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転生したらヴァイキングの農民でした。文化勝利を目指します  作者: ダイスケ
第8章:トールステイン大王伝記 黄金の黎明戦争の章

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第118話 罪の重さと自力救済 7歳 夏

 村長婦人《シグリズ様》の兄であるシグヴァルド様が、取り出した羊皮紙の束。

 その表紙には確かにトールステインと署名が見える。


 クナトルレイク競技総則か。去年のブラック労働期間に、子供クナトルレイク大会の視察団に配布するため、村長婦人の私室の卓上でひいひい言いながら書き写した嫌な思い出が蘇る。

 コピー機も印刷機も存在しないから手書きで筆写するしかなかったし、担当できるのは僕だけ、という酷い労働環境だったものなあ。


 なにしろ村にルーン文字を書ける人が村長婦人と僕の2人しかいなかったからね…。おかげでルーン文字を書く速度と精度は上がったよ。

 けれども奇妙なことに、シグヴァルド様が取り出した冊子のルーン文字の筆跡は僕のものではない。


「これは写本だよ。冊子を手に入れるのには実に苦労したよ。トール君、君は知らないかもしれないが、このクナトルレイク競技総則という冊子は、北方社会で恐るべき速さで広まっていてね。ルーン文字が書ける者への筆写の依頼が殺到しているのだよ。


 なかには冊子の筆写を一手に引き受けて、一財産を築いたものもいるそうだよ。

 実際、私もこの冊子を早く手に入れるため横車を押したものだから、ずいぶんと銀貨が嵩んだからね。冊子の筆者に会えて光栄だ」

「ええ…?」


 なんでそんな事になってるの!?

 恐るべしは北方のクナトルレイク支持者の熱心さよ。


 基本的には文字を読み書きできる人でクナトルレイク愛好者だけが対象であるから、冊子の需要はそこまで大きくないと見積もっていたのだけれど。


 どこで需要を読み間違えたのだろう?クナトルレイク愛好者が文字が読めなくとも読み聞かせように欲しがったとか?


 僕の困惑をよそにシグヴァルド様は言葉を続けた。


「まず。この本は構造が素晴らしいね。実に論理的だ。

 最初に総則があり、規則の考え方について説明があり、細則の説明へと移る。だから内容が分かりやすく説得力がある。


 次に構造を見やすくするための技術が素晴らしい。記号で括ったり、一文字、一行を贅沢に空けることで内容を見やすくしている。


 そして何より素晴らしいのは、規則を変更するための手続きに関する規則が記されている点だね!私も法話者として、そこまで考えたことはなかったよ!


 全ての規則が記されており、変更するための手続きが書かれていることの素晴らしさ!もしもこの冊子のように法が記録されることがあれば、私のような法話者の仕事は全く不必要になるか、あるいは在り方を変えざるを得ないだろう!」


 シグヴァルド様はクナトルレイク競技総則の冊子を握りしめながら、熱心に、如何にこの冊子が画期的であるかを熱く語り続ける。


「は、はあ…お褒め頂き光栄です」


 うーん。初見ではすごく怜悧な貴公子という感じに見えたのに、村長婦人の兄様も熱い北方の男であったか…。


「正直なことを言えば、これだけの内容を君のような子供が書いたとは信じられないが。しかも書いたのは、もっと幼い頃であったのだよね?」

「はい。書いたのは去年ですね」

「今の年齢はたしか…?」

「7歳です」

「信じられん…!」


 シグヴァルド様が腰を曲げ、僕に顔を近づけて瞳を覗き込もうとしてきた。

 顔が良いだけに亡霊が迫ってくるような怖さがある。


「お兄様!およしなさい!」


 脅迫ともとれる尋問を横から止めてくれたのは、村長婦人。

 良かった。常識人が近くにいてくれた。


「この子は、うちの村のフギンなんです!疑うとは何事ですか!」


 僕は抱き寄せて、ぷりぷりと怒る村長婦人。

 シグリズ様、そこは怒るポイントが違います。


「おお、すまないな。筆者に会えた嬉しさに、つい夢中になってしまった」


 シグヴァルド様の謝るポイントも、なんだかズレている。

 この兄妹、間違いなく血がつながっている。


 ◯ ◯ ◯ ◯ ◯


「そういえば裁判のことを教えるのだったな」


 シグヴァルド様が、ふと気づいたように本来の目的に立ち戻ってくれた。

 そうです。法律アドバイザーの法話者として義務を果たして下さい。


「今回の裁判は公開で行われる。通常は広場で行うものだが、この村には、よく整備されたクナトルレイクの競技場があるので、そちらで行うことになるだろう」


 村長の長屋敷の前は宿泊所関連の施設が出来て、だいぶ狭くなってしまったからね。

 村営クナトルレイク競技場には、貴族達の観戦のための卓や観客席も整備されているので、公開裁判の場所として不足はないだろう。


「そして具体的な裁判の手順だが、まずは最初に法話者によって、今回の犯罪に関連する法を語る。民会で判断する法の根拠を思い出させるためだな。以降の進行も、基本的には法話者によって行われる」

「ええっ!ではシグヴァルド様は、こんな場所にいていいんですか?」

「いや。今回の裁判で私は法話者としては参加しない。同行していた別の法話者が担当することになっている。被害を受けたのが妹が嫁いた村だからな。あまりに関係が近すぎる」

「ああ…なるほど」


 法話者って弁護士的な仕事だと思っていたのだけれど、話を聞いていると、まさに歩く法律辞典なんだね。記憶力が相当に高くないと務まらない仕事だ。


「そして次に、被害者によって今回の事件で受けた被害、あるいは受けるはずだった被害にについての主張が行われる」

「はい」

「つまり、トール君。君が、民会の参加者たちに対して、如何にアルンビョルンという男が非道な要求を行い、村が悲惨な被害を受ける寸前であったのか、を主張しなければならない」

「ええっ!?僕が主張しないと駄目なんですか?法話者の人が間に入って主張してくれたりとかは…」


 思っていたよりも責任が重い。刑事罰のように検察官のような人が代わりに量刑を主張してくれるのかと思っていたら、民事のように自分で被害を主張しないといけないのか。


「むろん、代理を立てることは可能だ。被害者が幼く言葉が十分に信頼できるだけの主張をできない場合などはね。しかし君は違うだろう?村を救った1人の男として、如何に非道な事件が起きようとしていたのか、民会の貴族達に訴える義務がある」

「はい…」

「もちろん、被害者としての主張は君だけではない。エリン君。君にも主張する権利がある。アルンビョルンとやらの主張を、君も間近で聞いていたのだろう?」

「えっ!は、はい!」

「それと老戦士達にも証言の機会が与えられるだろう。複数の証言が一致すれば、民会の貴族達も君たちの証言が正しいと認めるはずだ」

「なるほど…」


 さすがに僕の証言だけで罪が決まることはないか。証言をするエリン姉と老戦士達には悪いけれど、責任が分散した分だけ肩の荷が軽くなる気がする。


「それに対し、被告であるアルンビョルンには反論の機会が与えられる。ただし彼は証拠を示さねばならない。例えば王の家臣トーレル卿の命令である主張するのであれば、他にもトーレル卿の命令を聞いた、という信頼できる証言者や、トーレル卿の書影の入った徴税の命令書などだな。そんなものが用意できれば、の話だが」

「そんなものがあれば、そもそも今回の事件は起きなかったでしょう」


 王の命令を根拠無しに騙ったからこそ、アルンビョルンは暴力で徴税を強行しようとしたのだ。

 シグヴァルド様は僕の主張に頷く。


「全くその通りだな。つまりアルンビョルンとやらのノルンの糸は既に断たれている。あとは賠償額と賠償の範囲が問題となるだろう」

「なるほど…ちなみにですが、アルンビョルンの量刑はどんなものになるのでしょう?賠償もかなりの額となりそうですか?」


 シグヴァルド様は少しの間思案した後、想定される罪刑と賠償については、端的に述べた。


「アルンビョルンは重罪だ。完全追放となるだろう」

「完全追放?」


 聞いたことのない罪だ。死刑とかじゃないのか。

 北方社会の裁判って、意外と甘いのかな?

 どうも理解できない、と怪訝な顔をしている僕とエリン姉とは異なり、シグリズ様は眉を顰めつつ解説をしてくれた。


「トール。完全追放というのはですね。森林追放ということです」

「森林追放って?」


 森で暮らせってこと?


「家族を含む彼の全ての財産は没収され、彼に対する全ての援助は禁止されます。彼に宿泊する場所を与えること、食料を恵むことも禁止です。

 また彼は身体の法的保護を失います。誰が怪我をさせようと、例え殺害しようとも罰せられることはありません」


 ということは、全ての武器と食料と宿泊場所を失った上で、森へ放り出されるわけか。しかも、彼を恨み気が荒く武装した村人達の領地のど真ん中で、怯えて逃げ隠れしつつ、ゆっくりと飢えていくのだ。


 こわっ。…死んだほうがマシじゃなかろうか?

 北方社会の刑って容赦ないな…。

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― 新着の感想 ―
知識階級の村長婦人兄の説明を、寒村の自由民の子供であるトールが、過不足なく理解して会話が成立してる時点でお察し
ちゃんと裁判するだけかなり文化的だな、しかも正しければ一応ワンチャンあるっぽい。 準備とかはさせてくれなさそうだから、まあ負け確になりそうではあるけど。 面白かったです、ありがとうございます。
これはただの追放刑じゃなくて平和喪失刑とか帝国アハト刑と呼ばれるヤツや。
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