第二章 買い物
計画では、まず宿に行くはずだった。
「それが、何でこんなことになるんだ?」
現在、オレはチャットに籠ごと抱えられながら商店街らしき場所で様々な店を回っていた。
「すごいわ、オズ。こんなに人がいっぱいで、お店もたくさんあるわ」
「そりゃこれくらい大きな街なら店くらいあるだろ。人もいるのも当たり前」
「あそこに売ってるのは何かしら?」
「……人に話しかけたなら、その返答くらい聞けよな」
幸い商店街は賑わっており、多少喋ったくらいでは喧騒に紛れてバレることはない。これだけうるさいと声の出どころを探るのも一苦労なくらいだし。
宿に向かう途中にあった商店街、これを見た女性二人が反応してしまったのだ。
女性は買い物好きと言うが、こっちの世界でもそれは変わらないらしい。
ちなみにその時の会話がこれだ。
「お店がいっぱいあるのね。ねえ、見に行きましょうよ」
「あのな、まずは宿に行くって言ったろ。ミラからも言ってやれよ」
「……そ、そう言えば、私は矢を補充しないといけないんでした!」
「は?」
「だ、だからまず買い物するのも悪くないと思います! いえ、そうするべきです! ねえ、チャット!」
「そうよね、ミラ! 私もそう思うわ!」
「いや、オレ、この籠に入った状態で連れ回されるの?」
オレの抵抗は無言で却下された。と言うか、いつの間にこんな息が合うくらい仲良くなったんだ、この二人。
現在、ミラは矢の補充に行くと言って武器屋らしき店に消えて行った。どう考えても戻ってくるのが遅いことから、他の店も見ているのは丸わかりだが。
「言っとくが、オレは金ないから何も買えないぞ」
だから早く諦めて宿に行こうと言外にほのめかしていたのだが、
「大丈夫、こうして見ているだけでも楽しいから」
「さいですか」
やはり無駄だった。人間だった時からウインドショッピングの意味が解らなかったオレからして見れば、この行為は時間の無駄以外の何物でもない。
その上、檻から出られない。よってこうしているのは苦痛だった。
そうしてチャットの店巡りに付き合って精神を消耗していると、
「お、お待たせしました」
ミラがやっと戻ってきた。よかった、これで解放される。
「って、やけに色々買い込んだな」
戻ってきたミラは両手に目一杯の紙袋のようなものを下げていた。どう見ても矢の補充よりこっちがメインだろうに。
てか、そんなに買い込んで大丈夫なのだろうか。肉屋のような便利収納機能がないだろうし、旅をするのにこれでは荷物になるに違いない。はっきり言ってしまえば邪魔になる。
「あ、あの、えっと」
何故かミラが焦っているように見えたのは気のせいじゃないだろう。視線がキョロキョロと動き回っているし、いつもと違って落ち着きがない。
その様子じゃ、オレの僅かな苛立ちを感じ取っているのだろう。
「話は宿に行ってからしよう。今度こそ、な」
もう寄り道は勘弁だ、と言う意味を込めて一部を少し強調して言う。それを聞いた二人は少し気まずそうだった。チャットもオレの若干の不機嫌さを感じとったのだろう。
そんな気落ちしている二人を見ていると、自分の態度が大人げない気がしてきてしてしまうのだから不思議なものだ。
「……まだ買い物したいなら、その後にな?」
(甘いな、オレも)
この言葉で二人ともパッと顔色が明るくなる。特にチャットは買い物と言っても見ていただけだし、本当は実際に商品を買いたかったに違いない。この言葉だけで嬉しそうな笑顔になっていた。
「じゃあ、早く宿に行きましょう!」
「その後、皆でもう一回買い物ね!」
「いや、オレは宿で待ってる……って、聞いちゃいねえし」
チャットに抱えられたまま二人は駆け足で宿へと向かって行く。こういう時の女性のエネルギーは一体どこから出て来るのやら。無尽蔵にも程がある。
「大変ですね」
「そう思うなら、助けてくれよ」
肉屋が同情の言葉を掛けて来るのが、何故か今だけは味方ができたようで嬉しいオレだった。




