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魔女の店  作者: サエナギ
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 水中から水面へ浮上するように、眠りから意識が目覚める。ゆっくりとまぶたを開けば、部屋の中は既に明るい。窓から差し込む陽の光のためか、部屋の温度は夜に比べればわずかばかり暖かくなっていた。

 ベッドの上を這うように移動し、立ち上がる。足裏に感じる冷たさに昨晩の月をが脳裏をよぎる。逃げるように眠りについた自分の姿を思いだし、ため息がもれた。

 今は感じないが、消えてはいない心の底に沈んだ冷たいもの。あれとの付き合い方を見つけることもここで生きていく上で必要なのかもしれない。

 浮かんだ考えをひとまず横におき、テラスへのガラス戸を全開にする。森の匂いと僅かな花の香りとともに部屋に風が吹き込む。お茶会をするにはもってこいの天気である。

 寝巻きにしている以前の世界の服をワンピースに着替え、まずは靴を履くために脱衣所へ向かう。顔も洗いたい。

 脱衣所で靴を履き、顔を洗い、早足でキッチンへ戻る。

 冷蔵庫から取り出したタルトを切り分け、そこでポットがないことに気づいた。念のためすべての棚を確認してみたが、なかった。

 茶会にお茶がないというのも間抜けな話だが、そうそうに諦めてグラスには牛乳を注いだ。小さな皿にタルトを取り分け、フォークを添えてグラスとともに両手で持つ。

 両手がふさがっているため、背中で扉を押し開く。

 ガーデンスペースの花は、昨日と変わらず咲き乱れている。頬を撫でる風にふくまれる花の香りがこの場所だけ、格段に濃い。

 中央に置いてあるテーブルに、皿とグラスを並べて椅子に腰掛ける。

 ゆっくりと周囲を眺め、目を閉じて花の香りを楽しむ。どの花よりも濃く香る薔薇、そこに僅かに藤に似た香りも感じる。それと、バニラの香りにそこに交じる苺の香り。

 香りを肺いっぱいに取り込み、目を開けフォークを持つ。

 今日の茶会のメインは花ではなくタルトだということを忘れかけていた。

 フォークを縦に刺しいれ、一口大に切る。しっとりとしたタルト生地は簡単に切れた。断面は綺麗な3層にわかれている。口に含み、ゆっくりと味わう。

 みずみずしい苺からは果汁があふれ、ソースの程よい酸味は甘さを際立たせる。

 新鮮な材料で作ったカスタードはミルク感の濃い優しい味が、苺の酸味とよく合う。

 生地も特に問題点は感じられない。

 自画自賛になってしまうが、間違いなく今まで食べた苺タルトの中で1,2を争う美味しさだ。材料の良さでこうもいいものができるのか。

 素材の大切さを再確認しながら最後の1口を味わい、フォークを皿に置く。


「水やりと洗い物を」


 口にすれば、待ってましたとばかりに動き出す。家の中へと消えていく皿とフォーク。水が舞う畑。

 これは昨晩うじうじとベッドの中で考えた、私と精霊との付き合い方。考えるのではなく口に出す。手伝われるのではなく、手伝わせる。

 精霊を卑下しているわけではない。ただ、自分の考えを読まれて先回りして動かれるよりも、口にしたことをさせるほうが精神的に負担がない。何をされるのかをわかっているだけに驚きも少ない。

 害のないものにでていけとは言いづらい。むしろ、出て行ってもらうことは不可能なのでは。そう考えた私の妥協案がこれだった。常に見られているという考えは、悩み始めてそうそうに蓋をしている。

 牛乳を一気に飲みほせば、グラスは手から離れていく。

 ガーデンスペースにも水が舞っているが、水滴すら私にはかからない。気遣われているのだろう。

 頭上をキラキラと輝く水が舞い踊る。

 大きな水球から散るように水が舞う姿もいずれは見慣れて、ただの綺麗なものになるのかもしれない。

 輝く世界を見ながら、あんがい早くにその瞬間は訪れそうだと感じつつ私は目をとじる。

 肌を撫でるように風が吹いている。

 ああ、お茶が飲みたい。








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