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ある暗殺者の手記 ー崩壊の序曲ー  作者: 眠る人
反転する世界 ーInversionー

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手記20

「獣人達の……?」


 オレが問い返すと、彼女は頷いてから再び口を開く。


「えぇ……昼間に街を見た時から引っかかっていたのだけれど、私はあの街も後から人間が作ったのでは無いかと思っているわ。」


「どうして?」


「この考えそのものは、あのツルギって人の話を聞いている際に行き着いたのよ……でも、彼の話の全てを鵜呑みにした訳ではない事は、あらかじめ言っておくわね?」


「うん。」


 これは恐らく、前置きをするぐらいにはツルギさんに疑問を持っているけれど、それでも会話の中には信じるに足る要素があったという事だろう。


「私があの街を見た時に気付いた事は、二つあるの。先ずは街の建物とこの館とでは、明らかに作られた年代がズレているように見える事がひとつ。もう一つは貴方も分かっているだろうけれど、建築様式が違いすぎる事よ。」


 ふむ……年代については街の建物をしっかりと観察していなかったので何とも言えないが、確かに建築様式については西洋風の此処とは違い、あちらは東洋っぽい感じだったもんなぁ。


「それらの情報と彼の話を踏まえた上で、この建物の中に明らかに増設されたであろう、人用のシャワー室を見つけてしまったら……」


「疑念が確信に変わった、と?」


 オレの言葉に再び頷きながら、彼女は少し眉を寄せる。


「そうね……有体に言えば、人間達が獣人を追いやって土地と建物を奪ったとかかしら?いえ、獣人というより……」


「もしかして、アルマ達白狼の血族を……って言いたいの?」


 ツルギさんの話からすると、昔この辺りに白狼族は住んでいたって事だから、充分に考えられる推測だ。


 幾ら武闘派な部族でも、数の暴力とか搦手とかで追いやられる可能性があるもんな。


「えぇ。だから、両親と隠れて暮らしていたアルマちゃんも捕まって、無理矢理此処に連れて来られたのではないかって……」


 ……いや、最後のはどうだろう?


 彼女についてもありえなくはないと思うけれど、そう考えると両親だけが食い殺されたって話とは、食い違うというか……なにか噛み合わない感じがするような?


 考えたくもない話ではあるが、それが恨みからくるモノであるならば彼女が今生きている事自体がおかしくなるワケで。


 樋口さんも自分で言いつつ腑に落ちないって顔をしているし、多分だけどそこの答えを出すにはまだ情報が足りていないよ。


「とりあえず、この館が獣人の持ち物だったって件はさっきの話で納得出来るけど、アルマについてはちょっと疑問かなぁ?」


「やっぱりそうよね……」


「少なくとも、此処の連中が何かを企んでいる事には変わりないから、もう少し一緒に色々調べてみようよ?わざわざアルマを此処に連れて来たって部分については、オレも気になってはいるからね。」


 昼間にアルマの話を聞いた時、多分だけどあの様子からして彼女の見ている前で殺されたのだろうとは感じた。


 だが、力を奪うのが目的であるならば、何故彼女にまで手を掛けなかったのかって謎は、オレも引っかかってはいたのだ。


 今から思えばクレイの態度からも、彼女を仕方なくこの館で働かせている事は想像がつくしな。


 それらを考慮すると、何かしらの理由があるのは明白とはいえ……興味本位だけでそこに踏み込んでもいいものなのか?


 でも、この件にクレイが関わっているのなら、オレ達と全くの無関係という訳でも無いのだとは思う。


 けれど、アルマの事については現状では分からない事が多すぎて、助けるにしてもどうしたらいいのかの見当もつかないのだよね……だからせめて、もう一度ツルギさんと話がしたい所だが……


 何でオレ、あの時獣人の生活の事ばかり聞いちまったのだろう……何とかして、警備中のツルギさんとだけ接触出来る手段があったらなぁ……


「……分かったわ。」


 頭を掻きむしりたくなりながらもオレが更なる情報収集の提案をすると、彼女は眉を寄せながら瞑目しつつ暫く黙り込んでから、表情とは裏腹に同意の言葉を返した。


「ねぇ、樋口さん?何かあったの?顔色が悪いよ?」


 何だ?体調が悪い訳ではないようだが、焦っている?何に?


 街から帰る時から様子はおかしかったけれど、だとしても理由が分からないぞ?


「大丈夫……それより、この館や土地が獣人達の物だったのなら、寧ろ侵略者は人間の方になる……だとすれば、余計に此処の連中に手を貸す理由が無くなったわね。」


 あぁ、さっき言っていた思い違いって、そういう意味か。


 今の推測だと、最初に聞かされていた話とは真逆だもんな……とはいえ、どの道協力する気は全く無いがね。


「オレは最初から獣人と争うつもりが無かったから、分かった所で今更やる事は変わらないよ。」


「奇遇ね、私もよ。」


 だからこそ現状を早く把握した上で、なんとか脱出の算段をつけないとな。


 今から思うと昼間に逃げだせた可能性はあるが、ツルギさんが味方かも分からなかった状況ではなぁ……


 ……そうそう、ツルギさんと言えば樋口さんと二人きりの間に、昼間の話をしておかなければ。


「そっか……それより、ねぇ樋口さん?昼間の話の続き……」


ーーーコンコン


 話が一段落したのでオレが帰り道での続きを切り出した瞬間、アルマが戻ってきた事を告げる扉を打つ音が、部屋の中に響いた。


「……また後で、ね?」


 樋口さんはそう言うと、そそくさとオレに背を向けて部屋の入り口へと行き、食事の準備の手伝いを始める。


 後で……って、すぐに終わる内容でも無いから、もう話せるタイミングがアルマのご飯中ぐらいしか無いような?


 


「じゃあ食休めも終わったし、アルマちゃんがご飯を食べている間に行きましょうか?」


「何処に?」


 食後にいつも通りアルマの背中を見送った後で、漸く昼間の話の続きが出来るかと思った直後、樋口さんは徐に立ち上がるとオレに向けそう告げる。


 何だろう?外にでも出ようというのだろうか?


「……シャワー室に決まっているでしょう!?貴方、まさか今日も身体を拭くだけで済ませるつもりだったの!?」


 ……あっ!?


「い、いや、そんなつもりは無いよ……?」


 違う事を考えていて、忘れてました……って言ったら怒られるよな。


 まぁ、多分バレてるから既に怒っているのだろうけれど。


「鼻のいいアルマちゃんに嫌われたくはないでしょう!?さっさと行くわよ!」


 この一週間、樋口さんとは違い別にアルマは嫌な顔を見せてはいないのだけども、清潔にしておくに越した事はないからな。


 此処は大人しく彼女に従おう。


 ……決して、アルマに嫌われたく無いのが理由とかではないぞ!?


 決して!!




 道中、オレが聞こうとすると話題を無理矢理変えてしまう樋口さんに案内されるがまま、食堂の側にあるという増築された部屋へと足を踏み入れ中を見渡すと、簡単な間仕切りと見覚えのある設備が目に入る。


「本当にシャワーだ……」


 一週間と少し振りに見る利器に思わず呟いてしまうのだが、ソレを聞いた樋口さんが訝しげな表情でオレに視線を向けた。


「半信半疑だったの?」


「いや、そんな事はないよ。ただ、いざ実際に見ると見慣れたはずの物なのに、なんか懐かしいような感じがしてさ……」


 よくわからないけど、これが郷愁ってヤツなのかね?


 ……本当に帰る手段って、あるのかな?


「その気持ちは理解出来なくないわね……それより、私はもう休みたいから早く使い方の説明をするわよ?」


「あ、うん。お願い。」


 さっきから何なんだよ?まぁ、いいけどさ?



 彼女の説明を要約すると、地面にあるタンクへすぐ側の井戸から水を汲み上げ、そこから別の手押しポンプで更に天井付近にあるタンクへ水を送ると、繋がる管を通して勝手に水が流れ出るという仕組みらしく、途中上のタンクへ送る前に下のタンクに蓄熱石の入ったカゴを沈める事で、水を温めるのだそうだ。


 ちなみに、蓄熱石はそのまま水に入れておくと相応に時間は掛かるが沸騰までさせてしまうとの事で、放置すれば陶器製のタンクの破損に繋がる為、使い終わったら入っているカゴを必ず水から取り出さなければならないのだとか。



 使い切りで溶けて無くなる蓄光石に対して、蓄熱石は思った通り繰り返し使えるらしいが、見た感じ石炭にしか見えないのよね……


「……とまぁ、こんなところよ。」


「なるほど、確かにこれは簡易的な設備だわ。」


 止水栓のような物も一切無く、貯めた分しか水が使えないので、これなら樋口さんでなくとも、後から無理矢理付け足しただろう事は分かるわな。


「でしょう?明らかに急拵えといった様相ですもの……恐らくは、此処に元から井戸があった為に作ったのでしょうね。」


「あー……食堂が近いもんね。」


 水回りが元からあった場所に作られたって事だろう。


 ……ふと今気付いたのだが、アルマが持ってきてくれる濡れタオルが温かかったのだけど、恐らく此処で彼女自身が用意してくれていたのかな?


 そう考えると、彼女の優しさが染み入るというか、何というか……ありがたいよね。


「ええ……じゃあ、説明も終わったから私は先に戻るわね。」


「えぇ?……うん、分かった。」


 今が昼間の話をする最後のチャンスの筈なのだが、もしかしてもう話す気が無いのか?


 だったら仕方ない、彼女が話をしたくなるまで待つ以外に無いな。


「桶とか石鹸は自由に使っていいそうよ。それとタオルはそこの棚にあるわ……では、また後で……ね?」


「う、うん……」


 いや?この思わせぶりな様子では、どうやら話す気自体はあるようだけど……多分、敢えて避けて後回しにしているとか?


 一体何故?時間を置く意味のある話では無い筈だが?



 そんな疑問を当人に問いかける間もなく、樋口さんはそそくさとシャワー室を後にして、オレはひとり取り残される。


 あれでは追いかけて問い詰めても、逃げられてしまうだけだろうな。


 そう考えて、先程の説明が実演を交えながらだった為、後は水温を確かめつつ待つだけだからと地面にあるタンクに腰掛けた時だった。




 木の軋む音を立て再びシャワー室の扉が開く気配がしたので、樋口さんが戻ってきたのかと思い、声を掛ける為にそちらへ視線を向ける。


 すると……


「漸く空いたわね……全く、いつまで使っているのよ……昨日まではアタシとあのガキ以外は兵士しか使わなかったってのに、なんで今日になって……って、あら?もう一人居たの?」


「どうし……あ、あれ?」


 見た覚えの無い、黒髪の女性がそこに立っていたのだった。


「しかもアンタ、男じゃない?……さっき出ていったのはガキとはいえ女だったわよね?もしかして……アンタ達こんな所でしてたの?匂いが残るのに、やめてよね!」


「……え?あの……」


 故に、オレは気後れしてしまいまともに言葉も返せなくなる。


 アルマと似た服を着ている為、恐らくは彼女も女中且つ人返りの獣人であろう事は分かるのだが、この女性は入り口でオレの姿を確認しても尚立ち去るでもなく、何故かそのままシャワー室の中へと足を踏み入れてきた。


 いや、何で!?


「ホント、どうしようもない猿ばっかりね……近頃の人間のガキ共はどうなっているのかしら?……あれ?貴方人間、よね?」


 ……しかもこれ、何かあらぬ誤解をされてないか?


「オ、オレは、別に……何も……」


「……まぁいいわ。それよりも何?本気にしちゃったの?ちょっとした冗談なのに?匂いで分かってるから、そんなに焦らなくてもいいわよ?」


 冗談なのかよ!?


 なんかこの人、やりづらいなぁ。


「ねぇ、それよりアンタ……」


「は、はい?」


 シャワー室に足を踏み入れた彼女は、どうしてだかそのままオレに近づき、匂いを嗅ぐ仕草を見せる。


 何かを確認しているようにも見えるが、一体……?


「やっぱり、あの白狼のガキの匂いがする……」


「は?」


 白狼の……って、もしかしてアルマの事?


 まさか、この人も匂いで個人を識別出来るのか!?


「……でも、この匂いって……ふぅーん?」


「な、なんですか……?」


 確認を終え顔を離した女性は、何故かオレの隣に腰掛けると少し不満そうな表情でこちらを覗き込む。


 さっきから近いってば!!


「あのガキ……人がせっかく仲良くする方法を教えてやったのに、自分の男に何もしていないのね。その所為で、別のメスの匂いもしてんじゃないの。」


「教えた……?何を?」


 何を言ってるんだよ、この人は……?


「何をって……オスとメスがする事と言えば、決まってるじゃない?」


「え?」


 彼女はオレの反応を確認するかのように思わせぶりな言葉を口にしつつ、蠱惑的な笑みを浮かべる。


 決まってはいないと思うが……って、ん?待てよ?


 まさかとは思うが、アルマに夜伽云々を教えたのは、この人か……?


「分からないの?おかしいわね……アタシのトコの猿は、やり方すら知っていたわよ?アンタにも、あのガキみたいに教えてあげようか?」


 猿って、誰の事だろ?


 いや、それより……この人、まだ子供のアルマに何て事を教えてるんだよ!?


 ……あっ!?でも、それが事実だとしたら、オレはクレイに謝罪をしなければいけないのか。


 仕方ない。ヤツの事は嫌いだけど、あらぬ疑いをかけた事だけは謝ってやるよ……心の中でだけ、だけどな!


「でも、さっき違うって言ってたから、あながち知らない訳でもないのか……それなら、余計に聞かせて頂戴?アンタは……どうしてあのガキに手を出さないの?」


「手を出すって……」


 ……なんでまた、こうして昨日と同じ質問をされているのだろうね?


 しかも、見ず知らずの人から唐突に。


「アタシの見てきた男共なら、あの貧相なガキ相手でも喜んで手籠めにしたでしょうね。なのに、アンタはそうしなかった……アタシはそれが何故かを、知りたいの。」


「そう、言われても……」


 理由なんて聞かれても困るのだが……


「男色家だから?それとも、その若さで不能なの?」


 そうそう、実はそうなんですよ……って、そんなワケあるかい!!


「ち、ちが……!」


 遠慮も恥じらいも無いのか、この人は!?


「じゃあ、どうして?」


 これって、多分ちゃんと答えるまで聞いてくるパターン?


 じゃあ、仕方ないな……


「……と、友達、だから……」


 口に出すのは少し恥ずかしいけれど、言うしかない。


 そう考えてアルマは友達だからと告げると、彼女は急に不機嫌そうな様子になり、それを隠そうともしないまま、オレを睨みつける。


「友達?たったそれだけの理由で?そんなに匂いを撒き散らせておいて、触れた事すら無いなんて言い訳は、アタシに通用しないよ。」


「それだけって……」


 理由としては、充分ではないか?


 そう続けようとするオレを見据えつつ、言葉を遮るように彼女は険しい表情で口を開いた。


「そんなモノ、後生大事にしたって何の役にも立たないと思わないの?その様子だとアンタ、あのガキを相当気に入っているんでしょ?だったら尚更よ。」


「役に立つとか、そんな話じゃ……」


「いいえ、役に立たないわね。」


 どうしてそこまでハッキリ言い切れるのだろう?


「あのガキや貴方も、いつかはそれが分かる時が来るわ。」


 わかんねぇよ!


 利害関係だけが友達の全てだとは思わないオレは、彼女の言葉に内心で少しムッとしながらも首を横に振って応える。


「へぇ?じゃあそんなアンタに、昔話をしてあげる……アタシは、あのガキと同じ年頃で家族を食べさせる為に自分を売ったのよ。アタシの家は、貧乏なのに兄弟が沢山いてね?アタシは、その中で一人だけ人返りを起こしていたの。」


 ……何故、またしても重そうな話を聞かされているのだろうな?


「アタシの生まれた街では、獣人というだけでまともな職につけなかったんだ。普通の獣人なら、兵士なり行商の荷運びなりで食い繋ぐ事は出来たけど、アタシみたいな力と学の無い人返りはこうするしか無かった。子供だったアタシには、他が選べなかったのさ。」


 どうやら、獣人達は本当に虐げられているらしいが……


「幸い、見た目だけはそれなりだったからね。すぐに食うに困る事はなくなったよ。勿論、アタシだけでなく、弟達もね。」


 この人の話、何故かは分からないけれど聞いておいた方がいいような気がする。


「アタシは、そうやって出来る限りの事をしたつもり……なのに、誰も助けてなんてくれなかった。両親も、他の兄弟も……一緒に育った、友達ですらも。」


「友達も?」


「ねぇ?アイツらが、必死でお金を送り続けたアタシに何て言ったか分かる?一族の恥だって、そう言ったのよ?もう必要無いって、帰ってくるなって……そう手紙で一言だけ寄越したのよ?」


 彼女の言葉の端に段々と力がこもりだし、最早怒りを堪えるような表情になりながらも、目の前の女性は続ける。


「見受けの話も断ってまで、お金を工面していた、この私にね?よく言えたものだと思わない?……それから暫くして会いに行った友達も、似たような態度だったわ。ずっと友達だって思っていたのは、アタシだけだったのよ。」


 その友達はともかく、この人の家族は本当に見捨てたのかな?


 甘いのかもしれないけれど、オレにはどうしてもそうは思えないんだよ。


 オレには、彼女に幸せになってほしくて、わざと手紙を出したようにも思えるような?


 だって、そうだろ?


 何とも思っていないのなら、そのままお金を送らせ続ければいいのに、わざわざ突き放したんだぞ?


 それってさ、普通に考えるなら自分の為に使えとか、そういう意味じゃん?


「だから、この世界で信じられるのは自分のみ。アタシは、自分が生きる為なら何でもする……ね?分かったでしょ?人との繋がりなんて、何の役にも立たないって……これを聞いた後でもアンタは、私に人は信じる事が出来ると言えるの?」


 そこまで言い終えると、彼女は鋭い目付きで真っ直ぐにオレを見据える。


 ……この人程は壮絶で無いにせよ、オレも似たような経験はしたよ。


 ストーカーから妹を守るためだったとはいえ、警察沙汰を起こしてしまったオレに近づいてくれる奴なんて、誰も居なかったんだ。


 一緒にいた親友だって思っていた幼馴染ですらも、事件の後で妹同様にオレを怯えた目で見てきたんだよ。


 でもさ?


 それでもあの時、オレの親父や母さんだけはオレを見捨てなかった。


 叱るのと同時に、オレを褒めてもくれたんだよ。


 だからかな?


 やり過ぎだったと反省こそして、何度も繰り返す過ちはしない事は勿論だとした上で、オレは今でも行動した事については後悔していなかったんだ。


 その事に、漸く気付けたよ。


 その後の所為で人と関わる事が怖くなってしまってはいたが、オレは彼女のように何もかもに絶望してしまった訳ではなかったのだな。


 だから、オレは樋口さんやアルマを放っておけないのだと思う。


 ……まだ誰かに話すのは怖いけれど、今やっと自分と向き合えたような気がするよ。


 彼女の話を聞き自らが行動する理由に気付いたオレは、言葉の代わりに彼女の目を見ながら頷く事で返事を返した。


「……そう。アンタも、あの猿と同じなのね。」


「それって、誰の事……?」


 それに、同じって?


「……こんな話、するつもりは無かったのに……あの猿だって、最初はアンタみたいに……」


「はぁ……?」


 この人は、さっきから一体誰の事を言っているのだろう?


 第一、何だってオレにこんな話を?


「……でも、アンタのおかげで、アイツが元に戻ったわ。本当は、その礼をどうしても言いたかっただけよ。」


「え?」


 お礼?初対面のオレに?何で?


「じゃあ、用も済んだしアタシは戻るわ。暫くしたらまた来るから、使い終わった後はお湯を沸かしておいて頂戴?」


「あ、はい……」


 うーん?今のやり取りって、一体何だったのだろう?


 彼女とは初対面の筈なのに、お礼ってのも意味が分からないし……



 分からない事は考えても仕方ない。


 それよりも今は、念の為に時間をかけて身体を洗う方が大事だよな……きっと。

よろしければ、ご意見、ご感想をお待ちしております。

批判などでも構いません。物語をよくする為の貴重なご意見は、真摯に受け止めさせて頂きます。


ブックマークや、評価、コメントは大変励みになりますので、是非よろしくお願いします。


次回更新予定は 10月5日(日)18時となります。

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