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≪小話≫1.5:オルコット家独白

ブックマーク、評価ありがとうございます。

未熟ながら少しでも楽しんでいただければ幸いです。

今回は少し補足のような、オルコット家の方々の独白です。

会話のようですが、誰に話しかけているかは特に考えていません(笑)

リチャード・オルコット公爵の懺悔


どうもご機嫌如何かな、私の名前はリチャード・オルコット。

オルコット家家長であり光栄にも公爵の爵位を頂いている者だ。

私には息子がおり名前はギルバートという。

病弱な妻との間にやっと授かった、大切な一人息子だ。


容姿はどうやら母、ライラ似の様で綺麗な金色の髪と藍色の瞳を持っている。

目付きは亡き我が父に似て鋭い目付きをしているが、とても優しい子だ。

初めての子と言うこともあり、夫婦共々少し甘やかし過ぎてしまったようで少し大きめに育ってしまったようだが、とても素直で元気な子に育ってくれた様で安心した。


そして最近もう2人、クリスとアリスという男女の双子も我が家に加わってくれた。

この2人は私の再婚相手であるメアリの連れ子であるが、この2人もとても優しい良い子達であり私の自慢の子達である。


…いや、すまない、ここで少し懺悔しよう。

私は約一年程前に最愛の妻ライラを亡くした。

ライラが亡くなってからの私は、彼女が亡くなったという悲しみから抜け出すことができず、それをまぎらわす為にずっと仕事に没頭していた。

そして同じく母を亡くし、悲しみ寂しがっているであろうギルバートに構うこともせず、私は家から逃げてしまった。


私は怖かったのだ。

妻と似たあの藍色の瞳が私を見つめる度に、もうライラがこの世に居ないという、受け止めきれない事実を突き付けられているようで耐えられなかった。

そんな中で再婚の話が上がり、寂しがっているであろうギルバートにも丁度良いのではと考え、私は周りの薦めに従い再婚した。

しかしよくよく考えるべきだった、その判断は大変浅はかだっただろうと今なら思う。

6歳のまだ幼い子供によく知らぬ相手を家族だと、いきなり押し付けたのだ。


メアリ達もそうだ。

見知らぬ子を勝手に押し付けられ、慣れぬ環境に戸惑う中、容易に身動きをとることすら出来なかっただろう。

そんな彼らの関係が上手くいくはずも無く、使用人達の報告は直接言いはしないが歯切れの悪いもので、私はそんな事になっている彼らをどうにかする事すら考えようとせず逃げてしまっていた。

そんな私に罰が当たったのだろう。


ある日、ギルバートが階段から転落したという知らせを受けた。

それを聞いた私はすぐに駆けつけるが、そこにはベッドの中で高熱に魘されているギルバートの姿があった。

私は後悔した、私が逃げてしまったが為にこんな事になってしまった。

私はすぐギルバートに駆け寄り手を握りしめた。


「すまない…ギルバート…頼む、お前まで居なくならないでくれ…」


私の言葉はギルバートに届くことはなく、ギルバートはずっと魘されていた。

医者に聞けば転落による怪我自体は大した事はないが、原因不明の高熱が続いているとの事だった。

いつ下がるかも分からないとの事で、今は祈るしか無いと言われ大変歯痒かった。

それなのに絶対外せない仕事を入れていたが為に、どうしてもギルバートから離れなくてはならなくなった。

家を出る前、メアリが何か言いたげに声を掛けてきたが、心も時間も余裕がない私はそのまま家を出ていってしまった。


そうしてやっと仕事を終え、帰宅した私を待っていたのは、床に額をつける勢いで謝りだしたギルバートの姿だった。

その姿に私はしばらく状況を理解出来ず、ただただ混乱しながらギルバートやメアリ達が私に謝り倒すのを聞くしかなかった。

やっと状況を理解した時、私がまず抱いた感情は後悔だった。


私が逃げてしまったが為にこんな事態になり、皆を傷付けてしまった。

謝らなければならないのは私の方だった。

そう思った私が頭を下げ返すと、今度は他の全員が焦りだしてしまった。

ワタワタするその状況に思わず吹き出した私を、ギルバートが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

そんなギルバートを見ていると、少し見ないうちにこんなにもしっかりした子になっていたのかと、何だか嬉しく感じた。


そして、今まで恐ろしく感じていたその藍色の瞳に見つめられても、恐怖よりその姿へ愛おしさが込み上げてくる自分が居た。

そんな私は、思わずギルバートを抱きしめながら、正直にその時思った事全てを皆に伝えた。

私の思いを聞いたメアリ達は、私を責めることなくその思いを静かに受け止めてくれた。

そんな中ギルバートだけはその話を聞いた後


「では皆お相子ということで全てを水に流しましょうか!」


と提案し、そのあまりの緊張感のない声色に、思わずギルバート以外の全員で笑ってしまった。

そして、その時私はこの愛おしい人たちに誓ったのだ。

もう二度と逃げないこと、家族を守る事、そして愛する事を。

それが私の贖罪であり、すべきことであると確信したのだ。

それに、もしライラが今までの状況を見ていたならこう言った筈だ。


「それでも貴方はオルコット家の家長ですか!」と。


彼女は身体は弱いが気はとても強い女性だったから、きっとそう怒られてしまうだろう。

そうしてやっと、私は彼女の居ない事実に向き合う事が出来た気がした。

今ではいつの間にか仲良くなった子供達が笑って遊んでいる姿を、メアリと2人で暖かく見守って過ごせる程に本当に幸せな日常を過ごしている。

そうやって子供達を見守っていた私は、その切っ掛けとなってくれた愛しい息子が、こちらに向かって手を振っている姿に笑顔で返しながら、改めて幸せを噛み締めるのだった。



メアリ・オルコットの困惑


ごきげんよう、私はメアリ・オルコットと申します。

いきなりで申し訳ありませんが、私大変戸惑っております。

何に戸惑っているのかと?それは


「あ、あぶないから、お止めなさい!ギルバート!」


そう叫ぶ私の目の前には、物置小屋の屋根に登り、木の枝先に居る子猫を助けようとしているギルバートの姿があった。

私の悩みの種、それは新しく出来た息子が、予想以上に腕白な事です。


「大丈夫ですよ!義母さん。下にクッションも置いているので!…ほら~こっちこっち…怖くないよ~」


そう言いながら手を伸ばしているギルバートの視線の先には、どうやら木の上から降りれなくなったであろう子猫が震えていた。

それを助けようとしたギルバートは、どこから持ってきたのか用意した梯子を使い、庭師達が使う物が置かれている高さ約2メートル程になる小屋の屋根まで登ったらしい。


私がたまたま廊下を歩いている時、ふと窓に視線を移すと、そんな彼の姿が見え、驚いた私はすぐに駆けつけたのだった。

そして彼の言ったクッションとやらは、どうやら地面に存在しているトランクケース大の水の塊の事らしかった。

ギルバートは「大丈夫、大丈夫」と言っているのだが、正直ずっとハラハラして落ち着かない。


「子猫より貴方が心配なのです!早く降りなさい!」

「もう少し…よーし!よしよし…もう大丈夫だぞ~」


私が心配している間に、ギルバートはどうにか目的を達した様でその腕に子猫を抱いていた。

そしてその状態のまま、ギルバートはそのクッション目掛けて飛び込んだ。


「きゃ!」


思わず目を覆った私だったが、ギルバートは上手くクッションに支えられ無事着地出来た様だった。

そしてその子猫を地面に降ろすと、その子猫はすぐ草むらに走っていってしまった。


「あー、行っちゃった…」

「…行っちゃった。ではありません!」

「わ!か、義母さん…」

「危ないと言ったでしょう!本当に貴方は…!」


そう怒る私の言葉に、目を瞑り肩を強張らせるギルバートの姿を見て、私はその身体を抱きしめた。


「義母さん…?」

「本当に、心配かけさせないでちょうだい…寿命が縮みます…」


私の態度に、ギルバートはおずおずと背中に手を回し「ごめんなさい…」と小声で謝ってきた。

私はそれに答える様に、ギルバートの頭を優しく撫でた。

そうしていると、先程の子猫の鳴き声と共に別の猫の鳴き声が聞こえてきた。

その方向には、子猫と親猫と思われる成猫が居た。

親猫は心配だったのか存在を確かめるようにしきりに子猫を舐め、その親猫の行動から子猫が逃れようと藻搔いている様に見えた。


…どうやら、親の心子知らずというのはあちらも同じらしいわね。


私はふぅ、と溜め息をつくと、そのまま立ちあがりギルバートの手を繋いだ。


「…さぁ、ギルバート、中に入りましょう。…また後で…しっかりお説教しますから、ね?」

「うひぃ…」


引き攣った表情のギルバートの手を引きながら、私は心の中で密かに思った。

…この子と約束した正しい事を、私がこれから教えて行けるか不安だけれど、この優しい子を守る為にも、これから私も強く有らねば。

そう心に誓った私は、この子をこれからどう叱るべきか、お説教の内容を考える事にしたのだった。



アリス・オルコットの初恋


こんにちは、私の名前はアリス・オルコットと言います。

私には兄が居ます。一人は双子の兄、クリス。

そしてもう一人は、ギルバート義兄さまです。

私は最初、このギルバート義兄さまを怖く感じていました。

出会った頃のギルバート義兄さまは、私達を見るたびに睨み付け、たまに意地悪をしてくる方でした。

何故そんな目を向けてくるのか、どうして意地悪してくるのかわからず、私はただただ新しく出来た義兄を恐れていました。


でもある日から、義兄さまは変わりました。

周りの使用人の人達は「まるで人が代わった様だ。」と口を揃えるほど変わられました。

そしてそんな義兄さまは、私達にこれからは『必ず守っていく』と誓って下さいました。


でもそんな義兄さまが私はやっぱり怖くて、それからしばらくクリスの後ろに隠れていました。

そして、そんな私に笑顔を向けて下さった義兄さまでしたが、私はどうしても怖くて逃げたした瞬間に、思わず足がもつれて転けてしまいました。

痛みに泣いてしまった私の元に、すぐ誰が駆けつけた足音が近付き、ふいに頭を優しく撫でられた感じがしたので見上げると、そこには義兄さまが居ました。


一瞬怯えた私でしたが、義兄さまは私の頭を撫でながら、まるで自分が痛そうな表情をして私を見ていました。

今まで睨み付けてきたあの怖い瞳ではなく、私を思って心配してくれているのが分かり、私は少しホッとしました。


そして義兄さまはいきなり「痛いの痛いの~僕に飛んで来い!」と言いながら自分の胸を強く叩きました。

すると義兄さまは叩きすぎたせいか咳き込みその場に座り込みました。

いきなりの事に私がポカンとしていると、義兄さまは涙を浮かべながら「痛いの飛んでった?」と笑顔で聞いてきました。

気がつくと、驚きのあまり何だか本当に痛みを忘れてしまったようで、全然痛く感じませんでした。

私が思わずぷっと吹き出すと、義兄さまもヘラッと笑顔を浮かべていました。


「やっぱり、アリスは笑った方が可愛いね。」


そう言いながら頭を撫でてくれる義兄さまに、私は思わず顔が熱くなりました。

そんな固まってしまった私を、義兄さまは心配して顔を覗き込んでくれましたが、今度は別の意味で顔を合わせられず、私は立ち上がって再びクリスの後ろに隠れてしまいました。


私の様子に、義兄さまは「やっぱダメかぁ…」と肩を落とされていましたが、私はその時の自分の気持ちに戸惑いそれどころではありませんでした。

けれどそれから、私は義兄さまを怖いと思わなくなり、寧ろあの藍色の瞳に見つめられると、胸がドキドキしてしまうようになりました。

私はしばらくして、この気持ちの正体に気付く事になるのですが、その頃には自然に義兄さまと接する様になっていました。


ギルバート義兄さま。

『必ず守る』と約束してくださったのですから、ずっとお側に居てくださいね。

そして何時か、義兄さまも私と同じ気持ちを持ってくださるよう、私も強くなります。

ですから待っていてくださいね、私の大好きな義兄さま。



クリス・オルコットの誓い


こんにちは、クリス・オルコットです。

すいません、今ちょっとボーッとしています。

何故なら今僕は義兄と妹と一緒に、庭で昼寝していたのです。

午前中の授業を終えた僕達は昼食を摂り、昼からは義兄さんの提案で始めた「かくれんぼ」という遊びをしていたのですが、鬼である義兄を待っている中で次第にウトウトしてしまい、どうやら寝てしまっていたようです。


そして今、目を覚ました所なのですが、恐らく義兄さんの部屋から持ってきたであろう、見覚えのあるブランケットが僕の上にかかっていました。

そして、そんな僕の隣で2人がすよすよと寝息をたてながら、気持ち良さそうに寝ています。

ちなみに僕の妹アリスは、義兄さんにピッタリと抱きつきながら、義兄さんの腕を枕にして寝ているようです。


…不思議なものだ、と思う。

以前の険悪な状態であれば、アリスがこんなにも義兄さんに懐くような事はありえませんでした。

義兄さんが階段から落ちた、いや、正確には事故とはいえ僕が義兄さんを突き飛ばしてしまったあの日以来、義兄さんは僕達に対してとても優しくなりました。


初めて会った時から、僕達家族を目の敵にしていた義兄さん。

そんな義兄さんがアリスの髪を掴み、からかっているのを見た時、僕は反射的に義兄さんの身体を突き飛ばしていました。

そして義兄さんが階段から落ちた瞬間、僕は正直ざまぁみろ、と思いました。

けれどその直後、僕はとんでもない事をしてしまったと自分の行動を後悔しました。

義兄さんが自分に危害を加えた僕を、そう簡単に許してくれる筈はない。

僕はこの先どうなってしまうのだろう、そう考えると全身が冷たくなるのを感じたのを覚えています。

そしてそんな気持ちで義兄さんの部屋に向かった僕達に、まさかあの義兄さんが謝ってくるとは思ってもみなかったのです。


あの日、僕達に対して『必ず守っていく』と言ってくれた義兄さんの言葉を嬉しく思った。それは嘘ではありません。

だけど僕はやはりしばらくの間、義兄さんを警戒する気持ちを簡単に消すことが出来ませんでした。

その理由は、義兄さんが僕達を苛めていた事だけが原因ではありません。


今まで僕達家族は、関わってきた人達にあまりいいように思われず生きてきました。

母さんは父さんの家に使用人として入るまでも、すでに両親を亡くし天涯孤独だった為身寄りがなく、その時々の職場で生活するしかなかった身の上でした。

そして父さんの屋敷を追い出された後、暫くして生まれた僕達を連れてその生活に戻りましたが、子連れを快く受け入れてくれる所は滅多にありませんでした。

なんとか受け入れて貰えても、正当な扱いはあまり受けられません。


…この話は以前母さんから聞いた話なのですが、僕もその頃の事は何となく、苛められていた母さんの姿をうっすらと覚えていたので間違いはないと思います。

そんな中で僕達が3歳の時、2人同時に魔力が発現しました。

父さんの家にそれが伝わり、父さんの一存で家に引き取られた僕達の生活は、一転して良いものに変わりました。


しかしそれも長くはなく、父さんが流行り病で亡くなると、元々あまり良くなかった周りの反応はさらに冷たいものになりました。

そしていつの間にか、勝手に母さんの再婚が決められ、その家を追い出される様に僕達はオルコット家に引き取られたのです。

そんな経緯もあり、僕達が他の人からの好意を簡単に受け入れられるハズはない。そう思った為、義兄さんの優しい言葉を聞いたとき、思わず嬉しさに涙を浮かべてたけれど、心から義兄さんを信用は出来なかったのです。


そんな中、最初に心境の変化があったのはアリスでした。

あの話の後も僕の後ろに隠れていたアリスが、いつの間にか徐々に義兄さんと打ち解け、距離を近付けていきました。

最初は驚きましたが、アリスの挙動からどうやらアリスは義兄さんに恋してる様に見てとれました。

いつの間に、とも思いましたが、あんなに怯えていたアリスがこんなにも笑顔を見せるなど今までありませんでした。

そしてそんなアリスを、本当に優しい仕草で受け入れてくれる義兄さんの姿を見て、僕は今まで自分が抱いていた警戒心が徐々に消えていくのを感じました。

そして試しに僕も控えめに近付いてみたら、少し驚いた後にとても優しい笑顔で義兄さんは受け入れてくれました。


その笑顔を見た瞬間「あぁこの人の隣は安全だ」と心から思えました。

それ以来、義兄さんとよく遊ぶようになった僕達は、義兄さんが教えてくれるいろんな遊びをする事が多くなり、とても仲の良い関係になりました。

そして、一緒にいるうちで分かったのですが、義兄さんは時々無茶をするというか、行動が自由過ぎる所があるようです。


心配性な母さんは、そんな義兄さんをだんだん注意するようになり、今では義兄さんは母さんに頭が上がらない状況です。

そしていつの間にか僕は、そんな義兄さんを見張る係みたいな立ち位置になっていました。

ちなみにアリスは、今まで大人しい性格だったのが義兄さんに影響されたのか、案外お転婆になりつつあるので、僕は必然的に2人の見張り役になっています。

…最近時々将来の事を考えると、軽い頭痛がするようになりました。

でもそんな2人が、こうやって仲良く幸せそうに寝ている姿を見ていると、なんだか将来の事を考えるのがバカらしくなってきます。


僕は一つ溜め息をつくと、隣で寝ている義兄さんに再度視線を移した。

そして投げ出された右手を起こさないようにゆっくりと手に取ると、その手の甲に軽く口づけた。

そして同時に心の中で呟いた。

義兄さんが僕達を守ると誓ってくれた様に、僕も改めて誓おう。

僕にとって義兄さんは初めて出来た「安心できる場所」。

だから僕はそれを必ず守る。

それが僕の誓いだ。

絶対に何物からも、義兄さんを傷つけさせはしないよう強くなるよ。

だから義兄さん、ずっと僕の隣で笑っていてね。




今の時点で、アリスはギルバートに「依存」はしていません。

小説と違い、家族に愛されているので依存する理由がないからです。


クリスの言う「安心できる場所」にアリスや母が含まれていないのは、彼女達がクリスにとって「守るべきもの」だからです。

本来のシナリオであれば、その「守るべきもの」を失った彼には生きる目的がなくなり、そんな自分に「居場所」を与えてくれた火の王子に心酔していくのです。


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