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前編

 帝都で有数の格式高いレストラン『ラ・コロンヌ』。

 天井には豪華なシャンデリアが輝き壁には帝国の歴史を描いた絵画が飾られている。

 貴族たちが社交の場として利用する由緒ある店だ。


 セレスティア・ハルモニアは遠征から帝都に戻った婚約者を出迎えるためにドレスを新調し、髪を丁寧に結い上げ、彼との再会の食事を心待ちにしていた。

 今日という日のために何日も前から準備をしてきた。


 今日の夕方に『ラ・コロンヌ』で会おう。そのような手紙を送られてきたからだ。

 先に入店したセレスは婚約者であるロデリック・アイゼンガルガ子爵令息が来るのを待っていた。

 そしてようやく現れたロデリックにセレスは明るく声をかけた。


「お帰りなさいませロデリック様」


 精一杯の言葉にロデリックの表情は一瞬歪む。


「……相変わらずの声だな」

「え……」


 セレスの困惑と同時にロデリックの隣から女性の声が響く。

 セレスの笑顔が固まった。


「まあ、ロデリック様。お疲れでしょう?」


 鈴を転がすような澄んだ美声。

 まるで清流のせせらぎのような透明感のある声。


「オデット……?」


 セレスは目を見開いた。

 目の前の令嬢はオデット・ヴェルナー。

 貴族学院時代からの友人だ。

 セレスは子爵令嬢でオデットは男爵令嬢。

 セレスより格下の家柄ではあったが二人はウマが合い仲が良かった。


「どうしてオデットが?」


 嫌な予感にセレスの声が震える。


「貴族騎士の慰労会でロデリック様と仲良くなったのよ。ねえ、ロデリック様?」

「セレス」


 ロデリックが重々しく口を開いた。レストラン中の視線が集まる。


「正直に言わせてもらう」


 ロデリックは周囲を意識しているのか声を大きくした。


「君の貴族の品格が感じられない声を聞くたび耳が腐りそうになる」


 はっきりとしたその言葉にセレスの頭の中は真っ白になってしまった。


「学院時代から作ったような声って馬鹿にされたものね」


 挑発するようなオデットの言葉だったがそれは全て事実だった。

 セレスは生まれつき声にコンプレックスを持っていた。

 子供のように甲高く、耳触りな声。子供の頃から貴族院を出るまでずっとその声で苦労してきたのだ。

 しかしオデットはいつもその横で。


「セレス、あなたの声は個性的で素敵よ」

「気にすることないわ」


 と励ましてくれていた。そんな彼女が今目の前でセレスを辱める。


「ロデリック様は私のような清らかなで気品のある声色が好きなのよ」


 オデットは澄んだ声を上げロデリックに寄り添う。

 ここ帝国ではオデットの声のような凜々しく綺麗な声が尊ばれる傾向にある。

 ゆえにセレスの声は受け入れられなかった。


「同じ子爵家同士。君は容姿も作法も申し分なかったが……とにかくその声だけは耐えられなかった」


 子爵家のロデリックと婚約が決まってからそれなりに時間は経ち、何度も交流を重ねてきたがいつもそんな気持ちだったのか。

 セレスは愕然としてしまう。


「婚約は解消させてもらう」


 ロデリックの言葉が、セレスの意識を引き戻す。

 セレスはテーブルを叩いて立ち上がった。


「急にそんな話をここでするなんて!」


 大声を上げてしまいレストラン中の視線が集まることになる。

 その声に周囲の貴族たちがざわめいた。


「何、今の声……変じゃない」

「婚約を破棄されたみたいでだけど……あの声じゃなぁ」

「あの声で通りが良すぎるなんて……男の気持ちも分かるもんだよ」


 セレスの声を馬鹿にするような言葉に顔から火が出そうになるほど恥ずかしかった。


「令嬢としてもう少しまともな声は出せないのか?」


 ロデリックはぶっきらぼうに言う。そんなこと言われなくて分かっていた。

 だが地声を変えることはできない。セレスは歯を食いしばって婚約者の言葉を耐えた。


「可哀想に……」


 オデットが慈悲深そうに首を傾げる。


 その表情、その仕草、学院時代にいつも見ていた優しい表情。


「セレスあなたは辛かったわよね。ずっとその声で」


 対するオデットの声は完璧に美しかった。

 帝国で最も美しい声を持つと言われる演者を模倣して鍛えているだけはあった。


「あたし、ずっと思っていたの。セレスは本当に可哀想だって」


 友人として励ましてくれていた、あの言葉。

 それは。


「生まれつきあんな声だなんて。きっと毎日が辛かったでしょう。社交場でもずっと壁にいて、だって品の無い声をまき散らすわけにはいかなかったから」


 同情ではなく見下しだったのだ。


「ロデリック様のような素晴らしい騎士にはそれに相応しい女性が必要なの。分かるでしょう?」


 セレスは立ち上がる。


「……わかり、ました」


 セレスはやっとの思いで声を絞り出した。その声も震えている。


「婚約破棄をお受けいたします」


 立ち上がろうとして足が震えた。そのまま動いたため椅子にぶつかり、グラスが倒れる。

 水がテーブルクロスに広がる。


「大丈夫よセレス」


 オデットが優しく声をかけた。


「きっとあなたにも良い出会いがあるわ。そんな声でも受け入れてくれる方がいたらの話だけどね」


 その言葉が最後の一撃だった。

 セレスは震える足でレストランの出口から外へと出た。

 余りの悔しさに涙が出て、貴族など関係なく足早くこの場から逃げ出してしまった。


(ロデリック様もオデットもみんな私を見下してたんだわ)


 声にハンデがあるため社交場でも上手く交流できず活躍できそうになかったこともあり、父に頼んで領地のことを学んだりして自分に出来ることをたくさん増やしたつもりだった。

 遠征任務で家を留守にしがちなロデリックと結婚してからは支えようと思っていたのに…。

 セレスは涙を浮かべ夜の帝都の貴族街を逃げるように走った。


 生まれつきの声。

 変えられないこの声。

 全貴族から馬鹿にされるほど悪いものなのだろうか。

 気づけば足は隠れ丘へ向かっていた。


 帝都の貴族街には自然公園の区画がある。その奥には知られていない秘密の場所があった。

 衣服が汚れるから貴族達が近づかない草原だ、


 セレスは貴族院時代からこの場所が大好きだった。

 ここでなら誰にも声を聞かれない。誰にも声を馬鹿にされない。


「もう……もう嫌……!」


 セレスは思い切り叫んだ。


「どうして……どうして私の声はこうなの!」


 月明かりの下小動物たちが心配そうに集まってくる。

 リスが小鳥が野うさぎが。


 この子たちはセレスの声を嫌がらない。

 むしろ喜んで寄ってきてくれる。


「ねぇみんな聞いてくれるかしら!」


 セレスは地声より少し低めの大人の声で話しかけた。


「私ね、今日ね婚約破棄されちゃったの。しかもレストランでみんなの前で」


 今度は甲高いまるで幼女の声で話し出す。

 セレスは側に寄るリスを両手に持ち上げた。笑顔だが涙の跡の残る目尻が光る。


「それでね。友達だと思ってた子に裏切られたんだ」


 今度は少年の声だ。高さを維持しつつも声色を変化させる。


「大丈夫、私は平気だよ」


 嘘だった。

 全然平気じゃない。


「どうしたらいいのかねぇ」


 今度は老いた声で野うさぎに話しかける。

 そして最後にそれらの変化を解き、地声を披露した。


「あなたたちは私の声を嫌いにならないわよね。私を裏切らないわよね」


 セレスは地声を誤魔化すためにたくさんの声色を何年も練習してきた。

 幼女の声も少年の声も老婆の声も大人の女性の声も、どんな声でも出せるようになったがベースとなる地声は変えることができず、その声に皆、笑い蔑む。


 最後にオデットの言葉を思い出した。


(きっと、あなたにも良い出会いがあるわ。そんな声でも受け入れてくれる方がいたらの話だけどね)


 セレスは立ち上がり、大声を上げる


「そんな人いるわけないじゃない! 私の声なんて……誰も好きになってくれない」


 涙がまた溢れてきた。その時だった。


「その声を探していた!」


 男性の声が響く。

 突然の声にセレスは飛び上がるほど驚く。

 振り返り、見上げると木の上に男性がいたのだ。

 その男性は満面の笑みを浮かべ、木の枝から落下し地面に落ちた。


 セレスの目の前に男が倒れ込む。


「だ、大丈夫ですか!?」


 咄嗟に駆け寄って、そして凍りついた。


 月明かりに照らされた顔。金髪と印象的な金色の眼で整った顔立ち。思わず見惚れてしまうほどその顔は美しかった。そこで……セレスはその顔に見覚えがあった。

 社交場で遠くから何度か見たことがある。


 それはシュテルネンライヒ大帝国。第一皇子、レオンハルト・フォン・シュテルネンライヒ・アーデルライト。

【鉄血の獅子】の二つ名を持つ戦場で無数の敵を屠った冷酷非情の皇子であった。


「さっきまでサボリで木の上で眠っていたのだが、複数の声が聞こえた。もしや君が」


 月明かりで眠る皇子をセレスは起こしてしまったのだ。

【鉄血の獅子】の眠りを妨げることは不敬に値するに違いない。セレスは恐怖で足がすくむ。

 そして思わず大声を上げた。


「人違いですぅぅぅ!」


 セレスは走り出し、レオンハルトの前から走り去っていく。

 そのあまりの早さにレオンハルトは見送る。


「聞き間違いか……? いや、そんなはずはない」


 その表情に大きな笑みが浮かんでいた。


「ようやく見つけたぞ。俺のプロジェクトに相応しいヒロインの声の持ち主!」


 レオンハルトと出会ったことでセレスティア・ハルモニアの名優への道が今開かれる。



 ◇◇◇



「……セ、セレスお嬢様!」


 翌朝、セレスの部屋に屋敷で働くメイドの一人が飛び込んできた。


「あ、あの……。乗ってきた馬車に皇室の紋章が描かれていて、レオンハルト皇子と名乗っているんですが」


 その言葉にセレスは血の気が引く思い感じた。勘違いだ。そんなはずがない。でも本当だったら。すぐに身だしなみを整え、ハルモニア子爵家、帝都別邸の屋敷で一番大きい客間へと向かう。


「大変お待たせ致しました!」


 セレスが大きな声を出して突入した。

 本来貴族としてあるまじき行為だが、一刻も早く応対をしなければまずいことになると考えていた。


 ソファに腰かけていた。大帝国皇子レオンハルトは軽く手を挙げる。


「こちらも早朝に面会の約束も無く来たんだ。気にしなくていいさ」

「つ、つまりそれは」


 セレスはぞっとした表情を浮かべ、即座に跪き頭を下げた。

 突然の行動にレオンハルトは動揺する、


「昨夜は不敬な対応を申し訳ありません。私の命だけでどうか! ハルモニア家の命はどうか……。連座だけはお許しくださいませ!」

「君は何か勘違いしてないか。はぁ……帝都での俺の噂がこういう形で広まっているのか」


 3ヶ月前に周辺国との戦争で総司令官でありながらレオンハルトは最前線で戦い、多くの敵を刀で葬ったという。

 無表情のまま敵を斬り、血で軍服を濡らす所からついた二つ名は【鉄血の獅子】

 冷酷非道という噂が帝都では広まっていた。それは畏怖と強さの象徴として次期皇帝の器を示していた。


 膝をつくセレスは見上げるとため息をつくレオンハルトの姿が見える。


(帝国一の美男子と噂されるだけあって、ため息一つも魅力的だわ)


 元婚約者であるロデリックも顔立ちが良く女性人気が高かったが、レオンハルトはその比ではない。

 レオンハルトの鍛えられた引き締まった体。高い鼻筋 、切れ長の目 、端正な輪郭 、薄すぎず厚すぎない唇。完璧すぎて現実の人間とは思えない美しさだ。

 冷酷非道であってもその美しさは帝国令嬢から高い人気を誇る。


(だから遠くから見てる分には嬉しいんだけど……)


 こうやって相対すると冷や汗しか浮かばない。セレスには家族に被害が及ぶことだけは避けたかった。


「俺は君に害するつもりで来たわけじゃない。ハルモニア家は派手さはないが、着実な経営 で領民からの信頼が厚いから皇家としても評価しているんだ」


 レオンハルトか口からハルモニア家の評判を綴られる。


「改めて話をしよう。セレスティア・ハルモニア。君には俺が起こすプロジェクトのメンバーになって欲しい。その誘いのためのここへ来た」

「私がですか。ですが私には特別な力など。貴族院も無難な成績で卒業しましたし」

「君のその声。それがプロジェクトの大きな武器となる」

「声!? なるほど、そういうことですか」

「どうやら分かってくれたようだな」


 話がまとまったとレオンハルトは安堵するがセレスの瞳から大粒の涙がポタポタと流れ始めて状況は一変する。


「ど、どうした」

「私のような変な声は生物兵器として好都合ですもんね。分かりました。帝国令嬢として敵を倒す兵器となります」

「その使い方は想定してなかったが考慮しても……いやないか。人道的で無い」

「婚約破棄の原因の声ですから敵の百人や千人倒して見せます!」

「婚約破棄!? 何を言っている」


 レオンハルトはセレスに落ち着くように言って、ごほんと1度咳払いをした。


「君と俺で認識の齟齬があるようだ。仕方あるまい、昨日に初めて会ったわけだからな」


 レオンハルトは立ち上がり、柔和な笑みを浮かべて手をセレスに差し出す。

 その背中に華が広がっているようで思わず見惚れてしまいそうであった。

 次の言葉もまたセレスの感情を大きく揺さぶることになる。


「セレスティア。明日、俺に付き合ってくれないか? 君と今後について話をしたい」


 翌日の13時、セレスは指定された住所へ向かう。

 そこは帝都中心部、貴族街の一角。

 伯爵家以上の上位貴族の邸宅が並ぶ所だ。そのほとんどがハルモニア子爵家の王都の屋敷よりも大きい。


「ここね」


 到着したのはやや小さめのアトリエ。住所はここで間違いない。

 ヴィンターフェルトのアトリエと書かれている。


「ヴィンターフェルトは侯爵家よね。でも」


 セレスは侯爵家以上の家柄も全て頭に入っている。

 上位貴族を知らないというのは無礼に値するからだ。アトリエがあるということは芸術方面に秀でた家柄なのかもしれない。


「レオンハルト殿下もこちらにいるのかな」


 屋敷の者に声をかけ、中に入ったセレスだがたくさんの部屋があってどこかが分からない。

 手始めに一番大きな部屋へ入ってみる。


「わぁ」


 そこにはたくさんの絵画が置かれていた。

 自然と共に人物絵が中央に描かれており、今にも動きだそうだ。

 しかしセレスは違和感を覚える。


「どの絵も凄く上手だけど、一般的な絵画と違う気がする」


 一般的な絵画とはグラデーションが豊富で質感と素材感を細かく表現されている。

 また輪郭線を色の変化で表現しているのがセオリー。

 だがこの絵画は境界線がはっきりと書かれており、陰影の回想も少ない。

 輪郭線もあって、ベタ塗りが均一となっている。

 女性が書かれているが人物にしては目が大きく、顔立ちが幼く見えた。


「そこで何をやってる」

「ひゃい!」


 部屋の中に入ってきたのは茶色の髪を持つ壮年の男性だった。ひげ面ではあるがちゃんと整われていて汚さを感じない。

 四十代くらいだろうか。威厳の中に美しさを感じる顔立ち。赤の瞳に力が宿っているように見える。ただ若干濁りがあるようだ

 男性は声を上げた。


「私の絵を見ていたのか」

「はい……。ということはあなた様がこちらの絵を」

「ああ」


「素晴らしい絵画だと思いました。まるで今にも動き出しそうなほど躍動感を覚えます。私、この絵画が好きです。あ、申し遅れました。私、ハルモニア家令嬢、セレスティア・ハルモニアと申します」

「……オスカー・ヴィンターフェルトだ」


「オスカー様。お会いできて光栄です。この絵画は」

「絵画ではない。私はイラストと呼んでいる」

「イラスト! 良い言葉ですね」


 濁っていたオスカーの瞳から邪気が消えていくようだ。


「殿下が言っていた……。ふむ、耳は確かなようだ」

「オスカー様?」

「セレスティア。来てくれたのか」

「レオンハルト殿下!」


 部屋にひょっこりとレオンハルトが顔を出す。

 その姿にセレスの表情も朗らかになる。


「オスカー卿。セレスティアの件、構わないか」

「ええ、私は絵を描き続けるだけですから。部屋から出てくれ」


 オスカーはバタンと扉を閉めてしまう。

 そのままセレスとレオンハルトは閉め出されてしまった。


「あの……私、何かまずいことをしたでしょうか」

「気にしなくてもいい。オスカー郷は昔からあんな感じだ。むしろ喜んでいるように思えたが、何か言ったのか?」

「今にも動き出しそうなほど素晴らしいイラストと率直な気持ちを述べました。不快に思われたのであれば後で謝罪を」


 セレスは心配そうな表情を浮かべたが、レオンハルトはにやりと笑うのみだった。

 レオンハルトはセレスを連れて奥の部屋と向かう、


「セレスティア。ここに来てくれたということは俺のプロジェクトに興味を持ってくれたと思っていいか?」


 セレスは軽く頷いた。それにレオンハルトは朗らかに笑う。

 レオンハルトは一枚のイラストを取り出しそれをボードに貼り付けた。


「オスカー様が書かれたイラストですね」


 先ほど見たオスカーが描いたイラストと同じタッチで今度は男の子が書かれていた。

 目は大きく、線もはっきりしている人物絵だが笑っているのだろう。感情が非常に分かりやすく描かれていた。

 レオンハルトは手を翳し、魔力を籠める。


「ーーー」


 レオンハルトの声と同時にイラストが光り始めたのだ。

 すると絵画の中の人物が動き始めた。


「嘘っ! イラストの中が動いて、人が……なんで、えっ!?」


 準備体操をするように体を動かしていく。

 それだけではない。イラストの中の風景が立体に奥行きがあるように見えて、まるで動画のように時間が流れ始めたのだ。

 セレスはありえないことに混乱してしつつもその動画を食い入るように見てしまう。

 人物が歩き、走り、飛び上がるのだ。そして最後に目の前のセレスと目が合った。


『またお会いしましょう』

「喋った!」


 棒読みではあったが確かに動画の中の男の子が喋ったのだ。

 そうして魔法は解かれて、再び動かぬイラストへと戻る。


「殿下、これはいったい……」

「俺がやろうとしていることがここに詰まっている。セレスティア何か分かるか」


 イラストの中の人物が動き出すなんて普通じゃありえない。

 そんなの聞いたことも……。セレスは頭の中で考える。絵画の中身が動く、そういえば軍隊経験のある兄が言っていたことを思い出した。


「もしや【アニマ・メドゥス】ですか」

「っ!? まさか知っているとは思わなかった。君は聡明だな」

「はい……そのち、近いです」


 当てられたことに驚いたのかレオンハルトはセレスの両肩を掴み、声を上げた。

 帝国一の美男子が至近距離まで近づかれたらさすがのセレスもびっくりする。


「ああ、すまない。そう、アニマ・メドゥス。この魔法を使ったんだ」


 帝国の創作魔法の一つである【アニマ・メドゥス】

 一言で話すなら画像に命を吹き込んで動かすことができる魔法だ。


「この魔法は戦時下で使うために開発された軍隊魔法の一つで作戦図にこの魔法をかけることで部隊の動きを動画化することができる」


 魔法を使う者のイメージが反映される仕組みとなっている。

 動画化することにより味方部隊の動き、包囲の流れが動いてみえるため軍隊が作戦を視覚的に理解することができる。

 複雑な作戦も視覚的に理解できることは言葉が通じない他国の傭兵部隊にも伝達が可能となる。


 それだけではない。

 戦闘の様子を見た従軍画家がスケッチして魔法を使うことで後に再生し、分析や訓練に使うことができる。

 大帝国の戦闘の強さはこの【アニマ・メドゥス】によるものであることが大きい。


「この魔法自体は十年以上前から存在するものだ。俺はこの魔法を戦闘だけに使うべきではないと思ったんだ。もしかしたら新しい興業も使えるんじゃないか」


 レオンハルトは指をイラストの方に向けた。


「俺がやろうとしているプロジェクト、大衆向けの興業。その名も」


 セレスは聞き入っていた。レオンハルトがやろうとしていることが理解できたからだ。

 自分の役目、役割もおそらくこれだろうと理解した。


「アニマ・メドゥス劇。略して【アニメ】。セレスティア。君にはアニメの演者として出演してほしい」


「アニメっ! それが殿下の目指す新たな興業なのですね」

「ああ、オスカー郷が描いた絵画であるイラストを魔法で動かしていく。中の人物の声を演者が吹き込むのだ」

「さっきの男の子の声、もしかして殿下がされたのですか?」


 セレスに問われ、レオンハルトは恥ずかしそうに頷く。


「あれは試しだ。俺は演技の才能はないからな。棒読みで悪かったな」

「言ってませんよ!?」


(でも恥ずかしがってる殿下、可愛い)


 これが本当に【鉄血の獅子】の姿なのかと思うくらいセレスがレオンハルトと打ち解けていた。

 アニマ・メドゥスの魔法は発動者のイメージで動くことになるため、アニメの監督、脚本はレオンハルトが行う予定となる。


「皇子としての御仕事もあるのに、脚本まで……大丈夫なのですか?」

「もともと俺は脚本作りが趣味みたいなものだ。皇帝からも戦争が終わったら皇位継承まで自由にしていいと言われたからな。かなりの時間を我慢したんだ。これからは自由にやらせてもらうさ」


 レオンハルトが違うイラストをボードに貼り付けた。

 そこには親子だろうか。二人の女の子と一人の母親らしき姿がある。


「これもオスカー侯爵が描かれたイラストなのですよね。このイラストも今にも動きそうです」

「セレスティア。このイラストに君の声を吹き込んで欲しい。やれるか?」

「私がですか!? でも私はどこにでもいるただの貴族令嬢で」

「そんなことはない。今日一日君と話していて確信した。君の声は俺の想う理想のヒロインに相応しい」


 声のことを言われてセレスはドキリとする。

 彼女の人生は声に振り回されたと言ってよい。

 子供染みて声は令嬢には相応しくない声、高音で甲高い、耳触りな声。不自然で作り物といわれ貴族の品格が感じられないとも言われたのだ。

 小さい頃から貴族院に入るまで。そして婚約破棄。全て声が絡んでいた。


「私の声にそのような力があるわけが……」

「ある! あの月明かりの夜、仕事を放り出してあの丘の樹の上で休んでいた俺は運命を感じたのだ。あの声の持ち主であるセレスティア。俺には必要だ!」


「でも!」


 セレスは大声を上げる。皇子に対し不敬であることも理解している。しかし言わずにはいられなかった。


「子供染みて、令嬢には相応しくない声と言われました」

「違う。愛らしく人を惹き付ける魅力のある声だ」


「高音で甲高い、耳触りな声とも言われています」

「唯一無二の声、この世に二つとない特別な声だ」


「不自然で作り物の声とも言われました」

「表情が見えなくても感情が伝わってくる。声に命が宿ったと想っている」


 全てを否定し、セレスの声を肯定するレオンハルトの言葉に救われたような気がした。

 セレスは最後にこう呟いた。


「私、この声が原因で婚約破棄もされて、貴族院時代からの親友に絶縁をされました。そんな私の声を信じられないんです」

「そんな奴らよりも俺を信じてくれ。帝国の皇子である俺が君の声をヒロインにしてみせる」


 ここまではっきりと帝国皇子の名を使ってまでセレスを望んでくれていた。

 セレスの目尻には涙が浮かんでいる。今まで受けて来た屈辱が晴れていくようだった。


「分かりました。演じるのは三人分ってことですよね。できるでしょうか」

「あの丘の上で君は小動物に語りかけてたじゃないか。何て言ったっけ」

「わー! 止めてください! 見られてるって分かってたらやりませんでした」


 婚約破棄された憤りを丘の上で小動物に語りかけて晴らしていたのだ。

 まさかレオンハルトに聞かれていたとは思わず、セレスは顔を赤くして後悔する。


「たくさんの声色を練習して出せるようになりました。でも意識しないと地声が出てしまうので実生活には役に立ちませんよ」

「だがアニメには役立つだろう。君の努力をこのイラストに吹き込んで欲しい」


(殿下は本当に褒めるのが上手。そんな風に言われたら頑張ってしまいたくなる)


 セレスは軽く、声を調整した。


「これが台本だ。イメージして欲しい」


 レオンハルトから渡された台本の中身を読んでみる。

 一般的な貴族の屋敷の中でお話だ。二人の姉妹の令嬢とその母親との会話劇となっている。


「殿下が書かれたのですね。文才があって凄いと思います」

「趣味だからな。偽名だが大衆向けの本として出したこともあるんだ。バレた時はかなり叱られたがな」


「是非とも読んでみたいです」

「機会があれば持っていこう。じゃあ、アニマ・メドゥスを使うぞ。イラストに向けて喋ってくれたらそのまま録音されるよう設定している」

「分かりました」


 セレスは台本を持って、イラストの前へ立つ。

 レオンハルトがアニマ・メドゥスを使うとそのイラストが動き始めた。


 色のついた成人女性と二人の娘に命が吹き込まれたように動き出したのだ。

 セレスは息を吸った。


『お母様、質問してもいいですか!』


 イラストの動きに合わせて、セレスは声を上げた


(姉妹の妹、イリアと名付けた、社交デビュー前の十四歳という設定。まだ幼いからかなり声色を高くしているな)


 レオンハルトはセレスが声を吹き込む様子を後ろで眺めていた。

 台本として家族のお茶会を想定した内容となっている。


『イリア、教養は繰り返して身につくものよ。それより姿勢。背筋を伸ばして』


(母親役は二人の子育てをする夫人設定。イリアの声から一変して声色の重さが増した。セレスティアは十九歳と聞いていたな。それなのにこの声の重量。よほど練習したように思える)


『アリア、来週の園遊会の準備は大丈夫かしら』

『はい、ですがあまり気乗りしなくて……。噂話ばかりだと困ります。はぁ』


(姉の方はアリアと名付けた。これは地声に近いな。声色のスイッチもスムーズ。初めてなのに演技も上手い。棒読みでもないし、感情も乗っている。これは予想以上かもしれんな)


 最初は辿々しい所があったものの、終盤はスムーズに声色を変え、台本の内容を読み上げた。

 そして最後の台詞。


『さて、夕食の前に少し休みましょう。お父様もお帰りになるわ。食事を楽しみましょう』

『はい」

『は~い!』


 母親の声に姉妹が高い声色で応じる。

 そうして魔法は効果は消え、動いていた3キャラは再び絵に戻った。


「ふぅ……」


 セレスは大きな声を吐く。

 レオンハルトが目線をあげ、セレスに飲み物とハンカチを差し出した。


「ありがとうございます! あ、汗……出てたんですね」

「演技に入り込んでいたようだった。演技経験は無いと思っていたが」

「目の前のイラストが動いているのが楽しくて熱が入ったんだと思います。何より楽しかったです」

「そうか。他に感想はあるか」


 レオンハルトの問い、セレスはうーんと考える。


「動きに合わせて口を合わせるのが難しく感じました。ワンテンポ遅れてしまう所がありますね。目印のようなものがあれば分かりやすいと感じます。あとは息継ぎですね。どうしても母から姉、姉から妹に声を返る時に息継ぎが必要になるので」


「なるほどな。前者は魔法の構築を考えてみる。後者は編集でどうにかなると思うが、いずれは演者を増やして対応したいな」

「複数人で収録できれば解決しそうですね」


 レオンハルトはイラストを回収する。セレスはそんなレオンハルトの様子をじっと眺めていた。


「殿下はその……どうしてアニメ企画を始めたんですか? もちろん帝国のためというのは分かるのですが、何か強い想いが無いと企画を立ち上げることはできないと思うんです」


 セレスの言葉にレオンハルトは大きく目を開き、微笑んだ。

 よくぞ聞いてくれた。聞かれたかったという含みのある笑みである。

 そんな笑みにセレスの目は泳いでしまう。


「そうだな。帝国のためというのは確かに方便だ。俺はアニメを通してやりたいことがある」

「やりたいことですか?」


「俺は昔から夢を見るんだ。辛かった時、困った時、泣きそうになった時に決まって同じ夢を見る」

「殿下にもそんなことがあるんですね」


「あるさ。最近は力ずくで捻じ伏せることが増えたから辛いことは無いかもしれん」

(鉄血の獅子なのだから当然よね)


 レオンハルトはにこりと笑い、話を続けた。


「夢の中で少女がいつも微笑みかけてくれる。その子と出会った時、俺は幸せになれるんだ。桃色のストレートの髪の女の子。その夢で彼女は喋るんだがどうしても声が聞こえない。どんな声か分からない」


 レオンハルトは続ける。


「俺にとっての星。その少女の名をステラと名付けた。俺はどうしてもステラと出会い、ステラを感じ、ステラの声を聞きたかった」


 レオンハルトは思いの丈を吐く。セレスはそんな様子にどこか遠くを感じる。


「そんなモヤモヤをしている時にオスカー卿のイラストを見たんだ。ほどよくデフォルメされ、顔立ちがすっと入るような気がしてな。ステラの姿をそこに見いだしたんだ」


 同時期レオンハルトはアルマ・メドゥスの魔法を何かに利用できないか考えてた時期でもあった。

 それを組み合わせてオスカーのイラストを動かしてステラを動かそうとしたのだ。

 これがアニメの始まりと言える。


「そういう話だったのですね。殿下は夢じゃなくて、アニメでステラに出会おうとしたんですね」

「ああ、だがオスカー卿でもまだ想像上のステラと完全一致したイラストは生まれなかった。ここは辛抱強く待つしかないだろう。予想外の嬉しいことがあったんだ」


「嬉しいことですか?」

「ああ、イラストができるよりも先にステラの声と出会った。想像のステラに声がついた。セレスティア。君の声とマッチしていたんだ」


「わ、私ですか!?」

「君の声と出会ってから、ステラの声が聞こえるようになったんだ。オスカー卿がステラのイラストを描けるようになれば現実の世界でステラと会うことができる。だからセレスティアには俺の側にいて欲しい」


 あまりに大胆な言葉にセレスティアの顔が赤くなる。

 セレスティアに求めているのはステラの声というのは分かっている。

 だけどそこまで直接に言われて、照れないはずがない。相手は帝国一の美男子だ。


「改めてヒロイン役をやってくれないか?」


 そう言われて否定などできるはずがない。セレスはこくりと頷き、レオンハルトは笑った。


「俺はこれから君のことをセレスと呼ぶ。そして俺のことはレオンと呼んでほしい」

「え!?」


 いきなりの愛称で呼ばせることになり、セレスは慌ててしまう。

 自分は子爵令嬢で相手は皇族。セレスにできるはずがない。


「さぁ。呼ぶんだセレス」


 眼前に近づかれ凄まれてしまう。セレスは観念した。


「レオン様……」

「様もいらないぞ」

「無理です! お父様やお兄様に怒られてしまいます!」

「そうか。ふっ、俺を愛称で呼ぶ女性は家族を除けばセレスだけだ。俺の想いを覚えておいてくれ」


 とんでもない愛の言葉にセレスは顔を真っ赤にさせてしまう。


(レオン様はきっと私の声を肯定してくださっているんだわ。でも!)


 ここまで歯の浮きそうな言葉を投げかけるとは思わなかった。

 セレスは口が緩んでしまいそうになるのを我慢する。


「お、お手洗いに!」

「戻ったら一階の客間に来てくれ、セレスを皆に紹介する」


 耐えられなくなり、立ち上がった。

 セレスは化粧室へ行き、心を落ち着かせる。

 恥ずかしい気持ちがありながらも嬉しい気持ちが収まらない。

 婚約者だったロデリックにもここまでの気持ちが浮かんだことはなかった。ロデリックが内心セレスを見下していると分かっているからだ。


 ただ一つだけ胸にしこりとして残るものがあった。


(もし私よりステラに相応しい声が現れたら……。もしくは同じような容姿の人がいたら)


 あの口ぶりからセレスはピンク髪のストレートの髪の女性の代替に過ぎない。

 セレスは栗色の髪でふわふわのワッフルヘア。レオンの想像のステラには似つかない。


(捨てられる前に離れた方がいいのかな)


 セレスは大きく横に首を振った。


(私に求められてるのは声の演技。どんな事情だとしても皇子殿下の期待には応えなければならないわ。そもそも子爵家の時点で王族と関わりなんてそう持てるものではない)


 セレスはパチンと頬を叩いた。


「これはビジネスの関係。そう思えばいいんだわ」


 例えレオンの想い人が新たに現れたとしてもプロジェクトに成功を導けるなら無残に捨てられることはない。

 ロデリックとは違う。セレスはそう考えた。

 化粧室から出たセレスは指示された部屋へとノックし入る。そこはレオンとオスカーだけでなく、若い男性と女性がそこにいた。

 レオンハルトはセレスに座るように指示する。


「殿下、彼女が例のヒロイン役を演じる令嬢ですか?」


 セレスより2歳ほど年上の若い男性が声を上げる。


(わぁ……すっごく良い声だわ。重厚感があって、心の奥底まで届く男性ボイス。耳が幸せになりそう。そうだ。挨拶しなきゃ)


「セレスティア・ハルモニアです! 宜しくお願いします」


「殿下、良い声の方を見せつけましたね。リディアと言います。アニメの音楽を担当しているわ」


(綺麗な人だわ。アニメには音楽必須だから……この方が。殿下と親しそうだけどもしかしたら)


 リディアはそっとセレスの耳元に声かける。


「わたしは既婚者だから安心して。そんな不安そうな顔しちゃだめよ」


 目線でバレていたようで恥ずかしさで顔を赤くさせてしまう。


「僕はジュリアンです。セレスティアがヒロインを演じてくれるんだね。僕が主役を演じることになると思うから一緒に頑張ろう!」

「は、はい! 宜しくお願いします」


 レオンハルトはセレス、オスカー、ジュリアン、リディアを見渡す。

 このメンバーが主要メンバーらしい。監督、脚本をレオン。セレスがヒロイン。ジュリアンがヒーロー。イラスト作成をオスカー。そして音響をリディア。こういう形となる。


「全員揃ったな。よし本日をもってアニメ上映プロジェクトを始動とする。第一回公演は騎士団本部のグランドホールで行う。対象は帝国騎士団、遠征中隊。再来月に帝都に戻ってきて、任務を終えた慰労会をその時に行うのでその余興でアニメを放映致する予定だ」


「遠征中隊!?」

「セレスティア。どうしたの?」

「な、何でもありません」


 ジュリアンに問われセレスは慌てて取り繕った。


(ロデリック様は遠征中隊所属だわ。確か遠征任務があったはず……。慰労会に参加されるのかしら)


 セレスは複雑な想いをしながら話を聞いていた。

 そして……騎士団慰労会当日となる。


 ◇◇◇


 帝国騎士団とはシュテルネンライヒ大帝国を守る騎士のことで、遠征中隊はその中の一部である。

 広い国土を持つ大帝国では複数の遠征部隊を持っている。

 今回慰労会の対象となるのは魔獣討伐を専門に行う遠征中隊だ。セレスの元婚約者であるロデリックがそこの隊員でもある。

 魔獣は事あるごとに出てくるため遠征中隊は絶えず出動していることが多い。今回の慰労会のメンバーのつかの間の休みの後、再び遠征任務があるという。


 そして場は帝国騎士団本部、グランドホール。

 200名は収容できそうなホールに関係者含め150名が勢揃いしていた。

 今日は皆、軍服に身を包み、丸テーブルに着席をしていた。

 時刻は夜18時定刻。慰労会は開始された。


『遠征中隊隊長より開会の挨拶を行って頂きます』

「ふぅ、何とか間に合いましたね」

「ええ、最後の方は特に慌ただしかったわね」

「あはは……。まさか最後の3日なんてほぼ徹夜だったもんね」


 セレスはジュリアン、リディアと共に丸テーブルに腰かけていた。


 今回セレス達は慰労会の招待客という扱いでここに参加している。アニメの演者、関係者であることは伏せられていた。

 8人テーブルに一緒に座っている令嬢、令息も事情を知っている関係者である。


「レオン様もかなり疲れてましたね」

「いきなりオスカー様がこのイラストが気にいらん、描き直すとか言うからよ」

「イラスト描き直した時点で収録全部やり直しになるもんな。でもいいのが出来上がって良かったよ」


「まさか1時間前まで調整する羽目になるとは思わなかったわ」

「緊張しなくていいと思ったのに別の意味でドキドキだったよ」


 小さな声ではあったが3人は盛り上がっていた。

 一番先頭のテーブルではオスカー、軍の幹部が座っていた。


 事情を知らない者からすればなぜオスカーがいるのか不明だが侯爵貴族相手にそんなことを聞けるはずもなく、鋭い目を持つオスカーと目を合わせないようにするので精一杯だ。

 そもそも帝国騎士団の団長が伯爵位なので尚更ともいえる。オスカーは礼服に身を包んでいた。


『今回、遠征中隊の話を聞きたいということでレオンハルト皇子殿下が来てくださるそうです。公務で遅れてるようですが、来られたら是非挨拶を。乾杯』


 乾杯が開始されて、観覧の時間となる。


(ロデリック様はやはりいるのね……。それよりなんで……)


 セレスには気がかりの人物がそこにはいた。そしてその人物と目が合い、にやりと笑う。


(オデット!)


 ロデリックとオデット。因縁と呼べる二人がいたのであった。



後編に続きます。短編予定だったのですが合計3万文字超えしたのでさすがに分けました。すみません。

後編は19時過ぎに投稿する予定です。楽しんで頂けると嬉しいです。


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