01_プロローグ
バーチャルYoutuber
通称Vtuber
動画共有サービスYoutuber上で配信を行う存在だ。
誰を最初とするかで時期は変わるが、概ね2016年末に生まれた存在と言っていいだろう。
リアルの姿ではなく、イラストや3Dモデルで出来た仮想の姿を纏って活動をする人々。
顔を出して活動するYoutuberと違って身バレをする恐れが大きく下がり、ネット上で自分を表現したいという者たちのハードルを大きく下げた。
それにより企業、個人問わず多くの人間が参入し、現在ではテレビや雑誌、様々なプラットフォームに活躍の場を広げている存在である。
二〇二六年四月十八日、土曜日。
ここにもまた、そんなVtuberの一人が多くのファンに囲まれて今日も配信を行っていた。
桃色の髪に巫女風の衣装。
"彼"のVtuberとしての名は睦実ミコト。
チャンネル登録者80万人を誇る、個人男性Vtuberである。
男性が女性のアバターを纏うバーチャル美少女受肉と異なり、美少年の体だ。
スカートは裾に向かうにつれてふわりと広げ、男性のシルエットを女性に近付けており、それでいて喉仏や膝などはあえて男性的特徴を隠すことなく前面に出している。
「今日最後のお便りはこちら。『ミコトさんの女装動画を見て女装にハマってしまいました。でも中々自分に似合う服がなく、外で着られる服が見つかりません。どうすればいいでしょうか』……ふむふむ、なるほどね』
>コメント:女装新人だ。かこめかこめ!
>コメント:ニーソックスが太腿を締め付ける感じとか、布一枚のスカートの何も守れてない感にハマるといい
>コメント:外を歩くときは春夏を選んだ方がいいぞ。 スカートに慣れてないと厚手でもお腹が冷えるから(一敗)
コメント欄では新たな女装男子の誕生に同行の士が盛り上がっている。
なお、睦実ミコトチャンネルのリスナー層は男性六割、女性四割だが、男性の半分近くは女装に興味のあるユーザーだ。そのため男性三割、女性四割、女装三割と言った方がいいのかもしれない。
コメントの盛り上がりと並行して、ミコトは質問の便りに回答していく。
「ボクは元々、可愛い服が好きという気持ちで始めたから似合ってなくても着ていたよ。 ……だけど、似合った服が来たい。 それもわかる。 可愛い服が自分とぴったり合って、魅力が120%になればすっごく楽しいもんね。 ……出来れば写真を見てじっくり検討してあげたいところだけど、流石にそれはネットリテラシー的に良くないのでダメ!」
ミコトは画面前のリスナーに向けて大きくバツのポーズをとる。
コミカルに、あざとくオーバーに。
現実の体では少し浮いてしまうようなそのポーズも、バーチャルの体では丁度いい表現になる。
「ボクのオススメは最近だと地雷系ファッションかな。 フリルが多くて可愛いし、そのフリルが胸元や肩の男性らしさを隠しやすい。 男の子は女子と違ってくびれが殆どないからね、ウェストを絞って裾を広げるスカートだとシルエットを女子に近づけやすくなる。 さらにテーマも決まってるから全身のトータルコーディネートがしやすくて、良いことづくめ」
>コメント:女の子の服って組み合わせのトータルコーデむずいんだよな……
>コメント:男の服が種類少なすぎるから、男性ファッションから女性ファッションに移行するのが難しすぎる
>コメント:ゲームだと男性衣装が女性衣装の半分以下とかよくあるよね
「ホントは沢山女性向けのファッション誌を読んだり、色んな服をとにかく試着して、って言うのがいいんだけど、男性が女性の服を試着するの無理だからね! かといって服は高いから全部買ってられない! ……なので、似合う服がわからないよーって人には今だと地雷系フルセットをオススメする! そこからゆっくり似合うものを探すといいと思うよ」
>コメント:女装スターターデッキ。 地雷コーデ。
>コメント:地雷系だとちょっとメイク濃くても違和感ないしね
>コメント:男性らしさって結構額に出るから、前髪を重めにしたウィッグで隠すといいよ
「そうだね、今コメントにもあったけど意外と額って性差が出るんだ。 地雷系は姫カットも似合うし、ウィッグとかでそこをカバーするのもいいかもね。 ……お便りをくれたリスナーさん、こんなところで大丈夫かな? キミの素敵な女装ライフを祈ってるよ」
そういってミコトはカメラに向かってウィンクをする。
おそらく質問者であろう、回答ありがとうございますのコメントは、大量の可愛いとファンサありがとうに埋もれていった。
「さてさて、今日も二時間のお便り雑談にお付き合いいただきありがとう! 実は明日急遽予定が出来たから、配信お休みにする予定なんだー。 だから、また別の日に会おうね?」
>コメント:はーい
>コメント:寂しい
>コメント:何の予定?
「ふふふ、ずーっと前にしてた大事な約束を果たしにいくつもりなんだ。 詳細は動画にする予定だから、投稿されるのを待っててね」
>コメント:恋人?
>コメント:好きな人?
>コメント:声の良いゲーマーと遊ぶのは辞めてほしい
>コメント:男だ!
>コメント:彼女!?
バーチャルの体には、人体のように照れや恥ずかしさから顔を赤らめる機能はない。
紅潮させることは可能だが、それは手元のコントローラーを使用して予め設定した表情パターンを使用しているだけだ。
だが、先ほどのミコトの発言には隠しきれない喜びや、大事な相手に会うのだという雰囲気を感じさせており、コメント欄は推測で溢れかえった。
「こらこら、ユニコーンたち。 暴れない暴れない。 ボクは定期的に好きな人がいるって言ってたでしょ? 仮に会う相手が好きな人だったとしても、それを聞いたうえで君たちは推してるんだから、ボクはそこに配慮するつもりは全くないよ」
ユニコーンとは恋愛を許さない過激派ファンのことだ。 処女にだけ心を許し、非処女を殺す伝説上の動物から来ている。
主に女性Vtuberの恋愛を許さない男性に対して使われるが、男性が女性と付き合ったときに騒ぐ女性も多いためあまり男女の区別はないのだろう。
ミコトの場合は女性のようにも見える可愛い男性ということもあり、この手のファンが男女ともに存在していた。
>コメント:はい……
>コメント:すいません
>コメント:推しが幸せならオッケーです
「よしよし、みんな偉いね。マナーのいいファンは大好きだよ。 恋愛じゃなくて親愛だけどね」
>コメント:上げて落とされた
>コメント:定期的に角を折に来るんだよな、この推し
>コメント:まぁ角を磨き上げられたユニコーンは客観的に見てもかなりヤバイし……
「それじゃ、チャンネル登録、高評価! SNSのフォローもよろしくね! またねー! バイバーイ!」
エンディング画面に移行するまでの間、バーチャルのミコトはリスナーに向かって手を振り続ける。
お疲れ様でしたのコメントがしばらく流れてから、ミコトは配信を終了した。
「……八年か、長かったなぁ。 ふふふ!」
恋する乙女のように顔をほころばせてスマホを見つめて呟くミコト。
その画面には『紙カクシch 登録者9991人』と表示されていた。
睦実ミコトは主人公ではなくヒロインです。
この作品は30代男性Vtuber×30代男の娘Vtuberのボーイズラブです。
本編23話+番外編19話で、完結まで書き終わりましたので、お付き合いよろしくお願いします。
楽しんでくれると嬉しいです。




