第三十一話 悪魔の調べ
全力全快の書き記し。これで第一章の山場は終わりです。ではどうぞ。
サバリア帝国はお祭りムードの一色だった。
帝国の脅威、オークオーバーロードが現れて、帝都が侵食されて、破壊され滅ぼされそうとなったのを救った英雄が現れたと躍起している。
数基は英雄視されるのを嫌がったが帝国騎士団はどうしても数基を英雄として国を挙げて祭を開きたいと、頼まれた。七の月三十四日の光の日の今日から三日間がお祭りの日だそうだ。この世界は一年が十か月で一月が三十六日あって、一週間が六日で火、水、風、土、光、闇と変わる。今日は光の日だそうだ。光の日と闇の日が基本的にお休みとなるそうだ。
数基は食べ物屋に入る。すると、景気よく声をかけられる。
「我らの英雄が来店だよ!」
「数基!! 待ってたよ!!」
「数基が来たのか!! みんなこっちで飲もうぜ!!」
「数基きたのか!」「本当にお前はすごいやつだ!!」「数基!! 俺と飲もうぜ!!」
「みなさん……どうもありがとうございます」
「さあさあ英雄様から金なんて取れないから数基は店の驕りだよ食べなさいねたっぷりと」
数基はお言葉に甘えることにした。なにせ数基は魔法を覚えてからというよりも昔から燃費が悪い。膨大なサイコパワーを使うから、かなりのカロリーを必要とする。なので沢山飯を食べないといけない。数樹はお酒を飲みながら、からあげにバトルブルの焼き肉を三キロぐらい平らげて、クリームシチューを十五杯おかわりして、サラダを二十五杯食べた。それでも足りず、ラザニアみたいな食べ物を十皿食べた。
「本当に食べっぷりが凄いね数基は、これはお弁当だよ」
「ありがとうございます」
数基はたらふく食べた後、店を出た。その後、エレノアの元に訪れた。
エレノアは帝国騎士団の練習場で鍛錬を行っていた。そこにはエレノアともう一人、ラフな格好をした、お嬢様といった出で立ちの女の子がもう一人いた。
エレノアが木刀を振り回しているのを隅の方で座って見学しているようだ。
数基はエレノアの鍛錬が終わるまで、終始見ていた。そして鍛錬が終わった時にエレノアに話しかけた。
「エレノア。来たぞ」
「数基。また会えたな。うれしいぞ。私の鍛錬に付き合って貰いたいからよんだんだが」
「そちらのお嬢様は?」
「うっ……聞かれたくないことを、それは本人から聞いてとしか言えないな」
「お姉様! 何ですか?」
まるでエレノアを金色の向日葵と比喩するなら、こちらの少し小ぶりの少女は紫陽花の花のような可憐さがあり、かつ黒薔薇のような品のある花のような例えようの無い少女だった。紫に銀を塗りたくったような色の髪色で、真っ赤な深紅の瞳をしている。ただ、わかることがある、物凄い魔力を持っているこの少女は。数樹は最近になって魔力を感じ取れるようになっていたので、わかるのだ相手の潜在魔力量が。
この少女は尋常じゃない魔力を持っている。数樹の半分ほどではあるが、むしろ数基の半分もある時点で化け物クラスだ。
愛嬌のある子猫のような眼をクリクリさせて、その少女は数基に近づいてきて、自己紹介をした。
「私まだ名乗っていませんでしたね。我が名はシオン・アメジスト・サーバリアルスです。ルドルフ・ランス・サーバリアルスの娘で皇女なのです」
「お姫様ってことか、つまりお忍びでってことか?」
「お姉さまのとこに遊びに来たんです」
「お姉さまというのはおやめ下さいと言っているんですが」
「なんで~お姉ちゃんだとこそばゆいからお姉さまでいいっていったのエレンちゃんだよ~」
「エレンちゃんいうな、シオンは可愛いな本当に」
エレノアがなでなでしているシオンのことを。
なんだが、本当の姉妹のようだ従姉妹なんだけどな。
和やかな空気が支配するこの空間をオレンジ色の夕日が出てきそうなほど情熱的で華麗な王族特有の煌びやかな気色に包まれる。
エレノアはシオンとの戯れも飽きたのかいつものことなのか俺との約束を思い出した。
「さあ、数基。私との練習試合をしてもらう約束だが、覚えているか?」
エレノアは挑戦的な不敵な笑みで俺を見つめていた。
俺の内心はとても複雑な物であった。手加減をしたら相手に失礼だという感情がある中、逆に本気だと相手に怪我をさせてしまい、それは不味いと思われる。
だが、ならばどうするという考えが先に出てきてしまう。エレノアがあまりにも俺の実力を見て、どうしても手合せを行いたいと言い出したのがことの結末だ。
このくらいの年ごろの血気盛んな女の子を相手することは連邦政府の連盟軍では日常茶飯事だった。俺が20歳の頃、後輩の入隊直後の16歳の女子兵のマースヘルトがそんな感じだった。俺が訓練で山岳の疑似地雷を抜けていく中、マースは恐々と俺の後をついてきていたな、そして機動遊撃部隊の特殊宇宙飛行機の訓練中に事後が起きた。あいつは俺の後をついてくることばかり優先して宇宙デブリを避けることなんて考えてなかった。奇跡的に全治半年の大怪我ですんだのが不幸中の幸いだったが。
エレノアがあまりにも眩しいと俺は感じた。マースヘルトと重なってしまうほどに。
不穏な角のような雑な油でも混じったかのごとく、その悪戯な悪意の偽称者は不意に現れた。
その姿はまさに悪魔のようだった。
「あなたなら私のような剽軽ものを受け入れてくれると存じますと拝啓しますシオン殿」
「嫌……この汚れた悪魔…………!!」
シオンの晴れ色の太陽のような笑顔が暗い闇のような悲しみの表情に染まる瞬間だった。
悪魔、それが意味するものは悪の化身とか悪の権化とも捉えられ、超自然的に存在する者と思われていたが、異世界では普通に存在する者のようだ。
「悪意を感じる……てめぇは悪者なんだよな?」
「それはどうでしょうか?? と私は巍然とした存在だと自称しますよあなたがたのような劣等種なんかよりね」
悪意のある顔つきで歪ませるように顔を嘲笑うかのごとく人間をそこ知れなく下に見た表情で悪魔は俺達を見下した。
「ですがまぁ…………今回現れたのもですね……面白そうな玩具がいるそうだと風の噂に聞いたのですからですね…………会いにきたわけですよ」
「俺のことか」
俺はまず自分のことだろうと確信めいたものがあった。あれだけのことをしたのだ悪魔の噂網に入っていても可笑しくないだろうという確信があった。
「そうです!! エクセレントですね!! あなたのような生意気そうで壊しがいのある玩具はいないと思いましてね。それに……」
悪魔は続けて卑劣に蔑むように口ずさんだ。
「あなたの大事な大事な仲間を私の手で四肢を捥いで、抉り、踏みつぶして、食し、あなたを拷問しながら目の前でその少女を歪ませていき、最後に殺すとあなたの心の色はどう染まるか見ものですね」
悪魔は冷徹にただ当たり前のことを言い連ねる。悪魔にとっては当たり前のことを。
「貴様!! 今更許して下さいと泣いて詫びても許さないからな!!」
俺はどうにもこの悪魔から底知れない悪意を感じ取った。
ここまで残虐で非道かつ悪魔じみた悪魔と言う存在。悪魔なのだから悪魔的なのは当たり前なのだが、そんな存在を俺は出会ったことはなかった。
俺は距離があることを安堵しながら、全力でいくためにサイガソードを抜いた。
刀を構える。だが…………後ろに既に悪魔はいた。
何が起きているのか頭が理解することを拒絶している。
悪魔は前方約五メートルのところにいる。だが、奴は後ろにもいる…………有りえないことだ。
「悪魔なんですから…………いえいえすいません。あまりにもあなたの間抜け顔が可笑しかったからついね…………死より辛い目にあってみませんか?」
「はっ? なん……だ…………と…………………………!?」
俺の眼前は暗闇に染まるまでに落ちるな俺!! という体の防衛本能が興奮して起動していたが、悪魔に防がれたようだ。
膝から地面に崩れて、落ちた――――――――――――――――――==========================================================================================
微睡の中、俺は幸せな家庭を築いていた。妻は俺より若いが顔がもやでもかかっていて見えないが可愛くて綺麗で美人だというのは俺でもわかる。子供は俺と妻に似てて美形の部類に入るだろうと確信じみていた。
夜のピクニックに行く。祭に出かける。父ちゃんは神輿も担いじゃうからな。無限の階段を家族で昇る。果ての無い階段だった。どこまでもどこまでもそれは伸びていて、不意に別れは来てしまう。ナイフを持っている俺が……俺が?? 妻を何故か刺している。子供を刺している。俺が……俺が……!? その時俺の周りの世界は赤くぐにゃりとしたインクのような物に変わった。血の生臭いシャワーを浴びて俺は狂う狂う狂う狂う……………………俺が殺した殺した殺した自分の家族をそんな嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――!!!!!!!!
絶海の孤島で血の海に包まれて、俺は視界に写る歪な紛い物を見ていた。俺の人形が何度も何度も妻を子供を刺し殺すそんな人形劇を何度も見せられた。暗闇の宇宙は孤独の海をゴミのようにした。俺の脳髄は串刺しにされるかのようにぶち抜かれた。時間は止まる永遠ともとれる時間をいったりきたりそんな無間地獄を見せられた。終わるのは世界。俺の世界は終わるそんな暗闇の底があるというだけが…………………………
死にたい死にたい……………………………………殺してくれ…………………………………………誰か俺をkぉろしてく………………れ……………………………………………………………………………………………………
絶望の淵に落ちた数基を必死に起こそうとするシオンが何度も呼びかける。エレノアは悪魔と戦っていた。死にもっとも近い場所で、エレノアは一番数基を心配していた。
数基は未だ絶望の淵にあった。絶望の中の絶望を抱きしめてしまい、地獄よりも苦しい場所にいた。苦しみの無い理想の世界を夢見てしまうほど、悪魔はとてつもない存在だった。絶望しか存在しないとまで思われた。贖うことが出来ない。
悲しみの旋律が木霊する。
重い空気が場を数列が意識し、悪の目覚めが粒を波状の渦へと広がらした。
――――――――――――――――――――――――俺は誰だ!? 誰なんだったかな……………………………………………………ああっカナンっ俺を置いてどこかに行くのかついに出て行くんだな。エリーが死んだ……………………………………………………有りえない、そんな馬鹿な…………………………………………………………………………………………………………………………………………ダクミルさんが俺を刺した。浮気なんてしてないよなしてないよな……………………………………メイふわふわしていて変な奴だと思っていたけどいなくなったら普通になったらどうしても………………………………………………………………………………………数基は意識が消えかかっていた。既に性根は死んでいるかもしれない。俺は糞以下になったのか。
内包する自意識は自分が悪意の幻惑に惑わされていることを内心理解していたが、自分の弱い心がそれを受け入れてしまったことを自身の内面の自意識を困惑させていた。
俺は……こんな悪夢に魅せられるほど弱くないと思う、だからなんとか逃げずにここから出ないとな。
俺は超念力を最大限に活用して空間を破裂させる勢いで波動を展開させた。
膨張する空間は引力を受けているように反復し増大していく。
そして空間に亀裂が入った。自壊する空間の裂け目が現れて、俺の周りの景色が一変した。
ユラユラとした波動のような黄緑色と黒色が混ざり合った油絵のような空間が現れる。
俺はエナジーを全快にし、超念波動で空間を強引に砕いた。
さらに、それだけでは駄目と思い、自身の心を静めて、完全な球を連想する。
賢者の思いで、心の旋律を奏でる。
すると上から一筋の光が漏れ出る。暗い地獄の淵の底に希望の手が差し出された。
五つの希望の手が俺の手を掴む。俺の意識は元の世界に連れ戻された―――
―――カズキ、カズキ、カズキ…………カズキ………………………………カズキ……………………………………「「「「「数基、(数基殿)、(数基さん)、(お兄ちゃん)、(数基様)!!!!!」」」」」
俺の眼の前にはエリー、カナン、ダクミル、メイ、シオンたちがいた。ただ一人エレノアが戦っている。
俺の手をみんなで握っていた。
そしてエレノアが俺の元に吹っ飛ばされた。
「ぐふっ……流石に限界のようだ数基……戻って来たんだな、本当に」
「大丈夫だ。ここから反撃の開始だ。いくぞ……俺の本当の全力全快の力を見せてやる」
だが悪魔はそんな俺を見て冷笑を浮かべながら悪魔的に呟く。
「おやおや一度心折れた若者が、最後の足掻きを見せるのですか。良いでしょう叩き潰してあげましょう」
俺は念を籠めて悪魔を睨みつけた。悪魔はそれでも動じない。俺はここで体に念力を纏わせた。念力で体を補強するように、いつも以上に念を充電させる。自分は最強、だと想像する。そして念じるそうなりたいと強く。想念の極意。俺の師匠から学んだ奥義の一つだ。想い願い念じることで自身の願望を実現させる極意で切り札とも言える俺の奥義だ。
我念強靭の仙術も使用した。自身の念を強靭にする仙術だ。古くからある古術の一つだ。
さらに、究極覇道の仙術を使用して拡大する自身の闘気を。
無尽蔵に強くなり、俺の極大の覇気が悪魔に襲い掛かる。悪魔は額から僅かに汗を滲ませて、口を引きつらせる。
「ありえない…………なんだこの強大な覇気は……私上級悪魔であるゲルニカの覇気よりも上だと……!? 信じられるかこんなの…………ありえない!!」
「いくぞ……」
刹那、悪魔の腹を極限の覇気の籠った拳撃が貫いた。
悪魔は嘔吐した。
続けざまに、俺は悪魔の肩を握るだけで潰した。そのまま悪魔の顔面を全力で殴り飛ばした。
悪魔は水平線上に音速のスピードで吹き飛ばされた。
粉々に顔面から青色の血が噴き出た。
悪魔はもう瀕死寸前だった。が悪魔は最後の力を振り絞り切り札を使った。
俺に纏わりつくようにしがみ付いてきた。
振りほどこうとしたが、物凄い魔力により俺を拘束している。
「けけけけけけけけけけ……これでお前はおしまいだ……このまま自爆して木端微塵にしてやるぞ」
エネルギーの高まりが感じられる。
そのまま悪魔は膨張を始めた。
「その程度の奴か……俺にこんな手が通じるなんて思ったのか?」
「きしゃしゃしゃしゃ……なんていう力なんだ、これでは私は終わりですね。実にいい最後でした」
俺は悪魔をサイコキネシスで振りほどき、遥か高い空に飛ばした。
そのまま空中で悪魔は自爆した。
黒く、儚い最後だった悪魔だけに。
悪魔にすらも俺は同情してしまった。
俺に出会わなければ死なずに済んだものの。
でも悪は倒さないといけないのかという疑念が俺の中に生じた。
これにより悪魔の脅威はひとまず去った。
みんなには後で礼を言わないとな。




