表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/13

9話〜ああ、しまった。忘れていた…〜

※冒頭、他者視点です。

『お役に立てて良かったです。他には何か、ありませんか?』


 難解な不具合をいとも簡単に直してしまった彼は、驕りもせず、当然の様に私を気遣ってくれる。

 それがとても頼もしくて、暖かくて、私は安心してしまう。既に問題は解決したのに、欲が出てしまった。


「えっと…その…あの…黒川さんの携帯番号を…」


 その先を言葉にしようとして、迷う。本当に聞いても良いのかと。彼に警戒されないだろうかと。私だったら、友達でも聞かれたら怖くなってしまうもの。

 学校で何度も言われてきたことだから。個人情報は漏らすなって。漏らしたら最悪、特区の外に連れて行かれてしまうっと、学生時代に散々脅されてきたもの。

 だから、黒川さんも怖がってしまうかもしれない…。


 そんな弱気が頭を掠めるも、直ぐに気持ちを奮い立たせる。

 いいえ、大丈夫よ。黒川さんなら、優しいから教えてくださる筈。私が悪用なんかしないって、分かってくれるわ。

 そうよ。自信を持ちなさい、美夜子。私のこれは、業務の為なの。彼に直で繋がった方が、時間効率が良いじゃない。それに、毎回転送しているあの男性に悪いわ。何時も苦しそうな声を上げているじゃない。

 これはみんなの為。だから、自信を持ちなさい。


「黒川さんの携帯番号を、教えて頂けませんか?」


 言って、向こう側から息を飲む音が聞こえた。そして…。


『それは…俺の社用スマホって事でしょうか?』


 あの黒川さんが、動揺している?

 不味いわ!やっぱり、切り出すにはまだ早かったのよ。

 

「ごめんなさい!急にこんなことを言ってしまって」


 やっぱり迷惑だった。情報の扱いは、特区の外も中も変わらないんだわ。

 私はもう、電話を切ろうと受話器を耳から外しかけた。でもそれを、彼の焦った声が止めた。

 

『いえ!大丈夫です。教えるのは全然かまいませんよ』


 えっ?本当に?


「大丈夫、なんですか?」

『ええ。社用ですから、問題ありませんよ。私の名刺にも書かれていますし』


 えっ?名刺って、名前以外を載せて良いものなの?

 特区外との文化の違いに、一瞬戸惑う私。でもそのお陰で、彼の番号を頂く事が出来た。

 嬉しい。

 彼の番号を書いた手帳を、しっかりとポーチの中へと仕舞う。無くしたら大変だから。


『後はありませんか?鈴木さん。計測器以外も行けますよ、俺』


 あっ、俺って言ってる。今までは私だったのに、なんだか素で話してくれているみたいで、ちょっと嬉しい。


「ありがとうございます、黒川さん。でも、今日はもう十分に助けて頂いたので。他社製品なのに、あっという間に解決して頂いて助かりました。流石は黒川さんですね」

『えっ…ああ、ははっ。偶々(たまたま)ですよ、偶々。偶然俺も、似たような機器を扱った事があるだけで…』


 ああ、やっぱり黒川さんは謙虚な方だわ。同じような事を女性のエンジニアに言ったら、それはそれは鼻を高くして、自慢話を延々としてくれるもの。黒川さんみたいに謙遜するなんてこと、プライドの高い彼女達は絶対にしないわ。

 エラーの1つも解決出来ないのに。


「きゃははは!そうそう、それでさぁ」


 彼の誠実な姿勢に心打たれていると、後ろで甲高い笑い声が響いた。振り返ると、鮫島さん達が長いトイレ休憩から帰って来て、こちらへ戻って来る所だった。

 不味い。早く切らないと。


「ありがとうございました、黒川さん。また宜しくお願いします。では」


 私は一方的に挨拶をして、急いで受話器を置く。

 でも、その動作が不味かったみたい。私のデスクを通り過ぎようとしていた鮫島さんの顔が、グルンッとこちらを振り返った。


「なぁに?鈴木さん。誰とお話してたの?」

「えっ、エンジニアの人よ。社長に頼まれてた案件を、聞いていたの」


 嘘じゃないわ。彼も立派な…いえ、立派過ぎるエンジニアだから。


「えぇ〜。嘘くさ〜い」


 でも、鮫島さんは視線を逸らしてくれない。私と電話を交互に見て、ニヤニヤ笑っている。

 笑っているけど、それは口元だけ。目はギラギラしていて、私の事をつぶさに見ている。何か面白そうな事を隠しているんじゃないかって、私の心を探るかのように。

 堪らず、硬い唾を呑み込む。その視線から隠れるように、アタッシュケースを持ち上げる。机の上に置いて、中身を見せる。


「本当よ?ほら、測定器のエラーが消えてるでしょ?」

「えっ。マジじゃん」


 鮫島さんはアタッシュケースを引き寄せて、計器の画面を確かめる。そして、そのままケースを手に持った。


「やるじゃん、鈴木さん。それじゃあここからは、私がやってあげるよ。社長の所まで持って行ってあげる。重いし、体力ある私の方が適任でしょ?」

「…ええ。ありがとう」


 自分の手柄にしたいって事ね?それで貴女が去ってくれるなら、安いものだわ。

 私は彼女達の背中を見送った後、息を吐いた。

 ふぅ、何とかバレずに乗り切れたわ。


 この時の私は、そう思っていた。 


 〈◆〉


「ふぅ…危ない、危ない」


 彼女に褒められてしまって、つい調子に乗りそうになった。もっと出来るって事を、彼女にアピールしたい衝動に駆られてしまった。

 本当に危ない。そんな事をしたら、彼女に呆れられてしまう。男の自慢話と自分語り程に虚しい物は無いって、婚活で散々経験したからな。表面上は共感しているフリをしてくれても、それはただの愛想笑いだ。


「浮かれ過ぎず、謙虚に」


 それが一番良い。やり過ぎはダメだが、失敗談とかの方が好まれるんだ、女性相手にはな。

 …いや、それは男に対しても一緒か。

 兎に角、浮かれてはダメだ。相手が客先という考えを忘れず、彼女の為になるように…。

 

「って…ああ、しまった。忘れていた…」


 こうして気持ちが落ち着き始めて漸く、俺は重大なミスに気が付いた。


「機器を直すだけじゃダメだろ、この案件」


 部品を入れ替えたから機器は直った。でもそもそも、なぜ測定器の故障が起きたかを考えなければいけなかった。でないと、またすぐに故障が再発してしまう。


「既に浮かれてんじゃねえか、俺」


 技術屋だろ、俺は。カウンセラーじゃねぇんだ。しっかりしろ。

 俺は自分に喝を入れ、置いたスマホを拾い上げる。掛かって来た番号を押そうとして、一瞬ためらった。

 …良いよな?仕事の話だし。彼女の為にもなる。決して、彼女の声が聴きたいからじゃない。俺はまだ、染まっていない。

 色々と言い訳しながら、番号をタップ。鳴るコールよりも、心臓の方がうるさく聞こえる。

 そして、コールが止む。向こうに繋がった。


「あっ、もしもし。JIESの黒川と申し…」

『こちら。特区管理局、通信係』


 しかし、繋がった先から聞こえたのは、冷たい男の声。その声が、俺の言葉を断ち切る。なけなしの覚悟を砕く。

 俺は一瞬、呆然とした。

 

 えっ?男?特区には、女性しか居ないんじゃ…?

 いや、そもそも管理局とか言ってるし、全く違う所に掛かっているんじゃないか?


「あっ、あの、JIEの鈴木様はいらっしゃいますでしょうか?…」

『貴方の身分と、お相手様との関係性を述べよ』


 み、身分だって?


「ええっと、私は、一般の会社員で…」

『では、繋げません』


 ガチャン。

 無機質に言い放った後、男は荒々しく電話を切った。

 余りに一方的で、取りつく島もなかった状況に、俺は暫くスマホを耳から離せなかった。

 でも、次第に怒りが込み上げてくる。

 

 何なんだ?身分って。会社員の何がダメなんだ?管理局って、一体何なんだ?JIEの警備員か?幾ら向こうが親だからって、子会社をバカにしたらダメだろ。


「なにが管理局だ、くそっ」

「おや?珍しく荒れてますね、先輩」


 おっと、しまった。つい声が出ちまった。


「悪い、まっちゃん。何でもないんだ。業務の邪魔をして済まない」

「いえいえ。それより、管理局って聞こえましたけど…どうしました?誰か逮捕されました?」


 えっ?逮捕?


「いや、電話を掛けたら、管理局の通信係ってのが出て」

「うぇっ!それって先輩、特区に電話かけようとしたんですか?勇者ですねぇ」

「うん?どういうこと?」


 俺は松本君に聞いた。それによると…。

 特区は厳重な警備体制を敷いていて、地域全体を巨大な壁が隔てているだけでなく、物流も通信も厳しく制限されているらしい。許可が無い物資は問答無用で止められるし、サイトも危険なものはブロックされている。メールや手紙まで、検閲が入って弾かれるらしい。

 そして電話も、管理局の許可が降りなければ繋げてもらうことは出来ない。


「と言うよりもですね、我々から特区への電話は、基本出来ないと思った方が良いです。少なくとも、僕達みたいな一般人が許可されたなんて話、噂でも聞いたことが無いので」

「事実上の鎖国みたいだな。特区からこちらへは出来るのか?」

「電話とかは普通に出来ますよ。じゃないと、慰問会が成立しませんから」


 ああ、確かに。


「でも、ネットとかは厳しいみたいで、僕らが普通に見られるサイトでも、向こうは殆ど見れないんだとか。この会社のホームページとかもダメって聞きましたよ」


 ああ、そうか。この会社のホームページには、問い合わせホームがある。あそこから直接メールを送れるから、メールも制限するなら当然、こいつも禁止にする。

 かなり徹底している。まるで、元世界の独裁国家レベルだ。それだけ女性を、男性と切り離したいと言う事か。

 分かる気がする。元世界でも、SNSで男女間にトラブルが起きることは良くあった。男女比が同じでも痛ましい事件が起きるのだ。規制しなければ、この世界ならもっと酷い事になる。


「ああ、そうか」


 だから鈴木さんは、俺に聞いて来るんだ。ホームページで説明書のダウンロードやメール問い合わせが出来ないから、こうして電話で聞くしかない。

 だから、簡単な事でも感動してくれる。頼れる人が無かったから、俺なんかの知識でも有難がってくれる。

 女性の世界と男性の世界を、完全に隔離しているから起こる障害。

 あれ?でも…。


「管理局の奴は男だったぞ?特区でも入れる奴はいるのか?」

「居ないと思いますよ。入れたとしても気絶しちゃうでしょうし。管理局員って言っても、男性は繁華街に本拠地があるんで、きっとそこでお仕事されているんだと思います」

「繁華街?」


 そういや、黒塗りされた特区のすぐ近くに、そんな名前の地域があったな。


「はい。特区を守る壁の周辺をそう呼んでいます。日本で一番栄えている地区で、僕も偶に行くんですよ。良ければ先輩、今度一緒に行きませんか?」

「ああ、そうだな。頼むよ」


 ちょっと気になって来たからね。この世界の歪さについて。

 頼れる後輩だなぁと、松本君の申し出に感謝していると、彼は首を傾げる。


「でも先輩、なんで特区に電話なんかしたんです?」

「うん?まぁ…なぁ…」

 

 俺は迷った。社長案件について、他人に教えて大丈夫なのかと。口外しても良いと言われていないし、内容が内容だから広めない方が良い気がする。

 でも…彼に嘘を吐くのはなぁ。


「う~ん…」

「分かりますよ、先輩。僕も、前にやっちゃったことありますから」

「うん?どういうこと?」


 俺が聞き返すと、松本君は力強く頷く。


「特区へのイタズラ電話で逮捕されても、僕が差し入れしますから」


 …そんなことで、逮捕されるの?

 やっぱりこの世界、おかしくね?

「作品キーワードの意味が、漸く理解できた」


はい。外から特区へは、電話もできないのです。


真夜中(ミッドナイト)に限った話ではないがな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
通信記録の全量傍受や、女性個人のバイタルサインの全件リアルタイム計測なんかが行われていては恋煩い やら忍ぶ恋なんぞも筒抜けだろうが、さすがに100万女性すべての完全監視までは無い…といいなあw^^; …
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ