第111話 競技会と戦士団 7歳 夏
相談の翌日、さっそく村の子供たちを集めて競技会を行うことになった。
準備も競技場に少し線を引いたり、的当て用の黒板を用意するぐらい。
参加者する子も数十人しかいないわけだし、村内運動会程度の規模だものね。
「最初に遠投を行いまーす。参加する人だけ並んでくださーい」
僕が声をかけると、ほとんど村の子供が全員並んだ。
まあ、そういう感じの緩い運営でやりますよ。
5位までに入賞すれば、蜂蜜漬けベリーチーズのお菓子、という子供垂涎のお菓子が出るのだから、男子も女子も張り切っている。
さすがに大人の女性は参加しないみたいだね。
「えーいっ!」
「おー、なかなか飛んだね」
厳密に記録を取るのではなく順位を決めるだけなので、運営も簡単。
男女別に5つ小さな旗を用意しておいて、飛距離の記録が更新されるたびに差し替えていくだけで済む。
「おーりゃっ!!」
「おおーっ!」
全身をしならせるようにして、杖を投げ出さんばかりに飛び込みながら投げた少年の記録は驚くほど伸びた。すごいフォームで投げたなあ。
他にも、グルグルと水平に回転してみたり、助走距離を長くしてみたり。
全く新しい競技だからか、どの子も試行錯誤しながらフォームを追求しているのが面白いね。身体能力と訓練よりも、まだ発想がものをいう競技段階だ。
いずれ競技として一般に普及してしまうと、最適なフォームが定まり、生まれ持った身体能力と訓練に時間をかけられる環境がものをいうアスリート競技者の世界になってしまうのかもしれないけれど、今はそうじゃない。
「お、エリン姉だ」
「えーいっ!!」
村の殆どの子供がお菓子目当てで参加している中に、当然のようにエリン姉もいた。
少年達がクナトルレイクで鍛えたフォームで飛距離を伸ばす中、少女組としてはなかなかの飛距離を出して上位に食い込んでいる。さすがの食い意地だ。
「はーい!そこまで!上位5人を発表します!
男子1位、ビョルン!2位、レイフ!3位ルーネ!4位アルネ!5位スヴェン!以上!
女子1位アストリッド!2位エリン!3位イングリッド!4位トーラ!5位リヴ!以上!
名前を呼ばれた子は、お菓子を取りに来てくださーい!」
僕の名前がないね、って?僕はもう完全に運営側に回ってるよ。
たぶん参加しても入賞できないし…。
「わーい!」
「あまーい!」
「おいしい!」
お菓子を取りに来た子達は、走って取りに来ては、その場ですぐに食べてしまうのだ。まあ、観客席まで持ち帰ったら兄弟とかに取られちゃうものね。
甘いお菓子の前に仁義や友情は存在しないのだ。
「次の種目は、的当てです!賞品は蜂蜜チーズでーす!上位5人まで賞品がでますよー。参加する人は並んで―」
次の競技の参加者を募る声をかけると、今度こそはと、お菓子目当てに目の色を変えた子供たちが全員並ぶんだ。
僕は30エル先に黒板に描かれた的と、消石灰の粉をつけたボールを用意する…。
急遽行われたために準備も不十分な競技会だったのだけれど、お菓子目当てに一生懸命取り組む子供たちと、それを応援するご婦人たちのお陰で、競技会は大変に盛り上がり、かつ楽しい雰囲気で進行したのだった。
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「けっこう、面白い子がいましたね」
「そうですね。子供たちにも思わぬ個性があるものですね。特にエリンの活躍は目を見張るものがありました」
「女子で1人だけ乗馬のズボン履いてましたからね。あれは有利ですよ」
「競技会では女子もズボンを履くことが流行るかも知れませんね」
競技を中心とした午前の部が終わって、他の村人達が昼食を摂っている間、僕と村長婦人は競技に参加した子供達の運動能力を評価していた。
1人だけ乗馬ズボン姿で無双したエリン姉は外れ値として除外しつつ、競技に参加した男の子たちの運動能力をざっと3段階程度に見積もり、5つに分けた家のある地区にそれぞれ記入していく。
5つの地区を警備する地区別の子供達の戦力を見積もるためだ。
「多少…いえ、かなり偏りがありますね」
「…そうかもしれません。致命的なものではありませんが」
競技の入賞者を地図にプロットしてみると、運動能力が高いと賞される子供達は、僕の住んでいる地区と村長の地区に集中していることがわかった。
僕の家の地区には社交場がありスープが飲めてクナトルレイクをする環境があり、村長の地区は有力者が多く栄養をたくさん取れて大人用のクナトルレイク競技場があるわけで。
「これは…どうしたものでしょうね」
「このように明らかな結果が見えてしまっては、抜本的な対策を考えないといけません。夫が戻り次第、検討することにしましょうか。どうすれば良いか、すぐに対策は思いつきませんが」
競技会の集計をしていたら、子供の才能とか遺伝的資質がどう、とか言う前に、栄養と運動の環境が否応なく結果に反映されていることがデータで視える化されてしまったんだよね。
馬で警備する中で気がついてしまった向こう岸とこちら岸の経済格差問題と合わせて、環境による子供の運動能力格差までも生まれてしまっていることが明らかになったわけだ。
強い戦士を排出することを是とする北方の村としては、由々しき問題なのである。
「うーん…こんなはずでは…」
「仕方ないでしょう?誰のせいだと思っているんですか?」
僕は別に村の経済構造の課題や、環境の差による運動能力拡散問題なんて掘り起こしたくはなかった。ただ単純に、少年戦士団に参加してくれる運動神経の良い子を知りたかっただけなんだ…。
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昼食後には、集まっている村人達に対して、今後の村の警備について村長婦人から話をした。
男衆がいない今、村は女子供で守らなければならないこと。
フィヨルドを5つの地区に分けて警備すること。
警備は子供の6人と1人の老戦士相談役で行うこと。
僕と村長婦人が馬による巡回警備も行い、報告と相談を受けることなど。
最後の点に不満がでないか心配だったのだけれど、特に村人から声は上がらなかったのでホッとした。
「5つの地区は、ムニン区、フギン区、ゲリ区、フェンリル区、フレキ区とします。この区分は家が近いもの同士を警備のためにまとめています」
ムニンとフギン、ゲリとフェンリルとフレキか。
この村は烏と狼しかいないらしいね。
なにせ盾の用意が烏と狼しか間に合わなかったので…。
「今から名前を呼ばれた子は、前にでるように!」
「ムニン区!ムニンの戦士団!リーダーはビョルンとします。相談役はリネー。団員は… 」
村長婦人が、各地区のリーダー、相談役、団員を発表していく。
団員のメンバーはこちらで決めたけれど、リーダーと相談役で話し合って、適宜入れ替えることも認める。子供だし、風邪を引いたり家の都合とかもるかもしれないからね。
そして団には盾と角笛の装備が支給されることも合わせて発表された。
団の歌は考えるのが間に合わなかったので、自分たちで決めても良いし相談にも乗ることも伝えた。
この後で合同の訓練や選抜投擲手による投擲訓練などについても訓練計画を立てた上で訓練を始めないとならないけれど、とにかくも村に急造の少年戦士団が発足することとなったのだ。
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翌日から、調子外れの歌を歌いながら盾をガンガンと鳴らして村を周回して警備する少年達の姿が見られるようになり、そのおかげからか、家畜の被害もほとんど止んだ。
なお、少年達による周回警備は大人にも子供にも好評で、村の大人達が戻った後も組織は存続することになった。
そして少年戦士団は村の伝統になり。競技会も形を変えながら毎年行われた。
作者です。以前からお約束して延び延びとなってしまっていた
お約束のカクヨムサポーター限定SSをカクヨム近況ノートの方に載せます。
よろしければご覧ください。
詫びSSも含めて2編です。13時掲載予定です。




