14 『ちびまる子ちゃんの慣用句教室』『ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに』
「私、知り合いのママさんたちから本について相談を受けることがあってね。お子さんの国語の点数が悪くて、本を読みなさいと言っても響かなくて…というような相談時に紹介していたのが、この本」
表紙には、まる子ちゃんと友だちのタマちゃん。開いてみると、一ページごとに、一つの慣用句があって、それが入ったコマ漫画と説明文があった。
「とりあえずお子さんには漫画のところだけ読んでもらってと説明して貸し出すの。で、しばらくすると国語のテストの点数が良くなったと報告されることが多かった。とりあえず漫画だけ、というので気持ちのハードルが低くなるみたいで。読んでもらえればわかるけど、わずか、3コマ4コマで、ちゃんと慣用句の意味がわかるギャグが入ってる」
「へええ」
「著者は小学校の国語教育が専門の先生だって。絵の方はご存知、ちびまる子ちゃんの作者。この人の言葉の使い方が上手いなと思っていたんだけど。
文章が読むのが苦手な子や、わかる言葉がまだ限定的な小学生と関わる先生と、言語センスが良い漫画家との組み合わせを誰が考えたか知らないけど成功だと思うのね。他にも四字熟語や諺がテーマのバージョンが出版されているの。
マリちゃんとミヤコちゃんにはもう必要ないかもしれないけど、復習で読むのも良いし家庭教師のバイトをする時には役にたつと思うので紹介しました」
いくつかの漫画を読んでみて、つい吹き出した。
「彩子さん、この本、私が小学生の時になぜ教えてくれなかったんですか?」
「だって、もうマリちゃんには必要ないかなと思ったし…」
「本当に、わかりやすい。なぜだろう?」
ミヤコちゃんの感想は私と同じだ。
「この場合、キャラクターの表情や動きで喜怒哀楽が見て取れるというのが大きいんじゃないかと思う。わずかなコマ数で、これだけの情報量。しかも面白い。最初は親に渡されてイヤイヤ読みはじめた子たちが笑いながら何度も読み返してたって」
「すごい効果!」
「そうだね。小学校の国語は知ってる言葉が多ければ多いほど、理解がすすむことがあるみたい」
別の一冊を手にとる。けっこう厚い。
「こっちは、ナイチンゲールの伝記ですね?」
「そう。特に、クリミア戦争以降、報告書のあたりが私は好きでね。統計図表が素晴らしいと思うの」
「統計図表? そういう話ありましたっけ?」
小学生の時に読んだ伝記の記憶だと、クリミア戦争時の病院の様子が酷くて、ナイチンゲールは病院環境を改善したという。ざっと、ページをめくってみる。
「彩子さん、この本、文字が多い。漫画なのに…」
「『看護教育』 という専門雑誌に連載された漫画をまとめて本にしたもので、看護を教える先生たちが読む雑誌だそうだから、大人向けに描かれていると思う。でも、二人なら読めるんじゃないかと思って…」
「…ええ、読めますけど。これは時間がかかりそう」
「そうだね。あっ、その本、二人で読んでて。私はちょっと荷物を作るから」
彩子さんは隣の部屋に入っていった。ガタゴトと音がし始めた。
荷物作りと言っていたけど…。
気になるけど、ミヤコちゃんと肩を並べて、ナイチンゲールの自伝を読み始める。
冒頭は、小学生の時に読んだ話と重なった。裕福な家庭の生まれで、勉強が大好きで、看護婦になりたいと思ったけど親に反対され、それでも諦めなくて、ついには看護婦となり…。が、クリミア戦争の従軍から帰ってきたあとの話は知らないことが多い。見たこともない図が出てきた。
彩子さんに話を聞こうと顔をあげたところで、隣の部屋から彩子さんが包みを抱えて出て来た。
「お待たせ。今、どのあたり?」
「クリミア戦争から帰ってきて、改革に乗り出したところで、見たこともない図が出てきて。これがさっき彩子さんが言ってた図?」
「そう、それ」
彩子さんは、抱えていた包みをテーブル近くの床の上に置いた。
「ナイチンゲールは、その時代の女性としては最高の教育を受けられたことは、マリちゃんが読んだ伝記にも書いてなかった?」
「ありました。お父さんがお金持ちで教育を受けられて、ナイチンゲール自身も勉強好きだったって」
「その学んだことの中に統計学があって、軍人の死因が、戦いそのものよりも、負傷して担ぎ込まれた病院が不衛生で感染症等で死に至ってしまっているのをわかりやすく伝えようとしたのが、その統計の図なんだ」
「へええ」
「私が子どもの頃に読んだ伝記にはそういったことが書いてなくて。この『ナイチンゲール伝 : 図説看護覚え書とともに』を読んだ時は本当に衝撃だった。作者はお医者さんなんだって」
「え!? この漫画を描いた人が?」
「そう。現役のお医者さん。プライベート時間にせっせと描いてて。その本以外もいくつか作品があったと思う」
「…すごい」
「まずはこの二冊をお母様に見せてみて。マンガを紹介する前に学習漫画はいかがですかという提案。あとね…。よいしょ」
彩子さんは、さっき隣の部屋から持ってきた荷物をテーブルの上に置いた。
紙袋はきっちりとガムテープで梱包してあった。その上からリボンが結ばれている。
「これはね、これまで高校生以上の人にしか貸してこなかった漫画。少女向け雑誌でも、ちょっと大人寄りの雑誌に連載されていたの。このリボンをハサミで切らないと中身は出せないようにしたので、お母様に直接渡して内容確認してもらって下さい。こういうやや大人向けも紹介して良いですかって」
「…彩子さん、そこまでしないとダメ?」
「私は、ミヤコちゃんのお母様を直接知らないから。確認しながら話をすすめた方が信頼を得られると思う。せっかく解禁になったのに逆戻りは嫌でしょ?」
ミヤコちゃんがコクコク頷いている。
「〝石橋を叩いて渡る〟んですね?」
「そういうこと。ちなみに、この作品は〝これも学習マンガだ!〟のサイトでも紹介されています。あと、ひとつ。強力情報として、NHKで連ドラ化もされましたって伝えてみてね」
「わかりました」
関連図書
・川嶋優『ちびまる子ちゃんの慣用句教室(満点ゲットシリーズ)』集英社 2002.10
・茨木保『ナイチンゲール伝 : 図説看護覚え書とともに』医学書院 2014.2
関連サイト
・「学習マンガのひみつ」国立科学博物館
https://www.kahaku.go.jp/tenji-event/nid00001118.html (アクセス日:2026/7/4)
・「ナイチンゲールと統計」総務省統計局
https://www.stat.go.jp/naruhodo/15_episode/episode/nightingale.html (アクセス日:2026/7/4)
初版 2026年7月4日




