第一章8 『神様と異界の管理者』
管理区域へと向かう通路に入り、一分ほど進んだだろうか、目の前に大きな門が見えてきた。
「あれが今回の異界の管理区域の門です。先に言っておきますが、制裁を受けていたとしても相手は上級神です。そして、あなた達はまだ駆け出しの下級神と使徒。ふるまいには注意して下さい。良いですね?」
「大丈夫だよ!」
「はい!」
俺たちの返事を聞いて軽く頷き、フェルビナさんが門の前に進み出る。そして、扉を見上げて声を上げた。
「アースディア様付き、筆頭守護者のフェルビナです。事前に通達していた通り、調整討伐の任を受けた下級神と使徒を案内してきました。速やかにゲートをお開き下さい!」
フェルビナさんの宣言が、通路に響いた数秒後、返答が返ってくる。
<入りたまえ>
それは、男の声だが少し高い独特な声だった。その声がこちらに聞こえた数秒後、重苦しい音と共に扉が内側に開いた。
「行きましょう」
フェルビナさんが、こちらに声を掛けて前に進んで行く。俺はシオンと並んで歩き、前を行くフェルビナさんに着いて行き、門をくぐった。
門の先に広がっていたのは、かなり広めの円形の空間で、まず目に入ったのは部屋の中心にある円形の台座。その上には青い球体が浮いていた。見上げるほどに大きい球体で、ゆっくりと回転していて、どこか地球儀を思わせる。
その他には、円形の部屋の壁に沿うように机がズラリと並んでおり、その上には、試験管やらビーカーなどの実験器具らしき道具や、資料等の紙や本などが所狭しと散らばっている。パッと見は正直、怪しげな実験を行っている実験室にしか見えない場所だった。
しかし、さっきから部屋を見渡しているが、肝心のガーディウス様とやらが見当たらない。返事はあったのでいるはずだが、姿が見えなかった。
フェルビナさんが姿を探して部屋を見渡しており、ふと視線が部屋の左側に行ったところで止まる。
こちらもその方向を向くと、別の部屋に繋がる扉が見えた。扉は空いており、部屋の暗がりから人影らしきものが近づいてくるのが見えた。
「クックック……久しぶりですねぇ~、フェルビナ」
そう言い、人影は部屋から出てきて姿を現す。そこに現れたのは、見た目は四十過ぎぐらいのヒョロリとした中年の男だった。
黒いスーツのような服にロングの白衣を羽織り、身長は俺と同じぐらいの長身。髪は黒の短髪だが所々に白のメッシュが入っている。余り整っておらず寝起き直後のようにグシャグシャッとしている。
肌の色は血色が悪いのか色白で目元には隈があり、明らかに不健康な様相だった。だが、目だけは鋭くこちらを観察するようにギラついている。
「お久しぶりです、ガーディウス様」
そう言って、出て来た男に礼をするフェルビナさん。あれが、ガーディウス様か。その男はこちらに近づいてきて、フェルビナさんに話し掛ける。
「まさか、もう一度その美しい姿を拝見出来るとはねぇ~。もう二度とお目に掛かることは無いと思っていたよ。なにせ、私は君に嫌われているからねぇ~」
妙な喋り方だ。おまけに嫌味ったらしい感じが滲み出ている。明らかにフェルビナさんを挑発しているように聞こえる。
「良くお分かりですね。私としても、二度と貴方様にはお目に掛かりたくありませんでした」
しかし、フェルビナさんも負けてはおらず、相手の嫌味もどこ吹く風という感じで返答する。
凄いな……嫌っているという気持ちを隠そうともしていない。しかし、上級神を相手にフェルビナさんのこの遠慮のない態度……もしかして、フェルビナさんって使徒でもかなりの権限を持っているんだろうか?
「ククク……相変わらず可愛げのない反応だ。私としては、君には本当にすまないと思っているのだよ? 私の可愛い子どもたちの後始末を任せてしまったからねぇ~。だから、お詫びとしてこんなくだらない役割にも素直に従っているじゃないか」
「そうだとしても、貴方様が行ったことを私は一生許すつもりはありませんので」
キッパリと、謝罪を受け入れるつもりはないと告げるフェルビナさん。明確な拒絶だ。本当に心底嫌っているんだな。
しかし、ガーディウス様は特に気にした様子もなく、やれやれと肩をすくめる仕草をするだけだった。そして、これ以上の問答は無駄と思ったのか、視線をこちらに向けてくる。
「この二人が、例の下級神と使徒かね?」
「そうです。二人共、ご挨拶を」
フェルビナさんに促されて、シオンがスッと前に出て礼をする。
「お初にお目に掛かります。下級神のシオンと申します。そして、こちらは私の使徒トウマです」
シオンに紹介されたので、こちらも真似て挨拶を行う。
「初めまして、トウマと申します」
そう言って、頭を下げる。因みに苗字を名乗るのは使徒に生まれ変わった際に止めることにした。やはり、苗字は人間だった時のことを思い出させるので、区切りを付ける為に名乗らないことに決めたのだ。
俺たち二人の挨拶を受けるが、ガーディウス様はそんなことはお構いなしに、ジロジロと無遠慮にこちらを観察するように見てくる。そして、シオンに興味が湧いたのか、そちらに話し掛けた。
「ククク……そうか、君があのシオンか……噂は聞いているよ。アースディアの秘蔵っ子……随分と他の下級神より可愛がられているそうじゃないか……何故だろうねぇ~」
そう言いながら、シオンにズイッと近寄り、舐めるようにシオンを観察する。シオンはその態度に少しビクッとするが、我慢する。フェルビナさんに事前に振舞いには注意するよう言われていたからだ。
しかし、ガーディウス様の遠慮のない観察は続く。
「フムフムフム……美しい現身だが、容姿が随分幼い……まだまだ精神的には未熟なようだねぇ~……しかし、内に秘めるマナは中々のものだ。流石、アースディアに贔屓されることはある。髪もサラサラで美しいねぇ~」
そう言って、シオンの髪に触る。おいおい、その辺にしとけよ。それ以上シオンに触ると、流石に上級神だろうと許さんぞ……そんな怒りが沸々と湧いて来る。
しかし、ガーディウス(こんな奴に様付けするのは止めよう)の遠慮のない観察行為は続く。
「しかし、見た感じは中性的だが、どこか不安定だねぇ~。まるで性別が定まっていないかのようだ……」
それを聞いて、シオンがピクリと反応する。その反応を見て、ガーディウスはニヤリと顔を歪め、シオンに近づき――
「確かめさせてくれるかね?」
そう言って少し屈み、シオンの股に右手を伸ばそうとする。その瞬間、頭がカッとなって身体が勝手に動き、股に伸ばそうとしたガーディウスの右手を左手で強く掴み、腕を少し捻りながら屈んでいたガーディウスを強引に引き上げる。
「グッ!?」
ガーディウスは顔を歪め、苦痛の声を漏らす。掴んだ手にかなり力が籠っていたせいか、俺の指はガーディウスの腕に強く喰い込んでいた。
「その辺にして貰えますか?」
そう言って、すぐ目の前にいるガーディウスを睨む。ガーディウスは、顔を少し苦痛に歪めていたが、その顔はすぐさま冷めた表情になり、ギラついた眼で睨み返してくる。
「随分と躾のなっていない使徒のようだねぇ~。上級神に対して、このような態度を取るとは……」
先ほどの軽薄な声のトーンがグッと下がった。そして、ガーディウスの身体から、かなりのプレッシャーが放出される。纏っているマナの出力を上げたのだ。その証拠に、感知で見ると身体を覆う灰色のマナ(嫌な色だ)が膨れ上がっていた。
しかし、こちらはそんなものに怯むつもりはない。伊達に四ヶ月、シオンやフェルビナさんにしごかれていた訳じゃない。こちらも身体を覆うオドの出力を上げ、相手のマナの圧力に対抗しつつ言い返す。
「申し訳ありませんが、それほど生まれが良い訳ではありませんので。それに、俺の主はそこに入るシオンです。貴方に仕えている訳じゃない」
「ククク……生意気によく吠えるねぇ~……制裁によって力は抑えられているとはいえ、下級神の使徒如きが、私と対等に渡り合えると思っているのかねぇ~」
そう言うと、ガーディウスの発するプレシャーが更に跳ね上がる。腐っても上級神。明らかにこちらより強い力を発し、少し気圧される。しかし、そんな気持ちを顔には出さず冷静に告げる。
「なにか勘違いしていませんか? 俺は貴方の為に止めているんです」
「なに?」
俺の言った言葉の意図が分からず聞き返して来たので、俺はチラリと右に視線を向ける。
ガーディウスもそれにつられてそちらに視線を向けると、そこには凄まじい殺気を放つフェルビナさんが、いつのまに出したのか愛用の巨大戦斧を片手に構えた状態で立っており、凍り付くような鋭い視線をガーディウスに向けていた。
「おふざけはそれぐらいにしていただけますか? ガーディウス様」
フェルビナさんは、冷たくそう告げる。ガーディウスはその言葉を聞き、高めていたマナを抑えた。
「やれやれ、相も変わらず恐ろしい使徒だ……ちょっとした冗談だというのにねぇ~」
先ほどの怒りは何処に行ったのか、飄々とした態度でフェルビナさんに左手を竦めて応える。
その態度を見て、俺は掴んでいた手を離す。ガーディウスは、俺が掴んだ箇所を軽く擦りながら、薄ら笑いを浮かべてシオンに言う。
「すまなかったねぇ~。気になることは直接確かめねば気が済まない性分なんだ。だから、教えて貰えないかねぇ~」
シオンは、少し怯みながらも答える。
「貴方のご指摘通りです」
それを聞いて、ガーディウスは嬉しそうに笑う。
「そうかそうか! ハハハハハッ、これは本当に面白いケースだ! ますます興味が湧いたねぇ~!!」
そう言って仰け反りながら笑い、右手で顔を覆って嬉しそうな顔で指の隙間からシオンを見つめる。
流石にシオンも気味が悪くなったのか、俺の右手をキュッと掴んで隠れるように俺の後ろに移動する。そして、俺もシオンを庇うようにガーディウスの対面に立って睨みつける。
「ククク……安心したまえ。もう、なにもせんよ。……それより本題に入ろうじゃないか。君たちは、私が管理する異界に用があってきたのだろう?」
そう言って、部屋の中心にある球体に近づき手をかざす。すると、青い球体がほんのり光、表面に大陸のような陸地が浮かび上がる。どうやら本当に地球儀のようなものらしい。
そして、両手でその大陸に触れ、左右に広げるようにスワイプする。すると、大陸が拡大表示された。
「さて、君たちの任務は魔物の調整討伐だったねぇ~。では、見たまえ」
そう言って球体に表示されている大陸に右手をかざすと、各地が区分けされ色付けされる。
「この異界の大陸は、中央と東西南北の五つのエリアに分かれている。そして、それぞれのエリアは環境毎で分かれており、その環境に適した魔物が放され、それぞれ生息している状態だ。中央が草原エリア、東が海洋エリア、南が砂漠エリア、西が森林エリア、そして北が山岳エリアになっている。今回、君たちにやって貰う仕事は、各エリアに生息する魔物の中から特異個体がいる群れを探し出して討伐し、繁殖暴走の兆候を未然に防ぐことだ」
先ほどのふざけた対応はなんだったのかと思わせるほど、真面目な説明がなされる。なんだろうな……嫌な感じだ。完全に相手のペースになっている。フェルビナさんが用心するようにと言った意味がなんとなく分かった気がする。
シオンも同じように感じているのか俺の背後に隠れるのを止め、意を決して前に進み出てガーディウスに質問をする。
「異界に入るに際し、禁止事項等はありますか?」
シオンの質問に、ガーディウスは薄く笑みを浮かべた後、真面目に答える。
「ある。まずはこの異界に存在しない物質の創造は禁止だ。どんな物が環境に影響を及ぼすか分からないからねぇ~。持ち込む場合に限り、事前に申請し私の許可が取れれば持ち込んで構わない。ただし、必ず持ち帰ることが条件だ」
なるほど……ということは、武器等の装備品や道具に関しても、許可を取らなければ持ち込みは出来ないということか。
「次に、この異界で手に入れたものは全て管理者の私に提出して貰う。自らの物にして自身の領域に持ち帰るのは厳禁だ。因みに、食物に関しては食べる分には問題はない」
取得物は全て提出か……以外に厳しいな。
「最後は、魔物の勢力圏をむやみに荒らさないことだ。特異個体がいる群れは別だが、彼らは大事な研究対象だ。任務以外の無用な殺生も避けてくれたまえ。それと、エリア内での滞在時間だ。あまり長期にわたって一つのエリアに滞在されると、君たちの存在によって魔物の勢力図に影響が出過ぎる可能性がある。少なくとも一週間毎にエリアは移動すること。以上だ。問題はあるかね?」
シオンは少し考え、疑問点が浮かんだのか、質問する。
「……創造は禁止とのことですが、他の特殊能力に関して制限はありますか?」
「原則を守った上なら、他の能力に制限はない。好きに使いたまえ。他には?」
「……いえ、大丈夫です」
シオンは、問題ないと判断したのか質問を終える。
「さて、では説明はこれで十分だろう。後は好きにやりたまえ」
そう言って踵を返して、出て来た部屋の方向に歩き始める。っておいおい、終わりか? これからどうやって異界に移動するのか、どんな魔物がいるのか色々あるだろう!
シオンも俺と同様の思いなのか、二人して狼狽えてしまう。すると、フェルビナさんが助け舟を出してくれる。
「ガーディウス様、ちゃんと管理者としての仕事をしていただけますか? 二人は、異界天球儀の使い方も分からないのですよ」
ガーディウスは立ち止まり、首だけをグルリとこちらに回して答える。
「君が教えてやりたまえ。その方が、君も手間が省けて都合が良かろう。どうせ、私が異界に対して妙な細工をしていないか調べるつもりなのだろう? 私は信用されていないようだからねぇ~」
そう言って嫌らしく笑う。フェルビナさんは図星を突かれたのか少し眉をひそめるが、すぐに気を取り直して返答する。
「そうですか、では好きにさせていただきます。では、先ほど説明にあった禁止事項における持ち込む物の申請も、こちらで可否を判断して構いませんね?」
「好きにしたまえ」
そう言ってガーディウスは向かっていた部屋への歩みを再開する。そして、部屋のドアの前に差し掛かった際に立ち止まり、なにかを思い出したかのように声を掛けてくる。
「ああ、魔物の魔核は必ず回収して提出してくれたまえ。特に特異個体の物は、貴重な研究材料だ。忘れずに回収するよう頼むよ」
そう言って部屋の中へと入り、ドアを閉めた。数秒後、ガーディウスの気配が扉の近くから感じられなくなった後、俺とシオンは二人してフゥ~……と息を吐き出す。
「二人共、お疲れさまでした」
そんな俺たちを見て心労を察したのか、フェルビナさんが少し苦笑しながら労いの言葉を掛けてくれる。
本当に疲れた……まさかあそこまで癖のある男だとは思いもしなかった。そんなことを考えていると、シオンがこちらに抱きついてくる。
「ウゥ~……トウマ~……怖かったよ~」
「よしよし、もう大丈夫だ」
そう言って抱き止めたシオンの頭を優しく撫でてやる。まさかあんなセクハラ行為をされるとは思ってもみなかったので怖かったのだろう。
しかし、見ただけでよくシオンの性別が定まっていないと分かったな。シオンの物の組成を見抜くような、特殊能力でも持っているんだろうか。
アースディア様にも感じていたことだが、改めて上級神の底の知れなさを思い知らされた感じだ。実際、フェルビナさんがいなければどうしようもない力の差を見せつけられた。
あれで制裁を受けて力を制限されているのだから恐ろしい……シオンの頭を撫でながらそんなことを考えていると、フェルビナさんが話し掛けてくる。
「トウマ様、先ほどはいち早く行動して下さって、ありがとうございました」
「いえ、カッとなって身体が勝手に動いただけですから……正直、あの後どうするかなんて考えていなかったので、フェルビナさんがいてくれて助かりました」
「そんなことはありません。シオンの使徒として、立派な立ち振る舞いでしたよ」
「そうだよ。トウマ、すごくかっこ良かったよ!」
「そうか? ありがとう」
二人に褒められ少し照れながら、答えると――
「本当にトウマ様が動いてくれて助かりました。後ほんの少し遅ければ、全力で戦斧をあの男に叩きつけているところでしたから……」
と、フェルビナさんが続けた。
「え?」
タラリと冷や汗が流れる。
「確かに危なかったね……あんなに怒ったフェルビナ初めて見たよ。あと一秒遅かったら、多分、ここを中心に部屋が半壊してたと思う」
あ、あっぶね~……グッジョブだ、俺! どうやらシオンのセクハラ危機だけではなく、俺たちの身の危機でもあったらしい……フェルビナさんの全力の一撃を至近距離で浴びるなんて、シャレにならん。
脳裏に地獄の回避訓練の恐怖がよみがえって、背筋がブルッと震える。
「と、とにかく、これでようやく任務を開始出来ますね! 早速ですが、この異界天球儀に関して説明をしましょう!」
少しバツが悪かったのか、ごまかすようにフェルビナさんが口早に説明を開始する。俺とシオンは、顔を見合わせて軽く笑い、フェルビナさんの説明に耳を傾けた。
異界天球儀とは世界を創造した後、その世界を管理する為の神器で、異界に存在する生命体の把握と監視、気象観測や制御等も行える物だそうだ。他にも、任意の場所に対する転移機能も備えていた。
異世界でも同様の物を用いて管理しており、今後も各世界の神の管理下の元、何度も使うことになると思うので、機能を把握しておいたほうが良いと教えられた。
特にシオンは中級神になれば与えられ、自身の領域での使用が許されるらしいので、今から使い方に慣れておきなさいと色々教えられていた。
説明が終わった後、フェルビナさんは異界天球儀を操作しながら、魔物の分布や種類、異界の概念構成に手が加えられていないか念入りに色々調べていたが、特に異常は見つからなかった。
それでもフェルビナさんは、決して油断しないようにと俺たちに警告した。フェルビナさんの言う通り、実際にガーディウスに相対し、決して油断できない相手だということは良く分かったので、二人して頷く。
その後、装備のチェックや持って行く物の確認を行う。服装は、正装のままでも防御力は十分だそうで、『防御結界』も使えば問題ないだろうということになった。
武器に関しては、俺はフェルビナさんから譲り受けた弓に組み替えることが出来る双剣、シオンはフェルビナさんのおさがりの斧槍(因みに俺は腰に装備、シオンは空間操作により別次元に格納)を装備している。
後は寝泊まりする為のテント用品や調理器具一式、食料等を揃え、色々と細かいアドバイスも貰って、いよいよ異界へと転移する時が来た。
「では、二人共、始めますね」
「うん!」
「よろしくお願いします」
「転移する場所は、平原エリアです。主な魔物はゴブリンやスライム、ウルフ等になります。見たところ、ゴブリンの群れがこの付近にいくつか見られますから、まずはそこを調査して特異個体が確認出来れば叩くのがいいでしょう」
そう言って、異界天球儀に映し出された平原エリアの地図を指差して説明してくれる。
「了解~♪」
シオンは、いよいよとなると逸る気持ちが抑えられないのか、返事をする声が弾み始めていた。それを見て不安になったのか、フェルビナさんが俺に声を掛けてくる。
「トウマ様。シオンのこと、くれぐれもよろしくお願いしますね」
「はい、シオンの使徒として必ず守ります」
「もう~……フェルビナは心配し過ぎ!」
それを見て、シオンが抗議の声を上げるが――
「本当に! お願いしますね!」
と俺の両手を握り、念を入れてお願いをするフェルビナさん。シオンはそれを見てブゥ~……と膨れていたが、俺は苦笑しつつ、しっかりと頷いた。
こうして俺たちは、フェルビナさんに見送られて、異界へと旅立ったのだった。




