47.チェルニィ救出作戦⑦
「やれやれ、彼の頭の固さにも困りものですね・・・」
いきなりそんな声が聞こえたので、私たちは泣き声を止めて声のした方を見た。
ランドさんのことを知っていそうな口ぶりだったけど、この人は人間だ。
どうして・・・?
私はこの人に見覚えはなかった。
だけど、フタバは違った。
「てっきり向こうの世界から、高見の見物してるのかと思っていたわ。創造主、ルシェルフ・・・」
そう言えばフタバは、チェルニィと話していた時も知ってる風だった。
この人が、創造主・・・?
創造主ってことは、この世界を作った人ってことだ。
けど、チェルニィは『神様ではない』って言ってた。
神様じゃないのに創造主。
私の頭の中には混乱しかない。
「あなたたち2人のことは、ずっと観察させてもらっていましたよ。あなたたちはこの世界でもっとも我々が求める物に近いところにいますから・・・」
「求める物?」
私はオウム返しに聞き返した。
その後フタバが
「『天翔ける翼』って言ってたわね。それは一体何なの?」
って続ける。
そういえば『異世界の扉』から戻ってきてすぐの頃、フタバが言っていたことを思い出す。
「我々が生き残るために必要なものです。そして本来、人類が持っていたはずのもの・・・。けど、あなた方がそれを知っても知らなくても、そこにたどり着くまでの過程は変わらない」
ルシェルフの答えは、こんなだった。
その言い分通りなら、これまでの話を全部合わせて考えると、この人は、その『天翔ける翼』と言うのを手に入れるためにこの世界を作った、ってことになる。
けど、私はそうじゃない話を聞いたことがあった。
「あなたは、『人を人でないもの』にしようとしているのですか?カンナさんと言う方から、そう聞きました。『天翔ける翼』というのはそのための物なのですか??・・・そして、あなたがたは『反乱軍』なのだとも聞きました。私の持ったイメージはこうです。人を凶暴な化け物みたいなものにさせて、反乱の戦力として使う・・・違いますか?」
もしそうなのだとしたら、ルシェルフがたとえこの世界の創造主であったとしても、協力してはいけないような気がする。
「カンナが、そう言ったのですか?」
っていう逆質問には
「前半の『人を人でないものにしようとしている』までは言っていました。その後は、私の想像です・・・」
創造主、ってぐらいだから、私の考えなんかすべて見透かされていたって不思議じゃない。
だから嘘は混ぜないで全部そのまま回答した。
「じゃあ、答えましょう。カンナの言っていることを完全に否定はしません。けど、その先のあなたの想像は完全に的外れですよ・・・。何故なら我々と敵対する『連邦政府』は生き残る道を諦め、捨てた者たちです。そして我々の『実験』は生き残るためにやっている。死に逝く者たちとの殺し合いなど、身を守るだけの最低限に済ませたいのが道理でしょう。だって彼らは、どうせ時と共に滅びゆくだけなのですから・・・詳しい説明をすればきりがありませんが、このぐらいでいいですか?あなたたちも時間がないのでしょう??」
そうだった。
今はチェルニィを助けるのが先決なのだ。
けど、どうしたら・・・。
「あんた、『創造主』なんでしょ?だったらチェルニィの事なんとかしなさいよ!」
私と違ってフタバは構わずにズバリと言う。
こういう言い方は私にはできないけど、フタバがいてくれてよかったなあ、って思う。
「何とかするのは僕じゃなくて君たちだ。そうでないと意味がない」
意味がない、ってルシェルフが言った意図が良くわからないけど・・・それ以上の問題がある。
「私たちは無力です。もうどうすることもできないんです。せめて私がもっと強ければ・・・」
何といっても手掛かりがもうないのだ。
「力を望みますか・・・もし強ければ、どうしますか?力があれば本当に解決できるんですか??」
そう言われて、考えてみたけれど答えは出ない。
私がもし、ものすごく強くなったとしてチェルニィを力ずくで助け出したとしても・・・ダメだ。
たとえそれが出来ても私は間違いなく、人間への反逆者になってお尋ね者になってしまう。
じゃあ、チェルニィ達の村を無理やりこじ開けて中に入り込む?
それもやっぱりダメ。
結局強くなっても、出来ることはないのだ。
「もしも本当にあなたの一番の望みが力なのであれば・・・僕がそれを『叶えたようにする』ことはできます。けど、あなたは代わりに大事なものを失うことになる」
私の一番の望みは、力なんかじゃない。
けど、ルシェルフの言い方が気になった。
大事なものって、何を失うの??
それに・・・
「『叶えたようにする』って言うのはどういう意味ですか?」
『叶える』じゃなくって『叶えたようにする』って、どう考えても普通じゃないもんね。
「あなたを、『消去』します。そしてあなたとそっくりの、もっと強い魔法使いの女の子を新たに『設定』します。その子はあなたと同じ記憶を持っていて、周りから見ればあなたが強くなったように見える。けど、それはあなたではない・・・」
ゾッとした。
「そんなのダメ!」
と、私は即座に答えた。
「『それ』がが嫌なら、自分自身で何とかすることです。けど、村にだけは入れるようにしてあげましょう。けど・・・簡単ではないですよ。方法を間違えれば、チェルニィを助けられないだけじゃなく、あなたも命を落とすことになる」
ルシェルフが言うのとほぼ同時に、彼の後ろの景色が変わる。
笛で2回ここまでは来てるから、これで3度目。
なんとか『3度目の正直』って感じで行きたい。
村へさえは入れれば、まだ望みはある。
それから・・・。
「フタバはここで待ってて、それで・・・」
私はフタバに耳打ちした。
私の『作戦』を伝えるためだ。
交渉に失敗してしまったらもしも2人いても無意味だし、相手を刺激する分だけむしろマイナスになってしまうかもしれない。
ちょっと反対されるかな、とも思ったけど、フタバはすぐに私の意図を汲み取ってくれた。
「いいわ。チェルニィがあんたを信じたんだもの、あたしも信じるわ」
それを確認してから、私はフタバに
「もしもの時はお願いね」
と声をかけた。
フタバは
「もしもなんてナシ!絶対成功させなさい!!」
って言ってくれた。
そして私は、村の中に踏み入った。
さっきと違って、入り口近くにランドさんの姿はない。
まだ入って数歩しか歩いていないのに、後ろを振り返ると、何らかの仕掛けがあるのかもうフタバの姿は見えなかった。
私は自分の意志で、一人で来たんだけど、それでもちょっと心細くなってくる。
・・・でも、やるって決めたんだ。
「ランドさん、話だけでも聞いてください!」
私は出来る限りの大声を出した。
けど、それで出てきたのは別のダークエルフたち。
「人間だ!人間の小娘が村に入り込んでいるぞ!」
わらわらと出てきた彼らに、私はあっという間に取り押さえられてしまった。
「ランドさんと・・・お話をさせてください。お願いです」
私は必死で訴えたけど、
「族長はもうお前とはお会いにならない。せっかく族長がお前を生かして帰してやるとおっしゃったのにお前はそれを無視した。そしてその時は、お前の首を刎ねるよう言われている」
ダークエルフの一人が、刃の広い剣をすっと抜いた。
そしてその刃は、押さえつけられたままの私の首の後ろ側に当てがわれる。
首の後ろに刃が当たる冷たい感触は、怖いなんてもんじゃない。
私はその時、4年生になって2度目のお漏らしをしていて、腰を抜かして顔も涙でぐしょぐしょ。
それどころかきっとその瞬間、きっと私は世界中で一番情けない姿をさらしていたに違いない。
だけど、それでも言わなきゃらない事がある。
今言わなくちゃいけないのだ。
次回の更新は3月18日(土)の予定です。




