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製麺所2号店

 

 チナツと共に隠れ家に戻ってくると兄さん達が出迎えてくれた。


「にーーさん!!」


 真冬が兄さんを見かけると飛びつきに行く。

 本当にあの娘は兄さんが好きである。

 添い寝をする時も、風呂に入る時も、ご飯を食べる時も、ほぼ全てにおいて兄さんと一緒にしようとするのだ。

 ああいう行動は絶対に私にはしない……。

 どれもこれも、私の悪評を流し込んだチアキ達のせいである。

 チナツは上手い事騙くらかしていたが、絶対に逃がさない。

 私と一緒に陥れてやる。


「お、お帰り。チナツも久しぶりだな」


 兄さんが真冬を抱っこしながら、チナツに笑いかけた。


「ええ、久しぶりね」

「取り敢えず、積もる話もあるだろ。立ち話も何だし座って話そうぜ」


 そう言って、兄さんはリビングに引っ込んでいった。

 私達もそれに続く。

 リビングには珍しく一平がいた。

 多分、いつもの報告に来ていたのだろう。


「それで一体どこから聞きたいんだ?」


 何時もの定位置に座った兄さんはチナツを席に進めながら話を始める。

 真冬も兄さんに会えたのが嬉しいのか、自分の定位置であると自称している兄さんの膝の上に座り嬉しそうにしていた。


「あんた一体何考えてる訳? ここまで心配して来てくれたのは嬉しいけど、これはやりすぎよ」


 チナツはそんな真冬を羨ましそうに見ながらも、話しの本題に入る。


「そんなの言わなくても分かるだろ? この街に麺を普及させようとしているんだ」


 兄さんは自慢気に言うが、近くにずっといた私ですら分からないのだ。

 チナツはもっと分からないだろう。


「取り敢えずの第一段階――この街の住民に麺類の素晴らしさを普及することは成功した。これから計画を第二段階に移す必要がある」

「第二段階って何なのよ?」


 兄さんのあまりに堂々とした態度にチナツが気圧され始める。

 元々この娘は私達には強気な癖に、兄さんに強く迫られると一瞬で負けるのだ。

 この反応も当然だろう。


「決まってるだろう。ここに、俺の製麺所の二号店を開店させるんだ!!」


 えっ、何それ?

 その話聞くの初めてなんだけど……。


「俺はこの街に麺類が普及していないことを知り絶望した。でも、ここで布教活動を行った結果、一つの真実に気が付いたんだ。この街なら、俺の麺の販路を拡大できると!!」

「あんたそれ凄い個人的な理由じゃない……」

「そうは言うが、お金は大事だぞ。チアキじゃないが、お金があれば大体の事は何でも出来る。現状、俺の麺はイーストウッドでしか販売していないが、チアキにゲートを開いてもらえば、この街での販売も不可能ではない」


 そう熱く語るにいさん。

 対するチナツは兄さんを冷ややかな目で見ていた。


「あんたのいう事も分からなくはないけど、それ今やる必要ないでしょ?」

「何を馬鹿な事を言っているんだ!! 麺類を知らないなんて、人生の9割9分損していると言わざるを得ない!! 俺はこの街の人達に麺類の素晴らしさを布教する必要性があると感じたんだ」

「いや、意味分かんないんだけど……」

「実際俺の活動のおかげでこの街に活気が戻ってきた。チナツには悪いが、今じゃこの街では国教よりも俺の麺類の方が信望を集めていると言っても良いだろう」

「まふゆもがんばったんだよー」


 兄さんの信望者の一人である真冬もニコニコと両手を挙げて同意する。

 子供にのみ許された愛想撒きだ。

 これには兄さんもニコニコである。


「確かにこの街の教会は碌な事をしてこなかったから、それも仕方ないかもしれないわ……」


 チナツも兄さんの勢いに押されて、兄さんの活動を認めそうな空気が出て来た。

 流石にチョロい女である。

 ただ一つだけ言わせてもらうと、この街の活気が戻った一番の理由は真冬のアイドル活動だと思う。

 最初は客寄せで真冬が歌って踊り始めたのが始まりだが、今では兄さんの麺は真冬の活動の入場券代わりにされているのが現状だ。

 まぁ売れているのは事実だし、実際に兄さんの麺目当てのお客さんもいるから良いんだけど。


「ところでさっきから聞きたかったんだけど、何でチハルがここにいるの?」


 私は先程から思った疑問を口に出す。

 チハルはナタリアに包丁を刺そうとして一平に止められていた。

 本当に何をやっているの?


「そんなの決まってるじゃん。お兄ちゃんのいる所にわたしはいるんだよ」


 私の質問に答える為か、一平の拘束を解けなかったからか分からないが、チハルはナタリアを刺すのは諦めて私の方を向いて答える。

 それにしても、何を当り前の事をとか言う顔をしないで欲しい。

 確かに、今更気にしたら負けな気がしてくる。


「それじゃあ何してるの?」

「それも決まってるよ。お兄ちゃんをかどわした間女を抹消してるんだよ」


 チハルのその回答にナタリアはガクガク震えていた。

 股の間が濡れている様な気がするが、彼女の為にも気のせいという事にしておこう。

 確かに慣れていないとあれは怖い。

 私は慣れていても怖い。

 真冬は暢気に「ちはるおねーちゃんだ」とか喜んでいたけど、怖くないの?


「チハル、落ち着いて。彼女はこの街で、兄さんの麺を売る為の許可を出してくれている大切な人。今ここで抹消されると兄さんも困る」


 取り敢えず、兄さんを引き合いに出してチハルの凶行を止めないといけない。

 このままだと本当にナタリアが抹消されてしまう。


「お兄ちゃん、チフユお姉ちゃんの言ってることは本当かな?」


 相変わらず、目のハイライトは消え口だけ笑っている表情からは狂気しか感じなかった。

 いつもの事と言われるとその通りだけど。


「ああ、事実だ。今、ナタリアに居なくなられると、俺の麺類が売れなくなる。彼女がいてくれるから、衛兵達も俺達を相手に無茶が出来ないんだ」


 兄さんの言葉に、ナタリアも首を上下させて同意する。

 その顔は恐怖に歪んでおり、助かる為に何でもするという強い意思を感じる。


「ふーん。ま、いっか」


 チハルは包丁を台所に片付けて、満面の笑みを兄さんに向けた。


「お兄ちゃん、久しぶりだね。会いたかったよ」


 その表情は見る者を魅了する素晴らしい笑顔だったが、今までの顔を思い出すと素直に評価できなかった。


「チハル、前から言ってるだろう。俺の調理道具を凶器に使うんじゃない!!」


 そんなチハルに兄さんは見当違いの方向性で怒っていた。

 懐かしい空気だ。

 忌々しくも居心地のいいそんな空気。

 チアキもこの街に入っているみたいだったし、その内出て来るだろう。

 それこそ、兄さんいる所にチアキありである。

 はぁ、また面倒事になるんだろうな。

 私は何となくそう予感したのだ。


チハルだけじゃなく兄さんのいる所には走光性を持つ虫の様に、チナツもチアキもチフユも集まってくる習性があります。

チハル達を探したい時は、兄さんと一緒にいると大抵向こうから出て来るという技術を4人とも習得しています。

逆に兄さんは4人を探したことはあまりありません。

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