手記53
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「アイツ、エロ本読みすぎて頭おかしくなってんじゃないの!?」
中央の通路辺りまで引き返した直後、山岸さんが怒りを抑えきれない様子で、そう憤るのだが……
……あれ?そいや、彼女に因果の力でおかしくなる可能性って話したっけ?
青木くん達には伝えた覚えはあるけれど……
「あー……山岸さん?実はさ…」
「……そういう事かぁ。」
「うん。」
オレ達に与えられた力が何を元にしているか等を軽くまとめて山岸さんにも伝えると、彼女も何処か納得した様子で頷いてみせた。
とはいえ、宮坂くんの場合は欲望というか、願望でああなった可能性はあるが、因果の力を前提に考えればどの道不思議ではないだろう。
「だから君嶋達も、あんな風になっちゃったんだ……」
「多分……でも、絶対そうなるって訳では無いと思うよ。」
「まぁ、私達はそんな変わってないしね。」
「とはいえ、流石に別人すぎるけどな……何だよ、アレ……違う意味で、柴田よりひでぇじゃん。」
武田くんも相当怒っていたものな……だが、今はまだやる事があるから、此処は切り替えて先に向かおう。
「……じゃあ、気を取り直して残る二人の部屋へ行こうか。」
ちなみに、山岸さんを追いかける最中、樋口さんにこっそりとアルマに怯えた様子が無かったかを問いかけたが、どうも鼻を摘むぐらいで特に問題は無かったらしい。
「そうね。行きましょう。」
故に宮坂くんと合流出来なかったのは残念だが、樋口さんも最初様子がおかしかったものの、時間が経つにつれ本来の彼女に戻った印象があるので、もしかしたら宮坂くんも間を置けば大人しくなるかもしれないしね。
だから、今は先に会っていないクラスメイトと、君嶋さん達を何とかしよう。
「そういやさ?宮坂ってメガネ掛けてなかったっけ?」
「うん、掛けてた筈だよ。」
残る久我くんと神谷くんの部屋へ向かう最中、不意に武田くんが側にいた青木くんへ尋ねる。
「やっぱり?さっきは掛けてなかったけど、見えてんのかな?」
「さぁ……?でも、柴田も掛けてなかったし、そもそも僕達のスマホとかも無いから、そのせいじゃない?」
「あー……なるほどなぁ……」
まぁ、死んでこちらの世界に来たのだから、例えメガネだろうと持っているはずがないしね。
……って、よく考えたらその辺りも彼らに話してないな?
元の世界で死んでいる事に気付いてないなら、ある程度問題が片付いたら説明しなければ……
内心で独り重い事実をいつ話すかに頭を悩ませつつ、道中はそんな雑談を交えながらも、オレ達は残る二人の元へ向かったのだが……
「……まさか、宮坂くんだけでなかったとはね。」
青木くんが眉を顰めるのも致し方なく、正直宮坂くん以上に残る二人は会話が出来るような状況では無かった為、会って早々に撤収する羽目になったのだった。
「久我達が二人で居るのはまだいいんだけどさぁ……何だよ、あの状況……俺、まだ気持ち悪いんだけど……」
……そう。ただ性的に乱れているのならまだしも、正常な認知能力が無くなっているからか、部屋中だけでなく本人達も汚物で塗れていたからなぁ……
筆舌に尽くし難いって、正にこういう事だろう。
流石にアルマに見せられなかったから、開けた瞬間樋口さんに彼女の目を塞いでもらったけれど……ただ、少なくとも久我くん達に殺人は出来ないよ。
あの部屋の惨状や彼らの状態から察するに、もう何日も部屋から出ていないのは明白で、ともなれば中村さん達の事件には関わってないだろうしね。
「閉じこもっていたのは知っていたけれど、あんな事になっているとは知らなくて……ごめんなさい……」
「いや、樋口の所為じゃないだろ!?予想出来る訳がないって、あんなん……」
「そうだよ……アレは樋口さんの所為なんかじゃない……」
「でもさぁ?君嶋達って、アレと比べたら相当マシな状態だったんだね……」
あの様子だと、おかしくなったのは昨日今日じゃないよね……
だとしたら、もう流石に元に戻らないのでは?
呂律が怪しいどころか、こちらを見るなり訳のわからない事まで喚き出していたしさぁ……
それよりかは、今居るこの面子だけでも、何とかして守る事を考えるべきな気がしてきたぞ?
「……これから、どうする?」
「どうするって……どうしよう……?」
流石に衝撃が大き過ぎたのか全員が押し黙る中、武田くんですらこれ以上の説得は難しいと感じたらしくポツリと洩らすと、青木くんも同調するようにこちらへ視線を向けた。
拙いな……このままだと、折角纏まれたこの七人ですら危うくないか?
やっぱり全員は諦めて、このままどこか安全な場所で刻印の破壊を待った方が……
「少なくとも森田くんに関しては、一時間程前に話した際におかしな言動も無かったから、せめて森田くんの部屋だけは周りましょう?」
「……そうだね。」
そんな風に焦りを覚えるオレを他所に、樋口さんが森田くんだけでもと告げると、不安そうな表情のまま青木くんが頷く。
……確かに、協力してくれそうな森田くんについては、見捨てたりなんて出来ないよな。
さっき見たモノの所為で、彼の事がすっかり頭から抜け落ちてしまっていたよ……ごめんね、森田くん……
内心で彼へ謝りながら、オレ達は森田くんの部屋へと向かうのだがその足取りは重く、宮坂くんの部屋から久我くん達の部屋へ向かう際とは違い、ほぼ誰も口を聞かないまま彼の部屋へと辿り着いた。
ーーーコンコン
すると、先頭にいた樋口さんが、着くなり押し黙ったまま彼の部屋の扉を二度打ちならす。
しかし……
「……居ないのかしら?」
……中からの返事は無く、どうやら森田くんは不在らしかった。
「便所じゃね?」
「かもしれないわ……」
……はて?でも、さっき来た時にも彼はトイレへ行っていたような……?
まさか……ねぇ?
「ちょっとごめん……」
「どうかしたの、マサトくん?」
ふと、脳裏を最悪な予感が過ったオレは、樋口さんに一声かけて退いてもらってから、恐る恐る彼の部屋のノブを回す。
……開いてるな?
まぁ、鍵がかかっていない事自体は、外から掛ける場合兵士に借りる以外無いから、不思議では無いのだが……?
開いてしまった事で、どうにも嫌な予感が収まらなくなったオレは、森田くんに悪いとは思いつつも、そのまま彼の部屋の扉をゆっくりと開いた。
「……そ、そんな……嘘……」
すると、扉を押し開けた先には……鮮血の海と形容する以外にない光景が、広がっていたのだ。
「な、な………」
部屋の中の惨状に、武田くんは何かを言い掛けるも上手く言葉に出来ないからか、口を開けたり閉じたりを繰り返すのみで、同様に他の皆も言葉が全く出てこないらしい。
……だが、清水さんの時とは違い、未だ乾いていない血がそこかしこに飛び散っている事を鑑みて、この犯行はつい先程行われたのではないだろうか……?
「やっぱり、そうだったんだ……」
「カ、カナデ……?どうしたの?やっぱりって?」
「そっか、そうだよね……」
オレがそんな事を考えた直後、それまで沈黙を貫いていた佐藤くんが青い顔のまま俯きつつ、ブツブツと独り言を呟き始める。
青木くんも尋ねているけれど、やっぱり……って何の事だろう?
い、いや、佐藤くんも気にはなるが、今は森田くんを探さないと……入り口からでは姿が見えないし、もしかしたらまだ無事な可能性も……
「ねぇ……」
「うん……」
どうやら樋口さんも同様に考えたらしく、アルマの手を離してから軽く彼女へ首を横に振って見せた後、こちらへ視線を向け呼びかける樋口さんにオレは短く頷き返してから、オレ達は二人で彼の部屋へと足を踏み入れる。
「おっ……おいっ!?やめとけって!」
背後から武田くんの呼び止める声が聞こえるものの、オレ達は構わずに入り口からは死角になっている場所を起点に、二手に分かれて部屋の中を見回し始めた。
内心で酷い不快感に耐えながらも、オレはまず入り口から入ってすぐ右側の壁、つまりちょうど開き切った入り口の扉がある辺りの白い壁面に目を向けてみる。
「うわ……これ、マジかよ……」
……オレが思わず呟きを漏らしてしまうのも、仕方ないと言えるだろう。
何故ならその壁面の丁度腰の高さ辺りに、一際大きな血痕だけにとどまらず、肉片や髪の毛と思しきものまでが付着していたからだ。
やべ、もう吐きそう……って、よく見たらここだけじゃなく、同じような円形が近くの壁に幾つも……?
何個かは血塗れの手形も付いてるな……つまり、途中までは抵抗をしていたけれど、多分動けなくなってからも頭を幾度となく壁に……だとしたら、こんなの生きている訳が……
「マ、マサトくん……こっち……」
最悪の予想に独り恐れ慄くオレへ向け、真っ青な顔の樋口さんが窓際の地面を指差しながらそう呼びかける。
彼女の指し示した場所は、丁度入り口からはベッドの所為で死角となっているのだが……
まぁ、これはそういう事、だよな……?
そして、この部屋の状況から見て、恐らく……
彼女の様子から、何を見つけたのかを察したオレは、軽く息を整えてから樋口さんの隣に立ち床を見下ろす。
……するとそこには、予想通り最早全く判別出来ない程に顔を潰されてしまった、森田くんと思われる人物の遺体が寝かされていたのだった。
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次回更新予定は 5月24日(日)18時となります




