プロローグ
妖精郷の事件から一日、オレ達は遂に南の街に到着した。
「ああ、長かった」
まさかここに来るまでにこんな苦労する羽目になるとは予想外だったが、結果オーライ。こうして無事到着したのでよしとしよう。
それに妖精郷に入っている間に討伐隊が過ぎ去ってくれたらしく、そいつらに会うこともなかったのは幸運だっただろう。ミラはエルフでチャットもパッと見は人だが、どちらも美人だ。そんな二人が旅していたら目立つ事この上ない。
ともあれ、ようやく到着したはまではよかったのだが、
「……思った以上に厳しいな」
「そうですね。いつもはこんなことしない筈なんですけど」
ミラと一緒に離れた所から入口である門の様子を窺うと、門番らしき人物が時間を掛けて街に出入りする人物を調べているようだった。手荷物もすべて開いて確認しているようで、道具袋の中に入ってやり過ごす手は使えなさそうだった。
「討伐隊が出払っていると言う事は街の戦力が減っていると同義ですからね。ここにモンスターでも人でも攻め込まれたらかなり厄介ですから警戒するもの当然でしょう」
肉屋が姿を見せぬまま解説する。
というか人が攻めて来ることもあり得るのか。この世界の情勢がどうなっているかは知らないが、すべての種族が仲良しってわけではないらしい。まあ、当り前だか。
「ともかくミラとチャットは問題ないだろうし、肉屋はあの程度は問題にもならないと」
残るはオレをどうするかだけだった。さて、どうやって忍び込むか。
「何かいい案はあるか?」
「はい!」
「……じゃあ、チャット」
チャットが元気よく手を上げるが絶対ダメな気がする。こいつから名案が出るとはぶっちゃけ考えられない。
「私の服の中に隠れればいいんじゃない? 流石に女の子の服を脱がすことまではしないわよ」
「おお、意外にまともな意見だ」
まさかいきなり問題解決とは予想外である。服の中に入るっていう根本的な点を除けばだが。
「……考え方は悪くはないですけど、でもあそこの奥には女性の門番もいますよ? 身体検査もしているみたいですからそれで誤魔化すのは難しいと思います」
相変わらず目が良いミラが街の方を見ながらそう告げる。そこまで厳しく見られているのなら生半可なことじゃ誤魔化すことは出来ない、か。
それにミラの額に青筋が経っている気がしなくもないのでこの案はなしで。命は大事にだ。
(この状況で忍び込むのはリスクが高過ぎるか?)
ミラの話なら普段ならこんなこともないらしいし、落ち着くまで待つって手段もなくはない。最悪ミラとチャットだけ先に入ってもらうのもありだろう。オレと肉屋はこの周辺でほとぼりが冷めるのを待っていればいい。
それに前回の戦いなどでストックしておいた肉は結構使ってしまっている。まだ空になるまではいかないが、補給しておくのもありだった。何しろこれから街に入ればモンスターの肉は暫くの間、間手に入らないだろうし。
オレが今すぐ進化しないのもストックの事を考えてだ。そうでなければこの姿でいる意味はないし、とっくの昔に進化している。
まあ、前回の戦いで進化に時間制限はなくなったし、急ぐ必要もないのだが。なんならこの周辺で補給ついでに新たな力を身に着ける修行をしていればいいのだし。
そう思って二人にこの案を提案したみたが
「却下です」
「却下ね」
即、否決だった。ここまでバッサリ却下されると何も言えない。いや、言ったらまずいとミラの眼を見て察知したのだが。
そうなると、やはり最後の頼みの綱は
「対価はいただきますよ?」
「いや、サービスで」
こうしてしばらくの交渉の末、肉ではなくミスリルを精製することを条件に肉屋の提案は可決されたのだった。




