幕間2 『神様とオド』
シオンの使徒となる契約をアースディア様に正式に受理された後、書斎に招かれ、今は色々と詳しい説明を受けている。
「オドに関してじゃが、どこまで説明を受けておる?」
「あまり詳しくは……神を構成するエネルギーを自分の使徒に与える為に変換した物だとか、契約神によって様々な恩恵が得られるぐらいしか……細かく聞くと長くなるから、と」
「随分とザックリ説明したもんじゃの。まあ、間違っておるわけではない……先ほど、そなたが言った神を構成するエネルギーとはマナのことじゃ。それを使徒に与える為に変換した物がオドじゃな。因みに人間も、純度が異なるが多少はオドを備えとる」
「そうなんですか?」
「うむ、人間も元はといえばマナから生み出された生物じゃ。その際に、オドを体内に宿しておる。時たま、特殊な力を持つ者などがいたりするじゃろう。それは、生まれつき強いオドを持って生まれた為なのじゃよ」
なるほど……使徒特有のエネルギーという訳じゃないんだな。
「話を戻すぞ。オドは使徒にとっては、存在を維持する為に必要な根本的エネルギー源……そなたに分かりやすい地球の知識で言うと、HPじゃな」
HP……なるほど、まさにそうだな。HPのように尽きれば終わり、か。急にRPGっぽくなってきたが、ゲーム会社社員としては分かりやすくて助かる……ということは、使徒にとって契約神は、HP回復を常に自動で掛けてくれる存在ってとこか……。
「じゃが、忘れてはならんのが、オドはMPの役割も果たすということじゃ」
「へ? MPもですか?」
HPかと思ったらMPも兼ねている? どういうことだろうか……疑問が色々浮かぶが、説明は続いているようなので、今はアースディア様の説明に集中する。
「今までワシやシオンが様々な能力を使って見せたと思うが、それらは全てマナを用いた物じゃ。じゃが、使徒にもワシらほどではないが特殊能力が使用出来る。そして、その際に使用するのがオドなのじゃ」
「特殊能力……」
そう言えばシオンが、様々な恩恵を得られる、みたいな話をしていたな……。
「まあ、どんな能力を使えるかは、契約神に左右されるので後にシオンに教えて貰えばよい」
「はい」
残念……ここでも詳しい話は後回しか。どんな能力が使えるようになるのか、興味深々なんだが……まあ、使徒に生まれ変わった後に、シオンに教えて貰おう。
「話を戻すぞ。契約書にも記載しておるが、オドは余分に渡すことも可能というのは、理解しておるな?」
「ええ、シオンから聞いています。だから、契約が切れてもすぐに消えることはない、と」
「そうじゃが、それはあくまで存在維持にのみオドを割いた場合じゃ。契約が切れた状態で能力を使えば、あっという間に消費して消えることもある。故に使徒はオドをストックすることが出来る。それがMPじゃな」
なるほど、段々理解出来てきた。だから、MPも兼ねているってことか。
「つまりHPとして最低限のオドを確保しつつ、能力を使用する際はストックしたMPを使う、というように運用管理しなければならない、ということですね」
「そうじゃ、流石にこういう説明だと飲み込みが早いの」
まあ、HPやMP管理ってMMORPGとかじゃ必須だからな……。アースディア様がゲーム知識を持っているから、話が通じやすくて助かる。となると気になってくることがある。
「……ストック出来るMPに上限はあるんですか?」
「もちろんじゃ、許容量を超えるオドをストックすることは出来ん。本人の成長次第で容量を増やすことは可能じゃが、最初は精々、一ヶ月分が限界じゃろう」
だから、契約書も一ヶ月分だったという訳か。まあ、成長次第で容量を増やすことが可能なら、MPを無駄遣いせずに貯め込めば、それ以上の期間、契約神がいなくても存在を維持することは可能な訳だ。
「それともう一つ注意点がある。オドの供給量に関してじゃ」
「オドの供給量?」
「うむ、契約後オドは常に契約神から供給されるようになるが、その供給量は基本、存在維持に消費する量より少し多い程度。つまり、調子に乗って能力を過剰使用すれば、HPを削ることになるから注意することじゃ。特に使徒に生まれ変わったばかりの時は、HP分しかオドを持っておらんからの」
確かに注意が必要だな。存在維持に必要な量より、少し高い程度しか供給されないんじゃ、乱用もするべきじゃない。まあ、能力にどれだけの効果があって、どれだけオドを消費するか次第な部分もあるけど。
「因みに、供給量を増やすことは出来るんですか?」
「それなんじゃが、供給量に関しては契約神次第での。基本といった意味はそこにある。ワシが言ったのは契約上最低限の量で、それ以上与えるか否かは契約神が決めるのじゃ」
「つまり、契約神次第で供給量は調整可能、ということですか?」
「うむ、そこら辺はシオンとの相談次第じゃろう。使徒に能力を多用させる場合は、供給量を上げたほうが効率的じゃが、逆に契約神主体で能力を使うのが多い場合は、供給量を下げたほうが良い」
これはシオンと、ちゃんと相談しないとならない部分だな。覚えておこう。
「それと、これはワシからの個人的な頼みとなるんじゃが……」
「個人的な頼み?」
突如話のトーンが変わる。はて、改まって頼みとはなんなんだろう? アースディア様は、少し心配そうな顔をして頼みごとの内容を説明する。
「あやつのことじゃから、そなたに対するオドの供給量を自身に供給するマナの量より優先させる可能性がある。その辺りを注意しておいて欲しいのじゃ。神も使徒と同様に存在維持にマナを使用し、能力を使う際も消費する。要するにオドがマナに置き換わっただけで、使徒と条件はあまり変わらんのじゃ」
「では、マナを使用し過ぎれば神も消滅する?」
「消滅はせんが、現身を失って核のみの休眠状態となる。よって、時間は掛かるが復元は可能じゃ。ただし、一度その状態からの復元となると、今までの記憶を失うなどの後遺症は避けられん。まあ使徒に比べれば容量の桁が違うから、滅多なことではそんな事態にはならんじゃろうがな」
なるほど……不滅といっても、リスクはあるのか。話を頭の中で纏めながら、アースディア様の説明に耳を傾ける。
「下級神はまだそれほど器が大きいという訳でもないし、マナを吸収する量もまだ少ないのでな。そなたに会ったばかりじゃというのに、あの子のそなたへの依存度は高い……そなたにもしものことがあれば、自分の存在維持を放り出して、そなたを優先する可能性がある」
「それは……無い、とは言えませんね」
あの姿を見れば否定は出来ない。まだ使徒になる前なのに、俺のことを自分の半身のように想ってくれている。それ自体は嬉しいのだが、あの依存は少し度を超えている気がする。
「あそこまで俺に固執する理由があるんですよね?」
「うむ……それが最後に話しておこうと思っていたことなのじゃが、もう聞きたいことはないかの?」
「……ええ、とりあえずは大丈夫です」
少し考えるが、最低限の説明はして貰えたと思うので、大丈夫だと答える。
「うむ。では、シオンのことについて話しておこうかの……」
そうして、少し重苦しい雰囲気の中、アースディア様はシオンのことを話してくれた。シオンの性別が定まっていない理由……そして、シオンが神として大事な部分が欠けてしまっていることを……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「ち、ちょっと待ってよ!」
フェルビナに目の腫れ具合を見て貰っていた時、急にアースディア様がボクの制止も聞かずに、トウマをどこかに連れて行ってしまった。トウマは一緒にいると約束してくれたけど、再び、心の中は不安で満たされてしまう。
急いでトウマにあげた自身のオドの気配を追う。しかし、かなり遠くまで感知範囲を広げても、感じ取れなかった。おそらく、アースディア様の領域内に飛んだとすぐに察する。
神の領域は不可侵。その中に入られてしまっては、ボクの力では感知するのは難しい。感知を諦め、フェルビナにトウマ達がどこへ飛んだか聞くしかない。
「フェルビナ! トウマ達は何処へ飛んだの!」
「……おそらく、アースディア様の書斎でしょう。個人的にお話したい、と仰っておられましたから」
フェルビナは少し思案していたが、すぐにボクが知りたいことを教えてくれた。
「分かった!」
それを聞いて、すぐさま謁見の座から飛び出す。
「あっ! こら、待ちなさい!」
フェルビナの制止する声は聞こえていたけれど、止まるつもりは毛頭なかった。トウマと離れたくない! 一緒にいたい! そんな想いが身体を突き動かす。どうしてこんな気持ちになるんだろう? どうしてこんなに不安になるんだろう? 理由は、自分でもよく分からなかった。
思えば、初めてトウマの魂を見た時から、ボクの心はどこかおかしかった。
トウマの魂を見たのは、一ヶ月前。アースディア様の謁見の座で使徒に関する相談をしていた時に見せて貰った。ボクの使徒選びは正直、難航していた。様々な魂を見せて貰ったが、なぜかピンとこなかったのだ。
そもそもボクは使徒を求めてなどいなかった。何故なら大抵のことは自分で出来たし、地球の文化に関してだって勉強すればいいだけだと思っていた。正直、わざわざ自分より劣る存在をそばに置く必要性を感じていなかった。
そんな意識だったせいか、どんな優秀な魂を見ても自分の使徒にしたいと思える存在はいなかった。
そんな時だ。アースディア様が劣化してしまっている魂も見てみるかと提案してきたのは。正直、なんでそんなものを見せるのか分からなかったが、魂が劣化した状態は見たことがなかったので、選ぶつもりはなかったが見せて貰った。
確かにそこに有ったのは劣化してしまった魂たちだった。光は弱々しく、色もどこかくすんでしまって力強さが失われてしまった魂たち……その中で、トウマの魂を見つけたのだ。
その魂も、見るからに劣化していると分かった。魂からは力強さが失われ、輝きも弱く、色もくすんで見えた。正直、今までに候補として見せて貰った魂とは比べるべくもなく、みすぼらしかったように思う。
でも、一目見た瞬間、目が離せなくなった。魂の色はくすんでいたが、中心付近の色はとても綺麗な緑色をしており、とても優しい光が漏れ出ていた。
その色と光に目を奪われていると、フッと頭の中にある風景が浮かんだ。暖かい太陽の光に照らされる、緑で覆い尽くされたような草原とそこに吹く優しい風……そんな草原の真ん中に一人の少年がポツンと立っていた。その少年は草原の中に立ち尽くし、地平線に手を伸ばしながら、その手の先に広がる世界を見つめていた。
とても遠くを見つめていた。その姿はとても孤独に見えたけど、今にも走り出しそうな、どこかに飛び立ってしまいそうな……遠くへ行きたい、という想いが溢れ出ていた。
そして、覚悟も感じた……走り出し、地平線の遥か先にある遠い場所に行く。例え、戻って来れなくなっても、その辿り着いた先で一人きりになってしまったとしても、必ず行く……そんな覚悟を。
そんな姿を目にした瞬間、この魂のそばにいたい、守りたい、一緒に行きたいという想いが心の中を満たし……気付いたら、ボクの頬を一滴の涙が伝っていた。
訳が分からなかった……なんで泣いてしまったのか、こうも魅入られてしまったのか……でも、不思議と確信していた。使徒にするならこの魂しかないと。
それからは大変だった。すぐにアースディア様にこの魂を使徒にしたいと伝え、急いで自分の領域を作り直し、彼の魂が気に入るように改修した。あの緑溢れる草原の世界に。
諸々の準備が終わった後、アースディア様にその魂の元へ通じるゲートを作って貰い、そして……トウマと出会った。
気付いたら、アースディア様の領域に繋がる門の前に立っていた。あれこれ考えながら走っていたらいつの間にか着いてしまったようだ。
自分のことながら、トウマのことになると自分を制御出来ていない……本当にどうかしてしまっている。トウマに出会ってからというもの、調子が狂いっぱなしだ。
意を決して、アースディア様の領域門に呼びかける。
「アースディア様! いるんでしょ! 今すぐ中に入れて!!」
しかし、少し待つが反応がない。どうやら外からの接触を遮断しているみたいだ。なんでそんな真似を? そういえば、謁見の座にトウマと行った際も、門番以外の者たちの姿が見当たらなかった。本来なら、何人か他の神を途中で見かけてもおかしくないはずだ。なのに、一人も見かけなかった……。
理由を考え、ふとトウマが地球の人間だったことに思い当たる。もしかしたら、変に中級神達に接触させたくないのかもしれない。
トウマは地球の文化に多少なりとも触れて生きてきた人間だ。興味を抱かれて、変に接触して来ても面倒だ。でも、ボクまで締め出す理由が分からない。
段々イライラしてきて、強引に領域干渉(違反行為)してやろうかと物騒なことを考えていると、後方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「シオン! 神殿内を猛スピードで走るなんて、はしたないですよ!」
案の定、フェルビナだった。相変わらず、この手の礼儀作法には口うるさい。でも、丁度いい。フェルビナはアースディア様直属の使徒だ。いくらなんでも、フェルビナの干渉まで遮断しているとは考えにくい。フェルビナに繋いで貰おう。
門に背を向け、左手を後方に隠してフェルビナに向き直る。そして、フェルビナがこちらの前に優雅に羽を舞わせて降り立つや否や(自分だって神殿内を飛んでるじゃん、と言うツッコミは飲み込んだ)フェルビナに詰め寄る。
「フェルビナ! 今すぐ、アースディア様に繋いで!」
フェルビナは門にチラリと目を向けた後、ボクのほうに視線を戻して答える。
「……駄目です。おそらく今、トウマ様と大事なお話をされていらっしゃいます。お邪魔をしてはいけません。終わるまでお待ちなさい」
しかし、案の定だが許してはくれなかった。想定通りの返答だ。
「なんで、ボクまで締め出すのさ! トウマはボクの使徒なんだよ!」
諦めずに食い下がるが――
「それはそうですが、私以外の干渉を遮断しておられるからには重要なお話なのでしょう。邪魔をすることは、アースディア様の使徒として許可出来ません」
と、素気無く却下される……相変わらず、お堅い。こうなると中々こちらの意見は通してくれない。
フェルビナは、アースディア様の一番古い忠実な使徒で、普段は優しいし、ボクのことも可愛がってくれるが、アースディア様のことになると途端に融通が利かなくなる。
「どうしても、ダメ?」
少しおねだり気味に言ってみるが――
「駄目です。だから、さっきからコソコソと裏で領域干渉の術式を編むのはお止めなさい」
と、速攻で拒否される。おまけに後ろ手で領域に干渉しようとしていることも見透かされてしまった。
「チッ!」
思わず舌打ちしてしまう。まあ、これはフェイクなんだけど。そんなボクを見て、フェルビナも流石に呆れて注意してくる。
「全く……トウマ様のことになると、自制が利かなさ過ぎですよ。他の神の領域に対する無断干渉は、違反行為だと分かっているでしょう?」
フェルビナの言葉に心の中で掛かった! とほくそ笑む。規律に厳しくて口うるさいフェルビナの前でそういう行為を行おうとしたら、絶対にお説教すると思ったのだ。フェルビナのその言葉を聞いて、ボクは考えていたカードを切る。
「ふ~ん……自分はボクの領域を覗き見ることに加担したくせに、そういうことを言うんだ~」
少し口元を釣り上げて、意地悪そうにフェルビナを糾弾する。
「な!? あ、あれはアースディア様のご命令で仕方なく……」
突如、痛いところを突かれて動揺を見せるフェルビナ。
「仕方なくなら、無断で覗き見をしても許されるの?」
「ウッ!? ……ハァ~……分かりました。今回だけですよ」
「エヘヘ、ありがと♪」
笑顔でお礼を言う。余程痛いところを突かれたのか、フェルビナは折れてくれた。アースディア様の命令とはいえ、結構心苦しかったらしい。
とはいえ、普段ならこんな屁理屈では折れてはくれなかったと思う。ボクの気持ちを知ってくれているからこその譲歩なのだろう。なんだかんだで甘いんだよね、フェルビナって。
フェルビナは、自分の右の手のひらをボクに向ける。すると、ボクの身体に一瞬、ピシッ! と光が走った。
「私のパスを一時的にあなたに通しました。これで呼びかければ聞こえるはずですよ」
「ありがとう。それじゃあ遠慮なく……」
深く息を吸い、今まで溜まりに溜まった憤りを込めて、門に向かって叫んだ。
「老いぼれジジイーーーーー!! トウマを返せーーーーーー!!!」
神殿内にボクの叫び声が木霊する。我ながらすさまじい音量が出たと思う。ボクを中心に叫び声が反響音となって響き渡り、周りの空間が大きく震えるのを感じた。
「シ、シオン! アースディア様に不敬ですよ!!」
突然の叫びに後ろから慌てたフェルビナの叱責が飛んでくるが気にしない。ボクのトウマを勝手に連れて行くなんてするからだ。ボクはかなり怒っていた。
しばらくすると、ボクたちの前にトウマを連れ去った張本人の呆れた顔が、目の前の中空に映し出された。
『シオンよ。邪魔するでない。今、大事な話をしておるところじゃ』
「だからって、ボクを締め出すことないでしょ! 話ならボクも一緒に聞く!!」
映し出されたアースディア様を容赦なく追及する。
「申し訳ありません、アースディア様。シオンがそちらに繋げろ、ということを聞かないものですから……」
『よい、押し付けてすまぬな。シオンよ、もう少しで終わるゆえ、今しばし待つのじゃ』
「嫌! 今すぐトウマを返して! もしくはボクもそっちに行かせて!!」
トウマはボクの使徒だ。当然の権利を主張させて貰う。しかし――
『ならぬ。それより、そなたは他にやるべきことがあるであろう?』
と、素気無く却下された。オマケによく分からない指摘をされる。
「なにさ、それ!」
『トウマ殿の現身の核じゃ。どうせそなたのことだから、まだ用意しておらんのだろう?』
「ウッ!? そ、それは~……」
ギクッとした。そう言われればまだだった。トウマに気に入って貰おうと、とにかく領域の準備などに時間を費やしたから、トウマの現身を作るのに必須となる核の生成をすっかり忘れてた。なので、言葉に詰まってしまう。
『そなたがそれを作り終わる頃には話も終わる。ちゃんと用意して置くのじゃ』
トウマとの使徒の契約は正式に受理されたのだから、早々に使徒になる儀式を行いたいけど、そもそも現身の核がなければ儀式自体が行えない。早くトウマのそばに行きたい想いはあるけど、ここは我慢するしかない。だけど、せめて声を聞いて落ち着きたい。
「ウゥ~……分かった……トウマ、トウマ! いる?」
『あ、ああ、いるぞ』
トウマを呼ぶと、映像にトウマの顔が映し出される。それを見てホッとするものの、すぐに不安が押し寄せてきて、映像に詰め寄るように声を掛ける。
「すぐ終わらせるから、それまで待っててね! 約束だからね!!」
『分かった。ちゃんと待っている。約束するよ』
トウマの声を聞き、こちらを安心させようとする優しい笑顔を見て、逆立っていた気持ちが嘘のように落ち着いていく。
やっぱりボクにとってトウマは特別な人だ。絶対に手放しちゃいけない。完璧な使徒になれるように、しっかりとした現身の核を準備しなくちゃ! そう思い、でも、不安は不安なので念を入れてお願いをする。
「絶対だからね! アースディア様、トウマになにかしたら絶対に許さないから!!」
ついでにアースディア様に釘を差すのも忘れない。これ以上、好き勝手にトウマを連れて行かれても困る。
『なにもせんわ! そなたはワシをなんだと思っとるんじゃ!』
「イーーーーだ!!」
ボクに許しを得ずに連れて行ったんだから、これぐらいは言わせて貰わないと気が済まない。その際に精一杯の抵抗として、両手の人差し指を口に入れて両頬を左右に引っ張り、歯をむき出しにして威嚇してやった。
「こら、シオン!! 申し訳ありません、アースディア様」
フェルビナに注意を受け、フンッとそっぽを向く。
『もうよい。それよりフェルビナ。シオンを手伝ってやってくれ。あの調子では、トウマ殿の現身の核にどんな手を施すか分かったものじゃない。無茶な調整をせんよう、見張っておいてくれ』
「はい、畏まりました」
その言葉を最後に、目の前に映っていた映像は消えた。
「余計なお世話だよ、全く!」
トウマがいないことへの焦燥感は薄れたが、アースディア様への怒りはまだ収まらず、憎まれ口を叩いてしまう。
「こら、そういうことを言ってはいけません! アースディア様はあなたのことを思い、色々考えて行動して下さっているんですよ?」
フェルビナに痛いところを突かれて、俯く。
「……分かってるよ、そんなの……」
トウマの声を聴いたおかげか、今なら多少は冷静にフェルビナのお小言も聞くことが出来る。
……アースディア様が色々気を利かせてくれているのは察している。他の神を遠ざけてくれていたり、トウマに対しても親身に接しているのが感じられる。でも、トウマはボクの使徒なんだ。ボクだけの――
「シオン、どうかしましたか?」
俯いて、少し黙り込んでしまったボクを心配してか、フェルビナが覗き込むように声を掛けてくる。
「ううん……なんでもない。色々わがまま言ってごめんなさい。フェルビナも一杯困らせちゃって、ごめんなさい」
俯いた顔を上げて、フェルビナを真っ直ぐ見つめ、謝る。それを見て、フェルビナはいつもの優しい顔になり諭してくれる。
「……いいのですよ。ただし、今後はもっと規律を重んじ、一人の神として他の神達に恥じない行動をとりなさい。そうしなければあなたの使徒となることを受け入れて下さった、トウマ様も侮られることになりますよ」
「うん、気を付ける」
フェルビナのいう通りだった。ボクはどう思われても気にしないが、トウマが神界で肩身の狭い想いをしてしまうのは嫌だ。トウマには使徒に生まれ変わったら、ボクのそばで伸び伸びと生きて欲しい。地球にいた頃のような、魂が劣化してしまう狭苦しい生き方は絶対にさせたくない。
「分かってくれたのなら構いません。それよりトウマ様の現身の核を作るのでしょう? 私もお手伝いしますから、あなたの領域に連れて行って下さい」
「うん!」
大丈夫、トウマはボクの使徒になる。これはもう変わらない決定事項だ。トウマも待ってくれているし、しっかりとした物を作らないと! そう思い直し、フェルビナを伴って自分の領域に向かうことにする。トウマが使徒になる準備をする為に。




