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聖女は気苦労が絶えない


「チナツ、丁度いい所に!! うちのアネットを見なかったか!?」


 朝起きて部屋を出ると、ゴットフリートさんが凄い慌てていた。

 彼を落ち着けて話を聞くと、アネットさんが部屋から居なくなっていたらしい。

 今リーフさんと一緒に宿屋の人達に色々と聞きまわっている様だ。


「あたしはさっき起きたばかりだから見てないけど」

「そうか、すまない。アネットを見掛けたら教えてくれ」


 ゴットフリートさんはあたしの回答にガッカリした様ではあったが、改めて他の人に聞き込みに行った。


「まさかね……」


 あたしの頭の中に昨日チハルとした会話が思い浮かんだ。

 そう言えば起きた時、チハルの布団が空いていた気がする。


「取り敢えず、チアキにも聞いてみないとね」



 部屋に戻るとチアキはまだ寝ていて、チハルの布団はあたしの記憶通り空になっていた。

 チハルの布団からは温かさはもう抜けており、起きてから相当時間が経っているのが読み取れる。


「兄様……、催眠魔法は合法だよっ……。バレなければ……、何をやったって合法になるんだよ……」


 チアキは暢気に寝言を言っていた。

 夢の中にまであいつが出演しているらしい。

 しかし寝言でまで何を言っているんだろう。

 犯罪はバレなくても違法だし、余程の事がない限り大体バレて捕まるんだけど。


「チアキ、起きなさい!!」


 取り敢えずチアキの夢の中まで干渉していたら、あたしの精神が持たないので、寝言については聞かなかったことにして、チアキを起こす。


「ふわ~~……。チナツ、おはよう」


 チアキの寝起きは意外といい。

 と言うかあたし達の中で一番いい。

 何でも、寝惚けていたら時間が無駄になって勿体ないとかで、一瞬で頭を起こせるように前日の夜に自作の薬を飲んでいるらしい。

 あたしも一回飲まされたことがあるけど、翌朝頭が重いしお腹は下すしで散々だった記憶がある。


「チナツが慌ててるなんて珍しいねっ。何かあったのかなっ?」


 そんな訳で、チアキは寝起きであるものの反応が凄くいい。

 こういう時は助かるんだけどね。


「ゴットフリートさんの所のアネットさんが朝起きたら居なくなってたんだって。あんた何か知らない?」

「うーん、うちも今起きたばっかりだしねっ。少なくとも寝るまでの間に不審な気配は感じなかったよっ」


 あたしの質問にちょっと考えた素振りは見せるものの分からないと言った顔をしている。

 まぁこいつは腹芸に長けているから、表情だけでやったやってないを判断するのは無駄なんだけど。


「そう言えば、チハル知らない?」


 併せて、あたしの中の第一被疑者であるチハルの動向を知らないか聞いてみる。


「チハルだったら、明け方部屋出て行ったよっ。【潜伏】スキルを使ってたし、何かやりに行ったんじゃないかなっ」


 チアキ曰く、こそこそと部屋から出て行くのを見た様だ。

 眠たかったので声は掛けなかったらしく、チハルもチアキが起きている事には気付いていなかったらしい。


「なんで、あんたはその時止めないのよ!!」


 思わずツッコミを入れてしまった。


「だって、兄様にもうちにも関係のない話だしねっ。チハルが何やろうとチハルの自由じゃないかなっ?」

「そうは言ったって、チハルが官憲に捕まったらにぃにが悲しむじゃないの!!」

「そんな事で兄様は悲しまないよっ。うちが捕まっても苦笑いで済ませてるしねっ」

「それはあんたが常習犯だからでしょ!! 最初に官憲からにぃにの所に連絡が来た時は、にぃにだって慌ててたんだからね!!」


 チアキの逮捕癖はもう趣味の領域になっているので、あいつも諦めているだけなのだ。

 逮捕されて悲しまれないのは自業自得だろう。

 チアキがショックを受けた顔をしているが、完全に自分がいけないのだ。

 これをもって、もう少し自分の行動を見直して欲しい。


 しかし、チハルはそうじゃない。

 チハルはああ見えて、犯罪を犯した事は一度もないのだ。

 いや、ちょっと待って、過去にチフユにナイフ投げてたことって犯罪じゃないの?

 よく考えるとあれは暴行罪だ……。

 それに王子とか剣聖とかの奴だって傷害罪である。

 誰も訴え出てないから、罪に問われていないだけだ……。


 チハルはああ見えて、一度も逮捕されたことがないのだ。

 こっちの方が正しい。


 だから、にぃにもチハルが捕まったと聞いたら悲しむのだ。 

 悲しむよね……?

 チハルが捕まっても苦笑いしそうな気がするけど、気のせいだよね。

 にぃには優しいから大丈夫だよね。


「チナツ、考えが脱線してないかなっ」


 チアキとのいう通りだ。

 取り敢えず、今回の件を片付ける為にチハルを見つけよう。

 彼女がアネットさんにトラウマを負わせる前に検挙しないと。


「チハルが何処行ったか心当りある?」

「チハルは何を考えてるか、良く分からないからねっ。多分、町外れの廃屋とかにいるんじゃないかなっ」


 確かにチアキのいう通り、人気のない所に潜伏してそうではある。

 チハルは何か考えている様で、実際何も考えていないのだ。

 考え方が単純と言っても良い。

 だから悪い事をする時は人気のない所でやろうとするし、あいつに褒めて貰いたい時は全力で事に当たるのだ。

 今回の件から察するに、チアキの読みは当たっているだろう。

 しかし良く分からないとか言っている割に、良くチハルの思考を読んでいるものである。


「チアキ、5分で準備しなさい」

「えっ、うちも行くの?」

「当り前じゃないの。従姉の不始末はあんたも取る必要があるでしょ」

「それなら、チナツ一人で良いと思うんだけどなっ。うちよりも親等的に近いんだしっ」


 チアキが無駄な抵抗をしてくる。

 そんなにチハルの尻拭いをしたくないのか、こいつは……。

 仕方がない。

 時間もないし、奥の手を使おう。


「ここでチハルの暴走を止められたら、あいつの評価が上がるわよ」

「分かった。すぐ準備するよっ」


 チアキは単純である。

 あいつをネタにすれば、9割9分動くのだ。

 昔あたしも同じことをよくチフユ達にやられていたが、この理論はチアキにも当てはまるのである。

 ちなみにチフユにもチハルにも同じ理論が通用する。

 チフユは最近あたしと同じで本当に為にならない限り、動かなくなってきているけどね。


 それにしても、チハルは昔からそうだけど思いついてからの行動が早すぎる。

 もう少し躊躇とか、慎重な行動をして欲しい。


「だから、にぃにが妹離れ出来ないのよ……」


 思わず、そう呟いてしまうのだ。

 でもチハルの事だから逆にそれを狙っているのかもしれない。


 どちらにしても、厄介な義妹である。


チハルとチアキの不審な行動を常に一人で気にしないといけないチナツは大変だと思います。

負けるなチナツ、頑張れチナツ。

ちゃんと、その努力はにぃにが見ていてくれているぞ。

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