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第三十一話:聖VSロム

 「疲れた〜もう駄目。」


 聖は座り込みながら言った。あれから三十分は経っただろうか。メルシーの力を借り、意識を集中させ、広範囲に風を集めてみたが悪霊を見つけだすことは出来なかった。


 「なにを言ってるんだ聖?あいつらに先を越されてしまうぞ。」


 「いや、競争とかじゃないからさ。別にいいよ。」


 聖はゆっくりと体を倒し、仰向けに寝っ転がった。眩しい太陽の光を木の葉を遮り、心地よい涼しい風だけが、聖の体を通り抜けていた。


 「全く…俺は、死んでもあいつを倒すみたいなことは言えないのか?」


 「…何か変な本でも読んだ?そもそもターシャがいるんだし、僕の出番は今回ないって。」


 「だから、あの女よりも先に倒せばいいんだ。そんなんじゃ、いつまで経っても強くなれないぞ。」


 「………眠い。」


 メルシーがやる気になっているのとは対象的に、聖は眠そうに両手を伸ばし、背筋を真っすぐにし欠伸をしていた。


 「そう言えばレートニイに起こされたんだっけ……あと、バレバレですよ。何か僕に用ですか?」


 「……。よく分かったね。それが君の精霊の能力か?」


 「いや、わざわざ探らなくても、うーん…殺気?っていうのかな。全身で放ってるから。それに香水の匂いもかすかにするし。」


 聖の真後ろに、土の中から茶色い戦闘服を着たロムが、気味の悪い微笑をもらしつつ現れた。その左手には鋭く光るナイフが握られていた。聖はそのナイフ…そして、ロムの左腕はめられている黒い腕輪を冷静に見つめながら、素早く立ち上がった。メルシーは、ただ黙ってロムを睨んでいる。 


 「最初から土の中を移動していればよかったかな。ふふ…僕が何を考えているか分かるか?」


 そう言って、ナイフを聖の心臓めがけて一瞬の動作で素早く投げた。それをメルシーが難なくはじき返す。


 「何のつもりですか?」


 聖はロムの常軌を逸した行動に、内心訝しみながらも、それを表面に出さずに、冷静さを装いながら言った。


 「君が気に食わないのさ。聖君。たかが平民の分際で、貴族である僕を侮辱した。名誉を傷つけた。それだけに極刑に値するだろう。」


 「まるで貴族が王様か法律そのものみたいな言いようですね。そんなのは何十年も前の悪習ですよ?」


 「それだよ!!僕に向かって意見するなんて許されないのに。平然と言えること自体が、この国の悪習といっても過言ではないんだ。そんなもの、僕が根底から覆してやる。貴族のための国民。貴族のための国を作り上げてみせる。ふふ…あ〜はっはっは、僕になら可能なんだ。その手初めとして、君には死んでもらわなければいけないんだよ。」


 すると、ロムが右手を真っすぐ上に伸ばし。中指と親指で音を鳴らした。パンッその直後、聖が立っていた地面が突如沈みだす。刹那の判断で聖は風を纏い、上空に飛びあがった。そして、下を一目見るとそこには巨大な気味の悪い物体が蠢いていた。


 地面が沈んだ遥か後方に着地した聖は、メルシーに言った。


 「どう思う?メルシー。」


 聖の真下では、先ほどの巨大な何かが地響きをあげていた。木々が揺れ、木の葉が舞い落ちている。聖が先ほどまで立っていた場所は、周囲の植物ごと、跡形もなく消え去っていた。いや、飲み込まれたといったほうが正しいだろう。そこには大きな丸い穴が残っただけであった。


 「どうもこうも…これが奴の精霊の能力だろう。地面を周囲の物事丸めて飲み込んでいるのか。もしくは、吸収しているか…どっちにしろ、落ちなければいいだけだ。さして恐ろしい能力ではない。」

 

 「いや…そうじゃないんだ。あの精霊…一目見たけど…絶対おかしい。はっきり言えないけど…悪霊を見てる時のような、嫌な感じがするんだ。どうにか出来ないかな?」


 聖は辛そうに、顔をしかめながら言った。そんな聖の顔を、メルシーは不審に思いながらもその真っすぐな瞳をじっと見つめていた。


 聖は優しい…その優しさは、私は決して闘っている相手なんかに持てないだろう…そもそも持てるハズがないんだ。敵は殺す。それだけを考えればいい。現に先ほどのあの男の攻撃。もし避けていなかったら、聖は確実に死んでいた。


 だけど…聖は……何故だろう。…ほっとする…こんな血塗られた私だが…せめて……私に残された時間。全てお前のために使ってやろう。


 メルシーは、口元のわずかな笑みを隠しながら、努めて冷ややかに言い放った。


 「…無理だろうな。確かにおかしな気配が奴の精霊から漂ってくるが、私では対処できない。だが、あの馬鹿な男が何かを施したのは確かだろう。奴を倒し、聞き出せばいい。」


 しかし、メルシーの一言に逆上したのか、急にロムが口を開いた。


 「馬鹿は貴様らの方だ。何を話しているかと思えば、僕の精霊の様子がおかしいだと!だから何だと言うんだ。これは僕が望んだこと。醜くい!しかも弱いこいつに、もっと巨大な力をと、あの方が与えてくれた素晴らしい力だ。」


 「あの方?誰なんですか?」

 

 咄嗟に聖が口を入れ、ロムに言った。


 あの方…プライドの高いロムが、わざわざ敬語を使う人物…この不審な言動…狂気としか言えない行動…そいつが諸悪の原因かもしれない。


 聖はそう考え、ロムの次の言葉を待った。地面から、今だに地響きが足を通して伝わってくる。ロムの精霊が暴れているのか…それとも苦しんでいるのか…どちらにせよ。早く決着をつけたいと聖は願っていた。


 そんな聖の考えを見越したのか、余裕の表れか…ロムは不敵に笑みを浮かべながら言った。


 「はは、そんなに知りたいのか聖?そうだな…どうせここで死ぬんだ。特別に教えてやるよ。通称死神…ギルドでも賞金首になっている男さ。どうも、アヴィズムという組織の戦闘員らしいんだが…面白い技術を持っていてね。知ってるか?各地で悪霊が大量発生しているとう現象。実はアヴィズムが主導してやっているらしい。ははっこの国を壊す第一歩さ。」


 「馬鹿なことを…悪霊を人の手で作り上げるなど…許されると思っているのか!!」 


 メルシーはロムを見据え、怒鳴り散らした。これには、聖も度肝を抜かれてしまった。普段、ターシャと口論している時はともかく、声を張り上げて怒鳴るメルシーは見たことがなかったのだ。メルシーは本気で怒っている…単に気に食わないだけか…それとも聖の知らないメルシーの過去と、何か関係があるのだろうか…


 「考えてもしょうがないか…メルシー、あの指輪を使うよ。これ以上長引かせるわけにはいかない。即効で決着をつけよう。」


 聖は背中の刀を片手に持ち、左のポケットから、カミンの店で購入した銀色の指輪を取り出した。


 「そうだな。この男を倒し、さっさとその死神とやらを殺しに行くぞ。」


 そう言って、メルシーは指輪の中へと姿を消した。すると、不思議にもその指輪がかすかな光を帯び始めた。周囲の木の葉が突然生じた突風に悲鳴をあげる。そっと聖は指輪を右手の中指にはめた。


 ロムは薄ら笑いを止め、無意識にその光景に見入っていた。自分が長年求め続けていた巨大で絶対的な力…死神と呼ばれている男にその力を感じたのは自分でも理解できた…しかし、まだ精霊を従えて間もない…自分より年下の平民に、死神と出会った時と同じ、いやそれ以上の絶望感を感じるのは一体… 


 「…なんなんだ?このざわめきは…聖…何をした?なんだ…こんな…あり得ない。貴様など僕の…」


 ロムは言葉を紡ぎかけたが、それ以上言うことが出来なかった。聖の黒刀の鞘が、深々とロムの脇腹に突き刺さっていたのだ。その姿を目で追うことも、攻撃を避けることもできず、ロムは両膝をつき地面に跪いた。


 底知れない痛みが全身を蝕み、麻痺させていく。最早地面しかその視界には映らなかった。しだいに意識が朦朧としていく…


 「とりあえず、ロムはこのまま連れて行こうか。ターシャ達と合流しよう。」


 横から聖の声が耳に響いてくる。くそ…この距離じゃ、バロリー(土に生きる者)の能力が発動できない…このまま、惨めに捕まるのか…


 「その前に、こいつから死神の居場所を聞き出そう。いいだろう?聖。」


 死神……その言葉に朦朧としていた意識が、鮮明に動き出した。負けたら僕は…敗者として確実に殺される…死神は笑いながら僕を殺しにくるだろう…逃げられない…くそ…くそ、負けられない。僕はまだ…


 「死にたくない!!わが右手を対価に与えよう。鮮血に咲く大樹。レセ・メジネマ。」


 ロムの左手にはめられていた腕輪が黒く濁った光を発した直後、ブシュッ…身震いする音が聞こえてきたかと思えば、ロムの右手が肩から腕にかけて真っ赤な鮮血と共に、消え去った。突然の出来事に、聖とメルシーに衝撃が走る。さらに、ロムの肩からは、血が大量に垂れ落ちながら、気味の悪い木が生え始めていたのだ。それは、亡くなった右手をロムの血を吸い上げながら真っ赤に染まりっていき、あっという間にその形を形成していった。


 「…くっ…痛い…ここまでとは…だがどうだい聖?僕の新しい完璧な腕は。」


 まだ血は垂れ落ちていたが、ロムはゆっくりと立ち上がった。聖には、その顔が苦痛で歪んでいるように見えたが、ロムは大きな高笑いを発している…


 「ふん、とうとう狂ったか。哀れな男だ。」


 メルシーは高笑いが辺りに響き渡る中、一人憮然とした表情で呟いた。


 その言葉に反応したのか、ロムは高笑いを止めた。そして、聖やメルシーを見るわけではなく、ただ自分の新たな腕を見つめながら、一人話し始めるのだった。


 「この腕の美しさが理解できないとは…馬鹿な奴だ…なぁ、レセ。君が現れた時点でもう貴様ら負けだというのに…」


 「その腕がそんなに強いとでも言うんですか?」


 その不気味な口調に聖は思わず質問してしまった。そこで初めて、ロムは聖の方へ顔を向けた。


 「はは…聖。お前、そこから一歩でも動くことができるか?」


 「何を言って……あれ、そういえば足が…手も動かない。」


 聖は全力で足を動かそうとしてみたが、地面から伸びた鎖が手足に巻きついているかのように、全く動かなかった。メルシーも驚きを隠せない。一体いつこんなことができたのか?腕が生えたこと以外特に変化はないはずだ。考えられることは…一つ。


 「それがお前のレセとやらの能力か?ある対象の身動きを封じる力。恐らく…毒か何かだろう。」


 「ははは、その通りさ。もっとも、毒なんかではなく鮮血が舞う時にこの腕が発する怨念と僕は聞いたがね。発動直後じゃないとなかなか機能してくれないらしいが…聖を締め付け握り潰すことぐらいは簡単にできる。」


 そう言って、ロムは今はもう木と化してしまった腕を、聖に巻きつかせた。まるで意思を持つかのように、嬉しそうに聖に忍び寄っている不気味な感触を、聖は肌で感じていた。だが、振りほどこうにも体が言うことを聞いてくれない。

 

 「くそっ…おいお前!聖を離せ!!」


 メルシーが必死に腕の浸食を止めようと試みるが、するすると聖の全身に巻きついていった。早くこいつの血をヨコセと訴えているかのようだ。


 「よ〜し、じゃあな聖。せいぜい綺麗な鮮血でレセを喜ばせてやるんだな。」


 聖を巻きつけている木がその力を増していく。メルシーが風を周囲一帯に起こすが、時間稼ぎにもならなかった。


 「死ね!!!」


 ロムが叫んだ。だが、聖に巻きついていた赤い腕は、後方から発せられた光を浴びて、急速にその力を弱らせていった。この木は苦しんでいる…この優しい光はなんだろう…聖は目を凝らして、光を見極めようとした。次第に光が収束されていく… 


 「それ以上、聖さんに攻撃をすることは、私、マリヤ・ラスターシャの名において許しません。」


 そこに立っていたのは、星がきらめく夜空で出会った、青い髪をなびかせた女性だった。





聖じゃないですけど…「はぁ、疲れた〜」って感じです。さり気に今までで一番長いのでは…

どうも文章って書くの疲れるんです。何十時間も連続で書ける人が羨ましい…ちょっとエグイですけど、読んでくれてありがとうございました。

そのうち番外編書いてみようかなって思ってます。

題して「レートニイの初恋!?」みたいな…もう大体書き上がってるんですけど…載せようか思案中です。

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