第三章 お金
「金がない?」
ようやくミラのおすすめの宿屋カノープスの部屋を取って、またこれから買い物に連れ出されようとしていた時にミラから発せられた言葉がそれだった。
「……ごめんなさい」
「いや、無一文だったオレらが文句言える立場じゃないから。むしろ感謝する側だし」
「そうそう、気にする必要ないわ」
この部屋を借りられたのもミラにお金を出してもらったからだ。ここで文句を言う奴がいたら、そいつは屑だ。
チャットもこれから買い物できると思っていたせいか、少々残念そうではあったが、ミラを責めたりはしなかった。そういう意味での常識はあるらしい。
ただ、意外だったのはミラが自分の所持金を正確に把握していなかったことか。性格的にきっちりしていそうだと思っていたのだが。
「部屋を借りたら、もうほとんどお金が残ってなかったんです」
「いや、そんな申し訳なさそうにしなくてもいいって」
この様子だとさっきの買い物でお金を使い過ぎたのだろう。だからこそ、これだけ反省しているに違いない。
ちなみにミラが買ったのは大量の本だった。これ、読み終わった後はどうするのだろうか。
まあ、過ぎたことを言ってもしょうがない。問題はこれからどうするかだ。
「この部屋はどれくらい借りられたんだ?」
「一週間です」
では、一週間以内に金を用意しなければならないということだ。
「ねえ、お金ってどうなっているの?」
チャットがそう尋ねる。
オレもこっちの世界の貨幣についてはよく分かっていなから人の事を言えた義理ではない。だが、それでも何でお前が知らないんだよ、と突っ込んでやりたかった。お前、少なくとも妖精的にはいい大人だろ。
それともお金という概念を理解できたことを喜ぶべきなのだろうか。悲しすぎる。
「ええっと、硬貨の種類は上から金、銀、銅の三種類です。銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚になります。ここの宿をもう一週間借りるとすると、銀貨二枚あれば十分ですね」
「ふうん、なるほどな」
いまいち硬貨の価値はわからなかったが、最低目標は銀貨二枚となった。これを稼げれば少なくとも現状維持は可能になるのだから。
ちなみに平均的な一家族が銀貨十枚で三、四か月は楽に暮らせるらしい。そう考えるとこの宿の値段はかなり高い気がするのだが。
まあ三食付きで、しかも各部屋には簡易的な結界が張ってあって泥棒などの侵入者対策が万全であったり、滅多にない浴場が備わっていたりで色々特典があるからこの値段だそうだ。
それに見知らぬ人物を泊めるってのは、この世界では結構リスクがあるからだろう。スキルなんて便利で簡単に力が手に入る世界だ。その力を悪用する輩は事欠かないだろうし。
中には銅貨数枚の宿屋もあるそうだが、そこでは強盗が頻発するのだとか。よく潰れないものだ。
金で安全が買えるならそれに越したことはない。というわけで値段については納得するのだった。
「それで金を稼ぐ方法だが、ミラは今までどうやってたんだ?」
一人旅だし、それなりの方法は知っているだろう。知らなきゃ絶対どこかで金は尽きる。
「前にも言ったかもしれないですけど、ギルドで依頼をこなして報酬を得てました」
そう言えばそんなこと聞いた気がする。
「じゃあ、今回もそこで金稼げばいいのか?」
「はい、それが一番確実だと思います」
ただ、オレが協力できるかは不明だが。街中の依頼だとオレこの籠から出られない以上、何もできないし。モンスター退治とかなら頑張れるのだが。
「まあ、行ってみない事にはわからないか」
百聞は一見にしかず、だ。何事も自分の眼で見なければ。
「とりあえず、ギルドに行ってみよう」
そこで一回の依頼でどれくらい稼げるのかとか、他にも色々調べておきたい。今後も利用することになれば、知っといて損はないのだし。
「わかりました、案内しますね」
そうしてオレは、ようやく自由になったというのに、またしても籠の中に入る。
いずれこんな形でなく、普通に街を行動する日が来ることを切に願うばかりだった。




