46.チェルニィ救出作戦⑥
そして、私たちは、ラルフお兄ちゃんにお礼を言ってからすぐに出発した。
街の石畳の中を一気に抜けて、森の中へ。
あの『ゴブリン狩り』の時と同じ道のりだったけど、今回は違う意味で危険で、そして絶対に失敗できない。
『ゴブリン恐怖症』が完治していないフタバは、本当は今でも怖くてたまらないはず。
もしもそれを知らない人が見ていたら挙動不審に思われたかもしれないけど、そんな状態でも文句ひとつ言わずについて来てくれているフタバには、感謝の言葉しかない。
ありがたいことに、今回は全くモンスターとは遭遇しなかった。
だけど、『モンスターをやっつけよう』と思っていたあの時よりも、今の方が本当の意味で『冒険』なのだ。
危険とは、途中でモンスターに襲われることだけじゃない。
チェルニィのパパやママたちとの交渉に失敗すれば、私たちの命だって危ないのだから・・・。
そして、道を外れるところまで来た。
草の中を分け入っていくのは道を歩く時とは違う怖さがあったけど、そんなことを言ってる場合じゃない。
だいたいこの間の時にゴブリンと遭遇したのは、何回も同じところをループしてるうちに私たちが『迷ってる』ことを嗅ぎ付けられたからなのだと思う。
そうじゃなきゃ、場所としては開けた『道』から大した距離があるわけじゃないからね。
だから、私たちが『勝手に怖がった』のを除けばここまでたどり着くのは至って順調。
チェルニィに場所を聞いていたからループすることもなく、街を出てからの時間もそんなには経っていない。
私はチェルニィから受け取った銀の笛を取り出して、フタバと顔を見合わせた。
「さあ、吹くよ」
私が言うと、フタバもちっちゃく頷く。
音は、多分高くて聞こえなかったんだと思う。
多分っていうのは、自分で吹いているせいか、微かに聞こえたような気もするからだけど、きっとそれは気のせいだ。
そして、私たちの見ている景色がみるみるうちに変わって行く。
これもきっと魔法の力なんだろうけど、私たちが勉強しているような魔法では説明がつかない変わり方だ。
これで、チェルニィのパパかママと話ができればきっとなんとかなるはず・・・と思ったんだけど、そう簡単には行かなかった。
「人間が何の用だ?」
私たちは村に到着して早々、私たちは若いダークエルフに行く手を阻まれたのだ。
「お願い、ここを通して。チェルニィが大変なの!」
私は気が動転してたから、たいした説明もせずにいきなりそう言った。
「ダメだ。お前たちをここから入れるわけにはいかない!」
若いって言っても、あれだけ小さいチェルニィですら私たちの何倍も長生きしてるぐらいだから、この人は100歳超えてても不思議じゃないんだけどね。
私の代わりにフタバが
「ちょっとアンタ、あたしたちはチェルニィを助けたくて来てるのよ。せめてチェルニィのパパかママに会わせてくれたっていいじゃない!」
って言ってくれたんだけど、
「私がチェルニィの父親、ランド・フレアスターだ。事情も大体の所は理解している。だが・・・あの娘を助けるつもりはない。我々が動けばどうなるか、あの娘自身も理解していたはずだ」
この人がチェルニィのパパ・・・。
さっきも『若い』って言ったけど、パパになるほどの年齢には思えないくらい、すごく若く見える。
確かにチェルニィも、掟を破って人間の街に来た自分の為に、村のみんなを危険な目にはあわせられない、って言ってた。
そして、もしも戦いが大きくなってしまったら・・・もっと大変なことにだってなりかねないのだ。
けどね、そんなことは私だってわかってるんだよ。
ちゃんと考えてるんだからね!
「チェルニィを助ける方法はあります。だから話を聞いてください!」
ここで引きさがるわけにはいかないもんね。
・・・だけど即座に
「ダメだ。お前らは今すぐここを立ち去れ。村には報復としてお前らを殺せと言う意見の者も多い。これ以上こちらの話に立ち入るなら、そうせざるを得なくなる」
って言われた。
だって。んもうっ!わからずやっ!!
「このままだと、本当にチェルニィ殺されちゃうんだよ!なんでそんなに平然としてるの!?」
相手の出方がわからないだけに、あんまり感情に任せて強く言うのは危険だ。
だけどこのランドさん、物騒なことも言ってるけどあんまり敵対的な印象じゃないんだよね。
ただ、人間とは表情の作りが違うのかもしれないから一概には言えないんだけど・・・。
「私だって、助けられるもんなら助けたい。だが、娘は村の掟を破って人間の街に行った。それも任務でもなんでもなく勝手に、だ。繰り返しになるが、娘を助けることは出来ない。それが結論だ」
そう言うんだけどね、きっとこの人自身には迷いはすごくあるんだと思う。
「待って。本当に、方法は考えてあるの。チェルニィだって、私を信じるって言ってくれたんだもん。だからお願い。話だけでも聞いてよ!」
私は繰り返した。
だけど彼は、私の話を信じてはくれなかった。
「お前たちの遊びに付き合うことは出来ない。チェルニィと仲良くしてくれたことは感謝するよ。だけどもう、忘れた方が良い。それがお互いの為だ」
そう言われた後、私たちはあの、森の中の沼の所に戻されていた。
結局、追い出されてしまったのだ。
どうしよう。
最後の手がかりが、なくなってしまったの?
「もっかい笛、吹いてみたら?」
フタバに言われて、即座に実行!
迷ってても他に良い手を思いつくわけでもないしね。
だけど・・・。
さっきと同じように村が現れた、所までは良かったんだけど、
「子供のイタズラはそこまでだ」
って言われて今度は銀の笛を取り上げられてしまった。
フタバは強行突破しようとするけど、見えない壁にぶつかって跳ね返される。
ちょうど、私が使う『固い風』と同じような感じ。
だけど、それよりももっと堅そう。
『ゴン』って頭をぶつけた音が、すごく痛そうだったもん。
「お前たちを見つければ、仲間は問答無用でお前たちを殺そうとするだろう。私はそれを望まないが、仲間と争ってまでお前たちを助けるほどお人よしではない・・・。つまり、お前たちが生きていたければここから引き返すしかないんだ。・・・あきらめろ」
チェルニィの生き死にが関わってるのにあきらめろって・・・それも、パパなのに!?
もしかしたら、命に対する感覚が私たちとは違うのかもしれない・・・。
でも・・・そんなの、受け入れられるわけないよ!
「やだ!チェルニィと約束したんだもん。絶対に助けるからって!!」
私はさっきフタバが頭をぶつけた透明な壁をバンバン叩いた。
けど、ビクともしない・・・。
「お前たちが必死なのは、伝わってきたよ。そんなにチェルニィの事を心配してくれるんなら、最後を看取ってやってくれ。我々にはそれが出来ないからな・・・」
そんな・・・。
違う。
私が求めているのはそんな言葉じゃない!
「待って、本当に話だけでも・・・」
言いかけたけど、ダメだった。
私たちは再び、森の中に投げ出されたのだ。
さっきと違って笛は取り上げられたままだから・・・今度こそ、全ての手がかりを失ったのだ。
「なによ、人の話聞きなさいよ!馬鹿ぁっ!!!!」
私は出来る限りの大声で叫んだ。
そして、しばらく待ったけど・・・もう、反応はなかった。
私とフタバはその場にへなへなと座り込む。
もう・・・ダメなの!?
「なんで・・・なんで話も聞いてくれないのよ・・・」
私たちはもう、泣くことしかできなかった。
そういえば、どうしてもなんとかしたいって所で、自力で何とか出来たことなんてこれまであっただろうか。
私たちは無力で、本当に大事な所でちゃんと成功したことなんてきっと一度もない。
今回もこのまま、失敗で終わっちゃうのかな・・・。
そんなのやだ。
だけど、それでも何もできない自分が悲しくて、悔しくて・・・。
だから私たちは泣き続けたのだ。
次回の更新は3月4日(土)の予定です。




