出立
『どうなった?マリーは?』
「お・・・落ち着いてくださいっすレン様!!」
ドロシーの肩をガシッと掴み、ぶんぶんと揺さぶるレン。
心なしかドロシーの息遣いが色っぽく感じる。
「ふぅ・・・お?帰って来たのかレン」
マリーの寝ている部屋の扉が開き、デルが出てくる。
「マリーはひとまず死ぬことはないだろう。ただ・・・」
レンはじっとデルを見る。
「不死鳥の涙って言うのは人にしか効かん。マリーの中にいる魔物の遺伝子は寿命で死ぬだろう。そしてマリー自身の人としての遺伝子は生き残る。つまり・・・マリーの心を読むというスキルも消えるだろう」
『マリーは死なないんだな?』
「ああ。安心していい。まだ魔物の遺伝子の方が生きているから眠ったままだが・・・直に元気になるだろう」
ホッと息を吐くレン。安心し、ドカッと床に座り込む。
「それよりいいのか?マリーの心を読むスキルが消えるんだぞ?」
『そんなのどうでもいい』
レンは木の板にナイフで文字を掘っていく。
『俺が好きになったのはマリー自身だ。あいつの能力じゃない。それに、別に言葉を交わすならこうして文字を書けばいいしな』
「ふっ・・・そうか。マリーの容態は安定した。明日出るんだろ?」
コクリとレンは頷く。謁見の間での出来事は、ドロシーを通じてすべて情報が共有されていた。
「それまで隣にいてやるといい。儂が触ると、触んじゃねえですクソ爺、とか寝言で言われてな・・・」
レンはすぐにマリーの寝ている部屋に入る。
ベッドの横に座ると、心なしかつらそうにしていた表情が、和らいでいるように見える。
「レン・・・どこですか・・・声が・・・聞こえ・・・んです・・・」
レンはそっとマリーの手を取る。そしてギュッと少しだけ力を込めて握る。
「レン・・・ずっ・・・・そば・・に・・・」
そしてそのままレンは、約束の時間までずっとマリーの側で手を握り続けたのだった。
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翌朝。マリーの顔色は良くなっており、すやすやと安らかに眠る様子が見て取れる。その様子を見て、レンは少し微笑む。
「レン。そろそろ時間じゃないのか?」
コクリとレンは頷き、レンは立ち上がる。
「レン・・・いかな・・いで・・・です・・・」
レンはマリーの頭を愛おしそうに撫で・・・グッと表情を引き締める。
「生きて帰ってくるんだぞ?孫を泣かせたら許さんからな」
「レン様・・・」
レンは先ほど文字を書いていた木の板を取り出す。
『ドロシー。マリーを頼む』
「はっ!命に代えましても!」
『そして・・・マリーの親友として、もし俺が――――』
「見えないっす!!レン様からの初めての命令に感動して前が見えないっす!!だから・・・その先の言葉は・・・読めないっす!だから・・・マリーと一緒に・・・ずっとここで・・・待ってるっすから!!」
レンは笑みを浮かべ、ひらひらと手を振り、その言葉に応えた。
「今回の作戦の復習」
そう言い始めたのはエリーだった。
2台の馬車が走る。一方はアンジュ、スイ、キースそして協会のトップであるマザーが乗る馬車。
そしてもう一台がレン、エリー、マリクが乗り合わせていた。
「我が最大の魔術で魔王を消しさる。以上」
「ん。半分正解」
それを聞いて首をひねるレン。
「前衛がキース、スイ。補助がアンジュ、マザー。そして遊撃がレン。魔王を十数秒止められたら私たちの勝ち」
「我が必殺の魔術で魔王を時空の彼方へと消す」
「私はそれのサポート。細かい魔力操作ができないポンコツを補助する」
「ふん。細かいことは雑魚がやればいい」
レンは馬車に備え付けられていた紙に筆を走らせる。
『その魔法で魔王は本当に倒せるのか?』
「倒さない。言葉通り今のこの世界から消す。正確には13652年先の未来に送る」
『えっと・・・』
「ふっ。凡人に我の魔法を理解しろというのは可哀想であろう」
「理論的には、膨大な魔力を使って空間を捻じ曲げ、こことは違う時空へとつながる孔を作り出す。その空間に飲み込まれると分解され、あちらの空間にのみ込まれる。普通の人ならそこで死ぬ。しかし相手は魔王。半分は怨念や恨みなどの概念で作られている存在。だからきっとその空間からも脱出すると想定。その脱出にかかる時間がこちらの世界の計算で13652年。過去の文献や魔王の持つエネルギーの量を計算に入れた。そして問題なのはその飛ばされる空間とこちらの世界は時間の流れが違う。こちらの世界の一年が、向こうの世界では1秒に相当する。魔王が空間を破ってこちらの世界に帰ってくるまで13652秒。つまりこちらの世界で13652年後になる。それまでに人類は万全の態勢を整え、魔王に立ち向かうか、あるいはすでに世界が無くなっているか。そして今回の魔法の肝になるのは、無属性という新しい魔法になる。この魔法を使うため、どこまで魔力効率をあげ、空間を捻じ曲げられるほどのエネルギーを出すか、そこに苦労した。そもそもマリクはそんな細かい計算をしないから私が苦労することになった。そもそも無属性魔法とは――――」
「ええい!うるさいうるさい!!この魔法オタクめが!!見て見ろこいつを!!理解するのをやめてどこか遠い目をしているだろうが!!」
はっ!とエリーはレンの方を見ると、確かにレンはどこか遠い目をしてエリーの話を聞いていた。
『なるほど理解した。俺は魔物をぶっ殺す。お前たちは魔王と戦う。そういうことだな』
「う・・・うん。それで合ってる・・・」
顔を赤くして俯くエリー。
その後は馬車のゆり動く音のみが、静寂の中なり続けていたのだった。




