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スライム転生物語  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一部 転生編

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第二十四章 力なき者

 眠れないまま迎えた朝はまったくと言っていいほど清々しく感じられなかった。答えの出ない問いというものほど厄介な物はない。考えても、考えても深みに嵌るだけで絶望感だけが心を満たしていくのだ。


 しかし体のほうは時間の経過とともに少しずつ回復している。今では普通に動くくらいならできそうだ。もちろん戦えるかと聞かれれば否だが。


「スライムさん、まだ起きてませんか?」


 小さなノックの後、ミラが扉を開けて部屋に入ってくる。


「よお、一応帰って来たぞ。死にぞこないだけどな」


 オレの軽口を聞いてミラは笑顔になる。


「よかった、目が覚めたんですね」


 この口ぶりからすると、どうやら昨日の内にオレが目を覚ましたことは知らないようだ。考えに浸りたかったオレを肉屋が気遣ってわざと知らせなかったのだろう。見捨てたかと思えばこの配慮、つくづく訳が分からないやつである。


「一晩じっくり休ませてもらったからな。でも、オレがこんな堂々とベッドで寝ててもいいのか?」


 ミラ達以外に扉を開けられたら即刻アウトだったろうに。それにこのベッ

ドの持ち主がどこで寝たのかも気になる。


「ここはミナの部屋なんですけど、昨日はミナには私と一緒に寝てもらったんです。見張りは肉屋さんがやってくれていたのでそこも大丈夫ですよ」


 なんだかんだこの場でじっくり休めたのは肉屋のおかげということか。苛立ちは消えないが感謝するしかないな、これは。


 沈黙が流れる。気まずい嫌な沈黙が。


 よくよく見ればミラの笑顔にどこか陰があるような気がする。空元気という言葉が頭の中に浮かんできた。


「……その様子じゃ肉屋に大体の話は聞いてるみたいだな」

「……はい」


 ミラは頷くと項垂れる。この世界についてオレなんかよりずっと詳しいミラは事の深刻を理解していなはずがないのだ。


「まさか生きているうちに名付きのモンスターに遭遇することになるなんて、私もスライムさんも本当に運がないですね。もちろんこの村の人たちもですけど」


 どうやらミラもその名付きっていう意味を知っているらしい。ボスみたいなやつだとは分かっていたが、それでもこの様子からして一体どれだけ恐れられているのだろうか。


「その名付きっていうのは一体なんなんだ? オレはなんとなくの意味しか分からないから詳しく教えてくれないか?」

「私も詳しく知ってるわけじゃないんですけど、名付きというのはその呼び名の通り、名前のないモンスターの中において唯一名を持っている存在のことです。前に肉屋さんが覇竜皇帝(ジャガーノート)の話をしたことを覚えてますか?」


 もちろん覚えている。


「確か竜の転生体とかなんとか言ってたな。それが何か関係あるのか?」

「大雑把なまとめかたをすれば今回の相手はそれと同種類の存在のはずです」

「……おいおい、冗談だろ?」


 単身で一万の大軍を滅ぼしたとか言ってなかったか。それと同じような存在ってバカげているとしか言いようがない。


「もちろん強さは比べようもないはずですし、人間とモンスターという違いはあると思います。けど、強大な魂を持っていて種族の限界を超えているという点では同じですから」


 種族の限界、確かにその覇竜皇帝(ジャガーノート)とかいうやつは人間の力の限界を著しく逸脱している感は否めない。あのホブゴブリンもゴブリンの上位種とはいえ強すぎだった点で見れば同じなのかもしれない。


「名付きのモンスターがどうやって生まれるのかはまだ解明されていません。突然変異種だとか進化し過ぎた結果だという説もありますけど、どれも確固たる証拠はないんです。一般的には火山の噴火などと同じく天災のように人の力ではまずどうしようもないと思われているのが現状だと思います」


 天災、台風や地震と同じだというのか。被害がこちらに来ないようにただ身を丸めているしかないとあきらめろというのか。


「だからって諦められる訳がないだろ!」


 ミラが悪いわけでもないのにオレは非難するかのように叫んでいた。自分でも情けない、十歳近くも年下の子に当たり散らすなんて。


「もちろんです。まだ、私達も諦めていません」

「え?」


 私達と言ったが、肉屋は中立の商人に戻った今、他に誰がいるというのだろうか。


「昨日、名付きが現れたとわかった時点で村人達が集まってこれからどうするか話し合ったんです。それで今朝、その話し合いが終わって結論が出たそうです。村人達の中で有志を募って、名付きのモンスターを討伐しに行くって」

「そ、そんなことできるのか!?」


 オレが見た限りこの村の人達は普通だ。一般人の集まりと言っていい。どう見たって腕が立つような人はいない。ミラは例外だが、それだけでどうにかなるわけがない。


 それとも隠していた最終兵器とかそんな都合のいいのがあるとでもいうのだろうか。


「わかりません。というよりたぶんほとんど勝ち目はないとは思います」

「だったら、なんでそんなわざわざ死にに行くようなことをするんだよ。腹を空かせた奴の前にわざわざ餌を送りつけてやるみたいなもんじゃないか!」


 言ってからその可能性に気付いた。


「まさか……」

「はい、その通りです。でもそれが狙いの一つなんです」


 ミラが悲しそうに笑う。


「討伐隊が来るまで時間がないのが最大の問題なんです。だったらその時間を作れば村が全滅するのは防げるかもしれない」


 肉屋は言っていた。完全に餓えたモンスターには並大抵の魔物避けは効かないと。逆に言えば飢えていなければ効果があるということでもある。

 

 これはある面では討伐隊なんかじゃない。そういう名目上の生贄だ。有志を募るってことは強制じゃないだろうが、それでも犠牲を出して切り抜ける意味では大して変わらない。


「そして、私も討伐隊に参加します」

「なんでだよ!? ミラは旅しているんだろ? だったらここで命を懸ける必要なんてないじゃないか!」


 ミラは首を横に振る。


「村人だけじゃ名付きの元に辿り着く前に他のゴブリンに相当な数減らされてしまいますから。それじゃあ命を懸ける意味がなくなっちゃいます。村の人は戦いの経験なんてほとんどないですから、誰かがゴブリン達を倒して道を切り開かなきゃいけないんです。今、この村でそれができるのは私だけなんです」


 ミラに元気がなかったのはこれが原因だったのだ。既にミラは自分が死ぬことを覚悟していたというのか。


「それにまだ完全に諦めたわけじゃないですよ。私だって為す術なく死にたくはありませんし、死ぬ気で相手を倒すつもりです。村の人も同じですよ」 

 でも、勝ち目がないとも言っていたじゃないか。それがわかっていて戦うなんて、そんなこと納得できる訳がない。


「だったらオレが代わりにやる! ミラのような若い奴こそ生き残るべきだ!」

「無茶を言わないでください。肉屋さんからあなたがしばらく戦えないっていうことは聞いてますし、嘘は通じませんよ」


 図星だった。この体じゃゴブリンの相手をすることも厳しいかもしれない。現に肉屋にもそう言われたばかりだ。


「失敗は許されないんです。もちろん村にも最低限の戦力は残していきますから、ただのゴブリンならその人達でも持ちこたえられるはず。もしできるならスライムさんにもそこでミナやアリスを守っていただけたら安心ですけど、そこまでのお願いはできません。でも、そうして時間稼ぎをしている内に討伐隊が来れば私達の勝ちですよ」

「だからって、なんでそんな冷静なんだよ! お前、このままだと死ぬんだぞ!」


 認められない。けれどそれと同時にそれが唯一の生き残れる可能性がある手段だと頭のどこか冷静な部分が囁いていた。散々、夜通し考えたどの策よりもほんの僅かではあるが今までのような絶望だけではない作戦だ。


「……いつ、その討伐隊の出発なんだ?」

「準備ができ次第なので今日の午後だと思います」

「っつ!」


 あと数時間後にはミラは死ぬというのだ。それがわかっていて何故こんなにも冷静に話していられるのか。もっと泣き叫んで死にたくないと喚いていい。それが当然だし、そうじゃなきゃおかしいだろう!


 でも、必死に死の恐怖を押し殺そうとしている相手に向かってそういうことが正しいのだろうか。オレにだってわかっている。ミラは役目を果たす限り、どうあっても死ぬしかないのだ。そしてミラがいなければ全滅しか道がないことも。


 そんな相手になんて声をかけていいものか、もうオレにはわからなかった。


「スライムさん、一つだけお願いを聞いてもらえませんか?」


 逆にミラのほうから話しかけてもらう始末だ。本当に情けない。


「……なんだよ」

「これから私が出発するまでの時間、私に付き合ってくれませんか? 本当はアリスとも話したかったんですけどまだ安静にしていなきゃいけないのでそれは我慢します。だからその分の代わりじゃないですけど、これからミナに絵本を読む約束をしているので、そこで一緒にあの子といて遊んであげてくれませんか?」

「本当に、それだけでいいのか?」


 たったそれだけのことで。最後のお願いだっていうのに。


「はい、それが私にとっては何よりの宝物ですから」


 きっとミラは最後になるとわかっているから普通に過ごしたいのだろう。自分が好きな日常をもう一度だけでもいいから感じておきたいのだ。


 そんなささやかな願いを無下にできるわけがない。


「……わかったよ、付き合うさ」

「ありがとうございます」


 そこからオレ達はミナがいる部屋へと向かった。会話はない、何を言っていいのかもわからない。


 オレに出来たのはじゃれてくるミナに気取られないよう精一杯、普段通りにすることだけだった。


 そうしてミラが約束していた絵本を読んでいく。ミラはミナが望む本を何度も何度も乞われるままに読み聞かせた。


 色んな本があった。


 最初は王子でありながら一目ぼれした平民の娘と駆け落ちしてそれでも幸せをつかんだが閃光の王ガランの話から始まり、モンスターでありながら人を守り続けた魔の剣士オズワルドとその宿敵邪神ゲオルギウスの戦いや湖の女神ティファナが人と恋に落ちるなんて話もあった。極めつけは覇竜皇帝ジャガーノートの話まであった。絵本にまでなっているとはさすが伝説の存在だ。


 そうして一緒にいる二人は前にも思ったが本当の姉妹のようだった。幸せの象徴のような光景、けれどそれは無情にも終わりを告げることになる。


 村人の一人がミラを呼びに来た。どうやら時間のようだ。


「それじゃあ私は出かけてくるからいい子にするんだよ?」

「ええー、もっとお話しして!」


 ミナが駄々をこねるができることなら今回ばかりはそれが通ってほしかった。そうでなければこの光景は二度と見ることはないのだから。


「帰ってきたらしてあげるから、ね?」

「はーい、絶対だからね」


 もう限界だった。これ以上こんな光景を、ミラの作らえた笑顔を見ていられない。


 オレは村人に見つかるかもしれないことを承知で窓から外へと飛び出す。とにかくこの場にはいたくなかった。あれ以上あんな光景を見ていたらまたミラを引き留めてしまう。


 それしか手段がないこの現状でそんなことするのは優しさなんかじゃない。ただの我儘、エゴでしかない。


 一直線に森へと跳ねる。体中が悲鳴を上げるがそんなものは無視だ。気にもならない。


「はあ、はあ」


 感情が高ぶりすぎたせいか体が勝手に発熱し始めていた。熱生成のスキルが暴走しているらしい。だが、オレはむしろその暴走を止めようとはせず、体が溶けても構わないとばかりに、そのまま胸に溜まった何かを吐き出すかのように温度を高め続けた。


「がああああ!」


 限界まで高められた熱が体の中で収まりきらずに爆発しようとしてもオレは温度上昇を緩めない。そのまま爆発してしまってもいいとすら考えていた。


 けれど、傷ついた体はそれすら許してくれなかった。


 体からすべての力が抜ける。


 それに、ここで暴走しても自殺してもせっかく命を懸けて時間を稼ごうとしてくれているミラ達の行為を無駄にするだけだということがどうにかオレを踏みとどまらせたのだ。


「くそ……」


 こんな思いをするなら転生などせずあのまま死んでいたほうがましだった。あそこで死んでおけば自己満足でも安らかに死ねたはずだ。


 結局、この世界の理不尽の前にオレは為す術などなかった。

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