事実は事実としてそこに存在する故
多少不安は感じながらも、宮島政哉は安濃香保の家へ向かった。雨が降ってきた為傘を差し、くしゃみをしながらである。
香保の家には既に砂川百合奈も佐野雄輝もいた。俺がきたことで、ようやく勉強会がスタートした。リビングのテーブルが結構デカいので、4人で使っても手狭にはならなかった。
1時間半ほど経って、休憩を挟むことにした。俺はサッとテーブルを見て、香保に言った。
「俺の分のお茶と雄輝の分のコーラ頼む」
「あっ、頼むー」
「あ、うん分かった」
香保から驚いたような表情が返ってきた。百合奈にも不思議そうな表情をされた。雄輝は慣れっこみたいだが。
「…なんで雄輝がコーラが欲しいって気づいたの」
百合奈に聞かれた為、説明する。
「まずここに来た時から何回か雄輝がコーラのペットボトルを見てたこと。それから元々結構飲む方だからな。何となく予測出来た」
そして眼鏡をくいっと上げる動作をする。眼鏡なんてかけてないが。百合奈は俺の返答に納得しているのかしていないのかよく分からない曖昧な笑みを浮かべていた。
「政哉って…、リーダー気質なとこあるよね」
リーダー。そう言われて一瞬固まった。勿論百合奈にそんな意図が無いことなど明白なのだから、焦る必要もない。
「俺のことよく見てるし、ありがてーよほんと」
雄輝が首を突っ込んでくる。百合奈が続ける。
「今のコーラだってそうだし、私の時だって、雪の時だって、常に広い視野で情報を得て他者の為に動いてるじゃない」
「忘れ物した時もサラッと貸してくれるしな」
「雄輝はまず忘れ物を無くせよ…」
褒められること自体苦手なのに、リーダーに向いているという話だから余計に気が滅入る。
「もしかして政哉って…いや、何でも無いわ」
百合奈が一瞬何かを言いかけてやめた。問いただそうとしたが、香保が飲み物を持ってきたからタイミングを逃してしまった。
休憩してゲームをした後お開きになり、俺は帰途についた。幸い雨は落ち着いて降り、曇り空となっているだけだった。だが、俺の中では百合奈に言われたことが頭の中をずっと駆け巡っている。父を挟んでも尚、あいつの血を継いでいるということなのだろうか。吐き気しかしない。
家の前まで来たその時、一台の車が政哉の目の前で止まった。誰が見てもわかる高級車である。内心、舌打ちした。まさか今来るとは思っていなかったからだ。
運転席から降りてきたのは初老の男性だった。何年も会っていない為以前より老けているが、その纏う空気は変わらない。その男性は俺の目の前まで移動してくると、頭を下げてこう言った。
「お久しぶりです、おぼっちゃま。…いえ、18代目当主、政哉様」
初老の男性…上板洋三はそう言った。そして、洋三さんは車の方に向くと後ろのドアを開けた。中にはこれまた初老の女性がいた。唾でも吐いてやろうかと思った。
「久しぶりだねぇ」
それが、政哉の祖母であり宮島家の現在の事実上の当主である宮島玲子の第一声であった。




