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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第三部 ギルド編

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第七章 闘技大会

「これを見てくれ」


 結局、なんだかんだでカーラが持ってきた書類を見る羽目になった。オレはすぐにでも帰りたかったが、ミラが許してくれなかったのだ。


 ちなみにチャットは待ちきれなくなったのか、椅子に座ったまま寝てる。いいご身分だこと。


「これ、闘技大会の案内状ですか?」

「その通りだよ。ただし、モンスター同士のね」


 モンスター同士の闘技大会、要するにそいつらで殺し合いをさせるってことか。趣味が悪い。


「これ自体は個人的にはあまり好ましくないが、興業として成功しているから僕としては行うことに異論はない。安全面に関しても問題なし。だが、これに紛れて最近厄介な奴らが街に入り込んでいるようなんだ」

「ふーん、それは大変だな。頑張ってくれ」


 だからってオレ達を巻き込むな。


「オズさん」

「う、わかったよ」


 ただこの怒り状態のミラにこう言われては頷くしかない。さすがにからかったりし過ぎたらしい。


「この大会に乗じたのだろうね。この街に調教したモンスターを搬入するふりをして別の物を紛れ込ませたらしいんだ」


 ランディはそう言うと深く溜め息を吐いた。


「名付きが発生した北側以外の検問は、はっきりって形だけだからいくらでも忍び込ませられるのが現状らしい。人手不足は深刻だよ」

「別の物、ですか?」

「ああ。簡単に言えば奴隷だね」


 奴隷、前の世界ではそんな存在は見たことなかった。少なくともオレの周囲にはそんなものは存在しなかったのだから。


「ただの奴隷なら国の法律で認められているし、我々としても問題視したりはしない」


 ってことは、今回のそれはただの奴隷ではないという事だ。


「この奴隷というのが無理矢理捕まえた獣人族でなければ」


 獣人族と言われてオレがイメージしたのは獣耳とか尻尾が付いた人間だった。これまたファンタジーの定番だろう。


「つまり、違法取引ですか?」

「表の世界で禁じられていても、いや、だからこそと言うべきか。裏の世界ではそれらは非常に価値がある。これは人間の欲の深さに際限はないという嫌な例かもしれないね」

「それで、結局オレ達にどうしろって言うんだ?」


 奴隷とか獣人族とか言われてもオレにはさっぱりだ。要するにギルドはこちらに何をさせたいのか、それに尽きる。


「君達にこの闘技大会に参加してもらい、内情を探って来てもらいたい」


 要するにスパイになれってことか。


 面倒くさいので断ると言いたかったがミラの視線が恐い為、真面目に考えることにした。


「オレ達を選んだ理由は?」

「まず今現在、このギルドに君達以外の護衛獣を連れた冒険者はいないこと。大会に参加するためにやって来た魔獣調教師を雇う方法は信用という面で不安があるため取れない」


 そう言えば門番が最近、魔獣調教師が街に来たとか言ってたっけ。この大会に参加するためなら納得だ。


「それにオズ君なら普通の護衛獣よりも多くの情報を得てきてくれそうだからね。なにせ内面は人間そのもの、これ以上の適任はいないよ」


 確かにオレが忍び込むのは容易いだろうし、相手もまさかオレがスパイだなんて考えもしないだろう。見た目は完全なスライムなのだから。


「実は言えば、君達がこの街に来た時点でこの件を頼むつもりだったんだ」

「そういや聞き忘れてたけど、お前はどうしてオレの事を知ってたんだ?」


 ミラもカーラもランディが知っていても不思議はないと言っていた。こいつにはそう思うに値する何かがあるのは間違いない。


「私には限定的ながら予知の能力があるんだよ。君達の事を知っていたのも、その力で偶然見て知っただけさ」

「それってある意味、無敵じゃねえの?」


 未来が見えるってもはや神の領域だろう。それがあれば何でもできそうだが。


「これはそんな便利な力ではないよ。予知の内容を自分では選びようがないんだ。いつも勝手に映像が頭の中に流れてくるだけ。しかも、その内容は僕自身に関わることのみ。君はこうしてこの街に来て僕と出会うという未来があったから予知できた。だが、ただ暴れていた名付きのホブゴブリンが村を襲撃するのを察知できなかったことからもわかるように、実に使い勝手が悪い能力なのさ」


 それでも随分と便利な気がするのだが。

 でも、これでオレの事を知っている理由が発覚した


 ただ、この様子では肉屋のことは認識していないようだ。それが偶然なのか、それとも肉屋のスキルの効果によるものなのかはわからないが、知っているなら何かしらのアプローチがあってもいいはず。


 話題にもならない時点であいつは見つかっていないらしいことがわかる。やはり性悪度ではあちらの方が上手かもしれない。


「オレ達を選んだ理由はわかった。それで、見返りはあるのか?」


 ここで見返りがオレの正体を黙っていることとか言ってきたら、例えミラが何を言おうとこの頼みは聞かない。その脅しで次もまたその次も、なんてことになりかねないからだ。


 だがその心配は杞憂だった。


「まず、君達の情報をギルドで出来る限り秘匿する。これは受ける、受けないに関わらず行うから安心してくれ。受けてくれた場合は結果に関わらず、ミラ君のランクを無条件でDに、チャット君は実力を見てからになるが可能な範囲で上のランクにする。またオズ君、君を護衛獣ではなく正式な冒険者としてギルドに登録しよう」

「そんなことできるのか!?」


 オレはスライムだぞ。


「何事も特例というものはあるのだよ。それに極めて稀だが、人型の生物以外が登録した前例がない訳ではないしね。まあ、スライムは初めてのことだろうが。ただし、表沙汰に出来ることではないから、人の眼があるところでは護衛獣として振る舞ってもらうよ」


 それは当然のことなので、デメリットでもなんでもない。


「後は成功報酬で銀貨を十枚でどうかな? 得てきてくれた情報によっては更に何枚かプラスしよう。ああ、闘技大会で君が勝ち残って得た賞金はそのまま君達の取り分で構わない。こんなところでどうだろう?」


 どうかだろうも何も、こんな好条件は滅多にないチャンスだろう。正直、今すぐ飛びつきたくなる。


 だけど、どうにか自制心を持って踏みとどまった。

 さすがにここまで好条件だと何かあるんじゃないかと疑う心もあるからだ。


「……もし仮にオレが失敗したらどうなる?」

「それは得られた情報にもよるね。よし、じゃあ前払いで銀貨五枚は払っておこう。他に関しては情報次第でどうだい?」

「オレは何を調べてくればいいんだ?」


 この言葉は受けると言ったも同然の答えだった。


「奴隷の数、正確な種族、なにより彼らの隠し場所。出来れば敵の情報も調べてほしいが最初の三つを優先的に調べてもらいたい。今回の目的はあくまで彼らの救助だからね」

「……何でここまでするんだ?」


 いくらなんでも好条件が過ぎる。こいつの目的はなんなのか。

 善意だけで動いているとは思えない。仮にもギルドという組織のかなり上の方にいる奴だ。自分達の利益を求めないわけがない。


「目的は単純明快。君だよ、オズ君」

「……オレはそっちの趣味はないぞ」

「私もないから安心したまえ。妻もいる身だ」


 ボケたのに真面目に返されてしまった。ミラのジト目が怖い。


「君とは末永くいい関係を続けていきたいからね。それにミラ君も非常に優秀な冒険者だ。仲良くなっておいてこちらに損はないよ」


 名付きであるオレの価値を高く買ってくれたという事か。


 少し悩んで末にオレは頷いた。


「わかった、オレは引き受ける」


 相手にどんな思惑があろうとチャンスには変わりはない。ようはこれをオレがどう活かすかだ。


「私も構いません」


 ミラも了承したことによって、オレ達の今後は決定。


 ただ、大会まではまだ日があるらしいので、詳しい内容は後日に決めることになった。その他の手続きも時間が掛かるそうなので次回になるとのこと。


「ふあー、終わった?」


 チャットは狙ったかのようなタイミングで起きて、しかもこれまでの話の内容にも興味を示さなかった。ただ一言、


「面倒くさいから二人に任せるわ」


 これで全部解決である。もしかしたら一番の大物はチャットなのかもしれない。


 その後、オレ達は一応ゴブリンとヘルハウンドの討伐の依頼を受けておき、そのまま銀貨五枚を受け取って意気揚々と宿に帰っていくのだった。


 途中、ミラがまたしても衝動買いして銀貨二枚を使ったことには、さしものオレも苦言を呈せざるを得なかったが、それは余談というものだろう。

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