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異世界王女の農村生活  作者: アメショー猫
1・ユーグリス村
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エドムパルム夫婦

翌朝の三時。

俊和は目を覚まして時計を確認しながら布団を畳む。


「許容範囲としておきましょう」


いつもより遅い起床だが、疲れのせいだと割り切る。


「まだ、がんばりぇましゅから………」


寝相の悪いミリアナはパジャマのズボンが少し脱げていた。

俊和が起こさないようにズボンを履かせ、ミリアナをそのまま寝かせる。

俊和の考えとして、農作業は早い時間からやるものだが、温室育ちで、尚且つ朝が苦手そうなミリアナを今の時間から仕事をさせても意味があるものとは思えない。


「六時くらい、ですかね」


ミリアナを六時に起こすことに決めて、俊和は身支度を整えてから玄関の鍵を閉める。

家から少し歩いたところにある俊和の畑に顔を出すと、知り合いの老夫婦の姿があった。


「おお、俊和!

久しぶりだな」


「あら、俊和さん!

帰ってきていたんですか?」


「ええ。

これから畑を見てから挨拶に伺う予定でしたが、好都合です」


俊和は老夫婦と共に自分の畑へ移動すると、小麦が倉庫に大量に詰まっていた。


「これは……、カサミラさんが?」


「はい。

俊和さんには悪いけど、俊和さんのいない間は借りさせて貰いました」


「そうですか。

この量の小麦の移動は大変でしょう、私の倉庫を使って下さい」


俊和の申し出にカサミラ=エドムパルムは驚き、首を横に振った。


「そんな、私達が勝手に畑を借りていたのに、申し訳無いですよ!」


「いいえ、カサミラさんが畑を借りて頂けたので、畑が荒れずに済みました。

こちらこそ、お礼を申し上げたい」


俊和はこの老夫婦に本当に感謝している。

何しろ五年以上も放って置いたのだ、土地の権利は俊和にあるが、土地の世話をしてくれたエドムパルム夫婦に感謝してもし尽くせない。


「なら、せめて半分は貰ってはくれませんか?

私達だけでは腐らせてしまいそうなので」


本当はそんな訳が無い。

だが、老夫婦の気持ちを無下にすることは俊和には出来なかった。


「分かりました。

喜んで頂きます」


「ああ。大切に使ってくれ」


「俊和さん、大切に使わせて貰います」


そう言って、老夫婦は自分の家に帰っていった。

俊和は老夫婦を見送った後、作業用の椅子に座って畑全体を見渡した。

これから畑を耕すところだったのだろう、畑の端に鍬などが置いてある。

手入れが行き届いているので、作業は前よりは楽かもしれない。


「さて、それならばプランを変更しますか」


だが、ミリアナに厳しい仕事をさせることは決定事項だった。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



俊和が畑を耕している間に時は過ぎ、五時半になるころには畑の四分の一を耕していた。


「今からミリアナを起こしましょうか」


俊和はズボンの裾に付着した土を払い、自宅に向かって歩こうとした時、見慣れない人間がいたのに気がついた。


「あれは……………………。いや、錯覚でしょう」


ユーグリス村にはあの組織の人間はいない筈だ。

だが、独自の調査が必要と断定し、俊和は思索に耽りながら自宅に向かって歩き始めた。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



俊和は家に帰り、いつものスーツ姿に着替えてからミリアナに声をかけた。


「起きる時間ですよ」


「ん………」


効果なし。

なら、布団を剥いでみればどうか。


「んん……」


意味が無いようだ。

それから俊和はいろいろな方法でミリアナを起こそうとするが、一切目を覚まさない。

ならば、あれを使うまでだ。

俊和は清朝石(せいちょうせき)と呼ばれる青い石を取り出し、ミリアナの耳元でそれを破壊した。

その瞬間、凄まじい爆音が家中に響き渡り、ミリアナが飛び起きた。


「て、敵襲ですか!?」


「おはようございます、ミリアナ。

それと、敵はいません」


自らの勘違いに頬を赤く染めたミリアナを、俊和は好ましく思えた。


「さて、朝食の支度をしましょうか」


「はい!」


その元気が農作業を始めてからいつまで続くかが今日の楽しみになりそうだと、俊和は思わずにはいられない。



※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



朝食を済ませると、俊和達は畑の端の小屋で着替えを済ませた。


「俊和さん、着替え終わりました」


ミリアナは白のTシャツにピンクの長ズボンといった格好で俊和に見せる。


「作業着としては問題はありませんね」


「えっと、その………、可愛いですか?」


恥ずかしそうに聞くミリアナに、俊和は無表情で胸元を見て、溜息を吐いた。


「ロリコンなら喜ぶと思います。

私個人の意見としては、微妙ですが」


「どうして………、どうして俊和さんは人のコンプレックスを弄ぶのですか⁉︎」


「それが私の趣味だからです」


「もっと違う趣味を持って下さい!!」


言い争う二人に、隣の畑からカサミラが声をかけた。


「あら、俊和さん。

その子は?」


「同居人のミリアナ=エストレジアです。

血縁関係はありませんし、養子でもありません」


「え!?

家族だっていうのは───」


ミリアナが驚いて俊和に問い質すが、


「単なる冗談です」


俊和の返答でいじけ始めた。


「いいですよ、もう。

私なんてこういう人間だから親に捨てられたんですよ………」


「ミリアナちゃん、大丈夫?」


「気にする必要はありません。

放って置いて下さい」


カサミラのフォローも、俊和の一言で意味のないものに変化する。


「なら、私はこれで」


「お疲れ様です。

健康にお気をつけ下さい」


俊和はカサミラを見送ると、いじけているミリアナの右手を掴み、背負い投げを決めた。


「いじけている暇はありませんよ」


「でも、投げる必要は無い……………筈です」


ミリアナは背中の痛みに耐えながら、俊和の手を借りて立ち上がる。

そして、俊和は畑の様子を見たあと、軽く頷いた。


「さて、プランBといきましょう」


「?」


プランBとは何か、そもそもプランAはあるのか。

そんなくだらないことを考えていたミリアナはすぐにプランBの恐ろしさを身を以って知ることとなる。

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