第十四章 契約
何だかんだあったがオレと肉屋は互いに嘘を吐かない契約を交わし、交渉を再開した。とは言ってもほとんど肉屋の情報をオレが聞くというスタンスだったが。
話している内にオレがこの世界の仕組みについて何も知らないこともバレたが、肉屋はそのことに付け込むようなことはしなかった。どうやら本当に対等に扱うようでこっちとしても安心だった。
「まず、この世界において魂の役割は非常に重要なのです。魂の強さが現実に置ける強さとなるはもちろん知ってると思いますが……知ってますよね?」
「……すいません」
最初はこんな感じで肉屋も困り果てていた。
「まったく、計算や思考能力は高いのに何故ところどころすっぽり抜け落ちたように知らないことがあるんですか」
(異世界から転生してるからな)
「さあ、オレに言われても」
内心で思ったこととは違うことが口から出る。ほぼ無意識だから契約にも引っ掛からなかった。まあ、嘘は言えないので微妙に誤魔化す言い方をしたのだが。
知らないとはいってない、オレは他の奴に聞けと言っただけだ。曖昧な表現の扱いにかけては日本語は断トツに便利である。日本人でよかった。
「まあ、話を戻しましょう。この世界に生きるすべての生命には魂が宿っています。人もエルフもドワーフにも、モンスターであるあなたのようなスライムやゴブリンにこの白骨、虫や草木に至るすべての生命に。そして、レベルアップとはその魂が一回り大きく成長したことを示します」
魂の成長か、理屈はギリギリ理解できなくもないがいきなり言われても困る。オレは元々幽霊とかそう言う胡散臭いのは信じてないのだ。まあ、こんなことになったことを考慮すれば大抵のことが許容することは出来る、が納得するのとはまた別である。
「魂を成長させる方法で一番手っ取り早いのは魂を奪い取る事です。自らの手で何者かの命を奪った時に限り、相手の魂を吸収できますから」
「あれ? じゃあ肉を食ったりするのは魂を吸収しているんじゃないのか?」
さっきの理屈からして肉を食えば相手の魂の一部を得られる、だから強くなると思ったのだが。
「もちろんこの白骨の職業がある通り、その方法でも力は得られます。ただ、相手を倒した場合に比べるとその比率は比べるべくもなく、いわば残りカスを漁っているにすぎません。もちろん強大な魂の持ち主は残りカスですら凄まじい力を得ることも出来ますが、それはあくまで例外でしょう。魂の大部分と核に当たる重要な部分は殺した相手に吸収、簒奪された後ですから当然と言えば当然なのですが」
どうやらここまでの話だとオレが前に予想したことはほとんど間違ってなかったようだ。
「他にも鍛錬を積んで魂を自分の手だけで強化することも出来なくはないですが、それにはそれはあまりお勧めできませんね」
「なんでだ? 誰も殺さずに強くなれるならそれが一番じゃないか」
「多少の力量をあげるならともかく、その種族が覚えられるすべてのスキルを獲得するぐらいのレベルアップをするには軽く悟りを開くくらいしなければなりませんよ」
はい、無理です。悟りを開くとか仙人になれってか。
「最後は契約による条件付きの場合ですね。人間同士の武闘会などの時には相手を倒したらほんのわずかですが一部の魂が得られるようにするらしいですね。もちろんその為の特別なスキルが必要ですが、今は覚える必要はないでしょう」
(ない物ねだりしてもしょうがないし今は敵を殺すしかない、か)
殺さなくてもよくなった時のことはそうなったら考えよう。今考えたところで迷いを生むだけだろうし。
「色々話しましたが、今あなたがすべきことは条件をクリアして進化を重ねることのみです。他の事はその時その時に知ればいいでしょう。何ならこの白骨が逐一お教えいたしますし」
「そうだな、今は出来ることをやるべきか……って、ちょっと待て。何かその言い方だとお前、オレについて来るみたいんだが?」
「そのつもりですが、何か問題がありますかな?」
ごく当たり前のように言われてしまったがおかしくないか。オレはいつこいつの同行を認めたっけか。
いやいや、そもそも認めてないし。
「この白骨が居れば何かと便利ですよ。あなたが対価を払っていただけるというなら進化のための条件をお教え差し上げてもよろしいのですが、いかかでしょう」
「な、なに?」
断ろうとしたオレの発言を察してか肉屋がその前に滑り込ませるようにして発言する。その内容はかなり魅力的だった。
条件さえわかれば後はレベルを上げることに集中できるし、時間切れの心配がぐっと減る。
けれど、こいつにずっと付きまとわれるのは何となく嫌だ。どんなに礼儀正しくても見た目骸骨だしな。
「じゃあ例えば今すぐにその情報が欲しいとしたら対価ってのは何を支払えばいい?」
感情だけで決めるわけにも行かないしとりあえず様子見だ。この内容が無理ならきっぱり断って、いけそうなら一先ず認めればいい。あくまで一時的にとして、嫌になったら別れる手もない訳ではないのだから。
「今すぐですか。では、この場であなたの肉体の一部を分けていただけませんかな? あなたが死ぬのを待つことは止めにしましたがやはりその肉は商品としては魅力的なので、わずかでもストックしておきたいのですが」
肉体の一部を差し出す。そんな難しい問題にどうするか深く考えて悩む、なんてことはしない。
「いいぞ、別に」
即答である。
一見すると肉体の一部なんて大それたものを奪われるように聞こえるが、スライムのオレからして見ればなんてことはない。だって死ななければすぐに回復できるはずだし、そうじゃなくても肥大化してその分を補えばいい。
現にゴブリンの殴られた時に負った傷も薬草食ったらすぐに治った。今度も同じようにすれば何も問題ないだろう。薬草なんて腐る程そこら辺に生えているし。
そもそもこの体の一部を肉と言っていいのかがまず疑問だが、肉屋が問題ないというなら大丈夫なのだろうということで気にしないことにする。
「ほう、これはまた即答で。では契約成立でよろしいですかな?」
頷いた瞬間にほんの少し体に痛みが走る。契約が成立した瞬間に肉が奪われたのだろう。
「これはまた、面白い商品を手に入れられました。ではこちらも約束は守ることにしましょう」
そう言って肉屋はここら一帯で達成できそうな条件を幾つか教えてくれた。
「よし、こうなったら早速進化しに行きますか」
「そうですね」
またしても普通に肉屋が答える。まあ、この対価が程度ならリスクなんてほぼ皆無でデカいリターンがあるのがわかったのだ。ついて来るのに不満も文句もあるわけがない。
なので、オレはそのことに突っ込まずに移動し始める。
こうしてオレは異世界で一人目の仲間を手に入れたのだった。




