第十五章 一回戦
その後、確かに状況は変化した。
ただし、オレが望むような方向ではなかったが。
「初っ端からこれが相手かよ」
大会に参加しているわけで、こうして戦うことになるのは当然承知の上だから、そのことに文句はない。ただいきなり相手がこんなのとは予想してなかった。
現在オレがいるのは闘技場と呼ばれる場所だ。円形の地面に沿うように壁がそびえ立っており、逃げ場はない。
そして、客席は壁の上でこちらを覗けるような形で存在していた。
相手はキマイラ、ライオンのような体に尻尾がヘビのモンスターだ。どう見ても普通はスライムが敵う相手ではない。会場の雰囲気も、結果が見えているとでも思っているのだろう、明らかに冷めていた。
まあ、オレは普通じゃないので全く問題なしなのだが。
ただ、あまりに圧勝すると目立つので使用するスキルは限定するつもりだった。もちろん死にそうになったらその限りではないが、そうなることはまずないだろう。
そんなことを考えていると、向こうの檻が開け放たれる。係員が急いで避難することからも、相当ヤバい奴であることは簡単に予想が出来た。
オレの方の奴は、かなり前に檻を開けてとっくの昔に避難済み。その時も対して急ぐ様子を僅かですら見せなかった。
ちなみに、オレの背後にはミラがおり、キマイラの後ろにも魔獣調教師らしき人物が待機している。指示を出したい場合はいくらでも出して良いそうだ。
とりあえずオレが檻の外に出て相手の出方を窺う、前に相手が猛烈な勢いで突っ込んできた。モンスターらしい実に本能に忠実な突進である。
「試してみるか」
現状、オレの力がどこまで強くなっているのか確認するにはいい相手だろう。
というわけでこちらも一直線に前方に跳ね、相手に突進する。使うスキルは突進のみで、その他の強化系のスキルもすべて切っておく。
結果は、
「いって!」
吹っ飛ばされた。どうやら単純な力ではまだ普通のモンスターに敵うものではないらしい。ただ、飛ばされた距離は思ったほどではなかった。スライムにしては十分すぎる力だろう。
負けはしたが、威力そのものにそこまでの差はないようだ。
そこでキマイラの視線に気付く。
「この野郎、なに勝ち誇ってやがる」
キマイラは一旦足を止め、こちらを見下すような眼をしていた。明らかこっちを馬鹿にしてやがる。
その態度にイラッとしたので、予定を若干変更することにした。
強化系やら跳躍やら使えるスキルを全部使用して再度、突進を試みた。先程とは明らかに違う速さにキマイラは付いてくることも出来ず、
「ギャン!?」
頭部にオレの攻撃が炸裂した。キマイラは引っ繰り返るようにして背中を地面に叩き付けると、そのまま数回地面をバウンドしてようやく停止する。場所が闘技場なので、かなり広いからそれでも壁にぶつかることはなかった。
円状に囲まれた客席からどよめきが聞こえてくるが無視だ。まだ終わってはいないのだから。
キマイラは起き上がるとこちらを怒りがこもった眼で睨みつけてくる。尻尾のヘビも同じような感じだった。
とは言え、そんなものは全く怖くない。そしてオレは相手の体勢が整うのを待つほどお人好しでもない。
起き上がる前から接近していたオレはもう一撃突進を仕掛けようとした。頭にあれだけの一撃を食らって平気なはずがないし、現にキマイラの足はふらついている。
だが、ここで思わぬ反撃がやってきた。尻尾のヘビがこちらを正確に狙って毒を吐いてきたからだ。
「そっか。頭が独立して二つあるってことはもう片方は無事なのか」
横に跳ねることで毒を躱す。意表は付かれたが、大して速くもない攻撃だ。くらうわけがない。
向こうもそれはわかっているだろうが、体勢を立て直す時間が欲しいのだろう。散弾銃のように毒をまき散らしていた。
逆に言えばそれだけ近寄らせたくないということは攻撃が効いている証拠。ここを逃す手はない。
オレは毒を躱しながら近づき、適当な距離になったら、
「がああああああああああああああ!」
吠えた。巻き込む仲間もいないし全力で。
キマイラの二つの頭は今度こそ動きを完全に停止する。明らかに先程の余裕がなくなって、こちらを恐れているのがその眼を見るだけで手に取るように分かった。
だが、モンスターに手心を加える気はない。これは闘技大会とは言え殺し合いでもあるのだから。
オレは肥大化するとそのまま上空へ跳躍する。そしてそのままキマイラ目がけて落下した。
ドン! という大きな音が響いてキマイラは地面に倒れ伏していた。だが、驚くべきことにキマイラは弱りながらも生きていた。
「まあ、意味ないけど」
容赦なく、もう一回のプレスアタックで今度こそ息の根を止める。
『キマイラを倒したことにより能力の一部を簒奪しました
「毒生成」「毒付与」を獲得しました
上位スキル「毒生成」「毒付与」を獲得したため下位スキル「微毒生成」「微毒付与」は自動的に上書きされます』
これで新しい力が手に入った。しかも、前にネオポイズンスライムで取り逃したスキルを得られたらしい。どうやら覚えられなかったスキルの取りこぼしを心配する必要はそこまでなさそうだ。
まあ、わざわざ取りこぼす必要もないので今後も方針を変えるつもりはないが。
会場が騒がしくなっているが完全に無視。どうせこの後も同じような反応が待っているのは目に見えているのだから。
オレはミラの指示に従うふりをして大人しく檻に戻るとそのまま、倉庫へと逆戻りすることになった。




