1 子爵視点2
なんじゃろうな・・・
実のところ、先に出てきた《ハオマ》と《ハオマ草》だけでもお腹一杯。
楽しみだと自分に言い聞かせて外面取り繕ってはいたが、もう色々投げ捨てても良いかの?
村長とマルグリアという薬師の案内で、この薬師の家に向かったわけじゃがそこで見たものは、まずは四阿じゃった。わしも広大な庭園のある貴族の城館以外では見たことが無いの。
わしの館?貧乏なド辺境領主にそんなもの作る余裕はないのう。
しかも、装飾もしっかり施され、豪華では無いが良いものであろうことが伺える。
中央には井戸かの?珍しいものではあるが・・・
わざわざ献上品確認のため品を持ってくるのではなく、わしの移動を求めるということは動かせないかそれに近いものじゃろうから、これ自体が献上品かの?移築するのも大変そうじゃのう・・・
「子爵様、この小屋が献上したき物の一つでございます。」
「ふむ、装飾は見事。じゃが移築する手間が面倒じゃのう。あとこの造りは四阿という。覚えておくがよいぞ。」
これは見本でこれと同じ物を我が屋敷にといったところかの?
というか、献上品の一つか・・・まだ他にもあるのかの?
「いえ、移築ではなくこのこ・・・四阿自体を井戸を含めそのまま子爵様のものとして頂きたいのです。」
「・・・ふざけておるのかの?」
こんなところに四阿と井戸があったところで使い道は無いわい。
流石にふざけておるとは思えんが・・・
「滅相もございません。この四阿は動かせないのです。故にそのまま献上したき次第。」
「ほう、動かせんとは?」
「子爵様、この装飾は魔導装飾にございます。下手に弄れば被害がどれだけのものになるかわかりませぬ。それに綺麗に稼働しているおそらくは未知の魔導装飾を移築で壊しては意味がありませぬ。」
未知の魔導装飾じゃと!?どのような効果にもよるが研究解析し、再現・実用化できれば国やギルドなどから、庶民であれば一生遊んで暮らせる額の報奨金が支払われるものじゃ!なるほど、自分たちでは手に余る故、こちらに管理・研究・解析を任せたいといったところか。ついでに、多少なりとも褒賞も期待できるとの思惑もあるかの。
「加えまして、中央の井戸はマナ水を湛えており、縁にあります置物は魔力結晶を生み出す《マナ収束結晶化装置》でございます。これらをまとめて献上いたします。」
・・・思考が追い付かんかった。
「すまぬ。よく聞き取れなんだ。もう一度頼む」
「はっ。四阿中央の井戸は《マナ水》を湛えており、縁にあります置物は《魔力結晶》を生み出す《マナ収束結晶化装置》でございます。これらをまとめて献上いたします。」
聞き間違いではなかったの・・・
《マナ水》は我が領の少ない特産品。正確には我が領ではないが、《マナ水》を湛えるマナ泉は、この村からほど近い位置にある。隣接する他の貴族の領地より近く安全なため、この村を拠点に少なくない探索者が採取することで、相当の金銭を我が領に落としている。
需要に供給が追い付かないそんな《マナ水》が、さらに安全に素早く、確実に手に入るじゃと?
しかも、通常は特別な鉱山でのみ産出可能な《魔力結晶》を生み出す器か!
《魔力結晶》は《マナ水》よりさらに希少価値が高いもの・・・そうか、先刻の《魔力結晶》はこの装置で生み出されたものか・・・
確実に騒乱の元じゃな・・・なるほど、わしに預けてそれを避けたいのか。
精神的に疲れたの・・・いや、これからの方が大変か。
しかし、献上を拒否することはできぬな・・・
「そなたらの志良くわかった。後で報奨をわたすので、沙汰を待て。」
「いえ、まだございますので・・・」
まだあるのか・・・あまり年寄りをいじめんで欲しいのう・・・
「家の中へどうぞ・・・汚いところではございますが・・・」
薬師が家に入って行く。部下の一人が先行し中に入り安全確認をして、わしが続く。
至って普通の薬師の工房といったところか。田舎では立派な部類かの?
しかし、ここにどんな厄介な物があるのやら・・・
「この工房自体を献上したく・・・」
「あいや、待て。ここはそなたの家であり工房。それを献上してどうする?確かに外の四阿と近いが何とかできんほど近くは無いぞ?献上する必要などあるまい?」
「いえ、子爵様。正確には工房はついで、本命はこの竈でございます。ここに燃えている火はかの《真火》でございますれば、御理解いただけるかと・・・」
言いながら薬師は炎に手を入れ無事なことを示した。びっくりさせるでないわ!
しかし《真火》とわ・・・庶民が滅多にお目にかかれる代物ではないの・・・わしとて数回ほどかの?確か用途以外では熱を感じず使えないとか・・・
「これなる《真火》は薬剤の調合に適したもの。故に運ぶことも消すこともできず・・・」
なるほど、松明などに移して移動などということはできんの。それで工房ごとか・・・
徹底的に争いの種になりそうな、それでいて希少なものをこちらに押し付ける気じゃな・・・
わし一人でも消え物であれば何とかなるが、四阿・井戸にこの《真火》。
・・・・・・・・わしの手にも余るわ!!!
・・・そうじゃ、王へそのまま献上じゃ!面倒事は上へ!
「そなたらの忠節良く分かった。じゃが、これ程の物を子爵でしかないわしより受け取るに相応しいお方が居られる。少々、そなたらへの報奨は遅れるが待ってくれ。」
「「はっ!ありがたき幸せ」」
本気で王にご報告じゃな。一度王へ献上、そして管理命令がわしに下り、わしがこの薬師を管理者にすれば面倒が少なくて済むの。
万が一、この村に薬師が居なくなるとまずいからのぅ、住居と工房新たに建てるより懐にも優しい。
この方向で調整するか・・・幸い王は強欲ではないからの。
ああ、一応薬師とあの建物に、護衛が必要じゃな・・・
しかし、どう話したものかの・・・
そんな風に考えながらわしは都へ出立準備のため館へ戻るのじゃった。