手記46
※一部に流血や、暴力的、もしくは生理的嫌悪感を伴う描写がある場合がございます。
苦手な方はご注意ください
「樋口さんは、まだ会ってない人の部屋の位置は分かるんだよね?」
「勿論よ。案内するわ。」
「うん、お願い。」
殺人犯が自由に行動している以上、何時その牙がこちらへも向くか分からないもの。
だから、なるべく早く皆の部屋を回らなければ……
「……でもその前に、これは一つの案として聞いて欲しいのだけど、私としては念の為に武田くん達に協力を仰ぐべきだと考えているの。どうかしら?」
「武田くん達に?」
……なんて事を考えたオレとは反対に、何故か樋口さんは回り道をする提案をしてくる。
いや、まずは残り六人に会う方が先決だと思うのだけど、何か考えがあるのかな?
「そう。皆との親交が浅い私達だけより、武田くん達も居た方が説得力があると思うのよ。」
……なるほど、一理ある。
確かにオレ達は、皆から遠巻きにされてる訳だからね。
「それに……」
「それに?」
「いえ、何でもないわ……私達だけでは、小川くんのように話を聞いてもらえない可能性があるでしょう?だから……」
ただ、問題は君嶋さん達が既に彼らの元へも行っていないかだが……とりあえず、行くだけ行ってみようか。
……しかし、今何を言い掛けたのだろう?
まぁいいか。
「じゃあ、まずは武田くん達に事情を話す所からだね。」
「ただ、何のために集まるのかは、全て話さない方がいいかもしれないわね……そう、例えば自衛の為だと説明するのが無難かしら?」
「あー……なるほど、拘束魔術関連の説明が難しいからか……」
正直、オレも逃げられなくなる以上の事はよく分からなかったしなぁ……説明出来る自信もないわ。
「ええ。話すにしたって、諸々が片付いてからでも遅くはないと思わない?」
「確かに……分かった、そうしよう。」
樋口さんの提案により、皆の説得の為の方針が一致したオレ達は、手始めに武田くん達の部屋へと歩みを進め始める。
……それはそれとして、殺人犯だけでも厄介なのに、ストーカーにも対処しなくちゃならないとか、ホント難易度バグってんな?
しかも、どちらも正体を掴む糸口すら無いなんて……そのせいで、場当たり的な対応しか出来なくなっているし……って、アレ?
「そう言えば、樋口さん?」
「何かしら?」
「ちょっと気になったんだけど、樋口さんはストーカーの正体を確かめようとはしたの?」
これまで聞いていなかったが、彼女が何もしていないのは考えにくかったのでそう尋ねると、樋口さんは顔を顰めてみせた。
「勿論よ……でも、上手くは行かなかったわ。」
「……という事は、分からなかったって事?」
「そうなの……用心深いというか、まず明るい所には現れないのよね。最初は正面から部屋に入って来ようとした癖に、そういう部分は何故か臆病というか……」
「そうなんだ……」
犯人も後ろ暗い事をしているって、認識はしてるらしいな?
「他にも、昼間に皆の部屋の位置を確認してから、追われている間に見て回ろうともしたのだけど……」
要するに、不在から誰が犯人か割り出そうとはした、と?
だがこの言い方では、恐らく……
「したけど?」
「何部屋か回った段階で気付かれて、以降そういう素振りを見せるだけで、逃げられるようになったわ……」
やっぱりね。
とはいえ、確かストーカーが怖くて逃げ回ってると言ってたと思うのだけど、こういう部分は流石だわ。
……しかし、相手もカンが良いのは厄介だな?
「ただ追われるだけであれば幾らでも逃げれるのだけど、問題は私が暗い森の中に居ても、真っ直ぐにこちらへ向かってくる事なのよね……」
「真っ直ぐに?」
まさか、あの暗闇の中を……って事?
「そうなの。毎日登る木や、場所は変えていたのよ?なのに、毎回すぐ側にまで来るし……建物の中まで追っては来ないにしろ、部屋は知られているしで……休める場所が無くて、本当に辛かったわ。」
……しかも、何故か居場所の特定までしてくると?
それに、館の中まで追跡されなくとも、窓から覗いてくるとなれば、自分の部屋に居続ける事も出来ないのか。
そりゃ、怖くて寝不足にもなるって。
だが、この話の通りなら勘が鋭いなんて次元の話じゃなく、恐らくストーカーには樋口さんの居場所が分かるのだろうな。
厄介極まる、ってまさにこのストーカーにこそ相応しいわ。
「遅くとも夜明け近くになれば居なくなりはしても、木の上で寝れるのは正直、日が昇り切るまでが限界ね……それ以降は、鳥の鳴き声が酷かったり、一晩中虫に刺されもしたりで、もうあんな場所で寝たくはないのよ……」
「空いてる部屋に逃げ込んだりは?」
「……昼間ならともかく、暗闇で何故か居場所を突き止めてくる相手に、それが通用するとでも?」
「だよねぇ……」
愚問だったか。
……でも数日前に現れた時は、オレの部屋の方を覗いてきたよな?
だから、居場所が知れるのはある程度であって、完璧とまではいかないのかも?
「一度試したけれど、駄目だったの。照明も何も付いていない部屋で、暗い窓の外から覗く人影が見えた時は、思わず悲鳴をあげそうになったわよ……此処までくると最早、ホラー映画よね。昼間も寝ている間に覗かれているかもしれないと思うと、怖くて眠れなかったし……」
うへぇ……そんなの、オレなら間違いなく叫ぶ自信があるぞ……?
さっきまでの話を聞いてただけで、背筋に悪寒が走るレベルなのにさぁ……リアルに想像しちゃったじゃん……
「正直この数日、休む際にアルマちゃんが側にいてくれるというだけで、本当に助かっているの。一人でないからか、気持ちが全く違うわ……それでも、夜中に時々目が覚めて、ついつい窓を見てしまうのだけれどね……」
見てしまう気持ちは分かるかな?
彼女は一週間もの間一人だったのだから、きっと心が休まる暇がなかったのだろう。
……にしても、話を聞いてるだけでさっきから鳥肌が……早く終わらないかな、この話……
「……ねぇ、マサトくん?ひょっとして、こういう話苦手なの?」
「そ、そんな事ないよ!?」
やべ!?バレた!?何で!?
「やっぱり……前に石室の話をした際も、今みたいにすっごく嫌そうな顔をしていたもの。」
「ぐっ……」
つまり、顔に出てたから何日か前から既にバレていたと……樋口さんにだけは、知られたくなかったのに!
「ごめんなさい、苦手なのにこんな話をしてしまって……」
「別に、樋口さんが悪い訳じゃ…」
ーーータスケテ……イタイ……
そうやって彼女に非は無いと言おうとした直後、オレの耳に助けを呼ぶ声がハッキリと聞こえてきた。
「……いや、このタイミングでそういう事言うの、流石に意地悪すぎない……?」
「え?」
ついオレが悪戯を咎めるような事を言うと、樋口さんは首を傾げながら困惑したような表情を浮かべる。
「……えっ?今、助けてって言わなかった?」
「私が?言ってないわよ?」
「マ、マジで……?」
あるぇ……?
しかも、この様子だと樋口さんには聞こえていないのか……オレの耳には間違いなく聞こえていたのだけど……
「苦手な人を驚かすなんて、そんな趣味の悪い真似はしないわ。気の所為ではなくて?」
……それもそうだ、確かに悪趣味な事を彼女がするのは考えにくい。
しかし、聞き覚えのある声だったから、樋口さんかと思ったのに……もしかして、誰か付近で助けを呼んでいたとかなのかな……?
でも、近くには誰もいないし、この辺りはオレ以外のクラスメイトの部屋は無い筈なんだけど……
アルマ……も、首を傾げているから違うとなると……ヤバい、悪寒が止まらねぇ!?
「妙な話をしたからかしらね?気を取り直して、青木くん達の所へ行きましょうか。」
「う、うん……」
「……怖いのなら、手でも繋ぐ?」
「うん……って、何言ってんの樋口さん!?」
……思わず頷いてしまったが、いきなり何言ってんのよ!?
驚きからか、ついつい大きな声を出してしまうオレを他所に、樋口さんはさも意外と言いたげな様子で口を開く。
「あら?繋がないの?」
「繋がないよ!!」
「そう?残念。」
クスクス笑ってるから、全く残念そうに見えないのだがね!?
すぐ、そうやって人を揶揄うのだからさぁ……悪趣味な事はしないんじゃないのかよ!?
……うん?何だ?
悪戯っぽい笑みを浮かべる樋口さんへどう言い返そうかと考えた直後、不意に袖を引っ張られたので隣を見ると、何故かアルマがニコニコしながら自らを指差しつつ、オレを見上げていた。
はて……?
何が言いたいのだろう?
……そんな風に、オレが彼女の行動の意図を図りかねているとーーー
「ア、アルマ!?」
ーーー彼女はそのままオレの手を取り、歩き始めようとしたのだった。
「わたし、おねえさん!」
慌てて手を引いて彼女を制止するのだが、驚くオレを他所に、アルマはさも当然といった様相で胸を張りながらそう告げる。
なるほど?オレが不安そうにしていた為、手を繋いだ……そんなトコか?
……いやいや、だとしてもいきなりは恥ずかしいよ!?
しかも、ガッチリ掴んだまま離す気も無さそうだし!?
「へぇ……ふぅん……?」
「樋口さん……?」
何でジト目でオレを睨むの……?
「別に?私は気にしないわよ?」
気にする云々の話では無いような……って、何……?
そう言いつつも、何故か彼女は膨れっ面でこちらへ向けて手を差し出してきた。
「え?」
直後、何をしたいのかが理解出来ず困惑するオレを他所に、顔を逸らしながら彼女は口を開く。
「仕方ないから、私も繋いであげるわ。」
「ええ……?」
……どういう状況よ、これ?
「ほら、早く。佐藤くんや青木くん達の所へ行くのでしょう?」
「いや、別に樋口さんまで繋がなくても……」
流石に、見られたら恥ずかしいじゃ済まないってば。
「何?アルマちゃんは良くて、私は嫌なの?」
「えー……?」
どうしろと……?
樋口さんの機嫌が益々悪化した所為でオレが更に混乱する中、その様子を見ていたアルマは少し考える素振りを見せた後、樋口さんがこちらに伸ばした手を嬉しそうに取ってから、オレ達へ交互に視線を向けはしゃぎだす。
「ミオ、も、いっしょ!」
「んもう!アルマちゃんったら……仕方ないわね。」
あまりにもアルマが楽しそうな為か、樋口さんも強くは言えないらしく、諦めたように呟くと、彼女は気にした様子も見せずにそのまま歩みを進め始めた。
ま、まさか……本気でこのまま行くつもり?
嘘でしょ……?
ーーーコンコン
……とか、考えてる間に着いちゃったよ!?
「はーい?どちら様〜……って、転校生達か。どうか、した……の……?」
三人の部屋に辿り着くなり、樋口さんが彼らの部屋の扉をノックしたのだが、現れた佐藤くんはオレ達の様子を見ると怪訝そうな顔で固まってしまう。
うん、まぁ……そりゃ、そうなるよね?
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次回更新予定は 4月5日(日)18時となります




