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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編

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幕間 ミラの死闘

 前方からはリングフォックス、後方からはアルラウネ。どちらもD-のモンスターだ。先程私が倒したデザートイーグルのランクはE+とこの二体より格下だったし、今回も同じようにいくとは思っていない。


「ミラ!」


 オズさんがこちらを助けに来ようとするが、それを遮るように火の壁が地面から吹き上がり足止めしていた。この様子じゃ救援はないと思っていいだろうが、むしろそれは好都合だ。


(まずは機動力があるリングフォックスから!)


 弓を使う私にとって素早く接近してくる相手は早めに潰さないといけない。アルラウネの毒なども脅威だが距離を取って戦えばそこまで問題になることはないはず。


 接近されて弓の使えない状態に追い込まれること、それが一番避けなければならないことだ。


 今から矢を放つとしても、一射が限界だろう。この距離だと二射目に移る前に接近を許すことになるのは確実だ。


(だったら!)


 逃げても相手の方が機動力は上、引き離すことは不可能。だったら、この一射でリングフォックスを仕留める以外に勝機はない。


 瞬時にそう頭の中で判断を下した後はやることは決まっていた。


 弓に矢をつがえて魔力を込め、いつでも矢を放てる状態でこちらからもリングフォックスに向かって走る。


 どうせこのまま構えていても一射しか無理なら、こちらから近づいても問題はない。むしろあのまま待ち構えていたらリングフォックスを仕留められても、背後から迫るアルラウネに対応する時間がなくなってしまう。こうして前に走ることで時間を作っておけばそれを防げるはずだ。


 もっとも、それは最初の山場を無事に生き残れたらの話だけれど。


 リングフォックスの視線は魔力の込められた矢に向けられていた。どうやら警戒されているらしい。


(こうなったらギリギリまで近付く!)


 接近を許さないためにこちらから近付いて矢を放つ。一見、矛盾しているような行動だし無謀かもしれないが、これしかない。


 そうして目の前まで敵の姿が迫る。


(まだだ。もっと引き付けて……)


 リングフォックスの牙と爪がこちらに触れる、その刹那、


(今!)


 私は矢を放った。ここまで近付けば私も攻撃を受けるのは避けられないが、相手もそれは同じはず。


 元々、こうなった以上無傷でこの状況を乗り越えられるなんて思ってなかった。多少の怪我は承知の上。傷を負うのが避けられないなら最大限それを利用すればいいのだ。


 敵の攻撃の軌道はしっかりと読んでいる。最悪、両腕が無事なら矢は射られるので、それだけを避ければいい。それに致命傷でなければ魔法で回復が出来るのだから分の悪い賭けという訳でもない筈だった。


 そして、互いの攻撃が到達する。


「くうっ!」


 矢が相手の額を打ち抜くのを見届けたと同時に鋭い痛みと衝撃が右足に襲い掛かって来た。完全に相打ちにタイミングだったが、これでいい。


 衝撃で体が少し浮き上がって、着地して踏ん張ることも出来ずに地面を転がる。でも、動けない程じゃない。むしろ、思っていたよりずっと楽ですらあった。思った以上にうまくいったのだろうか。


 だが、それを確認している暇はない。


(まだだ! まだ終わってないのよ、私!)


 痛みを堪えて起き上がってアルラウネの姿を視界に捉える。そして、その視界の端で動かなくなったリングフォックスと地面に散乱する矢も確認する。今の衝撃で飛び散ってしまったようだ。


 だが、賭けには勝った。アルラウネが相手なら相性がいいし、後は距離を取りながら矢を当てて弱らせればいい。余裕があれば傷を塞ぎながら。


 そう思って背中の矢筒に手を伸ばした。


「え!?」


 だが、そこにあるはずの物がない。背負っていたはずの矢筒がなくなっていた。


「そんな、どこに?」


 周りを見渡しても地面には落ちていない。今の攻防で飛んで行ったのかと上を見てもない。


 そこでリングフォックスの死体が目に入る。そこで予想外のものを見つけてしまった。


「矢筒を咥えてる!?」


 死体となって弛緩したはず体だというのに、リングフォックスはしっかりと矢筒を咥えこんでいた。まるでこれは絶対離さないと言わんばかりに。


 そこで私は自分の思い違いに気付いた。


(まさか、最初からこれが狙いだったの!?)


 思った以上にダメージを受けていなかったのは向こうの狙いが私自身ではなく、背中にある矢筒だったからだとすれば説明が付く。だとしたら、リングフォックスは自らの意思を持って捨て身で私の攻撃手段を潰しに来たのだろうか。


 いや、そうではない。普通のモンスターならそんなことはせずに私の命を狙うはずだ。まともにやり合って勝てない相手ならともかく、実力にほとんど差がない勝負で命を捨てる意味はない。そんなことせずとも勝てる可能性は十分にあったのだから。


 だが、考えてみればこの二体のモンスターはゲオルギウスに支配されている。言ってしまえば駒のようなものだ。


 ゲオルギウスが確実にこちらを始末する為に、あえて私の誘いに乗ったふりをしてこちらの唯一の勝機を潰しに来たと考えれば辻褄は合う。その為にリングフォックスは使われたのだ。捨て身の行動ではなく、強制的に捨て駒として扱われて。


 相打ちを狙わなかったのは一撃で仕留めきれない可能性があると判断したからだろう。相打ちでも構わないという私の突撃できっと、何らかの回復手段があると悟られてしまったのだ。


 ここまで考えが回る上に、堅実な相手が次にすることは何か。


「しまった!」


 そこに思い立った時には遅かった。


 アルラウネがリングドックスの死体のところで急停止すると、口から大量の毒らしきものを垂らしだす。それは当然、矢筒に向かってだ。これでほとんどの矢は使い物にならなくなってしまった。


 残されたのは奪う時などに矢筒からこぼれたと思われる地面に散乱した物だけ。すぐさま屈みこんでその矢を拾いにかかるが、足の怪我でうまく動けない。


(もしかして、これも狙ってたっていうの?)


 そうだと答えるかのようにアルラウネがすぐにこちらに向き直り、今度は毒を吐き出してくる。私だけを狙っているのではなく、その周囲も巻き込むようにして。明らかに矢を拾わせないようにしていた。


 そして、動きが鈍った足ではすぐに動かないと攻撃は躱せなかった。


「いっ!」


 痛む足を動かして、どうにか攻撃を躱すことは出来たがこれで全ての矢は失われた。残されたのは拾うことが出来た四本だけ。この数では弱らせるには圧倒的に数が足りない。

 

 これでは賭けに勝ったどころか、むしろ完敗に等しかった。武器を奪われその上、動きまで鈍らされている。どう見ても状況は劣勢だ。


「なんとかしなくちゃ」


 思わずその言葉が口に出るが、焦った頭ではいくら考えても策が浮かんでくることはない。


「と、とにかく回復を」


 出来る限りの回復魔法を使って傷だけは塞いだ。完治させるのは時間がないので無理だが、これで多少動くくらいならなんとかなる。もちろん、全快の状態とは比較にはならないだろうけれど。


 私が起き上がると同時にアルラウネは毒を吐いてくる。矢があれば、魔力を込めた矢で吹き飛ばす手段もあったのだが、今はそんなことで使うわけにはいかなかった。


 そうなると逃げるしかない訳で、私は背を向けて走る。足に痛みが走るが無視するしかない。そうしなければ毒に呑みこまれて一巻の終わりだ。


 アルラウネは、いやこの場合はゲオルギウスと言うべきだろう、こちらを休ませないように巧みに攻撃を途切れることのないようにしている。これでは隙を突くことも出来なさそうだ。


 このまま走らされ続けられれば足の怪我もあるし、いずれ動けなくなって終わる。


(どうしよう! このままじゃ……)


 死を意識した時、それは湧き上がった。


 炎の壁の向こうから感じる闇の魔力。間違いない、オズさんのものだ。


 そう思った瞬間、私の思考は一気に冷却される。


(私がこうしているのは何の為よ! オズさんを少しでも休ませるためでしょ!)


 このままではオズさんは私を助けるためにまた力を使う。それでは私は本当にただの足手まといではないか。


 そう思った時には私は叫んでいた。


「オズさん、手を出さないでください! 私は大丈夫ですから!」


 何が大丈夫なのかは自分でも分からない。どっからどう見ても絶体絶命なのは明らかなのに。


(考えるのよ。まだ矢は四本ある)


 これで相手を倒すにはどうしたらいいのか。魔力を込めた矢を当てられれば可能性はあるが、離れた状態で放っても避けられるだけ。


 だからといって先程のように接近して回避不能にするのも無理だ。それは相手も警戒しているだろうし、この足では毒を避けながら近づくことはできない。


(せめて、矢の数が相手に知られてなければ全弾撃ち尽くした振りをして隙を作り出すことも出来たのかもしれないのに)


 そう考えて、何かが引っ掛かった。


 拾った矢の数を敵が見逃すなんてことがあるとは思えない。だけど、数を誤魔化すというのは出来なくはないかもしれない。


 アベルとの戦いで矢がダメになった時から考えてはいたのだ。自分は矢がなければまともに戦えないと。それの対処する方法を。


 だけど、それは一度も試したことはない。時間がなかったし、そもそも自分にはまだ無理だと思っていたから。


(でも、ぶっつけ本番だとしても、それしか方法はない!)


 他にいい案は思い浮かばないし、これしかなかった。またしても賭けになるが、悩んだところで仕方がないのだ。


 私はすぐに矢に魔力を込めて、


風精霊(シルフ)の矢!」


 放つ。当然、この距離じゃ易々と見切られてしまうがそれは想定の範囲内だ。すぐさま第二、第三の矢を番えて放つ。


 アルラウネは広範囲に大量の毒を吐いてその矢を撃ち落とした。だけど、これも予想通り。


 残る一本に一瞬で出来る限りの魔力を込めて解き放つ。矢は広がった毒を隠れ蓑にして、アルラウネのその身に迫る。


 だけど、アルラウネに見えなくてもゲオルギウスにはこの矢の存在は見えていた。かなり惜しいタイミングだったが、これも躱されてしまう。


 これで残弾数はゼロ。ただし、それは矢に限った話だ。


 私は最後の矢を放った後も行動を止めていなかった。むしろ、ここからが本命だ。腰に差してあった小型のナイフを持つと、魔力と込めてそのまま投げる。


「お願い、当たって!」


 投剣。普通ならこんなものが当たるわけがない。私は弓を扱えても投剣なんてやったことないし、そもそも仮に当たったとしてもそれ専用ではナイフでは大した威力も出ないだろう。というか狙ったところに当たるかも怪しい。


 でも、風精霊(シルフ)の力を借りればそれらの問題はクリア出来るはずだった。ただし、込められた魔力は僅かで、後は精霊の加護を信じるしかないのまた事実。


 精霊は気に入った相手に加護を与え、魔力を支払えば力を貸してくれる。ただ、時折なにもしていなくても力を貸してくれることがあるのだ。それはどれだけ精霊に愛されているかが関わってくると言われているが、正確な所は精霊と関係が深いエルフ族でもわかっていない。


 要するに私が賭けたのは自分が精霊に愛されているかどうかというもの。

 これで力を貸してもらえるほど寵愛がなかったらナイフは地面に落ちるだけ。


 だけど、私は確信していた。絶対に精霊は力を貸してくれると。


 私はエルフとして生まれた時から風精霊(シルフ)達と共に過ごしてきた。まだ子供の私が森を出る時も精霊は私に加護を与え続け、これまでもずっと一緒にいてくれたのだ。楽しい時も辛い時もずっと。


 だから確信というより信じていたと言っていた方がいいかもしれない。


「お願い、風精霊(シルフ)!」


 両親よりも長い間一緒に過ごした相手に対するその願いは叶えられた。


 短剣は本来ならあり得ない動きをすると、全力での風精霊(シルフ)の矢に匹敵する速度でアルラウネに飛来する。まるで見えない風に乗っているかのように。


 そして、短剣は、


「ギイッ!」


 不意を突かれたアルラウネの肩に突き刺さっただけでは収まらず、そのままアルラウネの体を吹き飛ばす。そして闘技場の壁にアルラウネを縫い付けるようにしてようやく止まった。


 これで動きは封じた。だけど、倒せてはいないのもまた事実。


 今は縫い付けられて動けないが、ナイフでは固定していられる時間はそう長いものではないだろう。


 このままでは結局のところ負けてしまう。だから私は一旦力を抜くように大きく息を吐いて、


「ありがとう」


 何もない弓を構えて引き絞った。


「これで狙いは外さない」


 私の奥の手はあのナイフではない。本命はこれからだ。


 風精霊(シルフ)の力を集めて、風である物を模っていく。弓につがえる物と言えば一つしかないだろう。


 そうして出来上がったのは魔力を使って作った風の矢。魔力を感知できない人には何も見えないだろうから今の私はただ弦を引く間抜けな姿に見えることだろう。


 けれど、そうでない人には見えているはずだ。風精霊(シルフ)と私の魔力によって作り出された目に映らない風の矢が。


 これこそが私の考えていた切り札。こうして矢そのものを魔力によって作り出すことによって弾切れになっても戦える。


 ぶっつけ本番だったがうまくいった。ただし、慣れていない所為か使用する魔力はこれまで物と比較にならなかったけれど。


 でも、今はこの一発だけで十分だ。


風精霊(シルフ)の矢!」


 放たれた矢は見えない光を発すると、そのままアルラウネに体に突き刺さる。そしてそこに込められた魔力が解放された。


 解放された風の魔力はアルラウネの体を切り刻み、その五体を見えないくらいに細切れにしていく。魔力だけで作った所為か、風の力が強いみたいだ。


「はあ、はあ、やった」


 アルラウネの体が消滅するのを確認して、私は膝を地面に付くのだった。

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