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いきなりだが、あなたは蟻を知っているだろうか?
うん、そう、あれですよ、地面の下に巣を作って女王蟻を筆頭にコロニーを形成して生活していて、もといた日本では足元を歩き回っていたやつだ。今、俺はこれまで見下ろしてきた小さな存在であったはずの蟻と向き合って戦闘中だ。
だが!俺は!今!声を大にして叫びたい!こんなでかい蟻は蟻ではないと!
話は少し戻り、アリスたちのスキルをこっそり覗き見して、暇な馬車での移動中、ステラと雑談したり、今後取得するべきスキルの検討などをしつつ時間を使っていたそんな時だった。
「ハヤト、ちょっといい?」
「なんですか?」
アリスが徐に声をかけてきた。今後の計画の詳細説明かな?とか思いつつアリスの所に行く。
ちなみに俺たちが今使っている馬車は、アリスたちの私物らしく、馬が二頭馬車を引いている。積み荷を乗せる馬車は結構広くて、パーティメンバーみんなが座っても少しゆとりがある程度だ。馬の手綱は、竜人族のリンダさんが持っている。
「これからハイトロールたちが生息しているところの最寄りの街まで2日っていうのはいったと思うんだけど、それまでにあんたたちの実力が見たいの」
「はあ、手合せとかすればいいわけですか?」
「手合せ、っていうか戦闘かしら?相手は私たちじゃなくて、魔物ね」
ふむ。要するに連れていくとは言ったものの実際どれくらい動けるか見てみないと、本戦の際に作戦を練れないとかそんな感じかな。
「まあそういうことなら、でも敵は?」
「ここから、フォレスティアまで、あ、最寄りの街までね、森と山道を越えていくんだけど、そこを通る際に魔物と出会うと思うのよね」
「なるほど、そこであったやつらの相手をしてみろと」
「ええ、もちろん私たちも戦うわ。この辺りだと、ソルジャーアントとかビッグマウスなんかが出てくるかもしれないわね」
兵隊蟻とネズミか、まあ何とかなる気がするな。多少大きな個体なんだろうが所詮蟻とネズミだ。おっと、ちょうどいいし考えていたあれ頼んでみるか。
「あ、そうだ、アリスさん」
「ん?」
「ちょっとお願いがあるんだけど」
「何かしら?」
「いつも魔物を倒した時に核魔石はどうしてますか?」
「剥ぎ取ってギルドに売ってるわ。なんで?」
「できればその核魔石を譲ってほしいんです。もし、核魔石が高価なものなら無理には頼めませんが、この依頼を通して手に入れられる核魔石をもらえるなら俺の報酬はいりません。俺が倒した魔物の素材も俺の分の報酬金もアリスさんたちの取り分にしていただいて結構です。あ、でもステラの分はしっかりあげてほしいんですけどね。」
「・・・核魔石なんてあんまり高く売れないから構わないけど、本当にいいの?」
「はい。あ、でも報酬金もくれるというならもちろんいただきますよ」
新たな魔物から手に入る魔核石で自分を強化できるほうが、目先の金や素材よりも俺にとってメリットになると踏んでの交渉だったのだ、うまくまとまったようでほっと一息ついた。
「そこはあんたの働き次第かしらね。じゃあ、核魔石はあんたが、素材はこっちが、報酬金は働きに応じてってことで、あんたの連れが倒した魔物に関しては素材はそちらのものということでいいかしら?」
「願ってもない!無理を言ってすみません」
「じゃあ、森に入る前にまた声かけるから、いつでも動けるように準備しておいてね」
「はい」
「あ、それと」
「はい?」
「この依頼中は敬語使わなくていいわよ。確かに私たちの方がランクは上だけど、依頼中は互いに背中を預ける仲間なんだから」
おお、なんかすごくいいこと言ってらっしゃる。確かに正直言えば敬語とかめんどくさかったんだよな。敬語になっているかも微妙だったし。
「じゃあこの依頼中だけは普通に話させてもらうわ」
そういって、またステラの隣に戻った。そして、アリスと取り決めたことをステラにも伝えると、「私、頑張ります!」と意気込んでいた。多分自分がたくさん倒せばその分役に立てると思っているのだろう。無理だけはしないようにとしっかりくぎを刺しておいた。
さてそれから、1時間ほど馬車でがたんごとん揺られていると、リンダさんから声がかかった。もうすぐ森に入ることになるらしい。槍と装備を確認して、いつ戦闘が始まってもいいように身構えておく。
「ステラ、あたりに敵は?」
「結構な数の魔物がいます。こちらに近づいてくる魔物は今のところいないかと」
俺の探知スキルにも結構な数の魔物の反応がある。そこ等中にうじゃうじゃってっ感じだが、確かにまだ距離が結構ある感じだ。探知の範囲は恐らく円状に直径1㎞位かな?結構な範囲を知覚できる。一番近い奴らは右前方奥の方にいる集団かな。できれば気づかれずに進みたいものだ。
そんな淡い期待は悉く潰えて、馬車の右手側の方から、すごい速さで近づいてくる魔物の集団。数は10匹ほどだろうか。アリスたちも気づいたらしく、馬車を止めて臨戦態勢に入った。ガサガサと草木を押し分け現れたのは、黒光りする蟻。中には羽根つきの蟻もいるようだ。飛ぶのかな?飛ばれたりしたら打つ手がないな。
というか、そんなことは今正直どうでもいい。平静を装って、分析みたいなことをしてみたが、まず驚くべきはそのでかさ。体長およそ1mの蟻が10匹いる光景なんて想像できるだろうか?日本に現れたりしたら、それこそ、防衛軍な展開になってしまいそうだ。
そして、話は最初に戻るわけだ。蟻がでかい。しかし、こんなでかいやつを蟻とは認めたくはない。なんだが久しぶりにここがファンタジーな世界であると感じた瞬間だった。
ぐだぐだ言っていても、いいことないし、というかのろのろしてたら食い殺されてしまう。すぐに気を引き締め、手の槍に力を込める。
「ハヤト!弱点は腹部のやや後ろよ!噛みつきには注意しなさい!最悪逃げてるだけでも構わない!生き抜くことだけ考えなさい!」
アリスから激が飛ばされた。もしかするとこれは彼女的にも予想を超える事態だったのかもしれない。本来ならもっと少数の敵と戦い、俺の動きを見るつもりだったのだろう。まあ、今となってはどうでもいいことか。
「ステラ、いくぞ!」
「はい!」
俺とステラは馬車の後ろ側から来ていた蟻に向かって駆けだす。牽制として石を投げつけ、俺に注意を一瞬引く。
その間にステラが間合いを詰め、剣を抜刀、敵の前肢を切り付ける。肢を切られたことで、注意が再び俺からステラへ移動。
その隙に俺はすぐに自身の体重を限界まで軽くし、近くの木を支点に飛び上がり、戦闘中の蟻目がけて、槍を投擲。重さを5倍近くまで加重操作した槍は蟻の甲殻を貫き、地面に食い込む。蟻の串刺しの出来上がりだ。それでもまだ息絶えることのない蟻。だが、槍のせいでまともに動けていない。
「ステラ、そいつの相手は任せた!」
そういって、着地した俺は、自身の体重を元に戻し、腰の刀を抜刀。さらに近づいてくる蟻に駆けだした。距離を見計らい、大上段に構え、正面から噛みつこうと近づいてくる蟻を待つ。正直、めっちゃ怖い。足が今にも笑い出しそうだが、必死にこらえる。カチカチと顎を鳴らしながら近づいてくる蟻が、間合いに入った瞬間、素早く剣を振り下ろす。剣を振り下ろすに合わせて剣の重さも5倍に加重。ざくっという音とともに、蟻の頭部を中心からきれいに半分に切り分けた。体液やらが派手に飛び散って気分が悪いがそんなことを気にしてはいられない。丁度こっちが仕留めたころにステラも先ほどの蟻を仕留めたようだ。なかなかやりおる。蟻が死んだのを見計らって槍にかけていた重量操作の効果をカットする。
「兄さん!」
そういって、地面に刺さっていた槍をステラが抜いて渡してくる。10何匹いた蟻も、アリスたちがほとんど仕留めて残りあと3匹。アリスたちが2匹を相手しているときに、背後から残りの一匹が強襲をかけようとしていた。恐らくアリスたちもそれくらい把握していたのだろうが、ステラから受け取った槍の石突の方を持ち、槍を軽くし、全力でぶん投げる。槍はぐんぐんスピードを上げながら、蟻に接近する。槍の減重を解き、すぐに加重する。咄嗟のことでどれくらい増やしたか定かではないが、結構なMPを注いだ気がする。アリスたちに襲いかかろうとしている蟻の腹に槍が命中し、蟻を絶命かせながら地面に突き刺さる。その時、どんっという大きな音を立てて、槍が突き刺さった地面の土が吹き飛んだ。軽く地面に穴ができてしまうレベルで突き刺さった槍を見て、しまったと思ってしまう。実際に、蟻を叩き伏せたアリスたちが俺の投げた槍の周りに集まっている。
「これって・・・」
アリスが手で顎を押さえて、槍と俺を交互に見ながら訝しげに様子を伺っている。変に勘ぐられる前に行動したほうがよさそうだ。先手必勝。
「緊急のことだったので、つい力が入ってしまいました」
数瞬考えるような間があったが、「助けてくれてありがとう」といってその場は納まった。いそいそと槍を回収すべく、地面に突き刺さったままの愛槍のもとに駆ける。柄を持って引き上げようとしてみて驚いた、あまりのその重さに。アリスたちは見ていなかったようなので、すぐにスキルをカットして重さをもどして引き抜いた。
そして、倒した蟻の素材の剥ぎ取りに移った。核魔石は俺が、ステラが倒した蟻の甲殻などを切りだす。俺らの分の剥ぎ取りはすぐに終わってしまったのでアリスたちの分も切り分けを手伝った。使えそうな素材だけ集め、馬車の荷台に乗せる。俺たちの分は図鑑に納めた。ちなみに、この蟻の魔物は元の世界の蟻とは異なり、食べることができるということだった。まあ大部分は食えないらしく、食べれるところだけ切りだして図鑑にしまったのだが。
森での戦闘はその後も何度か続き、鼠、土竜、蜘蛛、蛇、蜂の魔物と戦った。一番印象に残っているのが、土竜のように地面の中を移動しながら襲ってくる魔物との戦闘で、敵が作った穴にアマンダさんが炎魔法を撃ちこんで、熱に耐えきれなくなって外に飛び出した土竜を大きな槌で地面に叩き付けるといった光景を見て、今では昔懐かしいモグラ叩きを思い出して笑ってしまったことだ。
ここまでも戦闘を思い出してみると、俺とステラだけではとても勝てない場面がいくつもあった。この依頼が終わったら仲間をもう一人くらい増やしたいと考えるほどだ。できれば後衛、欲を言えば魔法使いがほしいところだ。ただ魔法使いの知り合いなんていないのでメルさんにいい人いないか聞いてみることにしよう。
ステータスだが、狩った魔物が多かったこととスモールラビットの様に弱い魔物ではなかったことも合いまったのか16レベルだったのが5上がって21になった。レベルアップボーナスでスキルポイントを50ポイント手に入れた。あと、新しい魔物の核魔石によってスキルポイントを60ポイント手に入れた。また、討伐数が規定値に達したものがあり、14ポイント追加で手に入れた。結果ステータスはこんな感じになった。
名前 オオカワ ハヤト
レベル 21
種族 人族
HP 2000→2500 (+2)
MP 400→500 (+2)
力 170→220 (+2)
防御 105→130 (+2)
知力 115→140 (+2)
俊敏 105→130 (+2)
スキルポイント 124
固有スキル ステータス操作 図鑑
スキル 剣Lv4 料理Lv4 鑑定Lv3 探知Lv4 生活魔法Lv2 槍Lv4 重量操作Lv2 回復魔法Lv5 身体強化Lv4 MP回復速度上昇Lv1 魔力操作Lv1 魔力消費減 Lv4
お読みいただきありがとうございました。
勢いで書き上げたもので推敲してません。誤字脱字、変なところなどありましたら感想欄にお願いします!今考えている話終わったらまとめて編集したいと思います!