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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
反転する世界 ーInversionー

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手記21

 大人しく樋口さんの警告に従うべきだったと思いつつ、石鹸の所為で軋む髪を気にしながら部屋へと戻ると、アルマの髪に櫛を通していた樋口さんがこちらへ視線を向け、口を開く。


「遅かったわね?」


「あ、うん……」


 触られたりはしていない上に、身体も洗ってきたから多分大丈夫……だよな?


 いや、それより先に休むって言ってなかった?


「どうかしたの?」


「いや、なんでも……」


 ホント、何がしたいのだか……


 まぁ、それはそれとして、さっきの出来事を話すべきだろうけれど、変に誤解されるのは嫌だな……どうしたものかね?


「そう?……あら、アルマちゃん?何でまた怖い顔をしているの?」


「マサト……におい、する?」


 えっ?あんなに時間掛けて洗ってもダメなの!?


「匂い?誰の?」


 樋口さんがアルマに問うと、アルマは少し悩む素振りを見せた後で確認するようにオレへと顔を寄せ、鼻を鳴らす。


 どうやら石鹸でしっかりと洗った為か、彼女でも判別に時間が掛かるらしく、そのせいで険しい表情をしていたようだ。


「んー……ナギ?」


 それから少しの間、彼女はオレの周囲をウロウロしながら匂いを確かめた後で自信なさげに答えたのだが……彼女が口にした名前に覚えのないオレと樋口さんは、思わず顔を見合わせた。


「ナギ?」

「ナギ?知らないわ、誰かしら?……マサトくん、あの後何かあったの?」


 二人と離れている間に会ったのはさっきの女性だけだから、多分彼女の事なのだろうな。


 そうか、彼女はナギさんっていうのか。


 ……いや、だから何よ?



 オレは先程のシャワー室で起きた出来事を、二人にかいつまんで説明する。


 無論、彼女の生い立ちには触れず、最後にお礼を伝えられた事を話の主軸にして、ではあるが。



 そうして話を終えると、樋口さんは少し悩む素振りを見せてから何かに気付いたらしく、オレに視線を向けた。


「それって、もしかして……」


「樋口さんは、彼女の言っていた猿に当てはまる人物が誰か、心当たりがあるの?」


「え、えぇ……寧ろ、心当たりしかないというか……」


「どういう事?」


 何で会った事も無い人の話に、樋口さんが心当たりがあるのさ?


「恐らく……だけど、それって近藤くんの事だと思うわ。」


「近藤?」


「その人の話を信じるのであれば、昨日の事件の際に怪我をした事がきっかけで、柴田くんの影響から抜け出したのではないかしら?」


「だとしても、どうして近藤の事だと?」


 彼女の事だから、恐らくは根拠のある話だとは思うが……


「二日目以降に貴方が接触したクラスメイトは、私を含め三人よね?その中で従者の顔を知らないとなれば、消去法で近藤くんしかいないでしょう?」


 なるほど、オレが関わった人物で世話係が付いており、尚且つその世話係とは会った事が無いのは、確かに今のところは近藤だけだ……って、何で樋口さんがそこまで知ってるんだよ!?


 ……あっ!?さてはこの人、オレが柴田の部屋を訪れた時も、後ろを付けていたんだな!?


「う、うん……でも、あの近藤が?」


 今は話が進まなくなるから、そこに触れるのはよそうか。


 それよりも樋口さんは、近藤も柴田の祝福の餌食になっていたって言いたいのか?


「ええ。私は、此処一週間ずっと逃げ回りながら皆を観察していたのだけど……」


「うん。」


 でしょうね。知ってた。


「何日か前から、近藤くんが急にトラブルを起こすようになったのね?」


「それも知ってるよ……でも、それって単純におかしくなってただけじゃないの?」


「さっきまでは私もそう思っていたの。でも話を聞く限りだと、実際は違っていたみたい……ねぇ、マサトくん?昨日、近藤くんと貴方が会う前に、柴田くんは何処にいたと思う?」


「何処にって……近くにいたのは間違い無いと思うけど……」


 思い返せば状況が落ち着いた時に、見計らったかのように兵士より早くオレに近づいてきたもんな。


 だから、相当近くにいたとは思う。


「正解は、大浴場の中よ。」


「……は?嘘でしょ?何?オレに会う直前まで近藤は、柴田と一緒に居たの?」


 大浴場に居たのなら近くどころではないし、だとしたら柴田がオレに気付いていない筈もないが……?


「えぇ……私は、それが理由でグルだと思っていたのだけど、今の話が本当だとしてもあの事件は起こり得る……というより、起きるべくして起きたとすら言えるわ。」


「マジか……」


「ちなみに、彼は近藤くんが貴方に話しかける前に、気付かれないよう先にこっそりと大浴場から出てきていたのよね……その姿の滑稽さたるや、マサトくんにも録画して見せてあげたいくらいだったわ。」


 それって、オレが大浴場から立ち去ろうとした時?


 ……確かに、思い返せば昨日大浴場へ近づいた時に中からは話し声がしていたはずで、近藤以外の誰かも中に居たのは間違いない。


 そして、ソイツは至近距離で騒ぎが起きているにも関わらず、何故か姿を見せていなかった……そうか、なるほどそういう事だったのか!!


「所謂マッチポンプってヤツよ。近藤くんを操り事件を起こさせ、自分で介入して解決し、その恩で取り入って、目標を術中へと落とす……突発的にやったにせよ、恐らく元から誰かしらで実行出来るように計画はしていたのでしょうね。いやらしいわ……」


 彼女の推測が本当だとしたら、オレもエゲツないやり方だとは思う……って、いや?待てよ?


「でも、そうなると柴田の力って、昨日樋口さんが言っていたモノより大分強力なのでは……?」


 昨夜は確か、自分に対する感情を都合よく書き換える程度の力って……今の話が本当だとすると、それは最早洗脳だよね?


「私も実はそこが引っかかっていたから、二人が協力関係にあると思っていたのよ……でも、そのナギさんの話が本当なら、ほぼ間違いなく柴田くんが元凶ね。それに、私には思い当たる節もあるの。」


「思い当たる事って?」


「……今の柴田くんの従者は、多分二人目よ。」


「二人目、って……まさか……」


 喋る事が好きな筈の彼女が、眉を顰めつつ言葉少なに発した内容が余りにも衝撃的すぎた為、オレは思わず確かめるようにして彼女へ視線を向けたのだが、彼女は二の句を告げるでもなく、ただただ頷いてだけみせる。


 アズサさんが二人目って事は、柴田の奴……よりにもよって当てがわれた世話係に手を掛けていたって事なのかよ!?


 ……ん?という事はアレか?アイツ、自分のやった事を樋口さんに押し付けようとしたって事!?


 度し難い奴だな、ホント……


「……私は、その現場を見ているの……いえ、正確には彼が誰かの首を締めながら、ヒトモドキと言っている現場を見かけたのよ。その時は怖くて急いで逃げた所為で、最期までは見ていないのだけれど、その後夜中なのに兵士達が慌ただしくしていたから、恐らくは……」


 これも、確か昼間言っていた話だよな?


 あの時はそれが誰かまでは言っていなかったが、そいつが柴田だったという訳か。


「それで柴田の力が強くなったと?……だとしたら、オレが柴田の影響から割と簡単に抜け出せたのって、逆に変じゃない?」


 しかしそうなると、近藤との一件の後で柴田の術中に落ちたオレが、然程影響を受けなかった理由が分からなくなるよな?


「マサトくんと違って、二人は幼馴染で親友だったが為に、より強く影響を受け続けた結果、洗脳に近い状況になったのかもしれないわね。元より、近藤くんの中での柴田くんの印象は悪くないのでしょうし。」


「なるほど……」


 つまり、関係値が低いオレには、効果が薄かったって言いたいのね。


「ちなみに、私が彼の力の詳細を聞いたのはこちらに来て三日目で、彼の力が増したと思われる出来事の前よ。だから、その後に力が変質していたとしても、何ら不思議ではないわ。」


「じゃあ、現在の柴田の力は未知数って事か……」


「ええ。故に、今の彼はそういう意味でも危険だと思う。」


 そうなると、やはり何度も柴田と会うのはまずいな……関係値が柴田の力の影響を強くするのだとしたなら、知らずに会う回数が増えるだけ支配下に落ちやすくなるって事だし。


「あの時、アルマに止められてなかったら本当に危なかったんだ……」


 今の話を聞いて、柴田の力に気付いた時以上に背筋がゾッとしたよ……今のアイツに関しては、力が弱いとかいう思い込みは捨てないと。


 それによくよく考えれば、全くと言っていい程接点が無かった筈のオレが、すぐに解けたとはいえ一度は簡単に術中に落ちているわけで。


 故に奴の力は、樋口さんの言う通り何かしらの変化をしているのは間違いないように思う。


「そうね……私も、正直彼の力を侮っていたわ……もしかしたら、他にも彼の所為でおかしくなっている人がいるのかも……」


 ふーむ……これは厄介な話だが、充分すぎるぐらいありえるぞ?


 確か、柴田の話を信じるなら何人かは食事の際に食堂へ行っているらしいので、実際は違う可能性も勿論あるが、その何人かは既に柴田の支配下にいるとして考えるべきだ。


 となれば、アイツをどうにかしようにも、周りを先に何とかしないといけないワケだが……こうなると近付かないのが一番とはいえ、監視までしてくるような奴がみすみす見逃すものかね……?


 これは、何らかの対策を考える必要があるな……それはそれとして、柴田についてはまだ何かが引っかかってるのだよなぁ……何だろ?

 

 うーん、昨日から幾ら考えても分からないって事は、まだアイツの影響が抜けてないのかな?

 

 だとしたら、やっぱり相当な力だ……なんてね。


 冗談は置いとくとして、さっきも思ったけれど、〝あの時〟にアルマが一緒にいてくれなかったら……オレも、食堂の一員に……って!!……あっ!?違和感の正体が、漸く分かったぞ!!


「……ねぇねぇ、ふと思ったんだけど……何でアルマは柴田の術中に落ちなかったんだろうね?」


「え?アルマちゃんが?」


「うん。だってオレが昨日柴田の部屋に入った時、アルマも一緒だったんだよ?なのに、彼女だけは何ともなかったって、おかしくない?」


 何で今まで気付かなかったんだってレベルの話ではあるのだけど、柴田に会った直後からオレを守ろうとしていたとはいえ、あの場には確かに彼女もいたのに、何故オレだけが奴の力の影響を受けたのだろう?


「……確かに、言われてみればそうね。」


「もしかしたら、柴田の力には何かしらの制約がある……?例えば……同時にひとりまで、だとか。」


 それに昨日、樋口さんも柴田の力に気付いてる奴は他にも居るみたいな事を言っていたよな?


 ……これはひょっとして、アイツの力には何らかの拍子に解ける以外にも、何か弱点のような物があるって事にならないか?


 だとしたら、一度柴田と接触した奴を調べて、そいつらから話を聞ければ何かしらの対策が浮かんでくるかも?


 まぁでも、今はとりあえずアルマからあの時の話を……


「……それか、この子の入れ墨の力……かしら?」


「え?入れ墨……?」


 オレが考えている間中、樋口さんも何かを考えていたらしく、オレがアルマに尋ねようと彼女へ顔を向けた時、何かに思い至ったらしい樋口さんがポツリと呟く。


 ……はて?入れ墨?何のことだ?


「忘れたの?アルマちゃんの腕には、何らかの魔術らしき入れ墨が彫られていたでしょう?」


「あっ……そういやそうだった……」


 言われて思い出したが、確か何かの力があるって話だったから、あれが彼女を守ってくれる魔術である可能性があるのか……考えるのに夢中で、すっかり忘れてた……


「しっかりしなさいよ!……でも、どうして急にそんな事を?」


「いや、親友を平気で利用するような奴が、このまま何もしてこないのは考えにくくてさ……何か、対策は無いかなって……考えてたら、ふと気になって……」


 でも、もし入れ墨の力だったとしたなら、本人も多分分からないよな?


 今だってオレ達の話に首を傾げているし……これでは、彼女から詳しい話を聞くのは無理だろう。


「……そうね。今は何もして来ていないだけでしょうから、今のうちに何かしらの対策を考える必要はあるわ……」


 アルマに効かなかった理由が分かればと思ったが……そんな簡単にはいかないか。


 でもまぁ、他の連中に話を聞くって部分はアリだよね?




 そういや、アイツ……人を操れるにしては、どうして自身でオレの監視をしていたのかな?


 いや?


 それについては、スマホみたいに情報の伝達を手軽に行えるような道具も無いだとか、オレを偶々見つけたから……だとか、性分だからとかで色々考えられてしまうので、当人でもないのに悩んでも仕方ないか。


 とはいえオレが奴の立場なら、自分の力に気付いた可能性の高いオレを放置なんかしないだろうから、監視なり、ちょっかいなりを今後は警戒しよう。




 ……まてよ?監視といえば……柴田の力がこれ程厄介なのだとしたら、ひょっとして樋口さんのストーカーって……?


「話は変わるけれど、樋口さんの部屋へ侵入しようとした奴も、柴田の所為とかもあり得るかな?」


 確か、柴田は樋口さんに恨みがあるみたいな話だったはずだし、樋口さんを見張らせる為に誰かをストーカーに仕立て上げたのだとしたら……?


「あり得なくも無いけれど、そちらは関係無い可能性の方が高いと思うわ。何せ、ソイツが私の所に来たのは此処に来て二日目の夜よ?」


「うん?……もしかして柴田の力に掛かったにしては、現れるのが早過ぎるって言いたいの?」


 言いたい事がイマイチ判らなかったので、解釈が間違っていないかを問うと、彼女は何かを考えながらも首を縦に振る。


「ええ。親交がそのまま影響のし易さに関わるにしても、近藤くんですら数日は掛かるのよ?であるならば、それ以外のクラスメイトを支配下に置くには、仲が良くてもそれなりに時間が掛かる筈ね。だから、そちらはかなり薄いと思う。」


「そっか……」


 柴田の影響でないとしたら、ソイツは自分の意思で行動しているって事になる。


 となると、止めさせるにはかなり骨が折れるな。


「それに、私はその晩に柴田くんを全く別の場所で目撃しているのよ。だから、少なくとも彼自身では無いわ。」


「別の場所?」


 どうやら柴田の仕業では無いという根拠は、他にもあるようだ。


「あの夜の私は、一度外に逃げてから廊下の窓を使って中へ戻った所為で、部屋の位置関係をイマイチ把握しきれていなかったとはいえ、その時に彼が別の誰かの部屋へ入っていく所を見ているのよ。」


「誰の?」


「推測にはなるけれど、あれは近藤くんの部屋でしょうね。でも、その時も追われていて隠れるのに必死だったから、確認まではしていないの。とはいえ彼の性格を考えると、誰かを操っているのならば恐らくは近くで観察する筈よ。」


「なるほど……じゃあ、そちらの犯人から柴田は外していいって事か……」


 少なくとも、これで柴田自身が容疑者から外れるのが分かっただけ、ストーカーの件も進展はしたかな?


 だが、こちらの犯人が柴田じゃなくて正直ホッとしたよ。


 もしストーカーがアイツだったなら、こちらからは近づけないのに向こうから近寄ってくるとかいう、最悪の状況にもなりかねないしね。


「ええ、ずっと同じ人物が私を追い回しているのなら、という前提の上……ではあるけれど……ねぇ?ところで、マサトくん?」


「何?」


「……貴方、まさか私を追いかけている人物を探そうとしていたの?」


「うん。それがどうかした?」


「どうかした……って、押しかけてきた私が言うのも変だけど、貴方がわざわざ自分から巻き込まれる必要は無いのよ?」


 押しかけたという自覚はあるのね?


 でもまぁ……


「今更だね。それに、オレは樋口さんの為じゃなくて、自分の為にやるだけだし。」


 そいつがストーカー紛いの事をしているのなら、樋口さんが此処にいる時点でもう手遅れだもんな。


 だが、既に巻き込まれているのだとしても、オレは彼女を責めるつもりは毛頭無い。


 諸々を分かった上で匿うと決めたのもあるが、彼女だってギリギリまで我慢した挙句にオレへ助けを求めたのだから、責められるワケがないんだよ。


 それに、自分の為というのも、オレ自身を守るって意味だけでもなく……


「自分の為……?」


「うん。オレは困っているキミを助ける事が、オレにとって正しい事だと信じてる。だから、これは樋口さんの為というより、自分が自分である為に……なんだ。」


 確かに行動した結果が辛い事はあったけれど、この二日でどこまでいってもやはり自分は曲げられないって気付かされたんだ。


 だから、オレはこれからも近しい誰かに手を差し伸べられるように、今はキミを助けたい。


 ……ただの、自己満足かもしれないけれど。


「……そう、なんだ……」


「樋口さん?どうかした?」


「何でもないわ……それよりもう遅いし、そろそろ休みましょうか。」


「そうだね。」


「……じゃあ、おやすみなさい。今日はありがとう、また明日ね?」


「あれ?何処へ行くの?」


 就寝前の挨拶を告げながら立ち上がった彼女を不思議に思い問いかけると、彼女は何故か寂しそうな表情で再び口を開く。


「何処って……出ていくのは当たり前じゃない、此処は貴方の部屋でしょう?」


 ……そういや、昼間に夜は外へ行くって言っていたな……確か、夜になると力を使おうとする衝動が抑えられなくなるのだっけ?


 彼女の力は相当強力だから、その衝動とやらも代償の内なのかもしれない……だから本人の言う通り、夜間は近付かない事が賢明だとは思うよ。


 だけど……だけどね?このまま彼女を行かせてしまうのは、何かダメな気がする!!


「アルマ!樋口さんを捕まえて!!」

「ミオ!だめ!」


 オレが声を掛けるのとほぼ同時に、樋口さんの隣に座っていたアルマは立ち上がると、彼女の腕をとって制止した。


 どうやら、アルマもオレと同じ気持ちだったらしい。


「アルマちゃん……お願いよ、その手を離してちょうだい?」


 腕にしがみつくアルマを振り払うのは流石に躊躇われるらしく、彼女は困り顔でアルマに語りかけるのだが、当のアルマも樋口さんが出ていこうとしているのを感じ取ったのか、彼女の言葉にイヤイヤと首を横に振ってみせる。


「アルマも、行くなってさ?」


 ……あれ?夜中に男の居る部屋に女の子を引き止めるのは、それはそれで色々と問題があるような?


 ま、まぁ、そこはアルマと一緒の部屋なら大丈夫だろ……多分。


「……貴方が捕まえさせていたじゃないの。」


 いやいや、オレが声を掛ける前にアルマは自分から動いていたってば!


「違うよ。アルマにとっても樋口さんは友達なんだよ。アルマもキミを放ってはおけないだけだ。だから……」

「……何よ、それ……ズルい。」


 アルマの気持ちを代弁するという訳ではないが、自分の感じた事を彼女へ伝えようとしたのに、何故かオレが全てを言い終える前に彼女は突然顔を伏せ、何かを呟いた。


「え?え?今……なん……」


 まだ喋っている最中だったので、彼女が何と言ったのかを聞き取れなかったオレは、顔を伏せたままの樋口さんに問いかけようとする。


 だが次の瞬間、顔をあげた彼女は酷く真剣な表情でこちらへ詰め寄りつつ、息がかかるくらい近くまで顔を寄せてきた為、オレは言葉を止めざるを得なかった。


 あ、あの、すっごく、近いのですが……?


「……貴方は?」


「な、何?」


「マサトくん……貴方は、どうなの?」


 え!?オレ!?


「そ、そんなの……オレも、アルマと一緒だよ?」


「……アルマちゃんを言い訳にしないで、きちんと言って。」


 きちんとって……そんなの、友達だから当たり前だって……


「いや、だから……友達だから……」


「何処にも行くなって、貴方の言葉でちゃんと言ってよ……お願い……」


 オレが友達だからと声に出した途端、今にも泣き出してしまうのではないかと思える程に悲痛な面持ちになりながら、か細い声で彼女はそう呟く。


 何なんだよ……一体?


「……樋口さんが心配だから、行かないで欲しい。」


「そう……分かったわ。」


「ミオ……」


よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 10月12日(日)18時となります。

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