Movement"Leave Japan"part4
サブタイトル『Movement"Leave Japan" / 日本離脱』
パート4
「嘘、嘘よ! こ、こんなこと……」
「こっちにはこっちの事情があるんだ。しかも今は相当気が立っててな……。
正直なところ、こっちは多勢。相手は少数だ。どう考えても勝ち目はこっちにある。
ザコ共の死傷は当然としても……勝ったも当然だろうが。」
「ぐぅ……なんてひどいことを!」
宮ノ小路。
唯一。唯一の正常な人間の集まりともいえるこの団体の司令塔。
たった一つ。しかし、まぶしいほどの希望の光に満ち溢れていた宮ノ小路。
その光が風前の灯と化し、率いる団員も……
完全に、その役目を終えようとしていた。
命尽きる日はまだ先の事でも、希望を目指す目の煌めきはもう微塵もない……。
「……そもそも、お前どうして俺たちが戦場にいないってわかったんだよ。」
「…………。」
宮ノ小路は、ついに心が折れた。 絶望の淵に立たされている。
宮ノ小路が彼らの不在に気付いたわけではない。気づいたのは側近の一角を担う
『九条 荘子』による密告だ。だが、それも無意味……
ふらふらと立ち上がり、部屋を出ていこうとする宮ノ小路。
4人はそれを止めなかった。
壁伝いによろめきながら進む。
戦場を見渡せる能力者部隊との合流地点にまで行く途中で、絶望の淵、
真っ暗な未来しか浮かばないところに一筋に光が浮かぶ。
閃き。奇跡。
先程の4人の会話を思い出す。――――どう考えても勝ち目はこっちにある――――
「高嶺……ッ!」
最後の希望。唯一の光。
彼女、高嶺の出生の秘密を知る者は少ない。高嶺は団員からも隠されていた。
部屋の移動すらも制限され、挙句教育者もしぼられて育った。
しかし、行動そのものが稚拙だとは言い切れない。
生まれながらにして知性を持ち、理性を持って生まれた高嶺はやはり常軌を逸した
性能の持ち主。能力に置いてもその差は歴然だという推測もなされた。
勿論、高嶺は戦線には出ていない。三鷹 道介がそれを許さないはず。
問題は、乗り切った後にどうするか……。
高嶺だけは、絶対に死なせるわけには……!
一方、三鷹と高嶺のいる察知部隊では…
「三鷹……無事だったか。」
「北山! 戦線は大丈夫だったのか?」
「俺は宮ノ小路様のそばにいたからな。それより、大変だ……」
「何か、在ったのか?」
「側近が4人死んだ。東条、九条、広幡、院ノ宮が……」
「死んだって? どうして?」
「幽一行のやつらがやりやがった……。戦線で戦ってるやつらが全員じゃなかったんだよ。
科学者ポイ奴ら4人がそこそこと一室に隠れてやがった。」
「な……! 何やってるんだよ!」
「状況はひどい。だが、宮ノ小路様だけは無傷……何か考えがあるのは間違いない。」
「お前は高値と一緒に隠れてくれ。危険だ……。」
「あ、ああ!」
高嶺の手を引いて、三鷹は場所を移動する。
「これで、よかったんだ……。」
彼はあの時、同じ場所にいた。敢えて最初に部屋に入らず、用心深く
部屋の外で様子をうかがっていた。そういう算段だった。
しかし、一瞬にして側近4人が同時に始末される。
足がすくむ感覚。宮ノ小路がふらふらと立ち退く姿を見る事しかできなかった。
そして、戦場では――――
「ハァ、ハァ、 …行ける。」
幽はつぶやいた。女側は渾身の一打を受け、戦慄してやや動きが緩慢な男側。
緩慢だから分かる。背に隠した左手。……何かしようとしている。
「あっちの男からつぶすぞ! 何かやろうとしてる!」
いっせいに周囲の目が向けられるフラーウィンド。
その判断は正しい。ジュミネイは今、打撲で動く事が出来ない。
ゾンビの回復力といえど、時間はかかる。始末は後からでも遅くはない。
「行けぇええぇええええええええ!」
もはや、誰の声かもわからず、ただ指令に従って動く。
フラーウィンドは思わず能力の使用をやめ、回避体勢に入る。
しかし……
「うらぁっ!」
ガッ 矛の一打が方に決まる。
「イギッ! 」
大きな損傷こそない感触。だが、鈍い痛みを蓄積させているだろう。
いよいよ勝負が決しそうな時、奥から声が発せられる。
「出番だ、エーシックス! 奇襲をかけて敵戦力をつぶすのだ!」
「うヴぉおおおおおおおおおおおおおお!」
咆哮が響く。伝わる悪意。
怪物が再び動く!
「構うな、まず確実に仕留めろ! 怪物はそれからだ!」
渾身の連続攻撃。いよいよ怪物が来たところで、幽が特攻を仕掛ける。
先程の威圧の影響が大きかったのか、途中で止まり、間合いを取る。
そうして幽が稼いでいる間に、敵の命の終わりは迫った。
「仕留めたぞ! 次はだれだ!」
「怪物から仕留める! 余った人員は奥の奴か、女を!」
狂ったように戦うのが戦場。それが、いまできる最善の行動!
叩け! つぶせ! そして勝て!
怪物も引けを取らざるを得なかったようだが、いよいよ終幕。
幽を意識するあまり、後ろに回った九の攻撃を直で受けてしまう。
「よおぉぉぉし!」
追撃でさらに攻撃。頭部の殴打。そしていよいよ力が抜けて動かなくなったところを見て、
幽は思い切り足をけり上げた。
ガッ 放物線を描き、飛ぶ。エーシックスすらも手のひらで踊らされているような現状。
「女を始末したぞ!」
敵勢は強者といえど、もう3人も削った。
後は2人。
どうする……。
もう、こちらも疲労しきっている。
能力どころじゃない。疲労感で上手く使えない。
ここからが正念場だって言うのに!!
「あぁー、そろそろ行った方がいいな。」
「戦場に?」
「まーな。恐らく幽頼りっきりだろ。幽が崩れたら皆も崩れるんじゃないかって思ってよ……。」
「……相手が研究者組だけなら、我々が出陣してもいいんですけどねぇ。
ザコが壁になって操作されたら面倒なことこの上ない。」
「美鈴なら、一瞬で首をはねれるけど?」
「不安なら、視察してきますかね? 美鈴もつれて、都合がよければ助太刀。これがベストでしょう。」
「仕方ないなぁ……美鈴、いざというときはよろしくね。」
「はい、弥栄様。」
動く。4人の奥の手が、動く。 戦場に終止符を打つ格好の好機が訪れようとしていた!!




