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 やがて闇が消え、あたりに光が戻った時、そこには澤村一人だった。


 光はそこにはいなかった。きっと彼女は、暗闇を壊したときに、澤村とは別の場所に出て行ってしまったのだと彼は思った。そしてそれと共に、彼女とはもう会えないのだという確信も、彼の中にはあった。


 光のペンダントだけがあった。澤村はそれを持って川原へ行き、それを川に流した。孤島へ行くだろう。そして声を上げてひとしきり泣いた。





 家に帰った時、陽は完全に落ちていた。家の中に入った時、澤村はふとある違和感を覚えた。


 暗闇の中に何かがいる。


 それは確信だった。暗闇の中でひっそりと息を殺している。しかしその存在の持つ特有の重みを澤村は感覚的に感じとった。


 部屋の電気を付けた。その何かはさっとその光を逃げるように、物陰の奥へと身を隠した。


 澤村は洗面所へ行き、洗濯機の中を見た。なにも入っていなかった。澤村は着ていた服をその中に入れた。それから汚れた風呂に入った。風呂に入っている間も、部屋の外で、暗闇の中、何かが動いていた。澤村はそれに気づいていた。暗闇は澤村を気にしていたし、澤村も暗闇を気にしていた。


 風呂からあがり、鏡の前に立つ。シキのつけた爪痕は未だに残っていた。おそらくこれからも残り続けるだろうという確信が彼の中にはあった。それから、服を着替えた。グラスに水をいれ、それを飲んだ。そして運転の終わった洗濯機から洗濯物を取り出し、干した。


 それから澤村は部屋の中の電気を消し、一人でベッドに入り、目をつむった。また暗闇が降りてきた。その暗闇の中、今度は眠れるような気がした。眠りとは、闇の中に身を置きながら自分を存在させ続ける事なのだろう。彼は暗闇の中に虚像の孤島を思い描いた。不確定で、確実な孤島だった。それは今度こそ薄れる事のない強固な楽園だった。形なんかはどうでもいい、その美麗さはさしたる問題ではない。誤った形なのも問題ではない。論理が破綻していても問題ではない。抽象的だが、細部まで見え、そこに破綻の存在するような孤島だった。だが、それで十分だった。孤島がそこにあり続ける限りは。いつか俺はあの孤島に向かう。そこにはシキが待っていて、光が待っている。たとえそれが俺の中の仮想した物でしかなかったとして、存在しないものだとしても。いや、孤島なんてものはそもそも存在しないんだ、俺ははっきりと理解している。それでも、俺は孤島へ向かう。俺はいつか孤島に到達する。その為なら今がどんなに苦しい時だとしても、どんなに幸福な気分を得たとしても、いつか必ずたどり着く事が出来る。いつも思っていたとしても、ふと忘れてしまっていたとしても孤島はそこにあり、冷たくても、暖かくても、孤島はそこにある。俺が孤島にたどり着く事は決まっている。それが俺の中心にある物なのだ。何もない暗い空間の中心に孤島を置く事。あるいは、そう思い込む事。孤島では誰かが鐘を鳴らしている。あれはシキだろうか、光だろうか。あの鐘は多分俺の為に鳴らしてくれているのだろう、そう澤村は思った。いつか俺は孤島へ行く。その為に彼女達は鳴らし続けている。彼は暗闇の中で、孤島の入江で満ち引きする潮と鐘の虚音を確かに聞きながら、穏やかな眠りの中に落ちていった。




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