如何なる荒波にも流されぬ想い
太陽が輝く中、宮島政哉は街の郊外にあるプールへ来ていた。数年前に開業して以降この街の憩いの場として人気を博し、スライダーや流れるプールもある。
因みに政哉はこのプールが大星グループの所管であることを知っていたが、わざわざ意識することでも無いので無視する。
「楽しみだな、政哉」
佐野雄輝は小学生のようにウキウキしている。恐らく彼がワクワクしているのはプールではなく安濃香保とお近づきになろうとしているからだろう。彼の言動は読めないようで案外読みやすい。
「にしても、ほんとデカいわよね。幾らかけてるのかしら」
砂川百合奈が率直な感想を言う。政哉は大体どのぐらいかかっているのか知っているが、頭がおかしい金額なので言うわけにもいかず、曖昧に頷くだけしか出来なかった。もっとも、百合奈は政哉の秘密を知っている筈なのでそこまで読まれている可能性はあるが。
「…デカい」
香保も率直な感想を言っている。こちらは圧倒されているようだが。
「香保は田舎から来てるから、もしかして初めて?」
「うん…」
百合奈が配慮の姿勢を見せると、香保も頼ろうとする姿勢を見せる。この2人は合わないようで相性が良い。基本的に百合奈が先導して香保が追いかけている。
「よしじゃあ、俺が色々教えてやるから」
「いや、あんたは関わってくんな」
雄輝がチャンスと見たのかそう言うと、百合奈が一瞬で拒絶した。ここ2人は仲が良いんだか悪いんだかよく分からない。少なくとも本気で嫌ってはいない…筈だ。
「なあ、そろそろ行くぞ」
取り敢えずそう言って、男子と女子で一度分かれて更衣室へ向かった。
☆
砂川百合奈はビクビクしている香保を先導して更衣室へ入る。大量の人がいる為移動するのも一苦労だが、なんとかスペースを見つけてロッカーを確保すると着替えた。流石に政哉や雄輝のいる前で水着をそのまま見せるのは憚られたので、ラッシュガードも持ってきた。それに、無駄にスタイルが良い為にいかがわしい視線を向けられることへの怖さもあった。端的に言えば、二度とあれを体感しない為である。政哉に秘密がバレた時にも一瞬だけよぎったのだが…。
「雄輝は置いておいて、政哉は無いと思うけど…」
百合奈はボソッと呟いた。香保が不思議そうに見つめてきた為、百合奈はなんでもないと誤魔化した。そして、香保が持って来ないことを見越して用意した予備のラッシュガードを手渡した。
☆
宮島政哉は早々に着替え終えて、雄輝と共に百合奈と香保を待っていた。暇なので軽く話していたのだが、雄輝に問い詰められる事態になっていた。
「お前さ、百合奈のことどう思ってるの?」
政哉は質問の意図を理解出来なかったが、思ったことを返す。
「…普通の友達だと思っているけど」
「またまたぁ」
雄輝に変な視線を向けられる。果たしてどういう意味なのか、政哉には理解不能だった。
その時、漸く百合奈と香保がやって来た。雄輝が気が付いて手を振って呼ぶ。百合奈と香保はやや急ぎ足でこちらへ向かってきた。そして到着する直前。
百合奈は足を滑らせてしまった。
突然の出来事に政哉は頭が真っ白になった。ふと我に返り手を伸ばすが、届きそうも無い。香保はポカンとしているだけだった。もうダメか、そう思った。
しかし、百合奈が転倒することは無かった。雄輝が百合奈の手を掴み、こけるのを防いでいた。香保はここで我に返り心配そうに百合奈を見つめる。
「…ありがと」
「どういたしまして」
百合奈は雄輝に率直な感謝を述べる。
政哉は何故か心のどこかで引っかかっている気がした。
何故だろうか。百合奈が怪我をせずに済んだのは喜ばしいことなのに、何かが納得を許していない。心の中に芽生えた何かが、嫉妬という感情を湧き上がらせようとしている。
百合奈に触れて良いのは俺だけだ、と…
次の瞬間思いきり首を振る。違う。百合奈に対して信頼や親近感はあろうと、独占欲なんて微塵も思っていない。確かにお互いの秘密を共有している間柄ではあるが、それ以上でもそれ以下でもない筈だ。何をどう勘違いしているんだ。そう自分に言い聞かせた。
その様子を、雄輝は微笑ましそうに見ていた。




