帝国の勇者と聖女
「流石に苦戦したなぁ〜!久々に手応えのありすぎるダンジョンだったな」
「な・・・何回・・・死んだと思ったか・・・キー君無茶しすぎですぅ・・・」
「まぁ生きて帰れたし、無事依頼も達成したからいいじゃねぇか」
少しくせ毛混じりの赤い髪をボリボリ掻きながら歩く男と、漆黒の髪を腰まで伸ばした女が、街道を歩いていた。
すると街道の真ん中に立つ、フードを被った二人が見える。
普通に無視して通ろうとした男と女、しかし・・・。
「勇者様と聖者様。お待ちしておりました」
そう言ってフードを外し、跪く一人の女性。カタリ―だった。
「俺たちになんか用事か?」
「ええ。少しお話を聞いていただきたく・・・お願いします勇者キース様」
「その勇者って言うのをやめろ。俺はその肩書が嫌いなんだ。キースでいい」
「わ・・私も・・・聖女なんて・・・大層な肩書・・・スイでいいですぅ」
「キース・・・スイ。相談したいことがある。聞いてほしい」
カタリーの背後にいた女性は王国の賢者であるエリーだった。
「別にいいんだけどよ・・・」
「ではっ!?」
カタリーが目を輝かせてキースを見る。
「とりあえず腹減った!!飯食いながらでもいいか?」
キースは朗らかに笑いながらそう言った。
「ふーん。王国からねぇ・・・ングング・・・お姉さん!この肉追加で!」
「はーい!」
大量の料理が机の上に並べられ、それを豪快に食べ続けるキース。
「つーか俺関係ねぇじゃん。スイちゃんに聞けよ」
相談とはカタリーの身体能力低下のことだった。何故こうなったのか、この症状は治るのか。そういう質問だった。
「げ・・原因は・・・王国の聖女さんの実力不足ですねぇ」
「実力不足?でもしっかりと傷は治ってますが・・・」
「かかか・・・簡単に言うと・・・同じ回復魔法を操る僧侶と聖女は同じようで違うの・・・」
「違い?アンジュも普通にヒールとか使ってた」
軽い傷とかならアンジュも下位の回復魔法を使用しているのはエリーもよく見ていた。
つまりエリーが言いたいのは、使う魔法も同じで効果も同じ、ならば根本は一緒なのでは?と。
「そそ・・・僧侶は魔法に制限がかかっているの。私には制限がない。賢い賢者ならこれだけでも分かるはず・・・」
「力の使い方を知らないと、制御不能。その暴走の結果がカタリー?」
「だだ・・・だいたいあってるよ」
「分かりません!!もう少し詳しくお願いします!」
カタリーは机を叩き、立ち上がる。
「じじじ・・・じゃあ詳しく説明するね。
回復魔法って言うのは本来かなり難しい魔法なの。怪我や傷がどれほどの魔力で治るのかをしっかりと把握しないといけないし、相手を想う気持ちがなければ発動すらしない様なものなの。
数値化して簡単に説明すると自分の魔力が100あるとする、ヒールという魔法を使用するのに魔力を5消費し、20の魔力量で傷が治る。こう言う計算をしないといけないの。因みに回復魔法によって込められる魔力量、つまり治せる傷の限界値が違うの。ヒールだと大体40、ハイヒールで80という具合ね。
これが基本で、僧侶の人は自分の魔力量と、傷の具合を確かめつつ回復魔法を使わないとすぐ魔力切れになっちゃう。未熟な人はそもそも回復魔法を使えない。
でも聖女は違うの。未熟でも使えるし、回復魔法に使えるのが魔力だけじゃなく、自身の命を代償にしたりもできるの。
聖女の異常な所は、最初から全ての種類の回復魔法が使えるの。そして人を想う心がない、誰かのために自身を犠牲にできる覚悟がないと、代償を払えないの。そりゃそうだよね。なんとも思ってない誰かのために、何かしたいと思わないよね?だから・・・回復された対象が代償を払うことになるの。これは昔回復魔法は、一種の攻撃魔法とされていた頃の名残らしいの。つまり・・・
あなたが受けた回復魔法の代償を、あなた自身が払ったの。魔力を全て吸い上げ、足りない分をあなた自身の体で補った。
それほどの筋力低下だと、ほぼ致命傷レベルのダメージだったんじゃないかな?ほっといたら死んでただろうし、でもあと一歩で回復魔法による代償で死んでたかも?命があるだけマシだと思うかはあなた次第かな?」
スイは突然早口になり、一気に説明をする。
エリーは驚き、カタリーは・・・。
「・・・」
神妙な面持ちで沈黙した。
「別に命がありゃいくらでも挽回できるだろ?筋力が落ちたならまた鍛えればいいし、復讐したいならすればいい、死んでりゃできない事だろ?」
「確かに・・・」
「スイ・・・今の話は本当?代償を・・・回復された本人が払うって・・・」
「え・・ええ。だから・・・聖女は教会で厳しい試練を受けるの・・・一歩間違えれば危険な人になるから・・・」
少し考えるように黙るエリー。
「キース。勇者ってどういうもの?」
「あ?勇者っていう天啓はクソだよ。俺は絶望したな。天啓を得た日に望んでもいねぇのにいきなり強くなる。俺が今まで鍛えてきたのはなんだったのか、おれがつえぇんじゃねぇ。勇者と言う職業が強ぇんだよ」
「それを踏まえて・・・アンジュ・・・王国の聖女は、レンにも勇者アルフレッドにも回復魔法を使ってた。だけど・・・勇者はゴブリンやスライム程度しか倒せなく、レンは強いまま」
エリーはこの答えの結論が、ありえない事だと思っていた。だってあの悪女は・・・。
「一つはそのレンって奴が、めちゃくちゃ強くて、弱体化してなお強い。
そしてもうひとつが、レンに回復する時だけ、魔力・・・もしくは何かしらの代償を聖女が払ってたか、だな」
「・・・ありえない。あの女が・・・」
「じじ・・・自分の・・・心の奥深くに眠っている気持ちって言うのは・・・自分自身じゃわからないことが多いの・・・ふとした時に気付くの・・・そのきっかけは人それぞれだけど・・・」
「さてと・・・。もう解決したか?」
机の上にあった料理の乗っていた更が全て空になり、キースは立ち上がる。
「俺らはご依頼の品を帝都に運ばなければいけないからな。そろそろ帰ってもらえると・・・」
「賢者・・・帝国の賢者はどこに行ったら会える?」
「ああ・・・。そう言えばちっこいの、お前も賢者だったな・・・それだったら俺らと帝都に行くか?」
「マー君なら・・・帝都で引きこもってるね」
「あいつは膨大な魔力を保有しているくせに、魔法を一個も習得できてない賢者だからな・・・。本人曰く『我のような神の如き人物に、凡人の矮小な魔法を習得できるはずもない!!』だっけか」
「マー君昔から・・・あんな感じだから・・・ずっとオリジナル魔法を研究してるよ・・・もしかしたらエリー・・・貴方なら助けになれるかもね・・・」
スイも立ち上がり、それにカタリーとエリーも続く。
「なんだ?お前も付いて来るのか?」
「エリーの行くところに私は行きます」
「仲が・・・いいんですね」
「一蓮托生」
「それじゃあ帰るとするか。帝国の首都に!」
そう言ってキースは布に包まれた荷物を肩に担ぐ。
「ったく・・・使わねぇ盾を取ってこいだなんて何を考えてんだあの王様は・・・」
「まぁまぁ・・・それなりの報酬ももらえるし・・・ね?」
かくして四人は、一緒に帝都へと向かのであった。




