俊和の家
「ミリアナ、着きましたよ」
「ここが………、ユーグリス村?」
目の前の光景に、ミリアナは大きく目を見開いた。
今にも崩れ落ちそうな屋根、すぐに泥棒が入れそうな安心感の無い玄関に割れている窓、ゴミが溜まって汚臭がする子供の遊び場など、凄惨たるものだった。
ミリアナが憧れるような農村では、決してない。
「俊和さん、私達の家は?」
ミリアナの疑問に答える代わりに、俊和はその中でも別格の貴族のような家を指差す。
「あそこに村長がいます。家に行く前に挨拶に行きましょう」
俊和達は村長に歓迎され、金で装飾されたドアや金箔を貼られている壁に金の指輪など、金で埋め尽くされた部屋に招待された。
「どうだ俊和君。
まぁ、君のような人間では、この部屋の素晴らしさは理解出来ないだろうが」
村長は寂しい頭で俊和に勝ち誇るが、俊和は笑顔で反論した。
「ええ、理解出来ませんね。
私がいない間に土地と一緒に思考力を売りましたか?」
「───」
村長は絶句して何も言葉を発することは出来なかった。
少し経って、ショックから立ち直った村長は乱暴に用紙を取り出して俊和に叩きつけた。
「これが登録票だ。
絶対に税金を払い忘れるんじゃないぞ、絶対にだぞ!!」
「分かっていますよ。
ミリアナ、私の家に行きましょう」
俊和はそのまま村長の家の玄関まで歩いてから、村長に聞こえるように大きな声で言った。
「ボケた貴方ならともかく、私はボケてませんのでご安心ください!」
俊和達が村長の家から去って数分後に、
「儂はボケてなんかない!
絶対にだぞ!!」
「あんたうるさいわよ!!」
村長は妻と盛大に喧嘩を始めた。
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「俊和さんは年長者に対する敬意は持っていないのですか?」
ミリアナは俊和の家に行く途中、俊和に聞きたかったことを聞いた。
「ああ、村長のことですか。
一日経てば忘れているので問題はありません」
「そういう問題では無いと思います………」
ミリアナの抗議は聞こえなかったようで、俊和は気にした様子はなかった。
「ミリアナ、ここが私の家です」
俊和が指差す方向には、これぞ農村と言えるような一戸建ての家があった。
「凄く期待していたような家です……!」
「まずは中に入りましょうか」
俊和に入るように促されてミリアナは一人ではしゃいでいたことを恥じて俯いていた。
だが、それは俊和の家に入るまでのこと。
家に入った途端、ミリアナは目を輝かせて囲炉裏を指差す。
「あれって囲炉裏ですよね!?
竃に、保存庫……って、あの、少し聞いても良いですか?」
「ミリアナ、どうかしましたか?」
荷物の整理をしていた俊和が振り返ると、
「実はお金持ちですか!?」
ミリアナが驚いていたので簡単に説明した。
「いいえ、違います。
必要だったので、貯金した金で買いました」
俊和は金持ちではないことに、ミリアナはがっかりとした表情を浮かべた。
「おや? 何か不満がありましたか?」
「別に、そういう訳ではありません」
「それならば良いのですが………」
ミリアナのことを気にかけながら、俊和は保存庫からパンを取り出し、適当な大きさの皿に置く。
「ミリアナ、蜂蜜を保存庫から持ってきて下さい」
「分かりました」
ミリアナはすぐに保存庫から蜂蜜の瓶を取り出してテーブルの上に置くと、俊和はメーブルの低脂肪乳をミリア用のカップに注いだ。
自分の分としてジャスミンティーを注いだところで椅子に座る。
「天の神に祈りを捧げます………」
「いただきます」
ミリアナが祈りを捧げている間に俊和は食事の前の挨拶を手早く済ませると、パンを自作のオーブントースターで焼き始めた。
「俊和さん!
お祈りはしっかりとやるものですよ!」
「私は生憎無信仰なので、そんなことを気にしたことは今まで一度もありません」
ミリアナの抗議を軽くいなし、俊和はジャスミンの香りを楽しむ。
そして一口飲んで、リラックスした表情を見せた。
「最高ですね………、疲れが癒されます」
「あの、私のコップにはどうしてミルクが入っているのですか?」
ミリアナの疑問に、意地悪く俊和は言った。
「ミリアナのまな板が少しは変化するように、と願いを込めた訳です。貧乳は貰い手が少ないので」
その後、ミリアナは俊和を睨み続け、俊和は平然とジャスミンティーを楽しんでいたという。
余談ではあるが、胸の大きい女性は子育てで優れている、などという迷信が農村で信じられていることをこの時のミリアナは知る由もなかった。
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「そろそろ寝る時間ですよ」
「え!?
も、 もうですか………?」
現在は夜の九時。
まだ寝るには早いと思っているミリアナに俊和は右手で軽いデコピンをミリアナの額に当てる。
「あうッ!
だって、この時間は王宮の時はまだ起きてましたよ!?」
「ミリアナ、農作業を何だと考えていますか?
ミリアナの体力では、しっかりと休息を取っても体力が無くなり、終いには寝言を言い始めそうです」
「うぐっ!
な、なら、明日は俊和さんが驚くような仕事をしますから………!」
単に夜更かしをしたかったミリアナは冷や汗が止まらず、言い負かされたくない一心で俊和に宣言する。
不安や恐怖はあったが宣言した以上、やるしかなかった。
「その心意気です、ミリアナ」
やる気があることは好ましい。
だが、成果に結びつけることは難しいことを知らないミリアナに俊和は期待を七割、不安を三割感じる。
俊和は初めての農作業という重労働に対してミリアナがいつ根を上げるかを楽しみにしつつ明日の為に眠りについた。




