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3:平和な日常にやはり奴はやって来る

閲覧・ブクマ等ありがとうございます。

毎度嬉く思っております(笑)

拙い文章で恐縮ですが暇つぶしがてらどうぞ。

それからの俺は、今後やるべき事のために行動を開始した。

まずは父さんに頼んで剣の先生を雇って貰うことにした。

…のだが、どうやら元々依頼していたらしく、俺がその話をした時に父さんから


「実は、お前達にもそろそろ良い時期だろうと、以前から良い先生を探していたんだ。それでこの間やっと了承を得られてね。明日から来ると返事があったから、今日伝えなければと思っていたんだよ。」


との返事があった。

なんというナイスタイミング、しかも早速明日から来てくれるとは。

聞くとその先生は、元々この国の騎士団に所属していたらしく、実践に特化した戦闘に優れた人らしい。

今では引退し、隠居生活をしていたとの事だ。


本当に父さんグッジョブ!!俺の望み通りだ!!と、俺は思わず心の中でガッツポーズをした。

しかも、どうやらこの屋敷の警備も兼ねて雇われる為、住み込みとなるらしい。

したい時に稽古をつけて貰えそうで、本当に万々歳だ。


そして翌日来てくれたその先生は、引退した男性にしては若く見える初老の男性だった。

聞くとまだ50代そこそこらしく、この世界の定年はやはり前世とは違うのだろうかと考える。

そして、さっそく見せて貰った剣技はやはり凄かった。


俺は正直剣と言うものは、よくRPGの勇者が持ってるようなゴッツイ剣を想像していたのだが、俺達が習う剣はどちらかというとフェンシングの様な細くしなる、レイピアという細身の剣だった。

先生が見本として、その細い剣をヒュンヒュンと風を切る音を立てながら振る姿は、思わず惚れ惚れするほど鮮やかだった。


前世ではテレビで剣道の試合を見たことがあったが、やはり日本の剣術とは動きも違うし、実際に近くで見るのは迫力も違った。

いつか、俺もあんな風に剣をヒュンヒュン出来る日を想像して思わずワクワクした。

こうして俺は、無事クリスと共に先生からみっちり指導を受ける事なったのだった。

…少し後悔するくらいに。


「は~…今日の稽古もキツかった…」

「確かに…」


稽古を終え、軽くシャワーを浴びた後にソファの上でグッタリする俺とクリスを見て、アリスは紅茶を飲みながらフフッと微笑んでいた。


「端から見ていても、先生のご指導は凄かったですわ。」

「普段は優しい方なんだけどね…」


そう半泣きで返すクリスは、ソファの上で崩していた体勢を直すと、机の上のケーキをモソモソと食べだした。

俺は未だに疲労感からうまく動けないため、その様子をなんとなくぼんやりと眺めていた。


先生は住み込みという事もあり、授業以外でも俺達とよく遊んでくれたり、昔の武勇伝なども話してくれた。

基本恥ずかしがりらしく、武勇伝に関しては「大したことじゃない」とあまり詳しくは話してはくれないのだが。


けれど、決して大人しい人という訳でもなかった。

機嫌の悪そうな表情から初対面はクールな印象を受けたが、慣れてくると妙に子供っぽい所のあるヤンチャな渋面ダンディ系のおじ様だった。

…熊を瞬殺した話を聞いた際は、この人ヤバい(色んな意味で)と思ったものだ。


「でも義兄さまも凄いですわ。クリスだって途中で疲れて休んでましたのに…」

「本当だよ、義兄さんって結構体力あるよね。」

「いや~、教わってたらなんか楽しくなってさぁ。夢中な時は気付かないんだけど、後からくるタイプなんだよな。」


そう言いながら、俺もそろそろ茶菓子を食べようと身体を起こした。

前世では小さい頃、それなりに同世代の子達と元気に遊び回っていた俺だが、中学入学前くらいからは何かと病気がちになり、あまり運動出来なくなってしまった。

なので、今のように思いっきり身体を動かせるという久々な感覚がとても気持ちが良いのだ。


そしてこの身体は思ったより動ける身体だったことも幸いだった。

所謂『動けるデブ』であり、動体視力も反射神経も悪くはないので、先生の指導もどうにかこうにかついていけている状況だ。

…まぁ肉が邪魔して、思い通りには動けていないが(最初の素振りの際に、肉が邪魔でしっかり腕が上がらなかったのはショックだった)。


「…なんだか私だけ仲間外れのようで、少し寂しい気もしますわ…私も、教えていただこうかしら…」

「いやー、止めとけって。父さん達も絶対止めるだろうし。一応嫁入り前の身体なんだから、傷でも作ったら今後の婚約に支障がでるぞ?」


この世界では貴族の娘は、怪我など作ろうものならいわゆる『キズモノ』とされ、良い家柄とは婚約を結びにくくなるとされている。

義母さんの件といい、容姿を重んじるこの世界の貴族の風潮といった所だ。


「…私は、義兄さまが居ればそれで…」

「あ、婚約といえば。」


何かボソボソと喋るアリスの被さるように、クリスが言葉を発した。

アリスが少しムッとした様だが、クリスは気づかず続けた。


「アリス、確かお義父様から婚約の話が来たって聞いたけど、返事はどうしたの?」

「え!?本当か!?アリス!」


義妹の婚約と聞き、まさかと思い俺は身を乗り出してアリスを見た。


「ちょっと、クリス!まだ話さないで欲しかったのに…」

「え、ご、ゴメン…」


頬を染めながら非難するアリスに、あぁやっぱり幼くても女の子だなぁと感じる。

しかし、呑気に和んでいる場合ではない。

俺は、一番確認すべき事を聞くために口を開いた。


「因みに…相手ってもしかして、風の国の王子…だったりしない?」

「まあ!義兄さま、どこかで聞いてらしたんですの?」


マジか、やっぱり来たか風の王子。


「あーいや、ウチは公爵家だし、もしかして相手は王族の可能性も…とか思ったりして…」

「そうですか…でも、お恥ずかしい…まさか義兄さまにこの件を聞かれてしまうとは思いませんでしたわ…」


頬を染めながら手で顔を隠すアリスに、うぁーこれは、確実に惚れてますわー。と可愛く思う半面、今後の事を考えると内心複雑な思いになった。


「もしかして、写真とかもあるのか?」

「え、えぇ…これですわ。」


アリスは側に置いてあったノートや教科書類の中から、豪華そうな装飾の施された見合い写真を取り出した。

てか、王子の写真扱い雑じゃね?と思ったが、それより写真が気になるのでスルーした。

そして写真を開いた俺は、思わずそこに写っていたものに見とれてしまった。


フワッとしたウェーブが掛かった銀色の髪。

透き通りクリッとした水色の瞳。

そしてそんな不思議な色合いが違和感の無いほど、パーツが揃った顔立ち。

その顔に似合ったキラキラとした正装を着て、椅子の上で行儀よく微笑んでいる姿は、まるで美しい肖像画のようだった。


「はぇ~…めっちゃくちゃキレイな顔してんなぁ…」

「カルロス様は3人居る王子の中で、最も王妃様に似ていらっしゃる方だからね。風の国の王妃様は本当にお綺麗な方で、その容姿で王妃様に選ばれたとも言われてるって、メイドさん達も言ってたよ。」

「へぇ~」


親切に教えてくれるクリスに俺はただただ溜息が出るだけだ。

なるほどな、こんだけキレイな顔の婚約者なら初対面で一目惚れしてもおかしくはない。

兄が奪われた孤独の中、目の前に現れた白馬の…いや、風の王子様。

俺がアリスだったら、完全に自分が少女漫画のヒロインだと錯覚しそうだ。


だが残念ながら、小説のアリスはヒロインにはなれなかった。

その結果を知っている俺は、正直義妹のこの恋を応援はしてやれそうになかった。

しかも、相手が将来腹黒男となるのを知っているので尚更だ。

どんな結果となっても、アリスの良い未来が想像できない。

そこまで考え、俺は思わずハァーっと大きな溜息を吐いた。


「あの…義兄さま?どうなされたのですか?」


いきなり暗い顔をした俺に、アリスは心底心配そうな顔を近づけ覗いてきた。


「いや、その…アリスはさ、この王子様に会うつもりなのか?」

「…お義父さまの立場もございますし、一国の王子様からお話をお断りする訳にはいきませんわ。」

「まぁ、そうだよな…」


その話し方にあれ?と思う。

さっきの反応だと満更でもないかと思ったのに、なんだか気が乗らない様に聞こえたが、気のせいだろうか。

まぁそんな歳で、こんな大事を託されるのは気が重いのかもしれない。

もしかしたら心細いのだろうか?


「…なぁアリス。その顔見せ、てかお見合い?僕も側に居てもいいものかな?」

「「え?」」


俺のその言葉に、2人が驚いた顔をして俺を見つめた。


「あー、ダメだよな…なんだかアリス、気分があまり乗らないのかなと思って…」

「気は確かに乗りませんけれど…もしかして義兄さま、私の事を心配して…?」

「あー、うん。やっぱり義兄として心配だし。何も出来ないだろうけど、側に居るぐらいしたいなって…」


流石に初対面で何かされるとは思わないが、対策を考える為にも相手を知っておく事は重要だ。

俺のその言葉に、アリスは赤らめた頬を押さえながら笑顔になった。


「義兄さまが私の心配を…なんて嬉し…あ、いえ、とても心強いですわ。」


ニコニコと笑顔で答えるアリスに、やっぱり心細かったんだなと納得した。

そんな中、俺達の話を大人しく聞いていたクリスがいきなりガタッと立ち上がった。


「それなら、僕も同席したいよ!…でも、良いのかな?お見合いなのに兄弟同伴って…」

「うーん…父さんに聞いてみるか。多分アリスが聞いた方が説得力もありそうだし、聞いてみてくれないか?」

「分かりましたわ。」


こうして俺達の案を聞いた父により相手への確認が行われた結果、予想外にもOKの返事があり、前代未聞の兄弟同伴のお見合いが実現してしまったのだった。


お見合い当日、会場はまさかの我が家となった。

相手方曰く、普段あまり他国へ行かない王子から「この国を見てみたい」との申し出があったそうな。

一国の王子の訪問という事もあり、朝から我が家は慌ただしく準備が行われていた。

その慌ただしさに感化された俺は、何故だが徐々に緊張してしまい、室内をグルグル回っていた。


「う~、ヤッベェ…緊張してきた…」

「義兄さんが緊張してどうするの…言い出した本人なのに…」


そう呆れているクリスは、思ったより落ち着いている様で、先程メイドが用意してくれた紅茶をゆったりと飲んでいる。


「なんでそんなに落ち着いてられんの…王子様来るんだぞ?」

「お見合いするのはアリスだし、なんか焦ってる義兄さん見てたら逆に落ち着いてきちゃったよ。」


まるで他人事のようなクリスに、なんだか緊張してるのがバカらしくなってくる。


「てか、クリスは心配じゃないのか?アリスがその婚約者にベタ惚れしたら、僕達のこと邪魔者扱いしだすかもしれないし…」

「邪魔者扱いって…うーん。それはないだろうけど。まぁ、心配はしてるよ…でも、アリスなら大丈夫だろうなって。」

「ふーん、信頼してるなぁ…」


やはり双子ってどこか通じる所あるのかなと感じる。


「信頼というか…義兄さんの心配するようにはならないだろうし…」

「えー?でも『恋は盲目』って何かに書いてあったし?王子以外はどうでも良くなるかもしれないじゃん。」

「それちょっと違う気もするけど…まぁ確かに、アリスって時々周りが見えてない時あるよね。」

「だろ!?…もしかしたら、いずれアリスも『義兄さま邪魔!』『義兄さま鬱陶しい!』ってなるかもしれないし…」


それを想像しただけで、俺は思わず涙が出てきた。

今なら世の娘を持つお父さん達の心配する思いに共感出来る。


「いや…絶対ないでしょ。だってアリスは…僕達は義兄さんを…」


すると、コンコンという扉を叩く音が聞こえ、俺達はそちらに意識を向けた。


「ギルバート様、クリス様。そろそろ応接間へいらしてください。」


外から聞こえてきたその声に、メイドが俺達を呼びに来たのが分かった。

何か言いかけたクリスの言葉を遮る形になってしまったが、メイドの声を無視する訳にもいかないので、後で覚えていればまた聞くか、と軽く考える。


「分かった、今から行く。」


そう扉の向こうへ声を掛けると、俺達は改めて身なりを整えて応接間へ向かったのだった。







「失礼します。」


断りを入れてガチャリと扉を開けると、まだ王子達は到着して居なかったようで、可愛らしい桜色のドレスを着たアリスと父さんが椅子に座って待っていた。


「まだ、王子様はご到着されてないのですか?」


俺が訊ねると父さんは「まず掛けなさい」と促されたので大人しく座った。


「もうそろそろ到着される頃だが、その前に少し伝えておこうと思ってね。」

「「「?」」」


父さんの言葉に、どうやらアリスも何も聞いていないらしく、3人同時に疑問符を浮かべた。


「アリス、今回の婚姻の件だが、あまり構えなくても良い。彼方からのお話とは言っても、王子には他にも様々な縁談話があるらしいからね。」


その話に俺達は思わず顔を見合わせた。


「今回の婚姻は確かにオルコット家には良い話ではある。王族との大きな繋りが出来るのだから。だが私は、特にその繋りに拘りは無い。それに王子もお前達と同い歳と若い。彼方も急いで決める事では無いとの考えらしいから心配はいらないよ。」

「…あの、それなら何故今回の話が上がったのですか?」


彼方から話があったのに、急ぐ事はないとはどういう事なのか。まるで矛盾する話に疑問が止まらない。


「…これは直接聞いた話では無いから、信憑性は薄いんだが…王子の婚姻の話自体は家臣達から上がってはいたらしい。一部の婚姻賛成派の者が、風属性の魔力を持つ貴族の娘達を、片っ端から情報収集し、話を王子へ持っていったらしいんだが…その中で王子が選んだのがアリスだったんだ。」

「えっ!?」


まさかの王子直々の指命だったとは予想外だ。

小説ではアリスに好感を抱いている様子は無かったが、昔はそうではなかったのだろうか?

そう考えていると、何故か父はあまり良い表情を浮かべていなかった。


「いや…その…言うかは迷ったんだけれど…実は、王子の家臣達が、アリスが私の実子で無い事を調べて知ったらしい…それから先方の反応が、何やらあまり良いもので無くなってね…」

「なっ!?まさか、そんな事で話を無かった事にしたいと!?」

「そこまでは…ただあまり積極的で無いのは確かだね。」


なんて酷い話だ、確かにアリスの実父の家は資産家ではあるが貴族では無い。母親も平民の出だ。

アリスにオルコット家の血縁関係が無いという理由で、簡単に掌を返すとはなんということだ。

あまりに腹立だしい内容に、俺は思わず怒りがこみ上げてきた。

側に居るクリスも、表情はあまり優れない。


「ギルバート、落着きなさい。確かに腹立だしい話だ。けれど、私は逆に良かったとも思っている。アリスにはもう少し自由に先を決めてほしいと思っているからね。」

「お義父さま…」


父の言葉にアリスは嬉しそうに微笑んだ。


「ありがとうございます。その話を聞けただけでも、とても気持ちが楽になりましたわ。」

「アリス…」

「けれど、今回の件はやはり王子様からお話には変わりありません。もしお断りを入れるとしても、オルコット家に恥じぬ様に振る舞うつもりですわ。」


背筋をピンッと伸ばし堂々と答えるアリスに、クリスが大丈夫と言った意味が分かった気がした。

父さんも驚いた表情を見せたが、すぐに優しい表情に戻りアリスの頭を撫でる。


「ありがとうアリス、そうだな。だが本当にあまり気負いをする事はないよ。それに、王子は噂ではとても優しく優秀な方と聞くし。お前がもし王子を気に入れば、今回の婚約を進める事も良いのだからね。」


その言葉にアリスは笑顔で頷いたが、そのあとクリスと少し目を合わせ困ったような表情を浮かべていた事に、父さんは気づいていないようだった。

それが少し気にはなったが、アリスの表情が少し明るくなった気がしたので、気にしないでいいかと考えた。

そうして少し場の空気が和むと、丁度メイドから王子達の到着を告げられたのだった。



武器の知識があまりないので、間違い等あれば申し訳ありません。


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