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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
少女の祈り ーPrayー

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手記75

※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。

苦手な方はご注意ください

「お願い、ですか?」


「はい……」


 この人達にも事情があるのだから、マゴマゴしている暇はない。


 それに、どうしても見過ごせないんだよ。


「オレの……友達の……いえ、皆の遺体も連れていって貰えませんか……?」


 近藤くんとナギさんや、青木くん、武田くん、山岸さんに、佐藤くんだけじゃなく、クラスメイト皆をこのままになんてしておけないんだよ。


 無論柴田や、森田も、あんな形で相対する事にはなってしまったけれど、だからって打ち捨てていいだなんてオレには思えない。


 勿論、樋口さんだって……


「遺体の回収……ですか……」


「ふむ……」


 オレの提案に、ツルギさんとラグナさんは足を止めてこちらへ振り返り、悩むような仕草を見せる。


 やっぱり、難しいのだろうか?


 そりゃ、何処の馬の骨とも分からないガキを弔う義理なんて、この人達に無いのは分かっちゃいたけどさ……


 二人の思い悩むような表情を見て、オレの中に半ば諦めに近い感情が湧いた直後だった……


「そうだな……よかろう。俺はこやつを拘束せねばならぬ故、手は貸せないが……ツルギ、工作の為に玄関で待たせている若衆を、半分程連れてゆけ。」


「分かりました。あの石室の爆破を試みる手間がなくなりましたし、そのぐらいの時間はありますからね。」


 ……何故かラグナさんが大きく頷くと、ツルギさんもそれに倣って言葉を続ける。


 ば、爆破……さっき言ってた刻印の破壊は、石室を吹き飛ばすって意味だったのね。


 思っていたより大分過激な手段だな……いや、それは置いといても……よかった……


「本当に、貴方様はお甘い……その者達は、オニですよ?捨ておけばよいものを……」


 勇気を出して正解だったとオレが安堵する中、クレイが突然オレを睨みながら、ラグナさんへ忠告をする。


 その様子は負け惜しみなどとは違い、どうやら諫言混じりではあるようだが、ヤツからはカルマが一切感じられないが為か、どのようなつもりで言ったのかオレの力でも分かりそうにはなかった。


「ふん!貴様らのような外道と、俺を一緒にするでないわ!それに、この小僧らをオニだとしたならば、俺達はどうなる?俺達も、人と獣を掛け合わせたオニとなるではないか。」


 た、確かに……言われてみれば、オレ達がオニなら、獣人達もオニと呼べるのか……


 そんなクレイの言葉には耳を貸すつもりがないらしいラグナさんが言い返すと、クレイは眉を顰めつつ言葉を続ける。


「……はて?その駄犬から聞いておられないのですか?」


「何をだ?」


「この出来損ない共は、まともな手段で生み出された訳ではないが故か、実験で二週間以上正気を保った者がおりません。だからこそ私は、御身を案じて捨ておけと申し上げているのですよ?」


 ヤツの特性が故か意思の流れが読めない為、言葉の真偽を確かめられないにも関わらず、見てきたモノの所為でヤツの発言が真実であると、オレは直感で理解すると共に、自分の行末にも先は無いのだと分かってしまう。


 そ、そんな……あの時クレイが言ってた二週間って、そういう意味だったのかよ……


 じゃあ、やっぱりオレも長くは……


「知らぬとでも思うたか?そのような話、とうの昔にツルギから聞いておるわ。それゆえに知って尚、構わぬと言っておるのだがな?」


 ……って、はぁ!?


 いやいやいや!!いいわけないだろ!?


 いつ暴れ出すのかも分からない危険人物を自ら招き入れるとか、豪胆どころの話じゃねぇって!!


「そういう訳です。クレイ……貴方が何を言おうと、我々の結論に変わりはありません。」


 ツルギさんまで!?


「……後悔致しますよ?」


「くどい!……それにな、半信半疑であったが……俺もこの小僧を見ていて、オババの神託とやらを信じてみる気になっただけだ。」


 二人が一向に考えを改める様子が無いからか、ますます険しい表情を浮かべるクレイに対し、ラグナさんは声を荒らげたのちに、何故かオレに視線を向けてそう呟く。


 オババ?神託?


 オババって、アズサさんが言ってたオババ様……の事?


 にしても、神託とは……?


 頼むから、もうちょっと分かるように話してくれないかなぁ……?


「さぁさぁ、マサトくん。グズグズしている暇はありません。クレイの事はラグナに任せて、私達は行きますよ。」


「えっ?ええっ?」


 ツルギさんも、ラグナさんも……本当に、それでいいの……?


 オレ、いつおかしくなっても不思議じゃないんだよ……?






 まるでクレイからオレを引き剥がすかのようにして、ツルギさんは狼狽するオレの腕を掴むと足早に玄関へと向かい、先程アルマ達を預ける際に声を掛けた獣人達へ何かの指示を伝える。


 するとそのうちの半数が、いつの間にか玄関先に積み上げていた木箱を片付け始めた。


 なるほど、アレは爆薬か何かが詰まった箱か。


 しかし、本当に吹き飛ばすつもりだったんだな……


「では参りましょう。お友達の居場所は分かりますか?」


 慎重かつ迅速に、木箱を近くにあった荷馬車へと積み込む様をオレが呆然と眺めているうちに、残りの人員に指示を出し終えたツルギさんが、オレへ声を掛ける。


 分かると言えば分かるけれど……とはいえ、結構バラけてるのだよね……


 斎藤、柴田、清水さん、君嶋さん達五人に……昨晩殺害された高橋くん、南くん、中村さん辺りの遺体は、多分兵舎の地下にあるだろうから、まだいいとしても……


 残りは……殆どがこの半日の間に亡くなってる為にそれぞれの部屋にいるしで、全部案内するとなると結構手間取りそうだな。


「えっと……兵舎の地下の霊安室に、多分……オレ達を世話してくれていた獣人の人達を含めて十人以上と……他にも、館の中の至る場所で……」


 館の方は近藤くん、ナギさん、青木くん、武田くん、山岸さん、佐藤くん……それから、小川、宮坂、白石さんと早瀬さんに加えて、久我達二人……か。


 あとは、地下の森田と……庭にいる、樋口さん……


「分かりました。逃げ出したらしい首魁の捜索もありますので、半数は兵舎の方へ回しましょう。何か資料が残っているかもしれませんからね。館の方は、マサトくん……辛いとは思いますが、案内をお願いします。」


「は、はい……いえ、それより首魁って……」


 道案内は勿論するつもりだけど……それより、こんな危険な場所に首謀者が居たって事?


「ああ……首魁は適当でありませんね。どうやら序列そのものは末端らしいですし……ただ、都市国家連合側でこの実験を主導した者の為、首魁と呼んで差し支えはないと思いまして……」


 つまりは、現場責任者ってヤツか……ん?それって、もしかして……


「トーマ……ですか?」


「はい。ですが、奴は館に残っていた同胞達を我々に対しての肉の盾として利用した挙句、当人は形勢が不利になった途端、逃げ出すような卑怯者です。捜索は慎重にせねばなりませんが、恐らくは既に付近に居ないと思われます。」


「肉の盾……」


 さっき言ってた人質とは、そういう事か……えげつない真似しやがる……だから、館に居た世話係の人達が居なくなってたのね。


 というより、最初の二日以外アイツの姿を見なかったけど、ずっとこの館に居たんだな。


「周囲を少数とはいえ包囲しておりますので、抜け道なりなんなりを使ったのだとは思いますけどね。」


「なるほど……」


「まぁ、ヤツらの事は我々にお任せください……それでは、行きましょう。」


「はい。」


 気にはなる上に、思う所がある話でもあるが、既に逃げてしまっているのであれば、オレに出る幕はない。


 今は他のやるべき事をやろう。



 


 そうして、オレはツルギさん達と共に、再び皆の部屋を巡り始めるのだが、玄関からオレ達が生活していた区画へと向かう途中、ふいにオレの中に後悔ともつかない感情が湧き始める。


 ……半日前は樋口さんや武田くん達と、無事な人達をまとめようと必死だったっけな。


 それが、正しい事だと信じてもいたんだ。


 でも、誰一人守れなかった上に、樋口さんをこの手で……


「マサトくん?」


 つい彼女の事を考えてしまった為に、思わず足を止め、自分の手についた血を見つめてしまうと、オレが急に立ち止まったからか、ツルギさんが心配そうな様子でオレを覗き込む。


 ……今は、考えちゃダメだ。


 まずは、生き残ってしまった責任を果たそう。


「すみません……大丈夫です……」


「……そうですか。」


 ツルギさんも何か言いたそうだけど、今は……



 その後、一番手前の通路の突き当たりで位置のわかりやすい久我達の部屋や、森田の部屋に居る小川、地下に居る森田、正面の庭の樋口さんについては口頭で場所を伝えると、ツルギさんの部下らしき人達は足早に方々へ散っていった。


 まぁ……久我達の部屋へ向かった数名は、通路に入った途端に、汚物の臭いが漂っている所為で一瞬狼狽えたのが見えたのだけは、ちょっと可哀想だとは思ったな……一応、伝えてはいたのだけどさ。





「此処に、四人……いえ、五人います。そのうちの一人は、世話係だった人です。」


 そうして森田の部屋や久我達の部屋の次に、オレは青木くん達の部屋へと向かうのだが、この部屋には青木くん達と山岸さんの他にも、佐藤くんに殺害された世話係が居た事を思い出し、その旨を伝える。


「この部屋……かなり濃い血の匂いがしますね。」


「えっ……?」


 すると、灯りを手にしたツルギさんが表情を曇らせつつ、不吉な事を呟いた。


 血の匂い……?


 確かに、山岸さんや青木くん達は出血してはいたけれど……


「この部屋は、見ない方がいいです……此処は彼らに任せて、次に参りましょうか。」


 だが、オレの困惑を他所に、ツルギさんは部下に指示を伝えると、オレの手を引いて次の部屋へ行く事を促す。




 ……これは後で聞いた話だが、どうやら部屋の中の遺体のうちの一体だけ、拘束された上に見るも無残な程に損壊されたが為か、部屋中が血の海だったそうだ。


 恐らく、その遺体は佐藤くん……だろうな。


 拘束に関してなら、佐藤くんに襲われかけた直後にオレと樋口さんで行ったモノだけれど、殺害の方については森田が佐藤くんは念入りに懲らしめたと言っていたのだから、間違いないと思う。


 尤も、それは次に訪れた宮坂の部屋も同様で、ツルギさんはこちらも見ない方がいいと言っていたから、彼も恐らくは……


 



 そんなこんなで、オレはそのふた部屋の遺体を確認しないまま、残る部屋のうち先に白石さん達の部屋を訪れる。


「次は此処です。」


 彼女達に関しても、森田の証言のみで実際に生死は確かめてはいないから、生存は絶望的ではあるものの、一縷の望みを託してオレは扉を開けた。


 だが……


「……なんと惨い……」


 ……荒れ果てた部屋の中で、明らかに首がおかしな方向へと折れ曲がった遺体を目撃したツルギさんが、思わずといった様子で呟く。


 森田が誇るように樋口さんへ報告していたから、分かってはいたけどさ……嘘であってほしかったよ……


「まだ、体温が残っていますね……死後然程経っていないようですが、ひょっとして……」


「はい……彼女達も、恐らくこの一時間ほどの間に……」


「そう、ですか……」


 状況を確かめていたツルギさんが、二人の遺体にまだ体温が残っている事に気付いたらしく、彼の疑問にオレが答えると、沈痛な面持ちで顔を伏せる。


「……でも、この二人は……因果の力で、既におかしくなってたから……ツルギさんのせいなんかじゃ……」


 白石さん達だけじゃない。


 クレイの話通りなら、久我達や宮坂、佐藤くんだって、多分手遅れだったのだと思う。


 そんな思いから、オレが気に病むなと暗に伝えると、ツルギさんは首を横に振ってみせてから、口を開いた。


「……君たちは因果の力を得たから、おかしくなったのではありません。」


「え……?」


 因果の力が原因じゃ、ない?


 じゃ、じゃあオレのこの目は!?


 一体何が原因で、皆がおかしくなったって言うんだよ!?


「その辺りも、後でお話します。それより、此処が最後でしょうか?」


「……あと、ひと部屋です。」


「分かりました。」


 オレにそう尋ねた後、ツルギさんは部下へ遺体を運び出す指示をしつつ、オレの返事に頷いてみせるのだが……


 ……でもこれ、ずっとこんな調子だけど、本当に事情を話して貰えるんだよな?


 

 




 ツルギさんの言葉に、ただ誤魔化しているだけなのではないかとの疑念を抱きつつ、オレは白石さん達を任せて、残る最後の部屋へ……近藤くんの眠る部屋へと向かうのだった。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は、通常通り 10月18日(日)18時となります。

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