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第二十一話 囚われた使節団

 その後で、ルチルから治癒魔法をかけて貰ったトーマ。そのまま3人と一匹は、その土蔵の中に上がり込んでいた。

 その土蔵の中には、避難するときに持ち運びきれなかったのか、いくつかの野菜が放置されている。その中には囓られた後が残る食べかけもあり、どうやらトーマはこの土蔵の野菜を食料にしていたようだ。


「この中に住んでいたのか? いくら置き去りになってるからって、人の野菜を盗るのは感心しないぞ」

「ふん! 仕方あるまい、私は今無一文だからな……それに蛮族に払う金など……」

「トーマさん! そんな言い方は駄目ですよ! そんなんじゃ騎士としての名が汚れてしまいます!」


 真澄の問いに、未だに嫌悪と敵意を隠さない態度で答えるトーマ。ルチルが諫めるが、それを直す気はないようだ。


「無一文か……だったら鉄士になればいいぞ。騎士ならそれなりに腕はあるんだろ? 鉄士は腕っ節があれば、誰だって簡単に稼げるからな。私みたいな喧嘩しか能がない女でも、割と生活できてるしな。何なら私が鉄士協会まで案内して……」

「そんなことできるわけないだろうが! 直ぐに追っ手に捕まってしまう……くしゃん!」

「追っ手?」


 見た目ですぐに判っていたが、やはり彼は何か訳ありのようである。すぐにルチルが問いかけて、トーマは己の境遇を話し始めた。


「私がこの国いるのは、本国からの指示により、この国に向かわれる使節団の護衛の任を与えられたからだ。ゼウスのディーク神聖王国と、アマテラスの国々とで、“世界の平和”のために、国同士での新たな関係を結ぶために、神聖王国より派遣されたのだ。今より十年前の話だ……」

「ディークから使節団が? そんな話聞いたことがないぞ?」


 ゼウス大陸とアマテラス大陸では、海を越えた交流は、この津軽王国のような一部の国を除けば、ほとんど交流がない。

 もしゼウスの大国から使者が来たとなれば、結構大事として報道されていたはずだ。十年前となると、真澄はまだ子供の頃の話しであるが、それでもそれを全く聞かないはずがなかった。


「私も初耳です。ディークとアマテラスで、そのような何か会談があったなんて……。真澄さんの話だと、この地では、ディークのことを知っている人は殆どいないと……?」

「ええ……この大陸の何処かの地に到着する直前に、思わぬ災厄が我らを襲ったのです……」


 トーマは当時のことを、恐怖と無念と憤りが入り交じった、複雑な感情を浮かばせながら語り始める。


「いやあれは災厄と言うより悪魔か……。計算ではあと二日でアマテラスの陸地に着くという時だった。突如海より、謎の黒い巨人が現れたんだ」

「黒い巨人!? まさか眼妖ですか!?」

「眼妖? いや魔人達とは違うようでした。それは目が二つありましたから……」


 聞けばその巨人は海面から上半身だけを出した姿であったが、その身の丈は恐らく人の数十倍はあったという。以前真澄たちがあった、巨人よりも遥かに大きい。

 その姿は全身が真っ黒な皮膚で覆われた姿で、頭部には髪や口がなく、目と耳だけが見えたという。その目は、人と同じで二つあったそうだ。


「突如現れたそれは、おぞましい力で、我らの船団を撃滅しました。砲弾を何千と撃ち込んでも、全く傷一つつかず、その巨大な両腕で、次々と我らの聖なる船団を打ち壊していったのです! 私の乗っていた船も壊され、海に投げ出され……恐らく船団は全て沈められたでしょう。くうっ、今思い出しても、あの時の屈辱は未だに我が心は耐えられない!」

「(国交大使の船って、砲弾を何千も撃てるほど重武装なのか?)……成る程、話しは判ったけど……それで何でこんなところでこんなことしてるんだ? 命は助かったんだろ?」

「ああ……目が覚めたら、この国の海辺の村に連れ出されていた。私以外にも同じように海辺に打ち上げられて、助かった者がいたようだ。……くそっ、あの蛮族共、治療したとか言って、私の神聖な身体を、穢れた手で触りおって! ごほっ、ごほっ! あの黒い巨人以上に、未だに腹が立つわ! ……その後しばらくして、津軽王国の兵達が、我らを連行していった。最初は保護だとか、帰国できるように協力すると言っていたが……突然我ら全員を拘禁しようとしおった!」

「拘禁? 何でだ?」


 どうやらこのトーマは、今はやりの花粉症であるようだ。言葉の途中でたまにくしゃみをする。よく見ると顔も鼻水で濡れていて、眼も少し赤い。


 それはともかく彼の長い話しに、またもや首を捻る真澄。この国では、別大陸と貿易をしているために、異人との関係にはかなり気を遣っている。

 それなのに遭難した異人達を、警察隊が拘禁するとは、少々信じられない話しであった。


「そんな事知るものか! 生き残った仲間は全て捕まった。私は何とか、命がらがら逃げおおせたが……私以外に逃げられた者がいたかどうかは……。それに捕まった仲間達もどうなったかも、今となっては皆目分からん。あの時大使を務めたのは、神聖王国第二王女のルシア様。あの方も無事でおられるかどうか……。今の私には、この国の兵から逃げ続ける以外に、できることは何も……」

「何てこと……それは……何て非道い。大変でしたね、トーマさん。私はこの国に来て、しばらく経ちますが、まさかそのようなことが起きていたなんて……。何も知らずに、ただ布教だけで、人々を救える気でいたなんて、何てお恥ずかしい。それに王女殿下にそのようなことがあったなんて。私もどうにかお助けしたいですが……」


 ルチルもかなり驚き、そしてトーマを慰める。


「もしかして先程から真澄さんを、蛮族とか酷い事言ってるのも、その時の仕打ちのこと恨んでのことなのですか?」

「ええ……まあ……」

「そうですか……。しかしいくら自分を酷い仕打ちをした人達と、同じく国の人だからって、そのような偏見的に人を嫌ってはいけません! ましてや斬りかかるなんて……。私はこの国に来てから、まだそんなに長くありませんが、それでもこの国の綺麗なところに多く会いました。真澄さんは私を何度も助けてくれました。真澄さんがいなければ、私はきっとただ理想を口にして、無謀な行いで今頃倒れていたに違いありません! あなたも冷静になって……もう少しこの国の人達を信用して下さい! トーマさんの同志の方々は、必ず私達が救い出しますから!」

「……判りました。司祭様がそう言うなら……」

「私も協力すること確定なのか?」


 あっさり納得して頷くトーマ。そしていつの間にか旅の目的が増えていることに呆れる真澄。

 最初はロア教をこの大陸に広げるという目的で姿を現し、今度は眼妖(ディークでは魔人というらしい)を滅ぼしてこの国を救うと言いだし、今度は捕らえられた同郷の者達を救い出すと言う。

 これ以上、この娘の望みと旅の目的が増えなければいいが……と真澄は呆れかえっていた。


「しかし……これからどうするつもりだ? 今の話しを信じると、警察が異人狩りをしていることになるが……」


 その異人狩りというのが、十年前当時のトーマが受けた者と、現在横行している事件と、関係があるのか不明だ。だがどのみち彼を、警察に引き渡すわけにはいかない。


「あの……私達が泊まってる宿に、お泊めすることはできないでしょうか? またお家賃を増やして、ご迷惑になりますけど……」

「ああ、それは別にいい。さっき私とルチルと、あれを沢山狩ったからな、それなりに報酬が入るだろうし。しかしその警察の拘束というのは、間違いないのか? 警察を騙った、どこかの盗賊とかじゃないのか?」

「そんなこと私は知らんよ。司祭様私は大丈夫です。私はここで機会がくるまで隠れ潜みますので……」

「いや、多分これから眼妖を狩ったことの査定をしに、ここに警官が押し寄せてくると思うぞ?」

「ぐう……」


 どのみちここで眼妖を狩った時点で、ここは彼にとって安全ではなくなったのだ。ここはもう隠れ家としては使えない。


「しょうがないな……じゃあトーマ、お前も一緒に弘後に来い。こういうのは堂々としていた方が、むしろ安全な気がするしな……」

「私が町に? しかし……」

「良いんでしょうか? 町にも警官がいますよ? もし、見つかったら……」

「そうすぐに警察を敵と思わない方がいい。まあ、私も警察には悪い思い出があるが、まあ警察にも色々いるからな。それにトーマを攫ったのが、本当に警察かも怪しいところだ」

「そうなんですか? じゃあ、行きましょうトーマさん」


 真澄の言う“悪い思い出”が気になったが、ともかく真澄の言うことに同調し、ルチルはトーマに弘後町の宿泊を勧める。それにトーマは何やら不愉快そうな顔をしながら、無言で頷いた。






「ただいま~~それと客を追加だ。今日からこいつも家に泊めて欲しい。部屋は別にして欲しいだが、今開いてるか?」

「ええ、大丈夫よ。この人も異人さんかしら? ルチルさんのお知り合い?」

「まあ、そんなところだ」


 弘後町に帰還後、警察に討伐完了の申告をしてから、宿に戻る一行。警察署に行くときには、用心のために真澄は一旦トーマとルチルから離れていた。

 だがそれ以外の時も、トーマはずっと無言で、周りを歩く町民からも、獣が来たかのように避け続けている。十年前の事件のせいで、よほど鰐人が嫌いなのだろうか?

 だが町で泊まることは了解したので、特に追及せずにここに連れてきていた。


「いや、しかしあんたもついてるね。あと一部屋で、丁度満室になるところだったし」

「へえ、そんなに客がいたのか?」

「ええ、いつもなら私一人でも、充分やっていける程度だったのに……町の封鎖のせいで、客が増えちゃって、大変よ……。あっ、そうだあんた達、いっそのことここで働いてみない? どうせ狩り場も封鎖されて、暇でしょう?」


 唐突に店の従業員にスカウトしてくる店主。割と真面目な感じで、本当に人手がなくて困っているようだ。


「えっ……? 私はちょっと……」

「いや、私もルチルも、別に仕事があるから無理だな。そういやここのトーマは、まだ仕事が……」


 そのことでトーマをちらりと見ると、当人はあからさまな嫌悪と怒りの眼差しを、今まさに真澄と店主に向けていた。


「ふざけるなよ蛮族が……」


 そう一言、小さく呟く。どうやらお気に召さない誘いであったようだ。


「どうも、駄目みたいね……」

「……そうだな。まあ、私らも少し暇ができたら、手伝ってもいいぞ? 勿論宿賃に譲歩を要求するがな」

「ええ、勿論大歓迎よ♫ そんな厳めしいおっさんよりも、貴方たちみたいな、女の子の方が、お客からも喜ばれるしね」


 トーマに対してやや棘のある事を言って、店主は微笑むのであった。






 客室に戻って、真澄とルチルは、早速今後の話しをする。ちなみに男性であるトーマは、こことは別の部屋にいった。

 別れる前に、間違ってもこちらに近づくなと念押しされ、人に宿を借りて貰っている立場で失礼だと、やや真澄を苛立たせていたが。


「さて……これからどうするかだな。あいつの言ってた、捕まった仲間達というのは、今はどこにいるのか? あの話しが本当だとしたら、もう10年も拘束されていることになるが……。今のところ、手がかりの一つもないな」

『ていうかあんた凄い乗り気ね。異人狩りの件なんて、あんたには関係ないじゃん?』


 近くにいる小次郎の突っ込みを、誰も聞くことはなく、真澄とルチルは考え込む。


「私もどうすればいいのか……やっぱり警察の方々に、お頼みしましょうか? もし真澄さんの言うとおりに、その人達が警察でないなら……そういえば真澄さんは、どうしてトーマさん達を捕まえたのが、警察じゃないと?」

「普通に考えればありえないからだよ。この国じゃ、貿易関係上、異人との関係にはかなり気を遣ってるんだ。それが気に入らなくて、異人にちょっかいを出す、困った奴もいるぐらいだからな。案外トーマを捕まえた奴も、実は異人狩りじゃないのか?」


 トーマの言うその者達の特徴は、まだあまり詳しく聞き出していない。彼がはっきりと警官と口にしていたのだから、一目でそう思う外見なのだろうが。


「ていうかお姫様が行方不明になってるとか、結構な大事件の筈だが……お前は派遣されるときに、そのことを聞かされなかったのか」


 十年前のことだと、一般人のルチルぐらいの年代の者となれば、知らなくても不思議はない。

 だが仮にも司祭であり、しかも当の事件が起こった地に派遣される立場である。普通はそういう話しを、聞かされていそうなものだが?


「いえ、私は何も……教会の方も、何故そんなこと大事なことを教えて下さらなかったのでしょうか?」

「やはり異人狩り本人を捕まえて、そいつから話しを聞き出すことだな……。この間の奴を逃がしたのは、かなり惜しかったな。またこちらを狙う奴が、出てこないものか」

「悪い人が来るのを待つんですか? それは危ないような……」

「まあ、こっちは二人も異人を連れてるんだし、望まなくても来るかもしれないけどな。後は他の異人達にも、心当たりを聞いてみるか? 今丁度、別のディーク人が、世間を賑わしてるし」

「……えっ?」


 そこで真澄が取り出し、ルチルに差し出したのは、今朝の新聞であった。その中の一ページを開くと、そこには意外な事実と写真が掲載されていた。


“眼妖を滅することができる、新たな魔道士現る! 異国の魔道士、ブルーノ・ローム司祭。〇〇地方の各地に出現した眼妖を、僅か一日で殲滅し尽くす!”


 その写真の人物は、ルチルと同じ、銀髪の異人と思われる男性。歳の頃は二十歳前後で、けっこうな美青年である。

 服装はルチルの着ている司祭服とは少し違うものの、結構に通っている。恐らくディーク司祭の男性用の制服なのだろう。だが記事には、正確に彼がどこの国の者かは書かれていないが。


 記事の内容は、その人物が、ルチルが使っているのと、同じような魔法を使って、ある土地に出没した眼妖達を、全て殺したというのだ。

 ちなみにその司祭の隣には、護衛と思われる数人の騎士姿の人物と、一頭の竜が一緒に並んでいた。外観からして、恐らくワイバーン系統の竜。雄牛ぐらいの大きさで、竜という呼ぶには大分小さい。これはディークの教会が用意した乗馬であろうか?


「このブルーノって奴、お前は知っているか?」

「いえ……でも私以外にも、布教に訪れた方がいたという話しは聞いてますから、多分その人かと……」

「ルチル以外にもか……今までお前一人で旅をしてたんだろ? 同じ教会の奴がここにいるのに、合流しなかったのか?」

「はい。出発するときも、その人の名前とか全く聞かれませんでしたし……」


 ルチルのような子供が、共も連れずにたった一人でこの大陸に送られた事実は、未だに謎のままである。ブルーノには護衛がいるのに、どうしてルチルは一人なのだろうか?

 このことで追及しても、恐らく答えは出ないだろう。


「昨日になって、急に新聞に載ったって事は、もしかして私より後に来たんでしょうか?」

「いや、それはないだろう……。この司祭は、少なくとも半年ぐらいは、この国にいるはずだし」

「そうなんですか?」


 ルチルはもう一度記事に目を通す、だがそこには、この司祭が突如現れたということしか書かれていないが。


「ああ、そっちには書かれてない。ただ私がな……半年前にこいつに一度会ってるからな」



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