第十四章 潜入開始
大会へのエントリーは簡単だった。当日、会場に設置された受付に申告すれば参加できるというものでややこしい手続きは一切ない。
エントリーを終えた後は一旦すべてのモンスターを預かるとのことで、オレは名も知らない係員らしき男に檻ごと抱えられて移動していた。
そうして運び込まれた場所は獣の巣窟だった。檻などで囲われているとはいえ、かなりの数のモンスターが倉庫のようなこの一か所に集められているらしい。正直、鳴き声とかで騒がしいにも程がある。
(パッと見、それらしき奴はいないな)
ただし、モンスターを収容するためなのか、この倉庫の広さはかなりのものだ。奥まで見渡すことができないくらいに。
しかもかなり薄暗いから普通ならほとんど視界がないに等しい状態だろう。
オレも前回の戦いで「闇に生きる者」のスキルを手に入れてなければ、この暗闇には手を焼いただろう。だが今やそんなものは障害でもなんでもなくなっていた。
このスキルはその名の通り、光のない闇の中でも問題なく活動できるようになるのだとか。当然。暗闇なども無効化されておりオレの視界は通常状態と何ら変わりはないのだった。
ただ、この檻の中からでは他のモンスターなどが障害になって奥まで見ることができない。
「……仕方ないか」
あまり危険なことはしたくなかったが、これでは情報を得られない。少なくとも、この場に奴隷がいるかくらいは確認しておきたかった。
オレは体を収縮して檻の隙間から外へと抜け出る。さすがに小さな檻の隙間以下のサイズにはなれなかったので引っかかったが、この体の前にはそんなのは些細なことだ。
「ふん!」
隙間に体を捻じ込むようにして前に進めると、すぐに抜けた。そもそもただの檻でこのほぼ液体のような体を閉じ込めるのが土台無理な話なのだ。
実はこの檻は肉屋が用意したものではない。あれだと魔力が込められていて隙間から出ることができないらしいので、昨日ギルドで何の変哲もない檻、というよりは鳥籠をもらっておいたのだ。
「第一段階成功っと」
これでこの倉庫を自由に動き回ることができる。ただ、見つかったらまずいので「隠密」のスキルを使っておいた。これで気配も消したし、そう簡単には見つからないはず。
更に念のためオレが入っていた檻を物陰に隠しておく。これで係員が来ても、すぐにはオレがいないことに気付くことはない。
そうして準備を終えたオレは、ゆっくりと奥の方へと進んでいった。何がいるかわからないし、警戒は怠らずに。
その時、物音がしたので慌てて隠れた。係員が倉庫に入ってきたようだった。
そいつは足早に倉庫内を見て回っている様子から何やら慌てているようだ。モンスターに問題でもあったのだろうか。
(焦らせるなよ)
見つかっても逃げ切る自信はあるが、やはり心臓に悪い。こんなことはとっとと終わらせるに限る。
そいつが出て行った後に改めて決意して、オレは更に奥に進んでいった。だが、一番奥まで到達してもそらしき人物はどこにも見当たらなかった。
ランディの情報によると人獣族か獣人族のどちらかがいるはずだったのだが。
この二つの種族は別物であり、獣人族が人間の姿に獣耳であったり尻尾であったり獣の一部が付いた種族。
対して人獣族はわかりやすく言えば二足歩行する獣。顔や体はほとんど獣の物らしい。
この世界では種族の判断は最後の名前で判断するのだとか。獣人族で言えば、最後の「人」が基本的な部分。人獣族だと「獣」がそうなる。
ちなみにモンスターも見分け方は同じだとか。最後の部分がその種族を表すらしい。
例を挙げれば、メイルゴーストは鎧の形をした幽霊のモンスター。ゴーストメイルは幽霊の特性をもっている鎧のモンスターとでも言えばいいだろうか。
「って、考えが逸れてるな」
とにかく現在、この場には獣人も人獣もいない。念のためにすべての檻の中を見て回ったが、結果は変わらなかった。
こうなってはオレに出来ることはもうない。さすがに倉庫の外に出るのは躊躇われるし、檻に戻って大人しくいているしかなかった。
(……ランディが偽の情報を掴まされたか。それともまだこの場に運び込まれていないだけか?)
今のところ考えられる可能性はこれくらいだろうか。どちらにしても今のオレに出来ることがないという意味では変わりはない。
オレは檻の中で状況が変わるのを待っているしかなかった。




