の群れしか統制下にはおけないから、五十匹前後の群れにいる特異個体(ユニーク)は、大抵ゴブリンリーダーとなる」


 なるほど……これは、結構役に立つ情報だ。今のところ、順調に情報を引き出せている。何故、シオンが積極的に質問し、情報を引き出そうとしているのには理由がある。

 目の前にある異界天球儀は、情報を調べる上では便利なツールなのだが、管理者以外が扱う場合、特権がないと検索できる情報に限りがある。つまり、俺たちでは大した情報は調べられないのだ。

 フェルビナさんも訓練の一環として、旅立つ時に最低限の情報しかくれず、後は自分たちで調べるようにと言われた。だから、色々情報を仕入れようと思うとこの男に頼るか、自分たちで現地を調べるしかない。

 しかし、冒険をする上では情報は命だ。それによって命運が分かれることもある。それ故に、シオンは興味を引く話を振って、ガーディウスから出来る限り情報を引き出そうとしているのだ。


 しかし、シオン……苦手な相手に頑張っているな。嫌な相手だが、この前のように簡単に切り上げられては困る。可能な限り会いたくない男だが、だからこそこの機会に出来るだけ情報を引き出そうと、こちらに戻ってくる前にシオンと話していた。

 そして、その際に俺は前に出ないようにすることになった。俺が前に出ると、この前のように引き下がってしまう可能性があるからだ。

 あいつはシオンに興味を抱いている。だから、それを利用して情報を出来る限り引き出す。そして、俺はいつでも割って入れるよう後ろに控える、ということになった。

 二人で力を合わせて、必ずこの任務をクリアしようと約束した。俺は、シオンが引き出している情報を聞き漏らさぬよう耳を傾け、いざという時は飛び出せるようにガーディウスの動きに集中する。


「他になにか聞きたいことはあるかね?」


 シオンが魔物に興味を示しているのが嬉しいのか、ガーディウスは進んで魔物に関して話したがっている。これは、色々と情報を聞き出すチャンスだ。シオンも分かっているようで、次の質問を投げかける。


特異個体(ユニーク)がいる群れは、必ず全て殲滅しなければならないんでしょうか?」


 しかし、シオンが投げかけたのは魔物の情報というよりは、魔物を狩る必然性を問うものだった。シオン? もしかして、俺のことを考えて……。


「フム……私としては、殺すのは出来る限り避けて欲しいがねぇ~。しかし、管理上、特異個体(ユニーク)が一度群れと合流すれば、その群れは必ず全て殲滅しなければならない決まりなのだよ。主な理由は二つ」


「二つ?」


「一つは、特異個体(ユニーク)が群れの魔物と交配していた場合、必ず生まれてくるのは同じ特異個体(ユニーク)だからだ。そうなれば、より群れは拡大する。そして、特異個体(ユニーク)同士で子を成せば、更なる上位種が生まれる。そうなれば手が付けられん。それが所謂、繁殖(ブリード)暴走(スタンピード)と呼ばれる現象だ」


 それはフェルビナさんの戦闘訓練時の講義で聞いた。それ故に群れの拡大を防ぐ為には、殲滅が推奨される。しかし、交配していない魔物に関してなら見逃す余地はありそうに思える。


「二つ目は、特異個体(ユニーク)であるリーダーを殺された群れを逃した場合、その後の群れから高確率で新たな特異個体(ユニーク)が発生することが確認されている。長年、それは原因不明と思われてきたが、私の過去の研究時にその原因が解明された……なんだと思うかね?」


 ニヤリと嫌らしく顔を歪め、シオンに答えを求めるガーディウス。


「……何故でしょうか?」


 少し眉をひそめながらシオンが問い返すと、ガーディウスはさも嬉しそうに顔を歪ませ、両手を大仰に広げて叫ぶ。


「共喰いだよ! 特異個体(ユニーク)であるリーダーを失った群れは、主を失った怒りや憎しみ、はたまた襲われた恐怖! それら負の感情を増幅させ、狂ったように共喰いを始めるんだ! 主を奪った者に対する復讐のためにねぇ~! そして、最後に残った一匹が更に狂暴な特異個体(ユニーク)となるのだよ!!」


 それが二つ目の理由か……なるほど、確かにそれでは殲滅するしかない。特異個体(ユニーク)……本当に厄介な存在だな。それはともかく、ガーディウスが異常にテンションが高い。まるで演説するかのような説明は続く。


「素晴らしいと思わないかね! 逃げ遂せた場所で敗者として生きるのではなく、より強者になる為に他を喰らう! 飽くなき進化への渇望! 中には自ら糧に身を差し出す個体までいる! 惰性で生きるような人間とはまるで違う! そう思わないかねぇ~、君ィ~!!」


 そういって興奮で顔を歪め、嫌味ったらしくこっちを向く。悪かったな、惰性で生きるような元人間で。悦に入ったガーディウスの語りは止まらない。


「この特異個体(ユニーク)が特別でねぇ~……更に別の進化を遂げさせることが出来るのだよ。より強く、より狂暴な最上種にね。それを私は超異個体(ハイ・ユニーク)と名付けた!」


 超異個体(ハイ・ユニーク)? ……初めて聞く言葉だ。そんなものまでいるのか。


超異個体(ハイ・ユニーク)ですか? それはどういう……」


 シオンも知らないのか、そう訪ねた瞬間、ガーディウスの表情から笑顔が消え、ピタリと動きが止まる。なんだ? しばらく沈黙が続いた後、ガーディウスはニヤリと顔を歪め、シオンにズイッと近づく。

 シオンがビクッとなり、俺も思わず一歩踏み出しかけるが、シオンが左手で後ろ手に『待って』と制止を掛けたので踏み止まった。

 そして、ガーディウスはシオンに顔を近づけて、耳元で囁くように語り掛ける。


「興味があるなら、私の研究室に来ると良い……ただし、君一人でねぇ~……」


 そう言って一瞬チラリとこちらに視線を向ける。なっ!? 冗談じゃない! こんな変態とシオンを二人っきりに出来る訳がない!! そう思い、思わず念話でシオンに語り掛ける。


『(駄目だ、シオン! 誘いに乗るな!)』


『(でも、トウマ。超異個体(ハイ・ユニーク)なんてボクも聞いたことがない。もしかしたら、ガーディウスだけが持っている貴重な情報かも知れない。フェルビナは、ガーディウスをなにか怪しんでた。なにかを掴むチャンスかも知れないよ?)』


 確かにシオンの言っていることは一理ある。そもそも、今回の任務は少しおかしいとも思っていた。あの過保護な(本人は否定するだろうけど)アースディア様がこんな危険人物がいる異界を、シオンや俺の訓練の場所に選ぶだろうか?

 ただでさえ、俺はまだ未熟な使徒だ。そんな俺に護衛を期待するのは、無謀だ。シオンが下級神であることも含めたら、リスクが高すぎる。

 だから、もしかしたら他の意図があるのかも知れないとは思っていた。でも――


『(危険だ、リスクが高すぎる! ここはいったん引こう)』


 と、嫌な予感がして強く止める。


『(……そうだね、分かった)』


 シオンは納得してくれたのか断ることを選び、ガーディウスに返事をする。


「申し訳ありませんが、任務がありますので……」


 そう言って、後ろへとススッと逃げる。それを聞いたガーディウスは、いかにも残念そうな顔をする。


「そうか、それは残念だねぇ~……君だけに特別講義をしてあげようかと思ったんだが……」


 ガーディウスは興が削がれたのか、先ほどのテンションが嘘のように静かになり、異界天球儀へと歩いて行く。そしてなにやら操作を行った後、こちらに向き直り話し掛けてくる。


「異界天球儀の管理権限の一部を開示しておいた。これで、君達でもある程度の情報検索を行えるだろう。精々、任務とやらを頑張りたまえ」


 そう言ってこちらに背を向け、プラプラと右手を振りながら奥の部屋へと消えていった。俺はしばらく部屋を注視していたが、気配が感じられなくなったので警戒を解いてシオンに近寄る。


「相変わらず疲れる男だな……せっかく異界から戻ってきたのに、より疲れた」


 シオンも同意するように答える。


「ホントだね……」


 フゥ~……と二人して溜息を付く。しかし、その甲斐はあった。群れの性質や特異個体(ユニーク)に関すること、後は異界天球儀の情報開示。成果としては上々だろう。

 そして、最後に語った超異個体(ハイ・ユニーク)のこと……詳細を知ることは出来なかったが、気になる情報だ。シオンもそれが気になっているのか、ポツリと本音を漏らす。


超異個体(ハイ・ユニーク)か……ちょっと勿体ないことをしちゃったかな?」


「確かにな……でも、あんな奴と二人っきりになるなんて、絶対に許容は出来ない。断って正解だよ」


「それはそうだけど……」


 まだ少し未練があるのか、シオンはガーディウスが消えた部屋へと視線を向ける。


「あれほど怖がっていたくせに、随分と積極的だな」


 少しからかい気味に指摘すると、シオンは頬を膨らませて怒る。


「ムゥ~……ボクだっていつまでも怯えてばっかじゃないよ!」


 拗ねて反論するシオン。それを見て軽く笑い、謝罪する。


「悪かったよ。俺のために頑張ってくれたんだよな?」


 俺の言葉を聞き、少し恥ずかしそうに頬を赤くし、プイッとそっぽを向くシオン。

 シオンは、ゴブリンを一方的に殲滅することに俺が引っ掛かりを感じていたのを気にしてくれていたんだろう。だから、あんな質問をした……俺の心のつっかえを取り除く為に。


「ありがとうな、シオン」


 そうお礼を言って、シオンの頭を撫でた。シオンは少しくすぐったそうだったが、嬉しそうに顔をほころばせる。


「さて、目的は大体果たせたんだし切り替えよう。まずは、異界天球儀で色々情報を検索してみるか。情報開示されたみたいだしな」


「そうだね。これで、少しは任務がはかどるね」


「ああ」


 シオンと俺は、異界天球儀を操作して情報収集を始める。ガーディウスの言った通り、検索できる情報の範囲が広がっており、エリア内の魔物の位置情報と種類の検索が出来るようになっていた。

 他にも、今までの魔物の分布記録や個体数、確認されている特異個体(ユニーク)の種類データ等の情報閲覧も可能となっていた。


「思った以上に、色々調べられるようになっているな」


「そうだね……でも、やっぱり超異個体(ハイ・ユニーク)に関する情報は見当たらないや」


 そう言って、異界天球儀を色々操作して、情報を探っているシオン。


「そうか……一度、戻ってアースディア様たちに聞いてみるか?」


 俺たちに聞き覚えがないだけで、アースディア様たちは知っている可能性もある。そうじゃ無かったとしても、未確認情報なら報告する意義はある。


「うう~ん……まだ任務を開始してから三日しか経ってないから、ちょっと早過ぎない? 出来ればちゃんと任務をこなして、しっかり成果を上げてから報告に行きたいんだけど……」


「あ~……まあ、そう言われればそうだな」


 今回の任務は、戦闘訓練の総仕上げ。つまりは、異世界の任務を開始出来るかの試験に等しい。だからこそ、戦闘においても力のみでねじ伏せる方法は避け、連携を重視したスタイルで色々な経験を積むことを優先している。

 そういう意気込みで、シオンも俺も任務に挑戦している為、たった三日でアースディア様たちに会いに行くのは、少し抵抗があるのも分かる……。


「トウマ……」


 シオンに見つめられてしまい、強くは否定出来なくなってしまう。


「そうだな、しっかり任務をこなせた姿を見せる為にも、もう少し頑張るか!」


「うん!」


 この判断が、のちに俺たちに大きな困難をもたらす結果になるとは、シオンも俺も知る由がなかった。



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