表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

後編




 時刻は歓談の時間になった頃。


「おい、セレス。何でおまえがこんなところにいるんだ」

「……ロデリック様」


 そう、セレスの元婚約者であるロデリック・アイゼンガルガが声をかけてきた。

 今、この場にはセレスしかいない。ジュリアンもリディアも席を外している。

 おそらく誰もいなかったから声をかけてきたのだろう。

 そしてもう一人。


「せっかくロデリック様に付き添ってきたのに辛気くさい幼稚な声のセレスがいるなんて」


 親友であり、婚約者であるロデリックを奪ったオデット・ヴェルナーの存在があった。

 どうしてオデットがここにいるのか。しかし想像はつく。セレスはため息をつく。


「私がここにいること。今更ロデリック様には関係のないことだと思います」

「なんだと! 本当に可愛げがない女」

「そもそも何でここにいるわけ」


 アニメに出演するからというのは言えない。他のメンバーと違い、セレスは声で蔑まれた人生を歩んでいた。演じた声とはいえセレスの名で公表したくなかった。


「レオンハルト殿下のプロジェクトのお手伝いとして参加したの。ここにいるメンバーはみんなそうよ」

「は!? あの超イケメンのレオンハルト殿下の!? セレスだけずるい!」


 ずるいって……。セレスは心底落胆のため息をついた。


「セレスよりもあたしの方が社交慣れしていて、使えるというのに!」

「まぁいい。だったら少し付き合え。女二人従えてる所を団長にアピールしたい。ただし、絶対に喋るなよ。おまえは喋らなければ見た目はマシだからな」

「お断りします」


 セレスははっきりとした口調で答えた。


「私はすでに婚約破棄をされた身ですから。さっさと婚約破棄の手続きを進めてくださいませ。ロデリック様が遠征しているせいで進まなくて困っているのです」

「っ!」

「ロデリック様。あたしがいるじゃないですかぁ。セレスなんて不要ですよぉ」


 ロデリックはセレスの腕を無理矢理掴む。


「いいから来いっ! 少しくらい俺の役に立て!」

「いやっ……!」


 その時だった。セレスを引っ張る手を封じる腕が突然出てきたのだ。

 そしてそのままセレスを守るように男は立った。


「彼女は俺の招待客だが何用だ」

「なんだいきなりっ! これは俺とセレスの問題」


 あまりの言葉に血の気が引く。セレスは慌ててロデリックを宥めようとした。


「ロデリック様、この方はレオンハルト皇太子殿下です!」

「皇太子殿下!? くっ……なんでそんなそんな方がセレスを」

「このテーブルのものは皆、俺の招待客だ。騎士の慰労会といえど手出しは困る。分かるか」

「っ! も、申し訳ありません」


 ロデリックも貴族だからこそその言葉の意味が分かる。

 セレスは今、レオンの庇護にあるということ。手出しは絶対に許されない。


「っ!」


 ロデリックはばっとそして振り返る。


「セレス、おまえがその声である限り……幸せなどない」

「お生憎ですがこの声を認めてくださる方はおります。遠慮無く婚約破棄を進めてください」


 ロデリックは去って行き、一安心という所だが……まだ一人厄介なのがいた。


「わたくし、オデット・ヴェルナーといいますわ。セレスの親友で……殿下にご挨拶したくて。わたくし、声には自身があるのですよ」


 オデット得意の猫撫で声だ。オデットはちらりとセレスを見る。セレスのような声とは違うことをレオンハルトに強調しているのだろう。底意地の悪い所を見せる。


 オデットは手を伸ばし、レオンハルトの手の甲に触れる。その時だった。


「誰が触れていいと言った」

「ひっ!」


 その声は今までセレスに語りかけてきた穏やかな声ではない。

 重く響くその声の主こそ、大帝国の敵を葬りさってきた【鉄血の獅子】レオンハルトそのものだ。


「声に自信があると言っていたな」

「は、はい! ラ~~~~! 聞いてくださいませ。わたくしのこの声は帝国の名優と呼ばれた方の声を模倣しておりますの。澄んだ川のような美しい声。セレスみたいな子供じみた声よりよっぽど殿下のプロジェクトとやらに貢献できますわ」


 セレスは気付いてしまった。セレスの声を子供じみたと評した瞬間、レオンの眉間に皺が入ったこと。

 レオンはセレスの声を理想のヒロインと思っている。それを否定することは自分を否定するのと同じ。


「模倣と言ったな」

「はい! わたくしの自慢の声ですから!」

「下らない。美しい声が必要なら本物を使えば良いだろう。模倣ばかり技術の無い、未熟な声など必要ない」

「え……」


 レオンの言葉にオデットは愕然とした表情を浮かべる。そしてセレスの方を見た。


「俺はセレスのような唯一無二の声を出す方が素敵だ」

「レオン様!」


「不愉快だ。ここから出ていけ」

「っ!」


 屈辱を受けたオデットは歯を食いしばりながら離れていく。


「レオン様、ありがとうございます」

「気にするな。俺の名は積極的に使っていい」


 レオンはセレスに向けてにこりと笑い、セレスの胸にこみ上げるものが浮かんだ。

 

「さて行くとするか」

「はい……。レオン様。頑張ってください」


 こうして歓談の時間が終わるまで大きな騒ぎ無く、無事終わることができた。

 20時定刻。

 全員が着席を促されて、司会進行を行う男性が前に立つ。


「いよいよですね」


 今から演じるわけではないのにセレス達もまた緊張してしまっていた。


『さてここからは余興の時間となります。今回は特別にレオンハルト皇子殿下が用意してくださりました。レオンハルト殿下お願い致します」


 司会進行からマイクを受け取り、レオンは一番前に立つ。


「レオンハルト・フォン・シュテルンライヒ・アーデルライトだ。帝国騎士団においては私も数年前に遠征部隊に参加させてもらったことはある。ゆえに見知った顔もあり、先ほどの歓談の時間は楽しませてもらった」


 レオンは軍の指揮経験もある。遠征部隊と言っても魔物相手ではなく対人戦を行う部隊だったようだが見知った顔はいたようだった。

 帝国騎士達を労う言葉やこれからも楽しみにしているなどトップとして無難な言葉をかけていた。


「挨拶はこれぐらいにして本題に入ろう。実は皇帝陛下より命を下され、これまで準備してきたプロジェクトがある。今日それを君達にお披露目したい」


 その言葉に騎士達がどよめく。


「皇帝陛下の命!」

「いったい何が……。プロジェクトとはいったい」


「貴族、平民問わず楽しめる興業を生み出すというのがこのプロジェクトの趣旨となる。その第一回上映会を貴族、平民混成である帝国騎士団にお見せするのは運命と言えるだろう」

「おおっ!」


 騎士達から大きな歓声が上がる。

 口々にどんなものなのか、予想が口から放たれた。


「さぁ大帝国の新たな興業【アニメ】の第一回上映会を開始する。心ゆくまで楽しんでくれ」

「おおおおおおっっ!」


 グランドホール内の明かりは消え、正面だけが照らされる形となった。

 そして大きな大きな1枚のイラストが天井から吊るされる。


「なんだあの大きな絵画は」

「絵画にしては何だか平面的で線がはっきりしてるな」

「あれは人か? 随分と可愛らしい……」

「ところで演者はどこにいるんだ。演劇じゃないのか」

「音楽は? 楽団の演奏が聴けると思ったのに」


(口々と賛否いろんな声が聞こえる。大丈夫。きっと次の言葉でみんなが黙ると思う。レオン様……やりましょう)


「アニマ・メドゥス発動!」


 魔法が放たれて、吊るされた巨大なイラストにアニマ・メドゥスの魔法が発動し、イラストに描かれた造形物達が一斉に動き始めた。


『帝国歴×××年。ここは辺境の砦。帝国の最果て。魔物が出没する危険な土地だ。俺の名はエルヴィン。帝国騎士の一人。敵を討つために剣を磨き続けてきた』


 イラストからは低く緊張感のあるヴァイオリンの音が。遠くからは風の音が聞こえてくる。

 すでに騎士達から騒ぎとなっていた。


「絵画から声が……音楽が聞こえてくるぞ!」

「そもそも絵画が動いてるぞ、どういうことだ!」

「なるほどアニマ・メドゥスをこういう風に使うのか。考えたなぁ」


 騎士から驚きの声が多数上がってくる。そして勘が良い騎士は軍隊魔法『アニマ・メドゥス』がこの現象を起こすことに気付いたようだ。

 そもそもアニマ・メドゥスは作戦立案などに使われた軍隊魔法。騎士達なら誰もが知っている魔法だった。


「主演の男性の声凄くいい……」

「聞き取りやすし、良い声をしてるな」


 : 遠くから角笛の音がする。訓練していた騎士たちが手を止め門の方を見る。 エルヴィンもまた剣を下ろして視線を向けいた。

 :馬に乗った騎士が門をくぐる。 鎧を身につけているが、明らかに女性だ。 赤髪には黒いリボンが揺れている。

 :馬から降りた女性騎士が近づいてくる

『はじめまして。アデライード・リヒテンシュタインです』

 :伯爵令嬢アデライードの登場である。


 その時、レオンすらも想像できなかった事態が起こった。

 そのアデライードの姿はイラストによって極限にデフォルメされているのだ。オスカーにより極限にまで美しく磨かれており、セレスの可愛らしくも凜々しい映える声が合わさった結果。どうなったかというと。


「可憐だ……」

「なんて美しい」


 その日アデライードに恋心を抱いた者が急増したとか。

 元来、帝国騎士遠征部隊は既婚率が低い傾向にあり、恋人がいても長い間会えないことで破局することが多く、独り身が多い。

 ゆえに現実恋愛を諦めてしまっている男性騎士も多い。そんな騎士がデフォルメされた美しい騎士を見た時こうなってしまうわけである。


『あなたがわたくしのパートナーと聞きました。お名前を教えて頂けますか』

『エルヴィンだ』

『エルヴィン……。昔、どこかで会いませんでしたか』


『俺は平民騎士だ。貴族の令嬢と相容れることはない。令嬢がこんな戦場に来るものではない』

『見くびらないで! わたくしは実力でこの場所にいるのです』


 :一時険悪となった二人だが、任務をこなしつつ友好を深めていく


『ここでは魔物の被害が多いと聞きました』

『……ああ。特に火竜による被害が甚大なものになっている』

『火竜?』


『赤い鱗を持つ巨大な竜だ。村を襲い、多くの命を奪っている』

『 エルヴィン、どうしたのですか?』

『俺は……必ず、あの火竜を討つ』


『個人的な恨みでも?』

『おまえには関係ない』

『そう。でも、私情で戦うのは危険ですわよ。騎士として、冷静であるべきです』


:遠くの山から、不気味な咆哮が聞こえる。

『グルルルル……』

 突然、画面が暗転。


【火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~】というタイトルが浮かび上がった。


 そのままグランドホールの照明は完全に消される。その間に1枚目のイラストが巻き取られるように外されて、2枚目のイラストが浮かび上がった。再び、イラストだけ照らす明かりが灯される。


「アニマ・メドゥス発動」


 レオンの2回目の魔法が働き、2枚目のイラストが動き始めた。

 200人近く視聴者がいる中、本来のオスカーが作るイラストでは小さすぎて全員が見ることができない。そこで使うのが拡大投影魔法だ。

 

 元々アニマ・メドゥスと平行して使う魔法で作戦立案図を不特定多数に見せるために図を拡大し、大きな用紙に投影をすることができる。

 今回も大きな用紙にイラストを投影することで大きなスクリーンとしてアニメを上映することが出来ている。本来拡大投影魔法は別の魔法使いが担当する予定だった。しかし。

 今回、準備に時間が取れないためリハーサルも最低限だった。絶対に失敗できないためレオンが自ら行うと勝って出たのだ。

 皇子主導のプロジェクトで失敗を犯したらというプレッシャーが発生しては意味がないからである。


「あっという間の5分だったな。見入ってしまった」

「アニマ・メドゥスを使ってキャラクターを動かし、音楽と声を吹き込む。凄い技術じゃないか」


『ガアアアアアアアアッッァ!!!』


「ひぃっ! ドラゴン!」


 :巨大な火竜が現れた、火炎弾を吐き出した。

 :轟音と地響きが世界を揺らしていく


 話はイラスト2枚目の2章へ続いていく。


 :火竜の強襲により砦は火の海となる。

 :エルヴィンは剣を掴み部屋から飛び出す。

 :アデライードもまた鎧を着て部屋を出た


『何事ですか!』

『やっと見つけた……!』

『エルヴィン? エルヴィン! 突っ込んでは駄目です!』


 :火竜を見つけ突き進むエルヴィン。しかし高度があるため攻撃は届かない

 :火竜が口を開く。 喉の奥で赤い光が渦巻く


『みんな伏せてください!』


 :火竜のブレスにより砦の塔が炎に包まれ、石壁が崩れていく


『くそっ!』


 :エルヴィンが弓を使って矢を放つが強靱な鱗を持つ火竜には効果がなかった。

 :エルヴィンは剣を抜き火竜に近寄ろうとする。


『エルヴィン、無謀です!』

『離せ! あれは俺の仇なんだ! あいつだけは!』

『仇……?』


 :火竜が再び口を開く。 喉の奥で光が渦巻く。二度目のブレスが放たれた。


『うわあっ!』

『きゃあっ!』


 :何とか直撃は避けられたものの二人は吹き飛ばされて気を失う。

 :火竜は高く飛び上がり去って行った。

 :騎士団の完全な敗北だった。


 再びグラウドホールが暗転する。


「すげぇ迫力だったな……。俺達ワイバーンくらいしか戦ったことなかったけど、でもあれくらいの迫力あったよな」

「二十年前に別の遠征中隊が火竜と戦ったことがある。想像を絶する戦闘だったらしい」


「音楽も竜の動きに合わせて響いてた」

「エルヴィンが仇って言ってたけど、タイトルの復讐の焔はエルヴィンを指すのか。リボンは当然アデライードだよなぁ」

「うぅ……ドキドキする。早く続きを」


 2枚目のイラストが巻き取られて、3枚目のイラストが表に出た。

 レオンは拡大投影魔法とアニマ・メドゥスを発動し、3枚目のイラストを動き始める。


(今、ちょっと魔法が揺らいだような……)


 ずっとこの魔法見てきたセレスだから気付いたこと。セレスはテーブル席からすっと離れた。


 :夜明け。 炎上した砦。煙が立ち上る。 崩れた壁、焦げた地面。

 :死傷者はかなりの数に昇った。


『ここにはもういられませんね』

『近隣に村がある。そこへ行くぞ』


 :騎士達は近隣の村へと向かう。

 :アデライードが足を滑らせる。


『あっ……』


 : エルヴィンが咄嗟に腕を掴む。


『大丈夫か』

『……ええ。すみません』


 :村に到着したエルヴィン達。村人出迎えてくれた。


『まあ、騎士様たち!どうなさったんです。そんな傷だらけで!』

『火竜に襲われてしまい、手当をしたいのです。手を貸して頂けませんか』

『まぁ凜々しいお嬢さんね。村長を呼んでくれるのでちょっと待ってね』


 :村長のマルタがやってきた。エルヴィンの姿を見て驚く。


『エルヴィン……久しぶりですね』

『ああ……世話になる』

『気にすることはありませんよ。あなたはまだあの頃の……」

『火竜は俺が必ず討つ』


 :夕日が村を染める。 エルヴィンとアデライードは村の外れに座っている。


『……エルヴィン』

『何だ』


『昨日はありがとう。ブレスからわたくしを庇ってくれたでしょう』

『……知らんな』


『わたくしあなたのことを誤解していました」


 :アデライードは俯く。


『あなたはとても優しい人。まだ出会ったばかりだけど、それだけは分かるのです』

『……』

『教えてくれませんか?あなたが、なぜそこまで火竜を憎むのか』


 :エルヴィン黙り込んでしまう。


『気が向いたらな』

『……分かりました』

『あんたそのリボン……ずっと付けているな』

『ええ、思い出のリボンなんです。これがある限りわたくしは戦っていられる』


  :アデライードはエルヴィンの手にそっと手を重ねる。


『アデライードと呼んでください、エルヴィン』

『……アデライード』


 そのまま4枚目、5枚目とアニメの話は続いていく。

 4枚目では村人達との交流が描かれた。貴族のアデライードが慣れない村の仕事に四苦八苦。エルヴィンに助けられる始末。


 さらには水浴びをしている所をエルヴィンに見られてしまい、大騒ぎになってしまった。

 夜は軽やかな祭りが開かれて、着衣を変えたアデライードの姿にエルヴィンは見惚れる。


 村の子供達とお喋りをしながら、場面は5枚目のエルヴィンの過去へと話が進む。

 5枚目は打って変わって重いBGMが流れ始めた。普通の少年だったエルヴィンは家族や友人達と楽しく暮らしていた。

 しかし、火竜の襲撃によって全てを焼かれてしまう。

 強くなろうと決意したエルヴィンは火竜への復讐を誓う。


「ぐすっ……」

「気持ち分かるぜ……」


 騎士達には感情移入して泣いている者達も多かった。

 遠征部隊の平民の騎士の中にはエルヴィンと同じように故郷を魔物によって被害を受けた者もいる。

 そういう意味でのリアリティを騎士達は深く感じていた。これはレオンが現場へ行き、騎士達から話を聞き続けた結果だろう。それを上手くエンタテインメント化している。


(感触は上々のようだな)


 騎士達を近くで見ているレオンハルトはにこりと笑う。

 笑うレオンだったが、額から汗を流しており、息使いもかなり荒い。

 ここ最近睡眠時間はかなり少なく、夜遅くまで調整を行っていた。

 それだけではなく通常通りの皇族の責務も行っていたためレオンは相当に疲弊していた。

 そしてアニマ・メドゥスの最大効果時間である5分の発動。イラストの拡大投影魔法までレオンが行っている。

 魔力に自信があったとしても少し揺らぎが見えてもおかしくはなかった。


(誰が汗くらいは拭いてほしいものだが……側近を別の仕事に行かせたのは失敗だったか。あと3枚。終われば良い。我慢なら慣れている)


 覚悟を決めようとしたその時だった。額の汗、ゆっくりと拭われたのだ。


(誰だ……。このアニメに目を奪われてる中、俺の所に来る人など)


「レオン様、お顔が辛そうです。お飲み物をどうぞ。何かできることありますか?」

「セレス!? どうしてここに。向こうのテーブルでアニメを見ていたんじゃ」


「私の仕事はアニメプロジェクトを成功させることです。だからレオン様のお手伝いに来ました」

「……」


 レオンは感銘を受けていた。皇子という立場、守れることは多いがその立場としては矢面に立つことがほとんどだ。

 心配をするのは自分の役目で皇子たるもの心配などされてはならない。そう信じていた。

 だけど一人の人間としては心配はされたいし、助けて欲しいとも考える。


 レオンはセレスをじっと見つめた。女性は自分の美貌にしか興味のない者ばかりなのにセレスはそれと違った視点でレオンに接してくれる。博識で自分の隣に見劣りのしない美しい女性。

 レオンはセレスを人間性としても好ましく思っていた。


「他にやることはありますか」

「ああ、もう大丈夫だ。……最後の8枚目が発動するまで側にいてもらえないか」

「はい、もちろんです。ごほん」


 セレスが少し咳払いして、レオンの耳元で声をあげる。


「レオン様、ファイトです。私がついてますから」

「っ!」


 理想のヒロインの声にやる気が漲る気がした。6枚目のイラストにアニマ・メドゥスが発動する。


 :村の集会所。 エルヴィン、アデライード、村長が集まっている。

 :火竜を倒すために騎士達は作戦を練っていた。

 :テーブルに地図が広げられている。


『火竜の弱点は腹部だ。でも空を飛んでいる限りそこに到達できない』

『まず、地上に引きずり下ろす必要がありますね』

『……それならあれを使いましょう』


 :村長が村人に用意させたそれは破壊槍と呼ばれる決戦兵器であった。


『あれで翼を打ち抜ければ』

『火竜は飛べなくなる。その時が奴の最期だ』


 :火竜を引きつける役をアデライード。破壊槍を使うのがエルヴィンとなった。


『駄目だ、危険すぎる!』

『大丈夫です。エルヴィン、当ててくれることを信じていますから』


 :その夜、騎士達を追ってきた火竜が村まで迫っている事分かった。

 :最後の戦いが始まる。


 すでに誰もが無言となっていた。最初は口々に感想を言い合っていた騎士達が完全に見入ってしまっていた。

 皆がまっすぐイラストを眺めている。


「いよいよ7枚ですね」

「ああ、最高のイラストと最高のアデライードの演技。見てもらおうか。アニマ・メドゥス発動!」


 :火竜が村の上空を旋回する。

 :村人達は退避して、騎士達が集まり、弓を構えて矢を放つ

 :火竜は火炎弾を吐き出して、村は襲われて、燃えていく。

 :火竜の上空からの襲撃、騎士達は鎧の上から切り刻まれた。


『エルヴィン、わたくし子供の頃、会ったことがある気がします。このリボンをくれたのはきっとあなた』

『アデライード!?』

『立ち向かってみせます!』


 :アデライードは剣を構えて前に出る。


『こっちよ、火竜!』


 : 火竜がアデライードを見る。 燃える瞳。


『グルルルルッ!』

『怖いわ。でも!』


 :エルヴィンの姿が見える。エルヴィンは 破壊槍を構えている。


『エルヴィンの射撃を信じる……!』


 :火竜が完全にアデライードに注意を向ける。 巨大な体が動く。

 :火竜の前脚が地面を叩く。ドォンと大きな地響き、アデライードはよろける。

 :それでも走るのを止めない。 火竜との距離が縮まる。

 :エルヴィンは破壊槍を構えて狙いを定める。


『アデライード……もう少しだ……!』


 :汗が流れ、手が震えている。

 :アデライードは火竜の目の前で立ち止まる。 剣を構える。

 :時が止まったように 音が一瞬止まる。 静寂の世界。

 :火竜とアデライードは見つめ合う。 圧倒的な大きさの差。


『わたくしの名はアデライード・リヒテンシュタイン。火竜よ。頭が高い、ひれ伏しなさい!』


 :アデライードは剣を空へ堂々した佇まいで啖呵を切る。完全に火竜はアデライードしか見ていなかった。

 :火竜が口を開く。 喉の奥で赤い光が渦巻き始める。 小さな炎が見える。


『来る……ブレスが……!』


 :アデライードの顔に汗。 でも、剣を握る手は震えていない。


『まだ……まだよ……!』


 : 熱風がアデライードを襲う。 髪が揺れる。そして リボンがほどけ、風になびく。

 :バランスを取るために火竜の翼が完全に広がった。


『エルヴィン! 今っ!』

『落ちろっ!』


 :ヒュォォォォッ!! 凄まじい効果音と共に破壊槍が光を放ちながら飛ぶ。 空を切り裂く。 魔法の光が尾を引く。

 :火竜がブレスを吐くと同時、アデライードの横を破壊槍は通り過ぎ、 火竜の右翼が裂け骨が砕ける音がする。


  『ギャアアアアァァァァッ!!!』


 :翼が力を失い、垂れ下がる。片翼では飛べない。

 :火竜が地面に向かって落ちていく。


  『アデライード!』


 :エルヴィンが近寄り、アデライードはが立ち上がる。 焦げた鎧は傷だらけ。 でも剣は握っている。


『エルヴィン!』

『腹部を狙う! 行けるか』

『分かったわ!』


 :火竜が立ち上がろうとする。 でも翼が動かない。

 :火竜が口を開く。 至近距離でのブレスだ。

 :エルヴィンが火竜の左側から。 アデライードが火竜の右側から。

 :二人の視線が交わる。 頷き合う。


『今だ!』

『はい!』


 :二人は同時に跳躍。 剣を振りかぶる。

 :二人の剣が、同時に火竜の腹部を貫いた。


『グアアアアァァァァッ!!!』


 :火竜の体が崩れ、 力が抜けていく。火竜の目から光が消える。

 :火竜は倒れ、静寂。

 :エルヴィンとアデライードは火竜の側に立っている。 息が荒いし傷だらけ。 でも立っている。


『倒した……』

『ええ……』


 :二人、見つめ合う。 そして、笑顔。

 :遠くから騎士達の歓声が聞こえた。


『……ありがとう、アデライード。お前がいなければ……』

『私こそ……あなたを信じて良かった』



 7枚目のアニメが終わり、いよいよ最後の1枚となる。

 楽しい時間もこれで終わりだ。レオンは最後のアニマ・メドゥスを発動した。


「セレス。8枚目が終わったらホールの明かりがつく。今の間に席へ戻れ」


 このタイミングでレオンの側にいたら別の意味で騒ぎになってしまう。セレスはその意味を瞬時に理解した。


「分かりました。レオン様、最後まで頑張ってください」

「ああ、後で乾杯でもしようじゃないか」


 セレスはすっと後ろからまわって、座席へ戻った。

 そのまま最後の1枚を眺める。


 :そこは 帝都の王宮。 美しく整えられた庭園。 噴水、花壇、白い石畳で作られていた。


『俺は火竜討伐の功績により、帝都に呼ばれていた。あの戦いの後、村の復興が終わってすぐアデライードは帝都に戻ってしまった。また会うことを約束したのだが会えるだろうか』


 :騎士の正装で庭園を歩いている。 胸元に小さな包み。


『アデライードはあの戦いでリボンを無くしてしまったから……新しいのを用意したんだ』

 

 :庭園のベンチに後ろ姿の女性。 豪華なドレス。 髪に宝石の飾り。


『……エルヴィン』


 :女性が振り返る。エルヴィンはその姿を見て見開く。


『アデライード……!? その格好』

『ごめんなさい。あなたに嘘をついていました』


 :エルヴィンは息を飲む。本当は分かっていた。


『私の本当の名はアデライード・フォン・ルヒトフェルス。この帝国の皇女です』

『皇女だって……そんな』

『リヒテンシュタイン伯爵令嬢というのは母の生家です。父の命令で皇女としてではなく、一人の騎士として辺境を見てこいと言われました』


『そうだったのか。あはは……それで火竜と対峙ってとんだ姫様だ』

『あのリボンを送ってくれたエルヴィンに会いたかったのは事実ですよ。あの戦いで無くしてしまいましたが』

『あんたに渡したいものがある』


 :エルヴィンが包みを開く。 中から美しい青色のリボン。


『帝都に来たらあんたに会えると思って渡そうと思っていたんだ』

『エルヴィン』

『でも皇女のあんたにこんな安物のリボン』


 :アデライードはエルヴィンの手からリボンを取る。


『安物だなんて。これは……あなたの気持ちです。何よりも大切なもの』


 :アデライードはリボンを髪に結ぼうとする。 でも、ティアラが邪魔で結べない。

 :アデライードはティアラを外す。


『皇女の印じゃないのか』

『今はただのアデライードです』


 アデライードの赤髪に 深青リボンが風に揺れる。


『どう……似合いますか?』

『……ああ。よく似合っている』


  アデライード、エルヴィンの手を取る。


『復讐は終わりました。これからエルヴィンはどうするのです?』

『暇になってしまったからな。正直困っている』


『だったらわたくしだけの騎士になってもらえませんか』

『俺は平民だぞ』

『わたくしはエルヴィンにお願いしているのです。あなたに守ってほしい』


 :エルヴィンはアデライードに跪く


『おう。復讐は終わった。火竜を葬ったこの手、皇女殿下を生涯守ると誓う』


 :宮殿のバルコニーから帝都を見下ろす二人。 並んで立っている。

 :アデライードの髪に深青のリボン。 ティアラではなくリボン。

 :二人の手はいつまでも繋がれていた。

 :画面は真っ暗となる。


『火竜討伐記~復讐の焔とリボンの騎士~』

『完』


 グランドホールに明かりが灯る。未だ、全員が呆然としていた。

 マイクを持ったレオンが立ち上がる。


「もう話していいぞ」


 その瞬間。


「おおおおっっ! 火竜戦マジですごかった!」

「アデライードが皇族!? お姫様じゃないか」

「エルヴィンもすごくカッコ良かった!」


 溢れんばかりの歓声がホールの中を響き渡る。騎士達が皆、驚き、騒いでいた。


「それでは余興はこれで終わりだ。諸君達についてはアニメに対するレポートの提出をお願いする。今後のアニメ制作の参考にさせて頂く。それでは最後の言葉をアデライードに言ってもらおうか」


「えっ」


 騎士達が声を発したと同時にアニマ・メドゥスが発動。最後の1枚のイラスト。アデライードが描かれた1枚絵のイラストが動き始めた。


『帝国騎士団遠征中隊の皆様、また会えましたね。アデライード・リヒテンシュタインです。あ、でもアニメ見てくれた方はわたくし正体を知ってくれてるんですよね。アニメ、どうでしたか? 楽しんでくれましたか?』


「めっちゃ楽しかった!」

「アデライード皇女殿下ばんざーい!」


 陽気な騎士達からそんな声が上がる。


「あんな収録してたんだね。僕、知らなかったよ」

「レオン様が最後にやろうって言われて昨日録ったんです」

「本当にギリギリまで仕事してわけね」


『実はこの後、ロビーの方でわたくしアデライードの書き下ろしプロマイドをお売りします。あの、可愛いと思ってくださったら是非買ってくださいね』


 半数近くの騎士達の目がきらりと光る。ここは遠征中隊。女性に飢えた男性騎士達が多い部隊であった。その猛者達は財布を手に取る。


『火竜やエルヴィンのプロマイドもありますのでそちらもどうぞ』


「そっちだったら欲しいかも」

「火竜カッコ良かったよなぁ」


 女性騎士や一部の男性騎士はそちらの方が引かれるようだ。

 同じ席に座る。リディアとジュリアンがしらーっとした目でセレスを見ていた。


「可愛いと思ってくださるって……すごいセリフ吐くわね。あざとい」

「私が考えたんじゃないです! レオン様がこういう脚本の方が男には刺さるって言うから!」


 ジュリアンもリディアも呆れてしまう。レオンもノリノリで脚本を書いたことがとく分かる内容であった。


『それではこれからも騎士のお仕事を頑張ってください。星々輝く大帝国あれ!』

「星々輝く大帝国あれ!」


 帝国の標語である【星々輝く大帝国あれ】をアデライードに言わせ、第1回のアニメ公開は大盛況のまま終わりを迎えた。


 セレスは先ほどの件もあったので姿を隠すように言われ、化粧室の方で時間を潰すことにした。


「そろそろ大丈夫かしら」


 化粧室から顔を出す。騎士達はグランドホールから出てしまっていた。

 そしてロビーの方では大勢の騎士達がプロマイドの購入に大行列を作っていたのだ。


「1枚あたり銀貨3枚。平民騎士のお給料の10%前後ってところかしら。平民騎士なら1~2枚。貴族騎士は恐らく買い占めるでしょうね」


(ロデリック様は購入されたのかしら。ま、あれだけ私の声をバカにしてたから。火竜のプロマイドくらいでしょう)


 プロジェクトメンバー達の所に戻ろうとした時、セレスの名を呼ぶ声がした。


「げっ……ロデリック様」


 考えた矢先にロデリックがやってきたのだ。


「まだ私に何かようなのですか」

「そんな嫌そうな顔をする。セレス、おまえは皇子殿下の招待客と言っていたな。つまりアニメプロジェクトの関係者ということでいいんだな」


 あの時、レオンの招待客という呈でここにいることを知られてしまったためセレスは曖昧に頷いた。


「ならアデライードを演じた演者も知っているとわけだな」

「それは……ってロデリック様、どれだけプロマイドを購入されたのですか!」


 ロデリックの手に持つ紙袋には山のようにプロマイドが入っていた。


「一種あたり三枚購入したからな。全種買わせてもらった」

「随分とアニメを気にいったんですね」


「遠征隊は娯楽に無縁なんだ。無料であれだけのものを見させてもらったんだ。のめり込みたくもなる」

「どうして三枚なのですか」

「遠征に持っていくのが1種。どうしても損傷するから保管用に1種。あとは……予備だな」


 セレスのイメージはこのロデリックという男。かなり不器用で真面目な印象を持っていた。

 女性慣れもしてないのでオデットのような派手でぐいぐい来る女性に滅法弱い。

 つまり目新しいものにのめり込む性格なのだ。


「だがこのブロマイドを見て俺は思ったんだ」


 ロデリックは顔を赤くして続ける。


「俺が好きになったのはアデライードではなく、アデライードの声だったんだって」

「……。……は?」

「さっきからあの声が耳から離れない。俺は多分、演者の声に恋をしてしまったんだ。だからセレスにあの声を誰が演じているのか教えて欲しかった」


(何を考えているんですかこの人。私のことを声が気にくわないという理由で婚約破棄をしておきながら、私が演じている声に恋をした? 意味が分からないし、ふざけている)


 セレスは思わず頭が痛くなり、ロデリックから距離を取ろうとする。


「頼むセレス! 誰なのか教えてくれ!」

「レオンハルト殿下から隠すと言われているのでお伝えできません。皇子の命令です! それが分からないはずがないんでしょう」

「だが! ……。ところであの声に恋をしてからセレス、おまえの声に嫌悪が無くなったんだ。むしろ味があっていいんじゃないかって」


 ぞわわっとじんましんが出てしまうかのように不快な気持ちに襲われる。セレスは全力でロデリックから離れようとした。


「あなたからした婚約破棄でしょう!」

「元々! 声を抜けば家柄も容姿も嫌ではなかった……。声を受け入れてやるから戻って来い」

「いい加減に!」

「セレス、ここにいたか」


 ロデリックの手を払い、レオンはセレスを守るように隠そうとする。


「レオンハルト殿下!? なぜセレスを……」

「気にいらないな」


 突然現れたレオンの姿に特にロデリックは混乱していた。


「え……。アニメ、素晴らしかったです。ブロマイドも買わせて頂きました」

「それは結構。ところでロデリック・アイゼンガルガ。セレスと婚約破棄はしたと聞いていたがまだ付きまとっているのか」


「アイゼンガルガ家が破棄の同意書を止めているせいです。早く進めてくださいと言っているのですが」

「そうか。俺の権限で許可しよう。君達は正式に他人となった」


「ありがとうございます。レオン様」

「そんな! セレスも殿下に対して失礼なことを」


 ロデリックはセレスを問い詰めようとするがそれがレオンの怒りを誘うようで完全にブロックをする。


「婚約者でもないのに異性に対して随分と馴れ馴れしいな。なぁセレス」

「はい、その通りですね」


「殿下もでは……」

「なんだ。俺に文句でもあるのか」

「い、いえ」


 不満の顔を出すロデリックにレオンは険しい顔で睨む。ロデリックは顔を青くさせるしかなかった。


「明日までに婚約破棄の手続きを終わらせろ。でなければ俺が介入する」


 問答無用の鉄血の獅子と呼ばれた男の凄みにロデリックがどうにかできるはずもない。結局セレスを諦めて頭を下げて去って行った。


「さようならロデリック様。今となっては婚約破棄出来て清々します」


 レオンはここからセレスを連れ出し、誰も入ってこないテラスへ向かう。

 ロデリックが完全にいなくなったことでセレスは大きく息を吐いた。


「レオン様、ありがとうございます」

「気にするな。ところであの男、君のことはもう興味がないはずではなかったのか?」


 セレスが聞かれ、げんなりをした顔をする。


「私の声が原因で婚約を解消したはずなのにアデライードの声に恋をしたみたいで演者の正体を知りたいと押しかけて来ました」

「そんな馬鹿な話が存在するのか?」

「本当にそう思います」


 レオンですら不可解すぎて動揺してしまう。

 セレスは先ほどの会話を思い出し、またため息をついた。


「それでどうだ。今日の上映会、君の思っている通りだったか?」


 レオンのにこりと笑う。吸い込まれそうなほど綺麗な金色の瞳に見つめられセレスは何を考えているか考えた。そして思い出したのだ。自分の声のこと。

 嫌いでたまらなかったこの声がいつの間にか苦で無くなってしまったこと。

 今日、あれだけの人がセレスの声を賞賛してくれたのだ。


「……レオン様の言うとおりだったと思います」

「それなら良かった」


 セレスは胸に手を当て、笑顔で答えた。


「とても嬉しかったです。生まれて初めて自分の声が好きになれた気がしました!」



◇◇◇



 二人、夜空を見上げる


「ふわぁ……。さすがに眠い」

「今日はお休みになった方が良いのでは……」


 レオンはほぼ連日徹夜で作業を行っていた。

 皇子なのに誰よりもアニメについて働いており、皇族として公務も行っていた。


「そうしたいが1時間後には騎士団長と会談があってな。まだ帰るわけにはいかない」

「これからですか……。だったら」


 今いるテラスはまわりからは死角なっておりどこからも見えない。

 そしてちょうどおあつらえ向きなベンチもそこにはあった。

 セレスはそこに座って、手招きをする。


「レオン様が不快でなければどうぞ! い、一時間測っておきますので」

「……」


 レオンは目をぱちくりとさせ、やがて優しく笑みを浮かべた。


「悪いな。じゃあ寝かせてもらおう」


 レオンは軍服のまま、ベンチに腰かける。そのままセレスの膝に頭を乗せた。


「私、太ももが太いので寝心地が良いと思います! ぐっ」

「なんでそんな悔しそうに言うんだ……。だが……心地良い」


 レオンハルトはあっという間に眠ってしまった。やはり相当疲れていたのだろう。

 セレスは起こさないように、ゆっくり眠れるようにレオンの金色の髪を撫でた。


「……っ」


(顔が険しいわ。嫌な夢を見ているのかしら。だったら」


 セレスは大きく息を吸った。


 ◇◇◇


 レオンは夢をよく見る

 皇太子として生まれ、次期皇帝として教育を受け続ける日々。

 成人してからは大きな責任を持って公務に当たっていた。

 そんなレオンの心の安来が物語を描くことだった。そして思うままにストーリーを描いていると夢に理想のヒロインが現れるようになっていた。

 今のレオンの目標は理想のヒロインであるステラという少女を現実で表現すること。

 そのためにイラストをかけるオスカーや理想の声を持つセレスを手元に置くことができた。


 あとは……その日が来るの待つだけ。

 そして今日も夢を見た。いつもの物語性に富んだ夢。

 レオンは夢の中の少女に出会う。桃色髪でストレートの長さを持つ……美しい。


「レオン様、大丈夫です。私がいつまでもあなたの側で声を出し続けますか」

 

 セレスと出会ってからステラに声がついた。夢の中なのに声がついたのだ。

 そして今日、姿もくっきりと見えてきた。


(ステラの姿がこの目に……)


 でもそれは想像とは違っていた。

 栗色のワッフルヘアを持つ彼女。ふわふわな髪が印象的でいつも笑顔が輝かしい子。


(セレス!? なぜ彼女がそこに。理想のヒロインのステラは……。ああ、そうか)


『私の仕事はアニメプロジェクトを成功させることです。だからレオン様のお手伝いに来ました』

 

(理想のヒロインならすぐ側にいるじゃないか)

(俺はとっくに理解していたのだな。セレスが理想なヒロイン(ステラ)であることを)


 突然、レオンが起き上がった。


「わっ! レオン様どうされたんですか。寝心地悪かったでしょうか」

「……夢を見ていたんだ。そこでセレスの声が聞こえた」

「あ、聞こえちゃいましたか。何だか恥ずかしいですね」


 セレスは恥ずかしそうに頬を染める。夢の中での声は間違いなくセレスで間違いない。


 レオンはセレスの両肩を掴む。


「セレス、俺は君が好きのようだ。君こそが俺にとっての理想のヒロイン。この気持ちを伝えたかった」


 それははっきりとした告白だった。セレスこそが理想のヒロインだと確信したゆえの言葉だろう。

 帝国一の美青年といっても愛の告白をする方に慣れているわけじゃない。レオンは少し体を震わす。

 そしてセレスの返事の声を聞いた。


「ありがとうございます。あ、一時間経ちましたね。では私はこれで失礼しますね」


 セレスは足早とその場から去ってしまったのだ。一人残されたレオンは何を思うか。


「……あれ?」


 正真正銘後先考えない告白であった。皇太子と子爵令嬢。そんな立ち位置も考えない愛に振り切った告白にセレスは微笑むように笑顔を見せるだけだった。


「あれ……。俺はもしやフラれたのか。いやそんなはずは」

 

 レオンは落ち込み、次の仕事に支障が出る。

 だが真実はそうでは無かった。セレスは真っ赤な顔をして施設を走っていたのだ。


「~~~~~~!」


(もうレオン様ったら私の声が好きって言うはずが、声のワードを抜かすんだからびっくりしたじゃない!)


 そう、レオンはセレスの声が好きだと言い続けたせいか。セレスの脳内において勝手に補完をしてしまっていたのだ。

 ゆえに先ほどの告白は声が好きだと言われたと勘違いしたらしい。


「レオン様は理想のヒロイン(ステラ)が好きなわけで……。勘違したら駄目」


 すでに理想のヒロインであるステラが自分自身になっていると思ってもみなかった。

 つまり完全にすれ違ってしまっているのだ。


「でも言い忘れだとしても好きって言ってくれたのは嬉しかったな」


 自分の声に居場所をくれたレオンをセレスは慕い、愛情を持つ。

 爵位の立場もあるので表だって距離を縮めることはできない。でも……。


「レオン様の好きな声であり続けるために……もっと頑張ろう」


 そしてレオンもセレスが立ち去ったテラスで覚悟を決めた。


「セレスを絶対に手にいれる……。そのためには!」


 第一回公演を終えて、新しい道へと進んだ。

 翌日関係者一同は集まる。


「次のアニメはどうされるのですか? あれだけ大盛況ですし、明日の新聞はもしかしたら」

「今回は報道関係を遮断したんだ。だから口コミ以上には広まわらないと思う」

「それはどうしてですか?」

「本当に大盛況になるかは半信半疑だった。帝国人が時代についてこれない可能性はあったからな」


 アデライードを使って販促を行おうとした時、セレスは引かれませんか? と質問をしたことを思い出す。もし時代についてこれず、アニメなんて認めないという風潮だったらどうなっていたか。


「ついてこれなかった場合は……」

「アニメプロジェクトを十年凍結することも考えた」

(大盛況で良かった!)


 だが実際は大盛況で終えた。この結果をもってレオンは皇帝陛下に報告を行う、第二次上映に向けて動き始めることになる。


「次回作は決まってるんですか?」

「ああ、基本的に作品というものはターゲットに向けて作ることが多い。今回は男性が9割いる帝国騎士向けだったため火竜を出し、アデライードという評価を得やすい美少女を出した。だが次回作は違う。今度は帝国上にアニメの名前を知らしめる作品とする。そうなった時、帝国の流行は誰か作ると思う?」


 そこでセレスは考える。今回は男性向けの作品だったと言えるだろう。

 流行を考えていなかったから凝った作風で心にガツンと来るようなものをレオンは作り上げたと考える。


 帝国の流行。帝国の最先端と言えば


「貴族の女性向けということですね。帝国の流行は彼女達が生みます。帝国楽劇も彼女達の支援あってのものですから」


「さすがだな。今回が身分差冒険譚ものであれば、次作はロマンスラブだ。複数人のヒーローを出して、主人公との恋愛を楽しむ」

「いいですね! 私、ロマンス作品大好きです」


「嬉しく思っていいが。ラブロマンスである以上主演は女性になる。つまり、今度の作品の主人公はセレス。君になる」

「……え。ええええっ!?」


 今回は主演をジュリアンを譲っていたため気軽にやれていたが次回作は主演がセレスであることがここで決定してしまった。


「セレス、第二回上映界を大成功させてアニメを帝国が象徴にするものにしていこう。手を貸してくれ」

「もちろんです! レオン様の願いを……私の声で成し遂げてみせます!」


 セレスは名優の道を今、駆け上がり始めたのであった。

読了ありがとうございます。ここまで長くなるとは思わなかった。

アニメという題材を異世界恋愛ジャンルに当てはめたらどうなるかということから生まれた作品です。

かなり楽しく書けました。

ちなみに第2回は三角関係ものになるでしょう。主役の女主人公をセレスが演じ、片方のヒーローはジュリアンが。もう片方は……。

そういえばセレスは七色の声を持つので青少年レベルの声なら出せるのです。女性声優をイメージしてますからね。つまりそういうことです。


では今回はここまで。

連載版もありだなと思っているのでもし良ければ応援頂けると嬉しいです。

ブックマーク入れて頂けると連載版出した時に把握しやすいと思います。


本作を気にいって頂けたのであればブックマーク登録や下側の「☆☆☆☆☆」を「★★★★★」にして頂けるとそれが一番の作者に対する応援となります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ