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男だらけの世界の方が、何故か女性にモテるんだけど?  作者: イノセス


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13話~ちっ!男かよ~

「あぁ…頭が重い…」


 オトハ様の慰問会を終えた次の日。俺は死んでいた。慰問会が疲れたのもあるが、その後の打ち上げが酷かったからだ。

 テンションが振り切れた岩本係長達は一晩中飲み明かし、家に帰ったのは丑三つ時。いつも23時には寝ている俺からすると、寝不足過ぎて頭痛がしていた。


 と言う事で、朝から自分のデスクで唸っていたのだが、その後に出社してくる奴らの顔はみんな明るい。昨日の飲み会と同じくらい、足取り軽くスキップしていた。

 …まだ、酒が残ってるんじゃないだろうな?


「先輩♩おはようございます♪」


 松本君なんて、今にも空を飛びそうだ。


「元気だな、まっちゃん」

「先輩が頑張ってくれたお陰ですよ」


 頑張ったって、質問の事か?君だって、昨日の宴会では頑張っていたじゃないか。

 ただ嬉しくて、テンションがぶっ壊れていただけかもしれんが。


 そうして、周りは普段にも増して活気に溢れている中、俺だけがスロースターター状態で業務を開始した。

 もしかして、会社が慰問会で有給消化を奨励しているのは、みんながやる気になるからか?

 周りの様子から何となく察していると、俺の社用スマホが鳴った。表示されるのは…知らない番号だ。


「はいぃ。黒川ですぅ…」

『あっ、黒川さん?鈴木です』


 俺の中で、錆び付いていたギアが高速回転し始める。


「おはようございますっ、鈴木さん。良い朝ですね」

『えっ?ええ。そう、ですね』


 しまった!つい変なテンションで出てしまい、引かれてしまったかも。


「済みません。急に変なことを言って」

『いえ、そんな。いつもよりお元気そうだったので、ちょっとびっくりしちゃっただけなんです』


 そうなのか?

 鈴木さんは優しいな。


『あの、それで、またちょっとお聞きしたいことがありまして…』

「ええ、なんでしょう?」


 姿勢を正し、俺は仕事モードに移行する。

 だが、彼女から貰った質問はとても簡単なもので、ものの数分で解決してしまった。


『こんな直ぐに解決してくれるなんて…流石は黒川さんです』


 それでも、鈴木さんはとても喜んでくれた。

 俺はつい、口が緩みそうになるのを堪えて「とんでもない」と断ち切る。

 見えない相手に向かって、小さく頭を下げる。


「全然、流石ではないんです。前回のご相談で、私はミスをしてしまいました」

『えっ?ミスって…だって、施設の所長さんも喜んでいましたし…』


 困惑する彼女。

 なので、俺は丁寧に”何をミスしたのか”を伝えた。

 機器の故障が起きたと言う事は、故障させる何らかの原因がある筈だと言うことを。それが機器の不具合ならまだ良い。悪い部分を交換したら良いだけだから。でももし、測定する側の問題だとしたら…。


「もしかしたら、機器を置いている環境が悪いのかもしれません」


 機器で測定するのには適していない場所なのかも。それなら、機器の設置位置を再考する必要がある。

 そう言う面も含めて、もう一度機器の使い方を見直して貰うよう、俺は鈴木さんにアドバイスした。

 すると、


『そんな事まで…黒川さんは本物の職人さんです』

「そんなに褒めないで下さい。技術者としては当然の事ですので」

『当然だなんて、そんな…。少なくとも私は、大変勉強になりました。黒川さんの考え方と言いますか、社会人としての姿勢がとても素晴らしくて…』


 こんな俺に、何かを学んでくれたのか?

 きっと若いんだろうな、鈴木さん。加えて、教えを乞える人が周りにいないのかも。


 彼女は『また、宜しくお願いします』と可愛らしくお願いしてきて、電話を切った。

 たった10数分の会話だったが、俺もやる気が出てきた。彼女の期待に応えられる様にと、机の上でタワーになっている書類に向き合う。

 さぁ、寝不足なんかに負けてられないぞ。


 謎のやる気がみなぎり、俺は業務に打ち込む。そして、何とか定時までにノルマをこなせた。

 あれだけ午前中で死んでいたのに、凄い追い上げだ。これも、鈴木さんのお陰。

 次に電話があったら、しっかりお礼を言わないとなぁと考えながら、俺は帰ろうとする。でもその途中で、支社長に手招きされてしまった。


「黒川。ちょっと」

「はい?」


 なんです?俺これから、新しい筋トレグッズを探す旅に出るんですけど?

 不満に思いながら誘いに乗ると、デスクに座った支社長はご満悦だった。


「社長からメールがあってな。お前のお陰で、向こうの会社も好調らしい。よくやったと、お前の事を大層お褒め下さってるぞ」

「本当ですか!」


 俺は嬉しかった。だってそれは、鈴木さんが上手くやっているって事だから。きっと彼女も褒められているんだろうなと思うと、自分の事の様に嬉しくなってしまう。

 そんな俺を、支社長が含みのある笑みを浮かべながら見上げてくる。

 …なんか、嫌な予感が…。


「そんなお前にな、社長は更に案件を頼みたいと仰っている。他のグループ会社からも依頼を受けてくれと、お声をかけて下さったんだ」

「えっ!?」


 それって、鈴木さん以外の人からも電話が来るって事?


「あの、支社長。俺、今のタスクでパンパンなんですけど、更に業務を増やされると、流石にキツイと言いますか」

「何を言っているんだ?黒川。あの方々からのお言いつけは、我々にとって業務ではない。ご褒美だ」


 ご、ほう、び?

 俺は呆気にとられたが、見上げてくる支社長の表情は至って真面目だ。ブラック地味た発言に、何らおかしいと思っていない様子。

 マジか。女性から課せられる仕事は、仕事じゃねぇのか。



 そうして俺は、何時ものノルマを抱えたまま、特区の相談窓口としての業務も併せ持つ事になってしまった。

 しかも掛けてくる相手は、鈴木さんとは比べ物にならないくらい厄介な人達だった。


「はい。JIES、製品管理部の…」

『ちっ!男かよ』


 真っ先に聞こえたのは、舌打ちと罵倒の二連コンボ。ある者は盛大なため息を吐いて、ある者は『キモイ!』だの『○ね!』だのと罵詈雑言を連打してくる。酷い奴だと『ぎゃぁぁ!おとこぉ!』と叫び散らす奴までいた。

 そして、そう言う奴らは全員、そのまま電話をガチャ切りする。


 ツー。ツー。


 いや、イタズラ電話よりタチが悪いんだが?


「おい、どうだ?黒川。順調か?」


 鼓膜が破れていないか確認していると、支社長が様子を見に来た。なので俺は、大きく首を振って見せた。

 支社長相手に態度が悪いって?仕方ないだろ。だってこの人、最初っから自動転送しやがって、自分だけ逃げやがったんだぞ?

 そう言う思いを込めて恨めしく彼を見上げると、支社長はまた彼の執務室へと俺を呼ぶ。そして、俺が今の現状を伝えると…。


「なんと、(うらや)まし…ではなく、それでは仕事にならんな」

「そうなんですよ」


 支社長の性癖は聞かなかった事にして、俺は何とかしてくれと訴える。

 でも、


「社長に訴えたくても、メールや電話はこちら側からでは通らんからなぁ」


 おっと。そうだった。


「普段はどうやって、業務報告とかしているんですか?」

「基本は書類と手紙だ。だがあれも、検閲を通るのに2週間はかかるからなぁ」


 つまり、2週間はこのままってこと?

 勘弁してくれ…。


 〈◆〉


「いえ、私の力ではないんですよ。早瀬所長。機器が直ったのは、黒川と言う社員のお陰でして…いえですから、私の手柄では決してなくて…」


 また、現場のお偉いさんから電話が来ているみたい。そしてまた、彼女が褒められている。

 ムカつく。

 向かい側の同期がペコペコしている姿を見て、私の中の黒い感情が渦巻く。

 

 大学生の頃は、私の方が人気があったのに。首席卒業か何か知らないけど、ミス・ユニバースに選ばれたのは私よ?その方がよっぽど凄いんだから。 

 入社した時も、私は直ぐに会社に馴染んで、先輩達から色々と教えて貰った。

 効率良くサボる方法だとか、人気がない穴場スポットとかね。休日も先輩達と遊んでいるから、今では磐石な地位を築けた。

 その間、あんたは部長の言うままに雑務ばかりして、会社の中でも孤立していた。


 その筈だったのに、なんで今になって、貴女ばかりが褒められているの?私に隠れて、点数稼ぎでもしているの?

 許せないわ。ただ地頭が良いだけで、周りから認められるなんて。美しい私より注目されるなんて、絶対に許せない。

 鈴木の秘密、暴いてやる。


 そう決めた私は、注意深く彼女を観察する。そして、電話を受けた彼女が困り顔を浮かべ、静かに席を立つ場面を見つけた。

 ここだ!

 私の直感が働き、彼女の後ろをつける。すると、


「あの、黒川さん。私です。鈴木です。実はまた、ご相談に乗って頂きたくて…」


 キタッ!これだ。この電話の先に、彼女を押し上げている支援者が居る。彼女が急に人気者になったのは、その黒川って女性が絡んでいるからだ。

 その支援者を、私が奪ってやる。私の交渉術で魅了して、私の支援者に変えてやる。


 私はすぐに、社長室へと向かう。鈴木が掛けている番号は、きっとあの日、私が渡したメモに書かれていた番号だと思ったから。

 そう思って、社長に「ちょっとメモを紛失しちゃいましてぇ」と可愛らしく申し出る。

 すると、


「そうですか。では次は、無くさない様に」


 簡単に再発行出来た。

 ちょろ。やっぱ私のテクは最強ね。

 足取り軽く、私は人気の無い所で電話を掛ける。すると、管理局を名乗る女性に繋がった。


 えっ?管理局?


「あ、あの…JIEの鮫島ですけど…」

『はーい。繋げまーす』


 適当な返事で流されてしまう。

 待って、管理局を通すって、まさか…。

 私は血の気が引いた。そして、次に出た奴の声を聞いて、鳥肌が立った。


『はい。JIESの黒…』

「ぎゃぁああ!!おとこぉお!!」


 私は飛び上がり、通話終了のボタンを連打した。

 信じられない。まさか、男の声を聞いてしまうなんて。


「キモ、キモッ、キモッ!」


 まだ震えが止まらず、私は両腕を摩る。

 男なんて生物と関わり合いたくないから、やりたくもない仕事をしているって言うのに、なんでこんな事になるの?

 社長に嵌められた?いえ、そんな事する理由が無いわ。

 じゃあ、鈴木は男なんて汚らわしい生き物と関わっているの?あんな低脳な生き物に、アドバイスを貰っている?

 いいえ。違うわ。きっと、慰問会の真似事をして、ポイント稼ぎしているだけ。普通に仕事しているだけじゃ、私に勝てないからって。

 哀れね、鈴木。そんなんじゃ、すぐに壊れちゃうわよ。


「あー、気分最悪。早退しよ」


 メモをビリビリに破って踏みつけた私は、そのまま更衣室に向かう。

 気分転換に、最新作のパフェでも食べて帰ろうっと。

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