手記64
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
死んだはずの森田くんが何故?
しかも、こうして現れたって事は……コイツがクレイの言っていたストーカーなのだろうけれど……
「何でって……やだなぁ、樋口……僕は、ずっと樋口と一緒に居たのに……」
「一緒にって……貴方何を言っているの……」
「はぁ……?」
ずっと?
いやいやいや、キミは何処かに潜んでただけでしょ?
彼の発言にオレ達それぞれが困惑の声をあげる中、そんな事はお構いなしに、森田くんは酷く嬉しそうな笑みを浮かべて口を開いた。
「そ、それより、聞いてよ樋口!僕やっと、ストーカーを退治する事が出来たんだよ!!」
「……ストーカーを……退治?何で貴方が、ストーカーの件を……?」
自分で自分を……な、訳はないよな。
恐らくは、樋口さんも彼の発言の意図が分からないからか疑問を口にすると、森田くんは褒めてほしそうに誇ったような表情で続ける。
「なんと……ストーカーの正体は、あの小川だったんだ!アイツが樋口を襲おうとしてたんだよ!」
いきなり何言ってんだ、コイツ……?
ストーカーは、キミの方だろうよ?
他人に罪をなすり付けるなって……
「言われてからずっと、樋口のストーカーを探してても、分かんなかったんだけど……今朝になって、小川が僕の部屋にきて白状したんだ!」
コイツがストーカーについて知っているのは、クレイの話が本当なら……因果の力でオレ達の会話を聞いていたからだとは思うが……
今の発言が真実だとしたら、まさかあの森田くんの部屋の遺体って……?
「アイツ……樋口の部屋を探し回って、やっと見つけて部屋に入ろうとしたのが樋口にバレたって……樋口に殺されるって、怯えてたんだよ!僕……あ、頭にきちゃってさ……ストーカーの癖に、何言ってんだろうね?」
やっぱり、あの遺体が小川くんだったのか……オレ達は、まんまとトリックに嵌められてたってワケだ……
というか、この話が本当なら小川くんも小川くんで……だから、あんなに樋口さんを怖がっていたのね。
いや、今は小川くんについては置いておこう……それよりもコイツ、人を殺してるというのに何で嬉しそうなんだ!?
しかもさぁ……樋口さんを追跡していた自覚すらも無いとはな。
「……いや、ストーカーは森田くん……キミもだろ?」
そんな思いから、オレがつい思った事を口にすると……
「ふ、ふざけるな!?ぼ、ぼ、ぼ、僕は、樋口をずっと守ってたんだぞ!?お、小川なんかと一緒にするな!?」
「守っていた……?」
訝しげに投げかけられたオレの言葉に、それまで浮かべていた笑みは一変し、彼は怒りを抑えられない様子になりながら、オレへと声を荒らげるのだが……
「そうさ!!夜の森に入っても危なくないようにとか!外から覗かれないようにとか!ずっとずっとずーっと、キミが現れるより前から、僕が守ってたんだぞ!!」
やっぱり、樋口さんを追い回していた犯人は、テメェじゃねぇか!!
ただ……今の話で構造は見えたな?
つまり、ストーカーは樋口さんの部屋へ侵入しようとした小川と、暗闇の森の中で樋口さんを追い詰めていた森田の、二人だったって事かよ。
……そうやってオレが状況を理解した次の瞬間、彼は歪な笑みを浮かべてオレを見下ろし始めた。
「……で、でもまぁ、転校生……コ、コレでキミも、お、お、お役御免、だね。」
「あ?」
お役御免って……何でテメェが決めてんだ?
「わ、分かんないかなぁ……?ストーカーを処分した今、ひ、樋口にキミは、必要無いって、事……だよ?」
「キミ、さっきから何を言ってるの……?」
人を処分とか……頭湧いてんじゃね?
しかも、樋口さん本人でもないのに、勝手な事を言ってんじゃねぇっての!!
「て、転校生こそ何言ってるの……?ストーカーから、樋口とそこの子を守るには、僕だけじゃ難しいと思ったから、キミや青木達は最後に回したんだよ……?」
最後に、回した……?
「な、なら、当然でしょ……?ひ、樋口だって……転校生を利用してるって、言っていたじゃない……人の話は、聞かなきゃダメ……だよ?」
……つまり要約すると、オレ達は狙われなかったのではなく、コイツの目的の為に見逃されていただけって事か……?
だとしても、オレの生死はテメェが決める事じゃないけどな!?
てか、昨晩の樋口さんの話だって、自分に都合の良い部分を持ち出してるだけだし!!
コイツ、ダメだ……全てが自分の中の物語だけで完結しているから、話の通じる相手じゃない!!
「でもさぁ……幾ら樋口の為でも、処分するのは気色が悪いよね………だから、三人だけとはいえ佐藤には本当に助かったよ……でも、僕が頭痛くて動けないのをいい事に、樋口を襲おうとしたのだけは許せないかな。その点なら、樋口を蹴ったその兵士も一緒だけどさ……ソイツは死んじゃったみたいだから、もういいや。」
「助かった……ですって?」
オレが黙ったからか、論破したと思い込んだかのように彼は満足気な笑みを浮かべると、聞いてもいないのに再び自分語りを再開する。
聞いてて胸糞悪くなる話ばかりではあるけれど……気のせいかな……何か、段々樋口さんの気配が濃く……?
「うん……も、勿論、佐藤だけじゃないよ?柴田にも感謝してるけどね……でも、頑張ったんだけど、どうしても処分だけは慣れなくて……終わった後は、骨が折れる感覚とか、顔を壁に叩きつけた時の少しだけ柔らかいような感触とかが残ってる気がして、何度も手を洗っちゃうんだ……」
手を……洗う?
そいや、コイツ……会うたびにトイレに行ってただとか言ってたような……
って事は、つまり……初めて会った時にも……?
「もしかして、清水さんを……アカリを殺したのも、貴方……?あの時……マサトくんが犯人だと言ったのは、演技なの……?」
「そ、そうだよ……?それが、どうかした……?」
こ、この野郎、あっけらかんと……あの時、あんなに喚き散らしていた癖に!!
人に罪をなすり付ける気だったのかよ!?
「あの時は、まだコイツを処分するつもりだったんだけどね……コイツ殺人犯らしいからそう言って触れ回れば、樋口に付き纏ってるコイツも人狼ゲームみたく皆が勝手に排除してくれると楽かなって……その後、そこの兵士に言われたから、暫く残しておく事にしたんだ……最初は嫌だったけど残しておいて正解だったよ!」
要するに、無実の村人を吊るような感覚で、オレを嵌めようとしたって事……?
人を貶めるのもゲーム感覚とはな……マジで狂ってやがる!!
そもそも、オレは殺人犯なんかでもないし!!どっちが人の話を聞いてないんだよ!!
「どうして……アカリを……あの子は何もしていないのに……」
「どうして……?そんなの、樋口が清水みたいな裏切り者を頼ろうとしたから、僕の方が守れるって証明しただけだけど……?実際、ストーカーを倒したのは、ソイツじゃなくて僕じゃない……」
たった……それだけ?
ただ、自分の有用性を示したかったから、人を殺したって言うのか……?
幾ら清水さんが樋口さんを貶めたうちの一人とはいえ、そんな結論には普通ならないぞ?
「……あ、でもでも清水には一つだけ感謝してるよ!清水を処分した後から、樋口の居場所や会話がハッキリ分かるようになったんだ!便利で助かるよね!離れていても樋口の様子が分かるから、この何日かは動きやすかったよ!」
しかも感謝って、コイツ……本物の化け物だ……
因果の力が、ここまで人を歪めてしまうとは……
「証明……?人を殺す事が、証明ってテメェ……」
「それにしても、折角一年かけて花火から作った爆弾で樋口の為に復讐したのにさ……何で君嶋とか、清水まで居たんだろうね?佐々木とか、その辺りばっかりなら、中村達みたいに群れないから楽だったのに……」
「爆弾……そう、私達がこちらへ来た原因も貴方だったのね……」
「そうだよ!凄いでしょ!沢山の花火を分解するのは、本当に大変だったんだからね!」
やはりと言うべきか、何日か前にしたオレ達がこちらの世界へ来る事になった原因が、ストーカーだって推測は当たってたけど……
……だとしたら、もしかして彼は……因果の力関係無く元から……?
言動も幼稚だし……しかも、ベラベラベラベラと、自分からまるでトロフィーを見せびらかすみたいに話しやがって!
胸糞悪いったらありゃしねぇ!!
「じゃあ……君嶋さん達や、中村さん達も……」
「うん!勿論、僕だよ!昨日の夜も結構頑張ったんだ!……でも、一気に処分したから暫く気持ち悪くなって……君嶋達を片付けた後は、限界だったから部屋で休んでたんだけど、そんな時に小川が来たから余計にね……トイレに間に合いそうになかったから、慌てて窓から出て吐いちゃった……」
「クソ野郎が……!!」
吐いちゃった……じゃねぇよ!!
人を何だと思ってんだ!!
……あれ?でも、証言通りなら、小川くん殺害の状況はトリックじゃなく、偶発的って事?
この様子だと隠れる気が無かったとも取れるし……さっきから聞いてて薄々感じていたけどコイツ、もしかしてかなり短絡的な奴なのでは……?
「転校生はうるさいなぁ……今は樋口に報告してるんだから、邪魔しないで!そうそう、その後は部屋が使えなくなったから、暫く兵士に部屋を借りて休んでたんだけど……その後そこの兵士に言われちゃって……さっきまで頑張ってたんだよ!」
「な、何を……頑張ったというの……?」
……クレイに、言われた……?
そういえば、さっきクレイが樋口さん以外全員の殺害を依頼してたって、言っていたような……って事は、まさか……?
「えっとね……久我達は汚くて触りたくなかったから、見つけた斧で処分したでしょ?白石達は寝てたから簡単だったけど、宮坂や佐藤は……樋口を襲おうとしたから、つい念入りに懲らしめちゃってさ……だから、来るのが遅くなって、ギリギリだったんだ……本当に間に合って良かった……」
そ、そんな……じゃあ、もう残っているのはオレ達だけ……?
「……そう……」
彼の告げた事実にオレが呆然としていると、そうして誇らしげに語る森田へ樋口さんは短く応えるのだが……オレはふと、その様子に違和感を覚え、彼女へ視線を向けてみた。
……あれ?何か、樋口さんの気配がさっきよりも更に大きくなっているような……?
昨晩も、中村さんの部屋で似たような事があったけれど、これってもしかして……怒りで樋口さんの力が増している……?
「だからさ!あとは、最後まで残しておいたコイツを処分して、僕と一緒に冒険しようよ樋口!大丈夫!僕がちゃんと守るからね!」
樋口さんの異変にまるで気付いていない森田が、これまでで一番の笑顔を樋口さんへと向けた直後、彼女の気配が見ているだけで悪寒が走るレベルにまで膨れ上がると、樋口さんは無言のままゆっくり立ち上がった。
え……?樋口さん、何で急に立ててるの……?ついさっきまで、動けなかった筈だよね……?
しかも、何だよ……コレ……鳥肌が立ってきた……何か、凄く良くない事が起きそうな感じがする……
「……樋口?どうしたの?大丈夫……?」
オレが独り不吉な予感に慄く中、樋口さんが立ち上がりはしたものの俯いていた為に、森田は心配そうに彼女へと近付き、触れようとして手を伸ばす。
……だが、次の瞬間───
「……え?あ、あれ?……ぼ、僕の手が……」
───樋口さんは無言のまま、素早く彼の腕を振り払おうとするかのように右腕を振るうと……森田が伸ばしていた左腕の肘から先が、跡形もなく消え失せたのだった。
この話にある花火を解体する行為は、現実に行った場合犯罪となります
また、火災や爆発事故に繋がる非常に危険な行為の為、絶対に真似をしないでください
よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。
批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。
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次回更新予定は 8月9日(日)18時となります。




