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第二十話 巨大銃

 さてそれから三日ほど経った頃のこと。弘後町からそう遠く離れていない村にて。

 以前は牛馬が放牧されていたと思われる、村の広い草原。かなり広い柵に囲まれた、人によって管理されているはずの土地。

 その土地には、今は村も含めて人の姿がない。その代わりに、人ではない招かれざる客は、大勢いた。それはあの人型眼妖の群れである。


 百匹以上いると思われる、今までに無い数である。それが森の方から飛び出し、柵を取り壊して、牧場の平らな大地に飛び出していく。狼の群れよりも、よっぽど恐ろしい。

 そしてそのまま真っ直ぐに、村のある方向に走っていく。武器をブンブン振り回して突撃する様は、間違いなくこれから村を襲撃する意思を確認できる。


 そしてその見晴らしの良い草原にて、眼妖達が向かう先の村の手前に、今まさに彼らを迎え撃つ準備をしている者がいた。それは真澄とルチルである。

 ルチルは少し離れた後ろの方で、小屋の側でいつでも魔法を撃てるように待ち構えている。だが彼女はまだ動く様子はない。

 そして前面に出ているのは真澄である。彼女は武器を構えて、今まさに眼妖に迎撃しようとしていた。


 今回彼女が持つ武器は、あの自動小銃や榴弾ではない。それよりもっと大きい物である。

 それは銃である。ただし自動小銃よりも、遥かに大きい。全長は1.5メートルはあるだろう。あまりに大きいためか、真澄はそれを両手で持ち上げていない。

 脚立で銃身長を地面に固定させて、発射準備をしている。その銃器の外見は、源一がいた世界のブローニングM2機関銃に酷似している。


 そして眼妖の群れが、全匹が森から出てきて、この草原に姿を現した瞬間に、真澄は即座に機関銃の引き金を引いた。


 ドドドドドドドドン!


 銃口から発射される、無数の銃弾。そして銃身から連続して放出される、無数の薬莢。その銃弾の大きさは、以前の自動小銃よりも、遥かに大きく重い。鈍器にも匹敵する金属の塊を、矢として発射しているのだ。

 それを点射ではなく連射で発射しているために、銃の反動は自動小銃よりも遥かに強力である。


 だが真澄は特に苦にはなっていない。銃全体が銃座で地面に固定されているし、人間よりも優れた鰐人の体力のおかげで、全身に響く反動の震えなど、全く気にする様子がない。竹筒を動かしているかのように、軽々と銃の方向を変えながら、敵を撃ち抜いていく。


「「ギャァアアアアアア!」」


 眼妖に群れに撃ち込まれる、無数の大型弾丸。真澄は銃身を右に左にと、鳥の頭のように機敏に動かし、群れ全体に弾丸が当たるように操作する。


 そしてそれらの弾丸を受けた眼妖達が、次々と倒れていった。今までは、眼妖を倒すためには、正確に眼球を狙う必要があった。だが今回は、それほど正確に当てる必要はなかった。

 眼球に直接当たらなくても、それに首や頭部など、それに近い位置に当たった時点で、眼妖は即死した。

 あまりに強力な威力の弾丸が、一発当たっただけで、眼妖の身体を破裂するように、大きな損傷を与える。その衝撃に、眼球もろとも粉々に砕け散った。

 眼球が壊れなくても、腹部に命中しただけで、下半身が派手に砕けて倒れる。しかも一匹を貫通・粉砕した弾丸が、そのまま後ろに飛んで、さらに二匹・三匹と命中させていた。


 自動小銃などとは、比にならないほどの威力の弾丸を、嵐のように受ける眼妖の群れ。眼球を粉砕された眼妖達が、次々と死んで泥化していく。

 死ななかった者も、身体に大きな損壊を受けて、しばし動けない状態になる。


 だがその無敵とも言える弾幕も、やがて終わりが訪れた。急に銃口から弾が出なくなり、騒がしかったこの草原が、急に静かになる。

 この機関銃に装填されていた、200発分の弾帯を全て撃ち尽くした。真澄の足下には、放出された薬莢が、ゴミ捨て場のように無数に転がっている。ここを走ったら、薬莢に足を滑らせて転んでしまいそうだ。


「こっちは終わった! 後はルチル、頼む!」


 銃から手を離し、村の方へと逃げる真澄。機関銃は勾玉の姿(言うまでもないが、これは源一が変身した姿だ)に戻り、真澄を追って飛んでいく。

 今の攻撃で眼妖の群れの大部分は倒した。推定百五十匹いた眼妖達は、大分数を減らしている。だがまだ二十数匹ほどが残っていた。


 彼らは手足や胴体を粉砕されていたが、泥状の身体で見る見る身体を修復させ、再度立ち上がる。そして死を恐れず、特攻隊のように再び突撃を再開した。


「任せて下さい! 穢れた者よ! 神の裁きを受けなさい!」


 弾切れになって撤退する真澄の代わりに、彼らに立ちはだかったのはルチルであった。魔道杖を振り上げて、堂々と仁王立ちして、自らが眼妖達に立ちはだかる。

 ルチルの魔道杖の先端が、力を充填して強い輝きを放ち始める。そして眼妖の群れが、距離百メートルまで迫ったと時に、その輝きが力を一気に解放した。


「ギャアアアアッ!」


 眼妖達に放たれる広範囲の聖なる光。以前にも人型眼妖を殲滅させた、あの対魔の魔法である。その光を浴びた眼妖達は、あっというまに只の泥となって崩れ落ちた。

 野獣のような敵の群れで騒がしかった村は、その敵の声も銃口もしなくなり、一気に静かになる。後に残されたのは、泥化した無数の残骸と、彼らを撃ち倒した二百発分の弾丸・薬莢が転がっている風景。

 かくしてこの村に出没した人妖の群れは、この二人によって、あっさり殲滅されてしまった。


「やりました真澄さん! ここでこの村の方々も帰れますね!」

「いや、そうすぐ帰れたりはしないだろうが……。ともかくここでの始末はついたな。さっさと報告して帰るか」

「はい! 今日は私達の、世界を清らかにする旅の第一歩! 大勝利です!」


 一応の証拠としての、眼妖達の残骸の写真を撮った後で、二人はその場を後にする。この二人は、協会の方から報告された、この地区に出現した眼妖を狩りに来たのだ。

 報告では三十匹程度とあったが、今回もまた報告違いで勢力が違っていた。まあ、特に問題なく狩ることができたが。とりあえず一休みしようと、今は無人の村にまで進むが……


「……ミルク?」


 見ると村の入り口の方で、こちらを待っていたかのように座り込んでいたミルク。ルチルが近づくと、まるで逃げるように村の中へと走り去っていった。


「ああっ! 待って!」

「またこれか……全くいつもいつも困った猫ね……」


 また勝手にどこかにいく白猫に、ルチルはまた慌てた風で、真澄は呆れた風で、その後を追いかけて、村の中の民家の建ち並ぶ地に走って行った。






「ミャアーーーー! ミャアーーーー!」


 とある民家の蔵の前で、ミルクがせわしなく鳴いている。まるでここ掘れワンワンである。

 源一の目からすれば、現在では時代劇以外ではあまり見ない、白塗り瓦屋根の土蔵である。その前に何故かミルクが、2人を呼ぶように鳴いているのだ。


「何だよ……ここに何が……うん!?」

「あら……この人?」

『鱗も牙もないが……あれ人間だよな?』

『ええ、多分この国の人間でもないわね』


 開けっ放しの土蔵の扉から、何と人が出てきたのである。眼妖騒ぎで全ての住民が避難したと思ったら、まだ人が残っていたのである。

 それは浮浪者のように、身なりがぼろい。和風なこの世界では、あまり見ない簡素な洋服姿である。


 灰色のジャージのような上着と、灰色のズボンを履いている。上着の上にはジッパー式の黒いコートが掛けられていた。どちらも何年も洗濯も手入れもされていないようで、すぐ破れそうな程ボロボロである。

 そして腰には、ロングソードが帯剣されている。

 金髪碧眼の三十代半ばぐらいの男性だ。彼には鰐人のような特徴はない、普通の人間=純人に見える。

 髪の毛は手入れがされておらずボサボサであり、ヒゲも乱雑に切り揃えられている。また顔の鼻の部分が少し濡れており、鼻水をすする音が聞こえる。元は端正な顔立ちだったのであろうが、これでは台無しである。

 そして彼は、今宿に泊まっている不審な魔女以降、源一達に二番目に見るこの世界の純人である。


 2人はこの謎の人物に困惑し、一時止まっていた。その男の方も、警戒するような眼差しで、しばし2人を注視している。

 互いに黙ったまま、睨み合う形となった。その状況が三十秒ほど続いた後で、最初に男の方が口を開いた。


「ごほっ! ごほっ! その装い……まさかと思うがあなたは、ロア教の神官様ですか?」


 最初にくしゃみをしながら、彼が口にしたのは、ルチルの姿を見ての問いかけであった。自分のことと判ったルチルが、すぐに問いかける。


「ええ、はい! 私はルチル・パイパーと言います! あなたは……もしかしてディークの騎士の方ですか?」

「はいっ! 私はディーク神聖王国四等騎士の、トーマ・ブロードと言います! まさかこのようなところで、ロアの使いにお目見えできるとは、何という思し召し……」


 どうやら2人は同郷であるらしい。確かにこの辺りで、鰐人でない人間など、異人以外ではほとんど見かけない。

 男=トーマは、ルチルの前に跪き、何やらロアの祈りなのかよく判らない呪詛のような言葉を口にしている。


「驚いたな……あんたディーク人なのか? この辺りで、それに“三回”も会うとは、随分変わった話しだな。今だとディークも、津軽王国と何か取引でも始めたのか?」

「何だ蛮族! 何を馴れ馴れしく司祭様に声をかける!」


 ルチルに問いかけた真澄に、何故かトーマは急に激昂する。何か気に触ることでも言っただろうかと、真澄は首を捻るが……


「……? 急にどうしたんだ? 蛮族って……失礼な人だな」

「失礼はどっちだ! 世界を汚すケダモノの血族め! 司祭様お下がりを! 私がお守りいたします!」

「えっ!? ちょっと!?」


 急にルチルの手を取り、引っ張り出して、真澄から引き離すトーマ。ルチルが訳も判らず、人形のように引っ張り上げられ、トーマが腰の剣を急に抜き放った。

 そして明らかな殺意を持って、真澄に斬りかかったのである。


 パン!


 だがその錆びかけた剣身が、真澄を斬ることはなかった。真澄は瞬時に変化させた拳銃を取りだして、トーマに一発発砲。彼の剣を持つ右腕を貫いた。


「がっ!? ぐぁあああああっ!」


 剣を落とし、右腕から血を吹き出して、トーマは悶絶して倒れ込んだ。銃創を手で押さえ血に伏しながらも、トーマは銃口を構える真澄を、睨みながら見上げている。


「ちょっとトーマさん! 何をするんですか!? 急に剣を向けるなんて! それが騎士のすることですか!」

「騎士だからこそ、しなければならないのです! 世界を清めるロアの騎士として、蛮族を決して……」

「ミャア~~~」


 ルチルの言葉を受けても退かず、再び立ち上がって真澄に攻撃しようとするトーマ。だが意外にも、彼を止めたのは白猫ミルクの気の抜けた鳴き声であった。


「いや……しかし…………判った」


 ミルクを見て困惑の顔を為た後で、何故か急に大人しくなるトーマ。そのまま座りこんで、真澄に向かって手を上げて降参のポーズをとる。これに真澄とルチルは、ますます困惑した。


「なあ……ディークじゃ猫は司祭よりも偉いのか?」

「いえ……そんなことはない筈ですけど……」



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